幽閉塔の早贄

大田ネクロマンサー

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1部 ヤギと奇跡の器

第42話 査問(アシュレイ視点)

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ルークとは宮殿の入り口で別れた。待っていた衛兵が俺を掴み査問が行われる審判の間に通す。

王宮に長く通っているが、この部屋に通されたのは初めてだった。他の部屋とは違いシンプルで薄暗い様子から、ここに通される者にもてなしなどないことが窺える。

側面と正面に帳が下され人影が揺らめいている。初めて入ったのだから、帳の向こうに誰がいるかなど想像もつかなかった。

広い間の中央に立たせれ、腕を引いていた衛兵は扉に下り、俺は1人になった。

「アシュレイ=バーンスタイン、本日は貴公への質疑を行う。ここでの供述を鑑み明日なんらかの処分を決定するものとする。尚、陳情は明日の処分以降聞き入れるものとし、本日この場では質疑の応答のみに徹するものとする」

横から遠回しに質問のみに答えろと高らかに宣言される。

「御意」

ここから質問が四方八方から飛び出す。メルヒャー卿から譲り受けた時の様子、譲り受けるに至った経緯、利用用途、香の在処。

ノアに手を焼いていたこと、ルイスが職務以上の仕事をしていたこと、それに対し咎を感じて香を譲り受けたこと。メルヒャー卿が塔の前任者でこれを使っていたと謳っていたこと。香が一般で流通しているものだと聞き及んでいたこと。ルークから言われた通り一貫して真実を述べた。

これで罪に問われるとするならば、それはノアへの償いだと感じた。精通もしていない少年に随分と残虐なことをしてきた。

ルイスは言っていた。もうルイスにそんなことを求めていないと。俺の与えた香であんな状態になっていたのに、追い討ちをかけるように蔑み、そしてあの模型を渡した。

「随分と後悔をしているようだな、奇跡の器よ」

正面から響いた声に、左右の帳からどよめきが起こる。驚いたのは周りの者だけではない。俺自身も驚き慌てて膝をついた。

「その後悔の所在はなんだ?」

「生贄への自分の行いに対してでございます、陛下」

勅命の査問とはいえ、王が居られるなどここにいる誰もが考え至らなかった。俺自身も称号を賜る義の時にしか拝見したことがない。

「なぜ後悔をするような仕打ちに至ったのだ」

なぜ。簡潔に言い表すことができなかった。だから考えあぐねているうちに王が質問を変えた。

「塔の管理は不名誉か?」

父と同じ鋭利な質問に息を飲む。しかしここで真実から目を背けることはできなかった。

「拝命した時、心の底では不名誉に存じておりました」

「はははっ! 正直でよろしい」

唐突な笑い声に、左右の帳の奥からはどよめきが起きて、俺は嫌な汗が噴き出した。

「なぜ名誉にこだわる?」

王は俺を追い詰める。しかし、俺の中で諦めのような境地が眼前に広がった気がした。

「バーンスタイン家は子をなさず、養子で私を迎え入れてくれました。世間の好奇、好色の目に耐え、私を育ててくれた御恩を返すには名誉しかない、そう信じそれを追い求めてきました」

「では武官に返り咲くのが本望か?」

俺は膝についた手を握り締めた。迷いがなかったといえば嘘になる。自分自身受け入れられていなかったのだ。

「もうその必要はございません」

「なぜだ?」

「父はもう4日目覚めません。父は……」

声が震えて、これ以上言葉にすることができなかった。まだ言葉にできるほど父の死を受け入れられる準備ができなかったのだ。

死に物狂いで追い求めた名誉も、父の本望ではなかった。最後の父のわがままも満足に叶えられない、自分本位な人間だった。それらを全部受け入れ、父とこのまま死に別れる覚悟ができていなかった。

「アシュレイ、嫌がるからとお前の父から口止めされていた。直近では難しいが王としてではなく、友人として、見舞いに伺わせてくれ」

唐突な見舞いの打診に頭が真っ白になって、王の言葉に返事ができない。

「病気に倒れ、息子が側にいた方がいいだろうと、日中手の空く文官に任命したことが、お前をこんなに苦しめることとは思わなんだ。見舞いに行ったらバーンスタイン卿に怒られそうだな……」

正面の帳から優しい息の漏れる声がする。

「お前がバーンスタイン卿の子息だからと奇跡の器の称号を与えたのではない。お前は立派な息子だ。父もそう思っている。処分は明日だ。査問はこれにて終了とする」

王の号令で、布が擦れる音が四方八方から聞こえる。俺は最敬礼から動けずにいた。床に涙を落とし、震えで立ち上がることができなかった。
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