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162「これは何処からわいたんですか」
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「話を戻しますが、何故ここに魔弓があるんですか? 魔獣討伐の時に使われた魔弓は魔術師団の方で預かっている筈ですが」
ふと首を傾げたイーレンは、エイダールに鋭い視線を向ける。
「それにあれは短弓でしたし、もともとはユランくんの物だと聞いていますが……これは何処からわいたんですか」
ケニスの持っている弓を指差す。
「武具を扱ってる店で普通に買った。そのあと俺が改造……」
「そうですか、改造ですか、へええ、そうですか」
イーレンの声が低くなる。
「ああいや、弓自体はいじってなくて、ちょこっとこう魔導回路を刻んでだな」
「魔弓にしてしまったと?」
「うん」
子供のようにこくりと頷くエイダールに、イーレンは頭が痛くなった。
「ちょっとこちらへ来てください……ブレナンさん、ケニスさん、少し失礼します」
人に聞かれてはまずい内容になってきたので、イーレンはエイダールを引き摺ってその場を離れた。
「魔術師団の方で預かっている短弓も、君が改造したものですよね?」
ブレナンとケニスの姿は見えるが声は届かない辺りまで来たイーレンは、エイダールに向き直る。性能から言ってもユランが所持していたという点から考えても、間違いないとは思うが一応確認する。
「ああ」
「何を考えてというか、何のために作ったんですか? 無限に矢が生成され続ける弓なんて常識外だってことは分かっていますよね?」
イーレンは制作意図を尋ねる。
「え、家に矢がなかったから……あと、魔力石一個で五百本くらいしか生成できなかったと思うけど」
だから無限に生成される訳じゃない、とエイダールは付け足す。
「充分非常識な数字です。家に矢がなかったとはどういうことですか。弓だけあったとでも?」
「武器屋の親父が何かのおまけで短弓くれたんだけど、短弓だけだったから使ってみようにも矢がなくてさ。俺は基本的に遠距離武器使わないし」
エイダールは、戦闘を行う場合も魔法が主である。杖に加えて、短剣くらいしか持たない。短剣の刃を土台に氷を生やして長剣風に使うこともあるが。
「ユランは弓も扱えるけど、近接戦闘が主だろ? そんなに使うとも思えない弓の消耗品を毎回持ち歩くのもなんだし、持ち歩いててもなくなったら使えないしさ、使いたいときに使いたいだけ魔法で矢を生成出来れば便利かなって……」
思いついたので作ってみたエイダールである。
「つまり、特に必要があった訳ではなかったと……こういうものを安易に作るなって言われてますよね? 魔力が多いというだけでも要監視対象なのに、こんなものを量産してるなんて知れたら、本当に自由がなくなりますよ!?」
イーレンにしては珍しく声を荒げる。エイダールを心配してのことである。今のところ、王立研究所という国の機関に囲い込まれているとはいえ、『魔力は多いが無害である』と判断されているので制限なく暮らしているが、魔法武器を量産しているなどということになれば、何を疑われてもおかしくない。
「えっと、量産はしてない……」
試作で何張かは作ったが、ケニスに渡す物以外は封印する予定である。
「では何故ここに二張目があるんですか」
問い詰めてくるイーレンに。
「魔術師団がユランの短弓を返してくれないからだろ」
エイダールは言い返した。
「というか、何で持って行ってるんだよ、あれはユラン個人の物だぞ」
個人の所有物を、いくら国の組織だからと言って、魔術師団が取り上げるのはおかしい。
「一般人が個人で所有していていいものではないからです。まあ、きちんと手続きを踏んではいないようなのでその辺は抗議しておきますけど……多分手元には戻ってこないと思います。いまだに仕組みの解明も出来てないみたいですしね」
余程の圧力がかからなければ、研究途中の物を返却したりなどしない集団である。
「魔導回路がどこに刻まれているのかすら分かっていないみたいでしたよ」
「魔力石が埋まってる以外は、普通の弓にしか見えないようにしてあるからな。魔導回路そのものは外側からじゃ見えないけど、イーレンなら回路を流れる魔力は視えると思うんだが」
見なかったのか? とエイダールは尋ねる。
「私が魔弓の話を聞いて魔術師団に見に行った時は、既にばらせるだけばらされていたので、魔力は流れていなくて……魔導回路の形が螺旋状なことは分かりましたが、中に刻まれている紋様の詳細な解読はお手上げです。もっとよく見ようと集中したら、逆に螺旋がぶれて見えてきてしまって」
乗り物酔いのような症状を起こしたイーレンである。
「いや、それで正解だ。魔導回路は二重螺旋になってる」
やっぱりイーレンは目がいいな、とエイダールは感心したように頷く。
「どっちかの魔導回路がどこか破損しても互いに補うように設計してある。戦場で簡単に壊れたら命に関わるからな」
ちなみにケニスに渡したものには、もう一本加えて三重螺旋構造である。ユランの所有であればこまめな点検が可能なので二重で充分だが、完全に人手に渡してしまうので、念には念を入れた。
「あの細さの中に二本も三本も入っているんですか……」
イーレンは目を瞠る。
「ああ。俺でも結構神経使う刻み方してる」
「君がそう言うなら、再現は難しそうですね。というか、あんな内部にどうやって刻んだんですか」
魔導回路を刻んだものを内部に差し込んだ、ではなく、内部に直接刻んである。どんな方法を使ったのか分からない。
「普通に魔導回路を設計して描いたら、魔力入れた水で写して、それを刻みたいところに持って行って、そこでががっと氷にして」
エイダールは身振り手振りを加えて説明するが。
「……何を言っているのかさっぱり分からないんですが」
イーレンには伝わらなかった。
ふと首を傾げたイーレンは、エイダールに鋭い視線を向ける。
「それにあれは短弓でしたし、もともとはユランくんの物だと聞いていますが……これは何処からわいたんですか」
ケニスの持っている弓を指差す。
「武具を扱ってる店で普通に買った。そのあと俺が改造……」
「そうですか、改造ですか、へええ、そうですか」
イーレンの声が低くなる。
「ああいや、弓自体はいじってなくて、ちょこっとこう魔導回路を刻んでだな」
「魔弓にしてしまったと?」
「うん」
子供のようにこくりと頷くエイダールに、イーレンは頭が痛くなった。
「ちょっとこちらへ来てください……ブレナンさん、ケニスさん、少し失礼します」
人に聞かれてはまずい内容になってきたので、イーレンはエイダールを引き摺ってその場を離れた。
「魔術師団の方で預かっている短弓も、君が改造したものですよね?」
ブレナンとケニスの姿は見えるが声は届かない辺りまで来たイーレンは、エイダールに向き直る。性能から言ってもユランが所持していたという点から考えても、間違いないとは思うが一応確認する。
「ああ」
「何を考えてというか、何のために作ったんですか? 無限に矢が生成され続ける弓なんて常識外だってことは分かっていますよね?」
イーレンは制作意図を尋ねる。
「え、家に矢がなかったから……あと、魔力石一個で五百本くらいしか生成できなかったと思うけど」
だから無限に生成される訳じゃない、とエイダールは付け足す。
「充分非常識な数字です。家に矢がなかったとはどういうことですか。弓だけあったとでも?」
「武器屋の親父が何かのおまけで短弓くれたんだけど、短弓だけだったから使ってみようにも矢がなくてさ。俺は基本的に遠距離武器使わないし」
エイダールは、戦闘を行う場合も魔法が主である。杖に加えて、短剣くらいしか持たない。短剣の刃を土台に氷を生やして長剣風に使うこともあるが。
「ユランは弓も扱えるけど、近接戦闘が主だろ? そんなに使うとも思えない弓の消耗品を毎回持ち歩くのもなんだし、持ち歩いててもなくなったら使えないしさ、使いたいときに使いたいだけ魔法で矢を生成出来れば便利かなって……」
思いついたので作ってみたエイダールである。
「つまり、特に必要があった訳ではなかったと……こういうものを安易に作るなって言われてますよね? 魔力が多いというだけでも要監視対象なのに、こんなものを量産してるなんて知れたら、本当に自由がなくなりますよ!?」
イーレンにしては珍しく声を荒げる。エイダールを心配してのことである。今のところ、王立研究所という国の機関に囲い込まれているとはいえ、『魔力は多いが無害である』と判断されているので制限なく暮らしているが、魔法武器を量産しているなどということになれば、何を疑われてもおかしくない。
「えっと、量産はしてない……」
試作で何張かは作ったが、ケニスに渡す物以外は封印する予定である。
「では何故ここに二張目があるんですか」
問い詰めてくるイーレンに。
「魔術師団がユランの短弓を返してくれないからだろ」
エイダールは言い返した。
「というか、何で持って行ってるんだよ、あれはユラン個人の物だぞ」
個人の所有物を、いくら国の組織だからと言って、魔術師団が取り上げるのはおかしい。
「一般人が個人で所有していていいものではないからです。まあ、きちんと手続きを踏んではいないようなのでその辺は抗議しておきますけど……多分手元には戻ってこないと思います。いまだに仕組みの解明も出来てないみたいですしね」
余程の圧力がかからなければ、研究途中の物を返却したりなどしない集団である。
「魔導回路がどこに刻まれているのかすら分かっていないみたいでしたよ」
「魔力石が埋まってる以外は、普通の弓にしか見えないようにしてあるからな。魔導回路そのものは外側からじゃ見えないけど、イーレンなら回路を流れる魔力は視えると思うんだが」
見なかったのか? とエイダールは尋ねる。
「私が魔弓の話を聞いて魔術師団に見に行った時は、既にばらせるだけばらされていたので、魔力は流れていなくて……魔導回路の形が螺旋状なことは分かりましたが、中に刻まれている紋様の詳細な解読はお手上げです。もっとよく見ようと集中したら、逆に螺旋がぶれて見えてきてしまって」
乗り物酔いのような症状を起こしたイーレンである。
「いや、それで正解だ。魔導回路は二重螺旋になってる」
やっぱりイーレンは目がいいな、とエイダールは感心したように頷く。
「どっちかの魔導回路がどこか破損しても互いに補うように設計してある。戦場で簡単に壊れたら命に関わるからな」
ちなみにケニスに渡したものには、もう一本加えて三重螺旋構造である。ユランの所有であればこまめな点検が可能なので二重で充分だが、完全に人手に渡してしまうので、念には念を入れた。
「あの細さの中に二本も三本も入っているんですか……」
イーレンは目を瞠る。
「ああ。俺でも結構神経使う刻み方してる」
「君がそう言うなら、再現は難しそうですね。というか、あんな内部にどうやって刻んだんですか」
魔導回路を刻んだものを内部に差し込んだ、ではなく、内部に直接刻んである。どんな方法を使ったのか分からない。
「普通に魔導回路を設計して描いたら、魔力入れた水で写して、それを刻みたいところに持って行って、そこでががっと氷にして」
エイダールは身振り手振りを加えて説明するが。
「……何を言っているのかさっぱり分からないんですが」
イーレンには伝わらなかった。
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