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躾られた悪意
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しおりを挟むキジトはその日苛立っていた。
心待ちにしていた久々のチームでの見回り。
意気揚々とイスミを指名しようとしたキジトの誤算。
「くそったれ」
当のイスミが訓練日だったのである。
指名も何もあったものではない。
キジトは募った苛立ちをぶつけるように建物の壁を殴った。
「ひ……っ」
キジトの様子に一般隊員が竦み上がって短く悲鳴をあげる。
それさえも気に食わず、キジトは大きく舌打ちをした。
チームでの見回りである今日、キジトは制御装置を身に付けている。
元来の戦闘センスの高さから、能力が発揮出来ずとも問題はないとの判断からだった。
しかし、能力がなくともキジトの厭人と態度の悪さは健在である。
ゆえにキジトがチームでの見回りで上手くいった試しはない。
「おい、今日はお前が司令塔だったな?」
「は、はい……っ」
返事をしたのはひょろっと背だけが高い一般隊員の青年だった。
歳の頃は同じくらいだろうが、その体はキジトの雰囲気に当てられて小刻みに震えている。
指示は期待出来ないな、とキジトは内心でため息を吐いた。
キジトに対して怖気付いている司令塔の場合、その多くはキジトに前衛での特攻を求める。
《継承者》の身体能力をもって一気に片付けてこい、という他力本願が表面に現れた形だ。
例に漏れずキジトは前衛での特攻を要求された。
イスミであればこうはならなかっただろう。
無い物ねだりをしても仕方ないが、ため息くらいは吐かせて欲しい。
キジトの専門は後衛である。
ヤタマルのように刀一つで敵に斬り込むような戦闘スタイルは本来ではない。
散弾で敵を散らし、時に追い込み。そして爆撃を叩き込む。
キジトが知る限り《継承者》の能力は、物語のテーマから派生する能力と、引き継いだ神の本来の能力に分けられている。
《ストーリーテラー》では前者を能力と呼び、後者を神力と呼び分けていた。
キジトの能力は、あくまでも身体強化の亜種のようなものだが、災害をも払う神の力は即ち魔法。
キジトの本領は広範囲で撃ち放つ殲滅魔法だった。
白いジャケットの内側に隙間なく入れられたナイフと拳銃が音を立てる。
神力の通用しない《悪意》のために用意している武器だ。
その一つを手に取り、キジトは大きくため息を吐いた。
《悪意》が現れたのは、その時だった。
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