4 / 40
プロローグ
3
しおりを挟む一度目の戦闘訓練が終わり、クールタイムとなる。
集団戦闘は、1チーム対1チームで行われるが、一度目と二度目は別のフロアで別のチームと当たる。
クールタイム中は休憩がてら作戦の練り直しと反省に費やされるが、イスミがその場に呼ばれることはない。
壁に寄りかかって時間を潰していると、近づく気配があった。
「あ、イスミー!」
「サトハルさん」
イスミは背後からかけられた声に振り向いて答えた。
サトハル・リカー。
ストーリー名、《春の嵐》を継ぐ、《継承者》である。
イスミが仲間外れにされる一端だった。
「今度の見回り、お前のこと指名したから! よろしくな!」
「こちらこそよろしくお願いします」
サトハルは、イスミの《一般隊員としての価値》を正しく理解している数少ない隊員だった。
見回りは基本的に数人でのチームで行われる。
中に《継承者》が加わる場合、一般隊員の1名までは《継承者》が指名できた。そのほかはランダムである。
イスミは、特定の条件を満たした場合における、《継承者》からの指名率が異様に高かった。それが、他の一般隊員との溝を産んでいる。
何故アイツが。
ザコのくせに。
要するに嫉妬である。
イスミはそれを、普通の反応だと理解していた。
平凡が、人気者に気に入られている。
集団心理として、それは気に食わない方に流れるだろう。
イスミ自身にその感情を抱くような経験はなかったが、当事者となってしまった今、それは自明の理だ。受け入れるしかない。
「サトハルさんは、訓練ですか?」
「そうそう! 今二回戦終えてきたところ」
サトハルはVサインを作ると、人好きのする笑みを浮かべた。
第一支部に所属する《継承者》の中でも、サトハルは人気者の隊員だった。
緩くパーマのかけられた茶髪に、キリッとした眉。
誠実さが表に出たようなまっすぐな目は、会話をする時には絶対に逸らされない。
人を見た目や能力で判断しない彼は、その性格も相まってファンが多い。
イスミは周囲から棘のある視線を感じて、居心地の悪さに居住まいを整えた。
「……剣を持ってるね。イスミは今日、前衛? 後衛?」
「……後衛です」
「ふぅん? 練習してるの?」
純粋な彼は、イスミが自ら希望して後衛に就いたと思ったのだろう。
不思議そうに首を傾げてイスミに問うた。
「いえ……気分、ですかね」
イスミの言葉にサトハルはきょとんと目を瞬かせた。
「そっか! 苦手を伸ばすのもたまにはいいよね!」
そうして悪意のない顔でサトハルは微笑む。
庇われている。
一般隊員からはそう捉えられただろう。
この後の訓練は、どうなることか。
イスミはため息を飲み込んで、クールタイムをサトハルと過ごした。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~
華抹茶
BL
子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。
もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。
だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。
だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。
子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。
アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ
●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。
●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。
●Rシーンには※つけてます。
孤独な蝶は仮面を被る
緋影 ナヅキ
BL
とある街の山の中に建っている、小中高一貫である全寮制男子校、華織学園(かしきのがくえん)─通称:“王道学園”。
全学園生徒の憧れの的である生徒会役員は、全員容姿や頭脳が飛び抜けて良く、運動力や芸術力等の他の能力にも優れていた。また、とても個性豊かであったが、役員仲は比較的良好だった。
さて、そんな生徒会役員のうちの1人である、会計の水無月真琴。
彼は己の本質を隠しながらも、他のメンバーと各々仕事をこなし、極々平穏に、楽しく日々を過ごしていた。
あの日、例の不思議な転入生が来るまでは…
ーーーーーーーーー
作者は執筆初心者なので、おかしくなったりするかもしれませんが、温かく見守って(?)くれると嬉しいです。
学生のため、ストック残量状況によっては土曜更新が出来ないことがあるかもしれません。ご了承下さい。
所々シリアス&コメディ(?)風味有り
*表紙は、我が妹である あくす(Twitter名) に描いてもらった真琴です。かわいい
*多少内容を修正しました。2023/07/05
*お気に入り数200突破!!有難う御座います!2023/08/25
*エブリスタでも投稿し始めました。アルファポリス先行です。2023/03/20
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。
トップアイドルα様は平凡βを運命にする
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。
ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。
翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。
運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

ボクに構わないで
睡蓮
BL
病み気味の美少年、水無月真白は伯父が運営している全寮制の男子校に転入した。
あまり目立ちたくないという気持ちとは裏腹に、どんどん問題に巻き込まれてしまう。
でも、楽しかった。今までにないほどに…
あいつが来るまでは…
--------------------------------------------------------------------------------------
1個目と同じく非王道学園ものです。
初心者なので結構おかしくなってしまうと思いますが…暖かく見守ってくれると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる