幽閉塔の早贄

大田ネクロマンサー

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2部 焼け落ちる瑞鳥の止まり木

第39話 暗転(アシュレイ視点)

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辺りはすっかり暗く、指定された目的地まで遅れが出ていた。隊列は先頭が速く後列が遅くなる傾向にある。しかし今日のこの状況からは願ったり叶ったりだった。まだ駐屯地の門を出てから1時間も経っておらず、背後に王都は見える。遣いガラスは優秀だと聞くが果たして移動している宛先人をちゃんと追うことができるのだろうか?

「遣いガラスはまだ来ないみたいだな。来なければなにもないということなんだろうけど……」

ルークが馬で駆けながらそんなことを言う。そうだ何もなければいいのだ、そう思った矢先。ジルが後ろから何か叫んでいる。振り返って見た光景に、俺は絶句した。

「アシュレイ! 王都の灯が消えた!」

ジルの大声が響いて、前を走る兵たちも馬を止め振り返り響めきが広がった。さっきまで何度も振り返って確認していた。遣いガラスは黒く闇に溶けやすい。王都の灯で影になると思って何度も確認していたのだ。

「な……ジル! 突然消えたのか!?」

「ああ! 一瞬で王都全体の灯が消えた!」

ただ事では無い。そう思わせるには十分な衝撃だった。魔法科学が確立されたその日から、絶えることのなかった灯火が一瞬で消えたのだ。

「バーンスタイン卿!」

後列にいた兵卒が慌てふためいて俺にすがる。出陣なのだ。後列には兵卒しかいない。

「お前たちは補給線を守りながらこのまま今日の目的地まで走り抜けろ! そして先の旅団長にこれを伝えるんだ! バーンスタインおよびブラウアー兄弟で先に王都に戻っていると! お前たちの権限は一時的に先陣の旅団長に指揮権を委譲する!」

兵卒は各々返事をした後、馬の腹を蹴って駆け出していく。

「いくぞ!」

俺とルークとジルは列を離れ、馬を反転させる。そして勢いよく駆け出した。

「アシュレイ! 魔法灯が消えたってことは、幽閉塔になんかあったのか!?」

ルークが叫ぶ。きっとジルだって叫び出したいはずだ。だからわかることだけを応答する。

「湖に蓄積した魔力とノアやルイスには関係ない! ただ……」

「ただ、なんだ!?」

馬がびっくりするほどの大声で、ジルに怒鳴られる。

「塔そのものを破壊されたか、水路を止められたか、どちらかだ!」

「謀反を王都で起こすつもりか!?」

「わからない! だが、王宮に向かう! 王都は混乱で人を馬で跳ねかねない! 駐屯地側から王宮に戻るぞ!」

そこから、俺たちは無言で馬を走らせた。一言でも喋ればそれが現実になってしまうという恐怖が3人をそうさせていたのだ。どんな可能性を言いあっても、現実は優にそれを超えてくる。そんな無駄口を叩く余裕など一切なかったのだ。

出発からの時間を考えれば、帰りは驚くほど早かった。多分1時間も経たずに駐屯地に戻った。

「門を開けろ!」

「バーンスタイン卿! お待ち下さい!」

門番が慌てふためいて門を開ける時間も惜しかった。しかし王宮は広い。ここで馬を乗り捨てて行くわけにはいかない。そう思ったのも束の間、ブラウアー兄弟が揃って俺の頭上を超えて行った。

「おい!」

「馬は中にも居る! アシュレイ早くしろ!」

舌打ちをし、馬の背に立ち門を飛び越えた。

「はわわわ……バーンスタイン卿、申し訳ございません!」

内側の門番の言葉を無視して2人の後を追う。向かう先は駐屯地内の厩舎だろう。3人無言で全力疾走をしている。厩舎は駐屯地の武器庫を曲がった先、垣根を越えた先にある。

ブラウアー兄弟がその角を曲がり、それを追ったときに何かにぶつかった。

「ジル! 急になんだ!?」

ぶつかってもびくともしないジルに怒鳴りつける。体をずらして前を見たところに1人の青年が立っていた。
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