幽閉塔の早贄

大田ネクロマンサー

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2部 焼け落ちる瑞鳥の止まり木

第38話 瑞鳥の影(アシュレイ視点)

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先陣を切る旅団の列に灯が灯った。刻々と日は傾き灯が輝き始める。ルイスと別れた後、ブラウアー兄弟を探したが、見当たらず兵への指示に奔走する段になってようやく兄弟が揃って俺の元へ来た。

「バーンスタイン卿、残り補給線の部隊のみになっています」

「わかった」

他の旅団長とできることは全てやった。だが胸騒ぎがしてならないのはなぜだ。

「アシュレイ、夜営なんて久しぶりだな。こんな時間から出発だったら明日からでも同じだろうに」

ルークは朝よりはだいぶマシになった顔で大きなあくびをする。ジルに至っては昨日の寝不足からか、物資の上に座りうつらうつらしていた。

我旅団は特殊能力を揃えた兵が多い。一度戦場に出てしまえば、彼らの呑気さがわかるほどに不安はない。しかしそれは戦場においてのみだ。

多分今夜王宮で謀反が勃発する。だからこうして補給部隊と共に後陣にしてもらった。

「アシュレイ、なるようにしかならない。塔には危害が及ばないよ」

ルークの呑気さに肩の力が抜け、空を仰いだ。その時、一羽の遣いガラスが頭上の遙か彼方を横切った。カラスはこの駐屯地でも、塔の方向ではなく、王室のある宮殿に向かっていく。

「オットーが動いた。ルーク、ジルを起こせ」

「オットーがどうしたんだ?」

俺はルークの質問を無視して再び出陣の指揮にあたる。士官を呼び集め、もっともらしい理由で今日に限り俺とブラウアー兄弟が後列での出発になると伝える。信用のおける旅団長に兵の引率を任せてもよかったが、その旅団長に助言をもらったのだ。兵の中に息のかかっているものがいるかもしれないから、今日に限った目立つようなことをしないほうがいいと。

「ルーク、ジル。オットーが遣いガラスを出した。カラスが用事を済ませたら、その足で塔に寄ってノアの伝言を受け取るだろう」

「なんでまっすぐノアのところに行かないんだ」

ジルがまっすぐ俺を見た。

「オットーが有事だと判断したからだ。出発前に茶でも飲まないか?」

ジルは視線を左右に動かした後、わかったと伏し目がちに言った。

ブラウアー兄弟と倉庫裏にある休憩所に向かう。普段は兵で賑わうテラスも、今日は残り2軍ともあり閑散としていた。

そこで今日参謀本部からの帰りにルイスに会ったこと、そしてオットーのことを共有した。オットーについては俺も知っていることが少ないが、少なくとも国王と繋がっていることは確かだった。最後にルイスからの伝言を2人に届けて締めくくる。

「このまま……ここに残るわけにはいかないか?」

ルークがダメだと分かりながらも質問をしてくる。旅団長の助言通り、今軍の隊列から離脱して個別行動をとることはかえって危ないと伝える。

「それに……ルイスは俺に約束した。ノアを守ると。なあ、ジル。ルイスもやっぱり男だな」

ルークは不思議そうにジルを見る。ジルは口元を綻ばせたと思ったら、慌てて手で隠し反対側を向いた。ルークはそのやり取りを少し寂しそうな顔で眺めて、呟くように言った。

「じゃあ、なるべく遣いガラスを見逃さないように、注意しておく」

「そうだな、ノアだったらどうするか。その伝言でその後の行動を決めよう。それまではいつも通りを装う」

「わかった」

ジルが力強く頷く。ルークはぼんやりしたまま、宙を見つめているばかりで、様子がおかしい。

「ルーク、ルイスが会いたがっていたぞ」

その言葉にルークは静かに、ありがとうと礼を述べ、立ち上がった。歯切れの悪いルークが心配だったが俺もジルも彼に続き、出発した。

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