幽閉塔の早贄

大田ネクロマンサー

文字の大きさ
上 下
32 / 240
1部 ヤギと奇跡の器

第30話 絵本と約束(ルイス視点)

しおりを挟む
突然の就寝に僕はびっくりして、ジルの胸を叩いた。

「にいさま?」

僕の心配をよそにジルはすぐに起きて目をこする。

「ああ、すまん。安心して少し……」

くあっと大きなあくびをする。なにを安心することがあったのか、よくわからないことを言うジルに狼狽えてルークの方を見た。

「どうせ昨日寝ていないんだよ。心配事があるとすぐにこれだ」

心配事、それはノアのこと、そしてアシュレイのことなのだろう。心優しいジルはこうやって人の悩みも自分ごとのように考えてしまうのだ。

「兄様、起こしてしまってごめんなさい……少し寝てください」

「いや、せっかくルイスが来たんだ……ルイスの声がもっと聴きたい……」

起き上がろうとするジルをルークが再び組み伏せる。

「ルイス、そこに布を持ってきてある。とってくれ」

「ルーク大丈夫だ」

大丈夫だ、そう言いながらジルの声はもう限界そうだった。半分夢の中のような声がかわいくて、ルークに絞った布を渡したときに顔を見合わせて笑ってしまう。

「ルイス……本を……読んでくれないのか……?」

ジルは完全に夢の中だった。でもルークが僕に合図を送るから、僕はジルが隠している大切な絵本を取り出してきた。

ルークがジルの体を拭いている間に、僕は隣に座り絵本を読みはじめる。10年以上読んでいないのに、出だしを読み上げると、次の文章がサラサラと流れ出してきた。

ジルはずっと嬉しそうに僕の声を聴いている。笑ったまま寝息を立てたところで、僕とルークはベッドを降りて、大切な絵本を元の場所に隠した。そして物音一つ立てずに2人で服を着たら、部屋を出た。



廊下を先に歩くルークが肩を震わせている。

「ルイスに会えないとき……あの絵本を広げているんだ……ふふっ……かわいいだろう?」

僕はルークの背中を見ながら、さっき言われたことを思い出していた。2人一緒の非番は少ない。だからジルと2人のときはルークがいなくても愛し合うのだ、と。

言われるまで、気がつきもしなかった。冷静に考えれば3人が必ず一緒など不自然すぎたのに。でもこうやって愛し合うときには必ず3人だった。それを感じさせないようにずっとルークはバランスをとってくれていたのだ。

「ルークだけが……非番の時にも、僕を抱いてくれますか?」

ルークは困ったような顔で振り返り、息を吐き出した。

「もちろんだ。でも兄様が上だぞ」

ルークに駆け寄り抱きつく。

「どうした? さっきのじゃ足りなかったかい?」

「にいさまたちが好きすぎて……おかしくなりそうです……」

「ああ、ルイス……ジルには内緒でもう一度しようか?」

「キスが……足りません……」

ジルは僕を抱き上げて壁に僕を寄りかからせる。額と額を合わせて、匂いを嗅ぐように鼻の先を僕の頬に押し当てた。

僕の上唇をルークの唇がかすめる。そしてルークの形のいい唇が柔らかく覆いかぶさった。

「ジルが非番の時には、絵本を読んであげます」

「ルイスはジルに似て優しい子だ」

「ルークが1番優しい! ジルだってそう思って……」

僕の言葉はルークの情熱的なキスで遮られた。

こんなにうまくやってきたのに、僕のせいでジルは胸を痛め、ルークは3人のバランスを取れなくなった。僕が黙って1人で抱えていればルークにあんなことを言わせずに済んだのに。

胸が痛くて目頭が熱くなる。

「ああ、ルイス……そんな顔をしてはダメだ……兄様は優しくなんてない……いつだってルイスを独り占めしたいと思ってるんだ……」

舌が僕の答えを絡めとっていく。もっと奥まで欲しい、そう思った時に突然玄関の戸が開け放たれた。
しおりを挟む
口なしに熱風| ふざけた女装の隣国王子が我が国の後宮で無双をはじめるそうです

口なしの封緘

皇帝に追放された騎士団長の試される忠義
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

処理中です...