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前篇 非日常到来篇
第四話 明日、彼女の身に何も無ければ良いのだが……。
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「お、お姉様……!」
菖蒲さんはゆっくりと銃口を風香ちゃんへと向ける。風香ちゃんは逃げも隠れもしない、いや、出来ないんだ。
自分がずっと慕っていた人物を裏切って、そして罰を与えられようとしていることに……。
サイレンサーって言うんだっけ? 小さな銃声が響くと、風香ちゃんが撃たれて転がる。
腕を貫通していて、風香ちゃんの華奢で小さく細い腕から血が流れ出て来る。
「お姉様、ごめんなさい……私……」
「何も言うな、堅気に手を出したんだ。償いは大事だって分かってんだろ」
サイド銃口を、今度は足に向かって狙おうとした。菖蒲さんが引き金をひこうとした瞬間、ぼくは咄嗟に風香ちゃんの身体に覆い被さった。
足をちょっと掠めたけど、当たってない。ぼくは両手と両足を縛られていたけど、それでもなんとか飛び出す事は出来た。
「なんで……」
「………」
「大好きな人を取られちゃうって思って、お姉ちゃんに構って欲しくてこんなことしただけでしょ? ぼくもお姉ちゃんに似た様なことした事あるから、気持ちは分かるよ」
「優希さん……」
裏社会だからちょっと過激に見えたけど、やってる事は、お姉ちゃんに甘えたくて迷惑を掛けただけの事。
そんなの子どものやる事なんだから、別に目くじらを立てる程の事でも無い。
それに、大好きなお姉ちゃんに嫌われることの方がよっぽど辛い筈だ。
「菖蒲嬢、そろそろ良いですかい?」
「……頼む」
菖蒲さんはそれだけ言うと、銃をしまってその場を後にした。
代わりに入って来たのは大分年配のリーゼントヘアーのおじさんだった。
「オラオラテメェ等、嬢ちゃん達をとっとと部屋へ運べ!」
組員達がぼく達を部屋へと連れて行く。藤本組若頭補佐の松原さんはそれから素早くぼく達の治療をしてくれた。
どうやら最初から痛い目に合わせはするけど、殺す気とかは無かったらしいし、直ぐに治療出来る様に直系三次団体絆救会の組員も準備していたらしかった。
ぼく達はそれぞれ別の部屋で治療(と言っても消毒してガーゼ当てて包帯で巻いただけだけど)を受けると直ぐに解放された。
それからぼくは自分の部屋に戻ると、隣の部屋で菖蒲さんが銃の整備をしている所だった。
凄い、銃がバラバラなのに、アレをまた組み直せるんだろうな……。
「怪我は?」
「へっ?」
「怪我は、大丈夫なのかよ?」
「あぁ、掠り傷でしたし、大丈夫ですよ」
「……風香が迷惑を掛けた。それに、あたしもアンタに怪我をさせちまった。これでアンタがやらかした事に関しては、チャラだ。もう自由だ」
「自由……」
「明日も学校を休んで貰うけど、明後日からは元の生活に戻れる。これで、あたしとアンタの関係は終わりだ」
「なんで……なんでそう言う事を言うんですか、菖蒲さん!」
「えっ? 何でって、今説明しただろ。あたし等の不祥事とお前の不祥事でチャラだって。だからお前はこれから自由だって……」
「そう言うこと言ってるんじゃないですよ! 何でそんな辛そう、泣きそうな顔で言ってるんですか、ぼくのこと、嫌いになっちゃったんですか?」
「嫌いなんてあるわけ無ぇだろ! でも、それがお前の幸せで……」
「ぼくの幸せはぼくが決める、ぼくの居場所はぼくが決める。そして、ぼくの居場所は菖蒲さんの隣が良いんだよ!」
ぼくは自分の言葉を素直に言う。菖蒲さんのこと、ぼくは嫌いじゃない。
それに、常に強がってはいるけれども、目を話したら簡単に壊れてしまいそうで心配になる。
今回のことだって、この組織や彼女の生きて来た日常の中では決して珍しくない光景なのだろう。
「だけどぼくはこの世界に来た。理由はどうあれ。ならば、この世界のやり方に従う!」
「………良いんだな。これが最後だ。もう変えられねぇぞ」
「望む所です!」
「……小松菜ぁ!」
「ハイな!」
「見届けろ。優希、お前は今からあたしの妹分だ。分かり易く言うなら舎弟だな。普段からあたしのことは『姉御』とか『姉貴』とか呼びな」
「え? えっと……『姉様』では?」
「妹達とそんな代わり無いけど、まぁ良いだろう。困った事があれば、何でも言え。どんな事があっても、お前を守ってやる」
そう言って、ぼくは姉様の妹分になった。それから暫くしてのこと。
治療を終えた風香ちゃんがぼくと姉様の所へ来て深く謝罪をし、菖蒲さんはそれを許した。
……のだけれども、一つ問題が新たに生まれてしまった。
「此度の迷惑と、優希さんには命を救って頂きました。優希さん、私を妹分にして下さい!」
「え、えぇ? 姉様、どうすれば……」
「別に良いんじゃねぇの? 実姉の地位までは渡さねぇし、慕うって言うなら良いことじゃねぁか。面倒見てやりな、先輩として」
と言う事で今日菖蒲姉様の妹分になり、風香ちゃんの姉貴分になったのだった。
§
菖蒲は優希の布団から出ると、妹分だから一緒に寝たいとせがみ三人で一緒に寝る事になった風香を見下ろす。
ずっと自分にベッタリだった風香、今回の件もその行為に行き過ぎた所はあっても変わりは無かった。それなのに、まさか優希に懐く事になろうとは思わなかった。
さっきまでの殺そうとしていた雰囲気は嘘の様に、今の風香は布団の中で優希にベッタリだ。
菖蒲は静かに廊下に出ると、今度は視線を奥へと向ける。そこには、いつもの無表情な雷香が立っていた。
我が妹ながら、寝巻き姿も可愛らしいと思う。だからと言って優希みたいに襲いはしないが。
雷香は深く最敬礼で一礼する。別に呼んだ訳じゃない、けど来るだろうとは思っていた。
「寂しくなったか? 双子の姉が離れちまって」
「ご冗談を。姉様こそ、いつも懐いていた愚姉が離れて寂しいのでは?」
「さぁな。まぁ、別にあたしを慕わなくなった訳じゃねぇんだ、幸せのお裾分けしてやるよ」
「なんとも重い事ですね。……姉様、優希先輩を妹分にしたそうですね」
「問題が?」
「いえ、姉様の行いに問題がある筈もありません」
口でこそそう言っているが、その真意は実姉の菖蒲にすら掴めない。
雷香の性格は余りにも強弱が無く、余りにも淡々と実利に基づいている。
だからこそ、味方で居る内は最も頼りに成る妹だった。
「もしもあたし等全員男だったら、あたしが組長、雷香が若頭、風香が筆頭若頭補佐、優希が舎弟頭ってちゃんと地位が確立したのにな」
「優希先輩には組長の妾が丁度良いでしょう」
「ははっ違い無ぇや」
「時に、菖蒲姉様、少しお話が。此処では他の目が」
「あぁ、分かった」
そんな話をしながら、二人は風香雷香の部屋へと移動する。少し積もる話があるらしかった。
§
あぁ、行っちゃった……。ぼくは姉様が外に出てからずっと起きていた、けど、風香ちゃんがずっとぼくの口に人差し指を置いて声を出すなってしていたから何も出来なかった。
二人が居なくなると、風香ちゃんがそっと人差し指を離して起き上がった。小柄で華奢な体躯に、顔は女のぼくですら可愛いと思えてしまう程整っていた。
その腕には、包帯が巻かれていて、痛々しい。
「あ、あの、優希姉様……さっきは、ごめんなさい……。私、優希姉様の言う通り、菖蒲姉様が取られるのが嫌で、
それに、菖蒲姉様に振り向いて欲しくて、あんな事をしてしまいました……」
「分かってるよ。風香ちゃんとは今日初めてあったばかりだけど、悪い子じゃないって分かってる」
「……私、姉様の事が好きになっちゃったかも知れないです」
「へっ!?」
「私はこの社会に生まれながらいます。姉様のコネで、上にも下にも顔は広いです。それに組長の娘と言うことで、皆優しくしてくれます。でも、それは藤本組の娘として……私としては誰も見てくれないんです……。だから、私たちは私たちを見るお互いに依存し合うんです」
「そう言う事だったのか……」
「優希姉様。私の事も愛して下さい……」
「愛してって……!」
「……なんて、そんなことしたら、今度こそ菖蒲お姉様に殺されてしまいますね。今は、これだけで風香は幸せです……おやすみなさい、優希姉様……」
……そう言って風香ちゃんは眠った。多分薬が切れてない内に頑張って、無理して起きていたんだろう。
ぼくへ謝罪と感謝を伝える為に。その機会は今を於いて他に無かったから。
ぼくも寝よう。それにしても、妹分か……。慕われるのは悪い気はしない……。
だけど、愛すとは菖蒲姉様にされたみたいな事を風香ちゃんにって事……?
う~ん……ぼくには難しい気がする……。
§
「……それで、何か分かったか?」
「水面下での動きなのですが、恐らくそう遠くない内に辻組のヒットマンが動くかと」
「まだ優希さんについては分かっていない様ですが、先日の事故について優希さんの姿が見られている可能性はありますね……」
菖蒲、雷香、小松菜は軽く溜め息を吐く。流石に組の車が事故に遭ったのだ。
その情報が出回るのは当然の事だろう。それに、もしもこの組織に辻組に通じている人間が居るならば、優希の命が危険だ。
「とは言え、流石に組員を護衛に回すのも危険ですかね……」
「それに関しては、まぁ私達と同じ中学ですし、私が護衛に回りましょう」
「いや、雷香嬢……まぁ確かにそうなれば心配は無いですが、その場合ご自身も狙われると言う事分かってます?」
「一応、私は未だ堅気で通ってる筈です。けど、優希先輩はヤクザの娘じゃなく客人の扱いでしょう。そうなれば、私達よりも優希先輩の方が危険だと思います。後ろ盾の大きさが違いますから」
雷香の命を狙うよりも優希の命を狙う方が、リスクが少ない。それに回される手の数が少ないならば、瓦解させるのは容易い。
だからこそ雷香が護衛に回るのだ。もしも護衛の時点で彼女の身に何かあれば、戦争だ。
明日、彼女の身に何も無ければ良いのだが……。
菖蒲さんはゆっくりと銃口を風香ちゃんへと向ける。風香ちゃんは逃げも隠れもしない、いや、出来ないんだ。
自分がずっと慕っていた人物を裏切って、そして罰を与えられようとしていることに……。
サイレンサーって言うんだっけ? 小さな銃声が響くと、風香ちゃんが撃たれて転がる。
腕を貫通していて、風香ちゃんの華奢で小さく細い腕から血が流れ出て来る。
「お姉様、ごめんなさい……私……」
「何も言うな、堅気に手を出したんだ。償いは大事だって分かってんだろ」
サイド銃口を、今度は足に向かって狙おうとした。菖蒲さんが引き金をひこうとした瞬間、ぼくは咄嗟に風香ちゃんの身体に覆い被さった。
足をちょっと掠めたけど、当たってない。ぼくは両手と両足を縛られていたけど、それでもなんとか飛び出す事は出来た。
「なんで……」
「………」
「大好きな人を取られちゃうって思って、お姉ちゃんに構って欲しくてこんなことしただけでしょ? ぼくもお姉ちゃんに似た様なことした事あるから、気持ちは分かるよ」
「優希さん……」
裏社会だからちょっと過激に見えたけど、やってる事は、お姉ちゃんに甘えたくて迷惑を掛けただけの事。
そんなの子どものやる事なんだから、別に目くじらを立てる程の事でも無い。
それに、大好きなお姉ちゃんに嫌われることの方がよっぽど辛い筈だ。
「菖蒲嬢、そろそろ良いですかい?」
「……頼む」
菖蒲さんはそれだけ言うと、銃をしまってその場を後にした。
代わりに入って来たのは大分年配のリーゼントヘアーのおじさんだった。
「オラオラテメェ等、嬢ちゃん達をとっとと部屋へ運べ!」
組員達がぼく達を部屋へと連れて行く。藤本組若頭補佐の松原さんはそれから素早くぼく達の治療をしてくれた。
どうやら最初から痛い目に合わせはするけど、殺す気とかは無かったらしいし、直ぐに治療出来る様に直系三次団体絆救会の組員も準備していたらしかった。
ぼく達はそれぞれ別の部屋で治療(と言っても消毒してガーゼ当てて包帯で巻いただけだけど)を受けると直ぐに解放された。
それからぼくは自分の部屋に戻ると、隣の部屋で菖蒲さんが銃の整備をしている所だった。
凄い、銃がバラバラなのに、アレをまた組み直せるんだろうな……。
「怪我は?」
「へっ?」
「怪我は、大丈夫なのかよ?」
「あぁ、掠り傷でしたし、大丈夫ですよ」
「……風香が迷惑を掛けた。それに、あたしもアンタに怪我をさせちまった。これでアンタがやらかした事に関しては、チャラだ。もう自由だ」
「自由……」
「明日も学校を休んで貰うけど、明後日からは元の生活に戻れる。これで、あたしとアンタの関係は終わりだ」
「なんで……なんでそう言う事を言うんですか、菖蒲さん!」
「えっ? 何でって、今説明しただろ。あたし等の不祥事とお前の不祥事でチャラだって。だからお前はこれから自由だって……」
「そう言うこと言ってるんじゃないですよ! 何でそんな辛そう、泣きそうな顔で言ってるんですか、ぼくのこと、嫌いになっちゃったんですか?」
「嫌いなんてあるわけ無ぇだろ! でも、それがお前の幸せで……」
「ぼくの幸せはぼくが決める、ぼくの居場所はぼくが決める。そして、ぼくの居場所は菖蒲さんの隣が良いんだよ!」
ぼくは自分の言葉を素直に言う。菖蒲さんのこと、ぼくは嫌いじゃない。
それに、常に強がってはいるけれども、目を話したら簡単に壊れてしまいそうで心配になる。
今回のことだって、この組織や彼女の生きて来た日常の中では決して珍しくない光景なのだろう。
「だけどぼくはこの世界に来た。理由はどうあれ。ならば、この世界のやり方に従う!」
「………良いんだな。これが最後だ。もう変えられねぇぞ」
「望む所です!」
「……小松菜ぁ!」
「ハイな!」
「見届けろ。優希、お前は今からあたしの妹分だ。分かり易く言うなら舎弟だな。普段からあたしのことは『姉御』とか『姉貴』とか呼びな」
「え? えっと……『姉様』では?」
「妹達とそんな代わり無いけど、まぁ良いだろう。困った事があれば、何でも言え。どんな事があっても、お前を守ってやる」
そう言って、ぼくは姉様の妹分になった。それから暫くしてのこと。
治療を終えた風香ちゃんがぼくと姉様の所へ来て深く謝罪をし、菖蒲さんはそれを許した。
……のだけれども、一つ問題が新たに生まれてしまった。
「此度の迷惑と、優希さんには命を救って頂きました。優希さん、私を妹分にして下さい!」
「え、えぇ? 姉様、どうすれば……」
「別に良いんじゃねぇの? 実姉の地位までは渡さねぇし、慕うって言うなら良いことじゃねぁか。面倒見てやりな、先輩として」
と言う事で今日菖蒲姉様の妹分になり、風香ちゃんの姉貴分になったのだった。
§
菖蒲は優希の布団から出ると、妹分だから一緒に寝たいとせがみ三人で一緒に寝る事になった風香を見下ろす。
ずっと自分にベッタリだった風香、今回の件もその行為に行き過ぎた所はあっても変わりは無かった。それなのに、まさか優希に懐く事になろうとは思わなかった。
さっきまでの殺そうとしていた雰囲気は嘘の様に、今の風香は布団の中で優希にベッタリだ。
菖蒲は静かに廊下に出ると、今度は視線を奥へと向ける。そこには、いつもの無表情な雷香が立っていた。
我が妹ながら、寝巻き姿も可愛らしいと思う。だからと言って優希みたいに襲いはしないが。
雷香は深く最敬礼で一礼する。別に呼んだ訳じゃない、けど来るだろうとは思っていた。
「寂しくなったか? 双子の姉が離れちまって」
「ご冗談を。姉様こそ、いつも懐いていた愚姉が離れて寂しいのでは?」
「さぁな。まぁ、別にあたしを慕わなくなった訳じゃねぇんだ、幸せのお裾分けしてやるよ」
「なんとも重い事ですね。……姉様、優希先輩を妹分にしたそうですね」
「問題が?」
「いえ、姉様の行いに問題がある筈もありません」
口でこそそう言っているが、その真意は実姉の菖蒲にすら掴めない。
雷香の性格は余りにも強弱が無く、余りにも淡々と実利に基づいている。
だからこそ、味方で居る内は最も頼りに成る妹だった。
「もしもあたし等全員男だったら、あたしが組長、雷香が若頭、風香が筆頭若頭補佐、優希が舎弟頭ってちゃんと地位が確立したのにな」
「優希先輩には組長の妾が丁度良いでしょう」
「ははっ違い無ぇや」
「時に、菖蒲姉様、少しお話が。此処では他の目が」
「あぁ、分かった」
そんな話をしながら、二人は風香雷香の部屋へと移動する。少し積もる話があるらしかった。
§
あぁ、行っちゃった……。ぼくは姉様が外に出てからずっと起きていた、けど、風香ちゃんがずっとぼくの口に人差し指を置いて声を出すなってしていたから何も出来なかった。
二人が居なくなると、風香ちゃんがそっと人差し指を離して起き上がった。小柄で華奢な体躯に、顔は女のぼくですら可愛いと思えてしまう程整っていた。
その腕には、包帯が巻かれていて、痛々しい。
「あ、あの、優希姉様……さっきは、ごめんなさい……。私、優希姉様の言う通り、菖蒲姉様が取られるのが嫌で、
それに、菖蒲姉様に振り向いて欲しくて、あんな事をしてしまいました……」
「分かってるよ。風香ちゃんとは今日初めてあったばかりだけど、悪い子じゃないって分かってる」
「……私、姉様の事が好きになっちゃったかも知れないです」
「へっ!?」
「私はこの社会に生まれながらいます。姉様のコネで、上にも下にも顔は広いです。それに組長の娘と言うことで、皆優しくしてくれます。でも、それは藤本組の娘として……私としては誰も見てくれないんです……。だから、私たちは私たちを見るお互いに依存し合うんです」
「そう言う事だったのか……」
「優希姉様。私の事も愛して下さい……」
「愛してって……!」
「……なんて、そんなことしたら、今度こそ菖蒲お姉様に殺されてしまいますね。今は、これだけで風香は幸せです……おやすみなさい、優希姉様……」
……そう言って風香ちゃんは眠った。多分薬が切れてない内に頑張って、無理して起きていたんだろう。
ぼくへ謝罪と感謝を伝える為に。その機会は今を於いて他に無かったから。
ぼくも寝よう。それにしても、妹分か……。慕われるのは悪い気はしない……。
だけど、愛すとは菖蒲姉様にされたみたいな事を風香ちゃんにって事……?
う~ん……ぼくには難しい気がする……。
§
「……それで、何か分かったか?」
「水面下での動きなのですが、恐らくそう遠くない内に辻組のヒットマンが動くかと」
「まだ優希さんについては分かっていない様ですが、先日の事故について優希さんの姿が見られている可能性はありますね……」
菖蒲、雷香、小松菜は軽く溜め息を吐く。流石に組の車が事故に遭ったのだ。
その情報が出回るのは当然の事だろう。それに、もしもこの組織に辻組に通じている人間が居るならば、優希の命が危険だ。
「とは言え、流石に組員を護衛に回すのも危険ですかね……」
「それに関しては、まぁ私達と同じ中学ですし、私が護衛に回りましょう」
「いや、雷香嬢……まぁ確かにそうなれば心配は無いですが、その場合ご自身も狙われると言う事分かってます?」
「一応、私は未だ堅気で通ってる筈です。けど、優希先輩はヤクザの娘じゃなく客人の扱いでしょう。そうなれば、私達よりも優希先輩の方が危険だと思います。後ろ盾の大きさが違いますから」
雷香の命を狙うよりも優希の命を狙う方が、リスクが少ない。それに回される手の数が少ないならば、瓦解させるのは容易い。
だからこそ雷香が護衛に回るのだ。もしも護衛の時点で彼女の身に何かあれば、戦争だ。
明日、彼女の身に何も無ければ良いのだが……。
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