神々のストーリーテラー

みん

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プロローグ

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 一度目の戦闘訓練が終わり、クールタイムとなる。
 集団戦闘は、1チーム対1チームで行われるが、一度目と二度目は別のフロアで別のチームと当たる。
 クールタイム中は休憩がてら作戦の練り直しと反省に費やされるが、イスミがその場に呼ばれることはない。

 壁に寄りかかって時間を潰していると、近づく気配があった。

「あ、イスミー!」
「サトハルさん」

 イスミは背後からかけられた声に振り向いて答えた。
 サトハル・リカー。
 ストーリー名、《春の嵐》を継ぐ、《継承者》である。

 イスミが仲間外れにされる一端だった。

「今度の見回り、お前のこと指名したから! よろしくな!」
「こちらこそよろしくお願いします」

 サトハルは、イスミの《一般隊員としての価値》を正しく理解している数少ない隊員だった。

 見回りは基本的に数人でのチームで行われる。
中に《継承者》が加わる場合、一般隊員の1名までは《継承者》が指名できた。そのほかはランダムである。

 イスミは、特定の条件を満たした場合における、《継承者》からの指名率が異様に高かった。それが、他の一般隊員との溝を産んでいる。

 何故アイツが。
 ザコのくせに。

 要するに嫉妬である。
 イスミはそれを、普通の反応だと理解していた。

 平凡が、人気者に気に入られている。
 集団心理として、それは気に食わない方に流れるだろう。
 イスミ自身にその感情を抱くような経験はなかったが、当事者となってしまった今、それは自明の理だ。受け入れるしかない。

「サトハルさんは、訓練ですか?」
「そうそう! 今二回戦終えてきたところ」

 サトハルはVサインを作ると、人好きのする笑みを浮かべた。
 第一支部に所属する《継承者》の中でも、サトハルは人気者の隊員だった。
 緩くパーマのかけられた茶髪に、キリッとした眉。
 誠実さが表に出たようなまっすぐな目は、会話をする時には絶対に逸らされない。

 人を見た目や能力で判断しない彼は、その性格も相まってファンが多い。
 イスミは周囲から棘のある視線を感じて、居心地の悪さに居住まいを整えた。

「……剣を持ってるね。イスミは今日、前衛? 後衛?」
「……後衛です」
「ふぅん? 練習してるの?」

 純粋な彼は、イスミが自ら希望して後衛に就いたと思ったのだろう。
 不思議そうに首を傾げてイスミに問うた。

「いえ……気分、ですかね」

 イスミの言葉にサトハルはきょとんと目を瞬かせた。

「そっか! 苦手を伸ばすのもたまにはいいよね!」

 そうして悪意のない顔でサトハルは微笑む。

 庇われている。
 一般隊員からはそう捉えられただろう。

 この後の訓練は、どうなることか。

 イスミはため息を飲み込んで、クールタイムをサトハルと過ごした。
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