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第12章 -廃都フォレストトーレ奪還作戦-
†第12章† -26話-[水はけの良い王都を目指して]
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とりあえず、
当初の予定通りノイが産まれた時点で行動を開始した俺達は、
一番近場の現場へ移動中であった。
ノイは身体も大きくなり空も飛べないのでアクアと同じく肩車中である。
『話は加階をしながらも聞こえていたですから、
マスターご希望のアーティファクトもしっかり用意しているですよ』
「マジで!?アクアもクーも進化してからそれなりに時間が掛かってたはずだけど・・・」
『ふふふ、お忘れです?土精は創作が得意なのですよ?』
そういえばそんな設定あったな!
アクアとクーが進化したことで手札を増やすことに集中していたから、
最近はノイの手札を増やすことも後回しにしていたし・・・。
アクア達は精工アーティファクトが初の武器生成だったけど、
ノイは浮遊精霊から進化した地点でガントレットを魔法で創っていた。
しかもステータス制限のない奴!
「どんなの創ったのさ?」
『ガントレットタイプの[聖壁の護腕]。
それと片手剣の[処刑剣]です。
ただし、八枚あるオプションの[聖壁の欠片]を四枚ずつ使用するので守りは無くなるですけど』
オプションを使ってアーティファクトを創るという部分は、
アクアが始めてクーに続きノイで三人目だ。
驚きこそはないが、
なんだかんだでノイの[聖壁の欠片]には助けられる場面も多かったので使い所は悩むかもしれない。
「なぁなぁ、割り込んで悪いんだけどさ。
リュースィってそれなりの位階の精霊なんだよな?
もしかして俺達もアーティファクトって創れたりするのか?」
セーバーが同じように契約風精のリュースィを肩車して、
興味深げに話しかけてきた。
クランメンバーでうちのPT以外で真の加護持ちはセーバーだけなので将来的に大物になる可能性が今のところ一番大きいだけに俺も出来る限り現実的なアドバイスをしてあげよう。
「創れないことはないと思うけど、
契約すると契約者との繋がり深度によって記憶とかを閲覧出来るようになるんだ。
そして魔法の創作って下地も大事になる。
リュースィはいくつかセーバーを助けられる魔法を創っているけど、
アーティファクトはかなり複雑な魔法式で紡がれているから強度が現時点の経験値では微妙かも知れない」
「なるほどな。オプションの取得は?」
「あれは[精霊纏]のオマケだからなぁ。
俺達が創ったというより精霊のスキルが解放されたってイメージだな」
「精霊使い第一人者にもわからないってのは先行き不安だなぁ」
正直、オプションの取得が出来るならしといた方がいいとは思う。
精霊が大人になれば契約者と一体になるよりも、
それぞれで連携した方が戦いやすくなると思うし。
うちの娘たちも個人で戦う方法を模索し始めている。
「あ、龍玉も閻手もタクトも聖壁の欠片も全部元となる知識が俺の中にある事が前提だから、
セーバーも古い書物とか呼んで色んな知識は蓄えておいた方が良いぞ」
「うえ~、お前爺臭いな」
「アドバイスしたのにひでぇ・・・」
俺より弱い癖に兄貴分の顔しやがって。
暇が出来たら徹底的に訓練と称していじめてやる!
それはともかく話をノイに戻そう。
「他には何か用意した?」
『一応、自分用に基礎部分だけ組み上げたアーティファクトがあるです。
ガントレットも捨てがたかったですが、
ボクの得物はハンマーにしようかと・・・』
「ノイのオプションでハンマーならアレかな」
『予想は止めるです。楽しみは後に取っておいてくださいです!』
「いたた・・・ははは、完成を楽しみにして待ってるよ」
雑談もほどほどにノイからの加階報告も終わり、
丁度いい塩梅の時間調整で第一予定地に俺達は到着した。
スタート地点は初めに調査を行ったアーグエングリン方面から始め、
時計回りに12個の地割れを予定している。
まぁ実際は精霊達の精霊魔法で創られる魔法式等を見て判断することになるけど、
俺とノイ以外のメンバーは本当に地割れを発生させると考えているだろう。
「お待たせしました」
「こんばんわ、先ほど振りだな」
そこには土精パラディウム、ファグス将軍。
そして、やたら存在感のある巨体の獣人が俺達の到着を待っていた。
「初めまして拳聖。
既にご存じかと思われますがアルカンシェ様の護衛隊長を勤めております、水無月宗八と申します。以後お見知りおきを」
「ご挨拶痛み入る。
姫君からも挨拶を伺った際にも伝えたが拳聖という立場は気にしないで良い。
気楽にエゥグーリアと呼べ」
「わかりました。それでエゥグーリアは何故ここへ?」
挨拶も終えたところで疑問を投げかける。
将軍は第一現場にも近く見ておきたいとの話は伺っていた。
しかし、拳聖の話は一切聞いていない。
「獣人は魔法が使えない。
故に精霊使いという存在に興味を持っている。
此度の事態は手前に取っては好都合と考えファグスに付いて参った次第だ」
視線をファグス将軍に回すと、
彼は肩を上げて拳聖を肯定している。
まぁ、別にいいけどね。
「じゃあ、教国とゲートを繋げてネルレントを連れてきます」
というわけで、さっさとゲートを繋げて土精ネルレントを連れてきました。
「待ちましたよ!水無月さん!」
「子供は寝る時間だよっ!サーニャ!」
「ほら、水無月様もこう言っておりますから。
クレア様、寝所へ参りましょう」
「見てからで良いではありませんか!」
「土煙とかも巻き上がるし、時間もどのくらい掛かるかもわからん。
それに聖女がこんな前線に来たら警戒度も上がるし俺達が面倒なの!」
「うぅ~~~っ!」
クレア、ハウス!
再びサーニャに目配せをするとクレアの耳元に口を近づけ何やらを吹き込んでいる。
結果、クレアは頬を膨らませながら寝所へと連れて行かれた。
クルルクス姉妹に両の腕を捕まれた状態で引き摺られて行く姿で棒宇宙人を思い出し懐かしい気分になった。
クレアの次はメリオと勇者の仲間達に視線を向ける。
「お前達は?」
「いや、ご迷惑かとは思ったんですけど、
精霊使いの魅技というかそういうのを間近で見たいなぁと思って・・・なぁ!」
「「興味はあります」」
「「興味なし」」
前者は使える騎士と使える魔法使い。
後者は使えない弓使いと使えない魔法使い。
大方メリオに無理矢理連れてこられたのだろうさ。
前者の2人ですら今は休めるときに休みたそうな顔をしているし。
「魔法使いは勉強になる可能性があるけど・・・、まぁいいや」
相手するの面倒だし。
「ネルレント、パラディウム、ノームはちょっと待機で。
先にノイと俺でやれないか試させて欲しいんだけど」
『かまいませんよ。
ノイの成長を見られるのは我々も楽しみですし』
『私もパラディウム様に同意見です!』
『選択肢はありません』
最後のノーム君はやつれてないかね?
大丈夫?あ、大丈夫なんだね。本当だね?
もし辛かったら人間と契約して契約精霊になってよ。
「『シンクロ!』」
さて、まずは俺一人で使ったときの実験からやってみるか。
『《処刑剣創作!》』
ノイの詠唱と共にどこからともなく砂が集まり、
やがて一振りの剣へと姿を定着させた。
アクアの剣とはまた違った文様が浮かぶ少し長めの剣身も美しいが、
特徴的なのは両手剣の様に伸びた柄だ。
「オプションの能力も付いてるのか」
『魔力盾を刃に変換して大剣仕様にも対応してるです。
まぁ重さは変わらないですから、威力を相応に上げるなら加重すればいいだけです』
刃に変換しなければそれこそ盾としても機能するのか。
アナザー・ワンの方々のような単純に特大剣の影に隠れるようなアホな守りじゃないだけに上位互換な感じがしてきた。
時間も無いし、剣の具合を確かめてみるか。
「《聖壁を成せ!重刃剣戟!》」
ノイの剣を高く掲げて魔力を高め、
適当な壊れかけの家を対象として狙いを定め。
「《聖壁縛殺打!》」
詠唱最後の一節と共に剣を振り下ろした瞬間。
控えめな家を選んだとはいえ、
対象の周囲三面から地面が捲れ挙がり表面には鋭利な棘が幾重にも生成される。
一瞬のうちに対象に設定した家はバクンッ!と岩盤に食われ、
さながら鉄の乙女やハエトリグサをイメージしたにしても、
それらが崩れた場所に家はもう存在していなかった。
「ふんっ!いいかも!」
土属性の剣って今まで無かったからな。
初めて使ったけど、これはこれで良い物だ。
『まぁ剣は追々マスターで使い勝手を確かめてくださいです。
次です!《聖壁の護腕!創作!》』
剣は一旦砂へと戻り、
そのまま右腕に纏わり付くと指先からマテリアル化が始まる。
聞いていた話ではガントレットだったはずなのだが、
最終的には肩口までが覆われた薄い橙色をした金属の・・・なんて言うのコレ?
おそらく参考にしたイメージは[アガートラーム]だろうから、
腕甲でいいのかな?
本来は義手って話だったけれど、
コレは生身の腕に鎧を装備しただけのようなものだ。
『こちら聖壁の欠片の機能は活きているですから、
手を前に構えてどんな形でもいいので盾をイメージするです』
ノイに言われるがまま腕を前に出し、
若干指なんかも曲げて格好良い構えで盾をイメージする。
すると、魔力で出来たカイトシールドが目の前に出現した。
続けてタワーシールドにイメージを変更させれば、
魔力盾もそのイメージを汲み上げてその形状を変える。
「おぉ!これ汎用性高そうだな」
『今みたいに一人用も出来るですし、
もっと大きな広範囲シールドも展開出来るですよ』
はっ!?アブねぇ!
今、普通に「熾天覆う七つの円環ッ!」って叫ぶ所だった。
メリオが居るこの場でそんなヘマをした日にゃ、
今まで同郷を隠してこの世界の住人ですよと振る舞ってきた努力が水の泡になるところだった・・・。
「ヘマをしないうちにさっさと試してみよう。
目標はずっと遠くに見えている王城だ」
『出力を最大にする為に残り四枚の聖壁の欠片も[聖壁の護腕]に回すですよ!』
聖壁の欠片は合計八枚の小盾から成るオプションだ。
シンクロ中のノイから受ける情報からは最低四枚で剣、または腕甲。それぞれが四枚ずつで剣と腕甲を装備することも出来るし、
八枚使って腕甲を両手に装備することも出来るらしい。
そして今回の様に片腕に八枚を使って出力を上げる事も出来る、と。
流石は創作に定評のある土精だな。
構えはいつもの発勁を前提に。
聖壁の護腕で増幅される魔力が高濃度に近付くにつれ、
薄かった橙色は徐々に濃くなっていき、既にバーミリオンと呼んでいい濃さまで変化は顕著に出ている。
『最大出力なら土精霊纏するです?』
「しようか」
「『《土精霊纏!》』」
人型であったノイが光となって俺を包み込む。
球状に広がった膜が上部から溶けるように消えていけば[不動]となった俺が居る。
今までがフード付きのマントであったのに比べ、
今回からの[不動]はノイの加階の影響もあってか、
戦闘服みたい様相を呈していた。
マントは消え、足先までをノイに包まれている。
「尻尾まであるよ」
『アクアとお揃いです』
姉妹仲は良好のようだ。
「じゃあ、打ち込むぞ」
『いつでもどうぞです』
すぅ・・・。
肺を満たしながら右手の浅い握りをキツく握りしめ直し、
前に出している左手の先に見据えるは敵の本拠地と思われる王城。
こんな長い期間を使って行動をしたこともないし規模もデカイ。
正直このまま作戦通り上手くいくとも思っていないが、
敵の掌から少しでも抜け出す為に頑張りまっしょい!
「『《地裂斬ッ!》』」
右足を大きく前に出すと同時に右腕に貯まった魔力を前方へ解き放ちながら全力で振り抜く。
腕が伸びきる到達点に拳が進みきるタイミングに合わせて右足が地面を踏みしめ亀裂を作り出す。
発動した魔法はイメージ通りに岩盤を捲り上げ、
土煙を舞い上がらせながら王城までの間を破壊し始めた。
当然道中にある家々は地面から吹き飛ばされ中空を踊った後は地面に落下して完全に破壊されていく。
やがて効果範囲いっぱいまで衝撃は駆け抜け終わる。
『半分くらいです?』
「全然届かねぇ・・・。でも見晴らしは良くなったな」
普段戦闘中は他の事にも割いている制御力を全部ブチ込んで打ち込んだ[地裂斬]。
届けと強く念じながら発動したのでそれなりの距離を稼いでくれたが、
地面は一層分、厚さ的には15~20cmくらい?
それが捲れるだけでとても下層まで影響を及ぼすものではない。
「本命に期待しよう」
『ですね』
振り返り土精達の集まる元へ歩き始める。
ノイも[不動]を解除して肩車の状態へと戻った。
「ダメでしたぁ~」
『いやぁ良い物を見せて貰いましたよ!
精霊だけですと色々と限界がありますが、
やはり人間と契約すると変化があっていいですね!』
『ノイもアーティファクトなんで創れて凄いですね!
水無月さんは不満そうですが小さいのに尊敬に値します!』
『噂には聞いていましたが驚きました・・・』
俺達的にも予想外の威力でありはしたものの、
王城までは全く届いていなかったので残念な気分を感じていた。
しかし、土精メンバーには好評だったらしい。
パラディウムとネルレントの両名はノイを高く持ち上げながら褒めており、
ノーム位階の土精も俺にキラキラした視線を向けてくる。
「戦場が違うので遠目にしか見えていなかったからな。
目の前で知らない魔法や技術を見せて貰えて満足だ!
娘に良い土産が出来た!」
「いや、魔法よりもアルカンシェ様に会ったと言った方がいいのでは?」
「もちろんそちらも土産話だよ。
姫というお立場も魔法使いとしても戦える姫君の話は娘でなくとも興味を持つさ」
ニコニコ顔の子煩悩将軍は本当に満足げだ。
アーグエングリンを訪れた際は将軍の娘さんとアルシェを会わせてみるのも面白いかも知れない。
「そりゃ良かったです。エゥグーリアは如何でしたか?」
「武術を極めておらずともあの威力が出せる技術は素晴らしい。
ただ、惜しむらくは武術の心得が拙い事だ。
姫殿下から伺った者も水無月殿と同じく心得がないのであれば前向きに考えてみようと思う」
「え!?マジっすか!?
おっと、失礼。本当なら助かります。
マリエルだけでなく自分もご教授頂けるのですか?」
「むしろ、今は水無月殿しか知らぬ。
マリエルという娘の方がオマケに近い感覚だ」
どちらにしろ2人ともお世話になれるならマジで助かる。
魔族領にも行きたいところだけど基礎は大事だからなぁ。
二手に分かれてゲートを利用したショトカ作り計画を進めるべきかなぁ。
「早めにアーグエングリンに行けるように頑張ります」
「楽しみに待っていよう」
視線を拳聖から剥がして土精達の方を確認してみるが、
未だに盛り上がっている様子。
夜のうちに事を成せばいいのでとりあえず残る勇者達の方にも振っておくか。
「ご満足いただけたかな? 勇者一行」
「俺は元から知っては居ましたけど、
それでもやっぱり他の人では見られない魔法とかが多いので感動しましたよ。
ただ、俺より感動している人たちが居て・・・」
苦笑いするメリオの視線の先に居たのは女性が3人。
駄目な方の魔法使いの両脇で、
良い方の魔法使いミリエステと光精エクスが興奮気味に騒いで中央で挟まれた彼女へ忙しなく話しかけている。
「なんで分からないの!?フェリシアの馬鹿っ!」
「ふ、2人とも落ち着いて・・・。冷静になって、ね?」
『貴女は本当に魔法使いですか!?
本来は1人で行う魔法制御を2人で行い、さらにアーティファクトまで自作出来るなんてどれだけの事を成しているかっ!!』
触らぬ神になんとやらだな。
俺に気付かない程に熱中しているっぽい。
期待出来るメンバーさえ状況が理解出来ているなら問題ない。
「マクラインも魔法剣・・・でしたか?
最初に見せた技に凄く関心を持ってて無精に出来るか?って聞いていたんです。
流石に無理ですよね?」
「無精じゃ無理だな。
いずれマクラインの精霊は土精に変質させる予定だし、
使えるようになるならそこからになる」
「それは朗報だ。
あ、こちらは気にせずお仕事に戻ってくださって大丈夫ですよ」
メリオはそう言って、
弓使いと話し合っているマクラインの元へと小走りで去って行った。
ともかく、期待のメンバーとエクスの興味は誘えたらしいからいいか。
「ノイ、土精の皆さん!
そろそろやりますよぉ!!」
『『はぁ~い!』』
さて、本来の目的である地割れに挑戦といくかね。
「3人は地割れを起こすんだ。
という意識を強く持ってノイと俺から流れてくる感覚を受け入れてください」
『わかりました』
スィーネの時は1人だったから、
今回もひとまず感覚を覚えて貰う為に最初の取っ掛かりは1人ずつ。
俺とノイの間に挟んで両手から流れてくるシンクロの感覚を覚えて貰おう。
「『シンクロ!』」
俺とノイを覆う橙色のオーラが繋ぐ手を通して、
1人、また1人とその感覚を覚えて貰う。
『不思議な感覚ですね』
『自分の中に別の意思が介入してくる気持ち悪さがあります』
『契約が無いとこの先はあり得ないと納得しました』
それぞれのご意見は散々ながらシンクロの取っ掛かりは理解出来た模様。
不愉快な気持ちの理由も俺はわかっているからそこは気にしなくても良い。
「俺の存在が皆さんには受け入れられていないので不快感があるんです。
本番はノイはシンクロしますが、
皆様と繋がるのはあくまでノイだけなのでノイの意識を受け入れてくれればいいです」
『なんというか、仕方ない部分とはいえ申し訳ない気になりますね』
「あはは、それだけ契約は特殊ということでしょう」
本来は契約精霊という点でやっと繋がりは出来るけど、
シンクロに持ち込むまでは互いの信頼関係をどれだけ積めるかが大事になる。
ウチは特殊で核とかを使ってそもそも魔力血縁者みたいな形を取っているから、
なおさら懐き度合いは比べものにならない。
パンッ!と手を叩いて俺に意識を集中して貰うと改めて説明をする。
「時間も限られてます。
ノイには俺のアイデアを既に託していますので、
実現出来そうな魔法の計算が終わりましたら一旦ご報告をお願いします」
『『『わかりました』』』
「ノイ、頑張ってくれ」
『土精が4人集まるわけですからそこまで気負うつもりはないです。
マスターはドシっと構えて待ってるといいです。
どうせすぐ答えの用意は出来るですから』
ノイの頼もしい声を聞いて頭を撫でると少し離れる。
後は土精達に任せるしか無いのは本当だし。
性格の違う彼らが疑似シンクロ中にアイデアの実現に向けての魔法式を即席で組み上げては取捨選択を繰り返す。
その末にこの土地への影響などを加味して実行に移せる回答を用意する手筈だ。
『よろしくお願いするです。
マスターと一緒の時に比べればシンクロの勢いや気配はないですので、
皆さんから受け入れてバトンを次に渡す意識でお願いするです』
聖壁の欠片の一枚に乗って土精達と手を繋げる高さまで上昇したノイが、
3人の顔を順に見つめながら伝える言葉を最後に4人が瞳を閉じて集中状態に入る。
ノイから伝わる橙色のオーラは、
右手で繋がるネルレント、そして左手で繋がるパラディウムの腕を伝って伝播していく。
最後に先の2人と手を繋ぐノーム位階へとオーラの伝播は進み、
最終的には4人を包むようにオーラは球状に固定された。
緊張が場を支配している。
その場に居る誰もが土精達を見つめ、
動向を見守ること1分程度で球状のオーラは霧散していく。
「何も変化はありませんね」
「問題があったんだろう。
話を聞きたいなら寄ってきても良いぞ」
話しかけてきた勇者には見向きもせずに俺はノイの元へと歩み寄る。
「難しいか?」
『元の地割れの案ですが、最終的な魔法陣がこちらです』
1分とはいえ慣れない疑似シンクロに、
即席精霊魔法の検討を幾度も高速思考で行った土精3人は少し疲れ気味だ。
1人ピンピンしているノイは、
俺に身体を向け直すと魔法陣を展開して説明に入る。
『問題はここの魔法式ですね』
「範囲が広すぎるか・・・。地面に無理もさせるし無駄に魔力も使うか」
『ですね。
パカッ!と割れる訳では無く元に戻すことも含めるとちょっと・・・』
なるほどなるほど。
確かに地割れなら水の染み込み時間を気にする必要は無い。
しかし、その分地面に無理矢理割れ目を創る過程で、
ずいぶんと広範囲の地面に圧力を掛ける必要が出てしまい、
結果的に非効率な魔法式である事が読めた。
「申し訳ないが水無月殿。
今どういう状況なのか説明してもらえるか?」
「あぁ、気が利かずすみません。
いま地割れを創る為の魔法陣を構成している魔法式を見て問題の確認をしています」
「俺達には見えないんですけど・・・」
疑問を呈してきたファグス将軍。
そして勇者メリオには土魔法の魔法陣は見えていない。
なので、俺とノイが何かを見ながら話し合っているのはわかっても、
何を見ているのかがわからないので置いてけぼりになっていた。
「人間なら加護が無いと見られないですからね」
彼らに見れるようにするなら何かに書き写す必要が出てくるな。
「クー、紙二枚とペンをくれ」
『(すぐご用意します)』
影の中からの返事通りに然程待つことも無く影から閻手が伸びてきて、
俺の目の前で開かれた手の平には要望通りの品物が置いてあった。
「ありがと。ノイ、聖壁の欠片一枚貸して」
『テーブル代わりですか?仕方ないです』
渋々という体のノイはちゃんと指示通りに貸してくれたので、
お察しの通りテーブル代わりにサラサラっと魔法陣を写して二組に手渡す。
「これが今俺達が見ている魔法陣です。
魔法使いなら多少読める人もいるかもしれないですが、
基本的には加護が無いとそもそも対応する魔法陣は視認することが出来ませんからね」
「これ・・・何語ですか?」
「古代文字とかじゃない?詳しくは知らない」
「では、何故水無月殿はこの魔法式?が読めるのですか?」
「適当な即席精霊魔法を創っては魔法陣を紙に写して、
その効果から予測を立てて以降に似た魔法があった場合に確定をして勉強したからですね」
この剣と魔法のファンタジー世界であろうと翻訳コンニャクはなかった。
基本の文字は読めるが書けない。
もちろん魔法式に書かれている文字が読めるわけも無く。
仕方ないので試行錯誤をしながら勉強してある程度は読めるようになってきている。
「努力無くして結果無し、ってね。
アーグエングリンの宮廷魔術師にでも渡せば喜ばれるんじゃ無いですか?」
「え?あー、まぁそうですね。
私が持っていても読めるわけも無いし価値もわからないからな・・・。
王に献上した際にそのように進言してみよう」
その後ファグス将軍は拳聖に見せたり、
メリオの方もミリエステが魔法陣を熱心に眺めたりと始めたのでこちらも続きにと動き出した。
「地割れはダメで、最終的にどうすべきか出た?」
『いえ、キーとなるのは[ディグ]の魔法だという結論は出たです』
「ディグ?」
俺はその魔法を見たことが無い。
なのでパラディウムに目線を向けてどんな魔法なのかと説明を求めた。
『ディグは瘴気の魔石がある層まで土を掘った時に使用した魔法です』
「おー!気にしてなかったけど穴の横に土がめっちゃ盛ってあったな!」
『ただ、ディグは広範囲向けの魔法ではありません。
広範囲に広げることは出来ますが、
魔力を食う割に効率は悪くなります』
そういうことか。とノイに視線を戻すと、
そういうことです。とノイも頷きで返す。
本来固くなった地面を解すには、
畑を耕すように地道な下地から造り上げる必要がある。
確か、おがくずとかを混ぜると水の吸収が良いとか聞いた気がする。
しかしここは畑では無いし、
凄腕の農家を雇ったとしても王都の地面は広範囲で敵は強い。
そして、幸いなことにその【固い地面を解す】魔法が存在するなら、
あとは俺達で[新しい魔法]を創り出せば万事解決だな!
当初の予定通りノイが産まれた時点で行動を開始した俺達は、
一番近場の現場へ移動中であった。
ノイは身体も大きくなり空も飛べないのでアクアと同じく肩車中である。
『話は加階をしながらも聞こえていたですから、
マスターご希望のアーティファクトもしっかり用意しているですよ』
「マジで!?アクアもクーも進化してからそれなりに時間が掛かってたはずだけど・・・」
『ふふふ、お忘れです?土精は創作が得意なのですよ?』
そういえばそんな設定あったな!
アクアとクーが進化したことで手札を増やすことに集中していたから、
最近はノイの手札を増やすことも後回しにしていたし・・・。
アクア達は精工アーティファクトが初の武器生成だったけど、
ノイは浮遊精霊から進化した地点でガントレットを魔法で創っていた。
しかもステータス制限のない奴!
「どんなの創ったのさ?」
『ガントレットタイプの[聖壁の護腕]。
それと片手剣の[処刑剣]です。
ただし、八枚あるオプションの[聖壁の欠片]を四枚ずつ使用するので守りは無くなるですけど』
オプションを使ってアーティファクトを創るという部分は、
アクアが始めてクーに続きノイで三人目だ。
驚きこそはないが、
なんだかんだでノイの[聖壁の欠片]には助けられる場面も多かったので使い所は悩むかもしれない。
「なぁなぁ、割り込んで悪いんだけどさ。
リュースィってそれなりの位階の精霊なんだよな?
もしかして俺達もアーティファクトって創れたりするのか?」
セーバーが同じように契約風精のリュースィを肩車して、
興味深げに話しかけてきた。
クランメンバーでうちのPT以外で真の加護持ちはセーバーだけなので将来的に大物になる可能性が今のところ一番大きいだけに俺も出来る限り現実的なアドバイスをしてあげよう。
「創れないことはないと思うけど、
契約すると契約者との繋がり深度によって記憶とかを閲覧出来るようになるんだ。
そして魔法の創作って下地も大事になる。
リュースィはいくつかセーバーを助けられる魔法を創っているけど、
アーティファクトはかなり複雑な魔法式で紡がれているから強度が現時点の経験値では微妙かも知れない」
「なるほどな。オプションの取得は?」
「あれは[精霊纏]のオマケだからなぁ。
俺達が創ったというより精霊のスキルが解放されたってイメージだな」
「精霊使い第一人者にもわからないってのは先行き不安だなぁ」
正直、オプションの取得が出来るならしといた方がいいとは思う。
精霊が大人になれば契約者と一体になるよりも、
それぞれで連携した方が戦いやすくなると思うし。
うちの娘たちも個人で戦う方法を模索し始めている。
「あ、龍玉も閻手もタクトも聖壁の欠片も全部元となる知識が俺の中にある事が前提だから、
セーバーも古い書物とか呼んで色んな知識は蓄えておいた方が良いぞ」
「うえ~、お前爺臭いな」
「アドバイスしたのにひでぇ・・・」
俺より弱い癖に兄貴分の顔しやがって。
暇が出来たら徹底的に訓練と称していじめてやる!
それはともかく話をノイに戻そう。
「他には何か用意した?」
『一応、自分用に基礎部分だけ組み上げたアーティファクトがあるです。
ガントレットも捨てがたかったですが、
ボクの得物はハンマーにしようかと・・・』
「ノイのオプションでハンマーならアレかな」
『予想は止めるです。楽しみは後に取っておいてくださいです!』
「いたた・・・ははは、完成を楽しみにして待ってるよ」
雑談もほどほどにノイからの加階報告も終わり、
丁度いい塩梅の時間調整で第一予定地に俺達は到着した。
スタート地点は初めに調査を行ったアーグエングリン方面から始め、
時計回りに12個の地割れを予定している。
まぁ実際は精霊達の精霊魔法で創られる魔法式等を見て判断することになるけど、
俺とノイ以外のメンバーは本当に地割れを発生させると考えているだろう。
「お待たせしました」
「こんばんわ、先ほど振りだな」
そこには土精パラディウム、ファグス将軍。
そして、やたら存在感のある巨体の獣人が俺達の到着を待っていた。
「初めまして拳聖。
既にご存じかと思われますがアルカンシェ様の護衛隊長を勤めております、水無月宗八と申します。以後お見知りおきを」
「ご挨拶痛み入る。
姫君からも挨拶を伺った際にも伝えたが拳聖という立場は気にしないで良い。
気楽にエゥグーリアと呼べ」
「わかりました。それでエゥグーリアは何故ここへ?」
挨拶も終えたところで疑問を投げかける。
将軍は第一現場にも近く見ておきたいとの話は伺っていた。
しかし、拳聖の話は一切聞いていない。
「獣人は魔法が使えない。
故に精霊使いという存在に興味を持っている。
此度の事態は手前に取っては好都合と考えファグスに付いて参った次第だ」
視線をファグス将軍に回すと、
彼は肩を上げて拳聖を肯定している。
まぁ、別にいいけどね。
「じゃあ、教国とゲートを繋げてネルレントを連れてきます」
というわけで、さっさとゲートを繋げて土精ネルレントを連れてきました。
「待ちましたよ!水無月さん!」
「子供は寝る時間だよっ!サーニャ!」
「ほら、水無月様もこう言っておりますから。
クレア様、寝所へ参りましょう」
「見てからで良いではありませんか!」
「土煙とかも巻き上がるし、時間もどのくらい掛かるかもわからん。
それに聖女がこんな前線に来たら警戒度も上がるし俺達が面倒なの!」
「うぅ~~~っ!」
クレア、ハウス!
再びサーニャに目配せをするとクレアの耳元に口を近づけ何やらを吹き込んでいる。
結果、クレアは頬を膨らませながら寝所へと連れて行かれた。
クルルクス姉妹に両の腕を捕まれた状態で引き摺られて行く姿で棒宇宙人を思い出し懐かしい気分になった。
クレアの次はメリオと勇者の仲間達に視線を向ける。
「お前達は?」
「いや、ご迷惑かとは思ったんですけど、
精霊使いの魅技というかそういうのを間近で見たいなぁと思って・・・なぁ!」
「「興味はあります」」
「「興味なし」」
前者は使える騎士と使える魔法使い。
後者は使えない弓使いと使えない魔法使い。
大方メリオに無理矢理連れてこられたのだろうさ。
前者の2人ですら今は休めるときに休みたそうな顔をしているし。
「魔法使いは勉強になる可能性があるけど・・・、まぁいいや」
相手するの面倒だし。
「ネルレント、パラディウム、ノームはちょっと待機で。
先にノイと俺でやれないか試させて欲しいんだけど」
『かまいませんよ。
ノイの成長を見られるのは我々も楽しみですし』
『私もパラディウム様に同意見です!』
『選択肢はありません』
最後のノーム君はやつれてないかね?
大丈夫?あ、大丈夫なんだね。本当だね?
もし辛かったら人間と契約して契約精霊になってよ。
「『シンクロ!』」
さて、まずは俺一人で使ったときの実験からやってみるか。
『《処刑剣創作!》』
ノイの詠唱と共にどこからともなく砂が集まり、
やがて一振りの剣へと姿を定着させた。
アクアの剣とはまた違った文様が浮かぶ少し長めの剣身も美しいが、
特徴的なのは両手剣の様に伸びた柄だ。
「オプションの能力も付いてるのか」
『魔力盾を刃に変換して大剣仕様にも対応してるです。
まぁ重さは変わらないですから、威力を相応に上げるなら加重すればいいだけです』
刃に変換しなければそれこそ盾としても機能するのか。
アナザー・ワンの方々のような単純に特大剣の影に隠れるようなアホな守りじゃないだけに上位互換な感じがしてきた。
時間も無いし、剣の具合を確かめてみるか。
「《聖壁を成せ!重刃剣戟!》」
ノイの剣を高く掲げて魔力を高め、
適当な壊れかけの家を対象として狙いを定め。
「《聖壁縛殺打!》」
詠唱最後の一節と共に剣を振り下ろした瞬間。
控えめな家を選んだとはいえ、
対象の周囲三面から地面が捲れ挙がり表面には鋭利な棘が幾重にも生成される。
一瞬のうちに対象に設定した家はバクンッ!と岩盤に食われ、
さながら鉄の乙女やハエトリグサをイメージしたにしても、
それらが崩れた場所に家はもう存在していなかった。
「ふんっ!いいかも!」
土属性の剣って今まで無かったからな。
初めて使ったけど、これはこれで良い物だ。
『まぁ剣は追々マスターで使い勝手を確かめてくださいです。
次です!《聖壁の護腕!創作!》』
剣は一旦砂へと戻り、
そのまま右腕に纏わり付くと指先からマテリアル化が始まる。
聞いていた話ではガントレットだったはずなのだが、
最終的には肩口までが覆われた薄い橙色をした金属の・・・なんて言うのコレ?
おそらく参考にしたイメージは[アガートラーム]だろうから、
腕甲でいいのかな?
本来は義手って話だったけれど、
コレは生身の腕に鎧を装備しただけのようなものだ。
『こちら聖壁の欠片の機能は活きているですから、
手を前に構えてどんな形でもいいので盾をイメージするです』
ノイに言われるがまま腕を前に出し、
若干指なんかも曲げて格好良い構えで盾をイメージする。
すると、魔力で出来たカイトシールドが目の前に出現した。
続けてタワーシールドにイメージを変更させれば、
魔力盾もそのイメージを汲み上げてその形状を変える。
「おぉ!これ汎用性高そうだな」
『今みたいに一人用も出来るですし、
もっと大きな広範囲シールドも展開出来るですよ』
はっ!?アブねぇ!
今、普通に「熾天覆う七つの円環ッ!」って叫ぶ所だった。
メリオが居るこの場でそんなヘマをした日にゃ、
今まで同郷を隠してこの世界の住人ですよと振る舞ってきた努力が水の泡になるところだった・・・。
「ヘマをしないうちにさっさと試してみよう。
目標はずっと遠くに見えている王城だ」
『出力を最大にする為に残り四枚の聖壁の欠片も[聖壁の護腕]に回すですよ!』
聖壁の欠片は合計八枚の小盾から成るオプションだ。
シンクロ中のノイから受ける情報からは最低四枚で剣、または腕甲。それぞれが四枚ずつで剣と腕甲を装備することも出来るし、
八枚使って腕甲を両手に装備することも出来るらしい。
そして今回の様に片腕に八枚を使って出力を上げる事も出来る、と。
流石は創作に定評のある土精だな。
構えはいつもの発勁を前提に。
聖壁の護腕で増幅される魔力が高濃度に近付くにつれ、
薄かった橙色は徐々に濃くなっていき、既にバーミリオンと呼んでいい濃さまで変化は顕著に出ている。
『最大出力なら土精霊纏するです?』
「しようか」
「『《土精霊纏!》』」
人型であったノイが光となって俺を包み込む。
球状に広がった膜が上部から溶けるように消えていけば[不動]となった俺が居る。
今までがフード付きのマントであったのに比べ、
今回からの[不動]はノイの加階の影響もあってか、
戦闘服みたい様相を呈していた。
マントは消え、足先までをノイに包まれている。
「尻尾まであるよ」
『アクアとお揃いです』
姉妹仲は良好のようだ。
「じゃあ、打ち込むぞ」
『いつでもどうぞです』
すぅ・・・。
肺を満たしながら右手の浅い握りをキツく握りしめ直し、
前に出している左手の先に見据えるは敵の本拠地と思われる王城。
こんな長い期間を使って行動をしたこともないし規模もデカイ。
正直このまま作戦通り上手くいくとも思っていないが、
敵の掌から少しでも抜け出す為に頑張りまっしょい!
「『《地裂斬ッ!》』」
右足を大きく前に出すと同時に右腕に貯まった魔力を前方へ解き放ちながら全力で振り抜く。
腕が伸びきる到達点に拳が進みきるタイミングに合わせて右足が地面を踏みしめ亀裂を作り出す。
発動した魔法はイメージ通りに岩盤を捲り上げ、
土煙を舞い上がらせながら王城までの間を破壊し始めた。
当然道中にある家々は地面から吹き飛ばされ中空を踊った後は地面に落下して完全に破壊されていく。
やがて効果範囲いっぱいまで衝撃は駆け抜け終わる。
『半分くらいです?』
「全然届かねぇ・・・。でも見晴らしは良くなったな」
普段戦闘中は他の事にも割いている制御力を全部ブチ込んで打ち込んだ[地裂斬]。
届けと強く念じながら発動したのでそれなりの距離を稼いでくれたが、
地面は一層分、厚さ的には15~20cmくらい?
それが捲れるだけでとても下層まで影響を及ぼすものではない。
「本命に期待しよう」
『ですね』
振り返り土精達の集まる元へ歩き始める。
ノイも[不動]を解除して肩車の状態へと戻った。
「ダメでしたぁ~」
『いやぁ良い物を見せて貰いましたよ!
精霊だけですと色々と限界がありますが、
やはり人間と契約すると変化があっていいですね!』
『ノイもアーティファクトなんで創れて凄いですね!
水無月さんは不満そうですが小さいのに尊敬に値します!』
『噂には聞いていましたが驚きました・・・』
俺達的にも予想外の威力でありはしたものの、
王城までは全く届いていなかったので残念な気分を感じていた。
しかし、土精メンバーには好評だったらしい。
パラディウムとネルレントの両名はノイを高く持ち上げながら褒めており、
ノーム位階の土精も俺にキラキラした視線を向けてくる。
「戦場が違うので遠目にしか見えていなかったからな。
目の前で知らない魔法や技術を見せて貰えて満足だ!
娘に良い土産が出来た!」
「いや、魔法よりもアルカンシェ様に会ったと言った方がいいのでは?」
「もちろんそちらも土産話だよ。
姫というお立場も魔法使いとしても戦える姫君の話は娘でなくとも興味を持つさ」
ニコニコ顔の子煩悩将軍は本当に満足げだ。
アーグエングリンを訪れた際は将軍の娘さんとアルシェを会わせてみるのも面白いかも知れない。
「そりゃ良かったです。エゥグーリアは如何でしたか?」
「武術を極めておらずともあの威力が出せる技術は素晴らしい。
ただ、惜しむらくは武術の心得が拙い事だ。
姫殿下から伺った者も水無月殿と同じく心得がないのであれば前向きに考えてみようと思う」
「え!?マジっすか!?
おっと、失礼。本当なら助かります。
マリエルだけでなく自分もご教授頂けるのですか?」
「むしろ、今は水無月殿しか知らぬ。
マリエルという娘の方がオマケに近い感覚だ」
どちらにしろ2人ともお世話になれるならマジで助かる。
魔族領にも行きたいところだけど基礎は大事だからなぁ。
二手に分かれてゲートを利用したショトカ作り計画を進めるべきかなぁ。
「早めにアーグエングリンに行けるように頑張ります」
「楽しみに待っていよう」
視線を拳聖から剥がして土精達の方を確認してみるが、
未だに盛り上がっている様子。
夜のうちに事を成せばいいのでとりあえず残る勇者達の方にも振っておくか。
「ご満足いただけたかな? 勇者一行」
「俺は元から知っては居ましたけど、
それでもやっぱり他の人では見られない魔法とかが多いので感動しましたよ。
ただ、俺より感動している人たちが居て・・・」
苦笑いするメリオの視線の先に居たのは女性が3人。
駄目な方の魔法使いの両脇で、
良い方の魔法使いミリエステと光精エクスが興奮気味に騒いで中央で挟まれた彼女へ忙しなく話しかけている。
「なんで分からないの!?フェリシアの馬鹿っ!」
「ふ、2人とも落ち着いて・・・。冷静になって、ね?」
『貴女は本当に魔法使いですか!?
本来は1人で行う魔法制御を2人で行い、さらにアーティファクトまで自作出来るなんてどれだけの事を成しているかっ!!』
触らぬ神になんとやらだな。
俺に気付かない程に熱中しているっぽい。
期待出来るメンバーさえ状況が理解出来ているなら問題ない。
「マクラインも魔法剣・・・でしたか?
最初に見せた技に凄く関心を持ってて無精に出来るか?って聞いていたんです。
流石に無理ですよね?」
「無精じゃ無理だな。
いずれマクラインの精霊は土精に変質させる予定だし、
使えるようになるならそこからになる」
「それは朗報だ。
あ、こちらは気にせずお仕事に戻ってくださって大丈夫ですよ」
メリオはそう言って、
弓使いと話し合っているマクラインの元へと小走りで去って行った。
ともかく、期待のメンバーとエクスの興味は誘えたらしいからいいか。
「ノイ、土精の皆さん!
そろそろやりますよぉ!!」
『『はぁ~い!』』
さて、本来の目的である地割れに挑戦といくかね。
「3人は地割れを起こすんだ。
という意識を強く持ってノイと俺から流れてくる感覚を受け入れてください」
『わかりました』
スィーネの時は1人だったから、
今回もひとまず感覚を覚えて貰う為に最初の取っ掛かりは1人ずつ。
俺とノイの間に挟んで両手から流れてくるシンクロの感覚を覚えて貰おう。
「『シンクロ!』」
俺とノイを覆う橙色のオーラが繋ぐ手を通して、
1人、また1人とその感覚を覚えて貰う。
『不思議な感覚ですね』
『自分の中に別の意思が介入してくる気持ち悪さがあります』
『契約が無いとこの先はあり得ないと納得しました』
それぞれのご意見は散々ながらシンクロの取っ掛かりは理解出来た模様。
不愉快な気持ちの理由も俺はわかっているからそこは気にしなくても良い。
「俺の存在が皆さんには受け入れられていないので不快感があるんです。
本番はノイはシンクロしますが、
皆様と繋がるのはあくまでノイだけなのでノイの意識を受け入れてくれればいいです」
『なんというか、仕方ない部分とはいえ申し訳ない気になりますね』
「あはは、それだけ契約は特殊ということでしょう」
本来は契約精霊という点でやっと繋がりは出来るけど、
シンクロに持ち込むまでは互いの信頼関係をどれだけ積めるかが大事になる。
ウチは特殊で核とかを使ってそもそも魔力血縁者みたいな形を取っているから、
なおさら懐き度合いは比べものにならない。
パンッ!と手を叩いて俺に意識を集中して貰うと改めて説明をする。
「時間も限られてます。
ノイには俺のアイデアを既に託していますので、
実現出来そうな魔法の計算が終わりましたら一旦ご報告をお願いします」
『『『わかりました』』』
「ノイ、頑張ってくれ」
『土精が4人集まるわけですからそこまで気負うつもりはないです。
マスターはドシっと構えて待ってるといいです。
どうせすぐ答えの用意は出来るですから』
ノイの頼もしい声を聞いて頭を撫でると少し離れる。
後は土精達に任せるしか無いのは本当だし。
性格の違う彼らが疑似シンクロ中にアイデアの実現に向けての魔法式を即席で組み上げては取捨選択を繰り返す。
その末にこの土地への影響などを加味して実行に移せる回答を用意する手筈だ。
『よろしくお願いするです。
マスターと一緒の時に比べればシンクロの勢いや気配はないですので、
皆さんから受け入れてバトンを次に渡す意識でお願いするです』
聖壁の欠片の一枚に乗って土精達と手を繋げる高さまで上昇したノイが、
3人の顔を順に見つめながら伝える言葉を最後に4人が瞳を閉じて集中状態に入る。
ノイから伝わる橙色のオーラは、
右手で繋がるネルレント、そして左手で繋がるパラディウムの腕を伝って伝播していく。
最後に先の2人と手を繋ぐノーム位階へとオーラの伝播は進み、
最終的には4人を包むようにオーラは球状に固定された。
緊張が場を支配している。
その場に居る誰もが土精達を見つめ、
動向を見守ること1分程度で球状のオーラは霧散していく。
「何も変化はありませんね」
「問題があったんだろう。
話を聞きたいなら寄ってきても良いぞ」
話しかけてきた勇者には見向きもせずに俺はノイの元へと歩み寄る。
「難しいか?」
『元の地割れの案ですが、最終的な魔法陣がこちらです』
1分とはいえ慣れない疑似シンクロに、
即席精霊魔法の検討を幾度も高速思考で行った土精3人は少し疲れ気味だ。
1人ピンピンしているノイは、
俺に身体を向け直すと魔法陣を展開して説明に入る。
『問題はここの魔法式ですね』
「範囲が広すぎるか・・・。地面に無理もさせるし無駄に魔力も使うか」
『ですね。
パカッ!と割れる訳では無く元に戻すことも含めるとちょっと・・・』
なるほどなるほど。
確かに地割れなら水の染み込み時間を気にする必要は無い。
しかし、その分地面に無理矢理割れ目を創る過程で、
ずいぶんと広範囲の地面に圧力を掛ける必要が出てしまい、
結果的に非効率な魔法式である事が読めた。
「申し訳ないが水無月殿。
今どういう状況なのか説明してもらえるか?」
「あぁ、気が利かずすみません。
いま地割れを創る為の魔法陣を構成している魔法式を見て問題の確認をしています」
「俺達には見えないんですけど・・・」
疑問を呈してきたファグス将軍。
そして勇者メリオには土魔法の魔法陣は見えていない。
なので、俺とノイが何かを見ながら話し合っているのはわかっても、
何を見ているのかがわからないので置いてけぼりになっていた。
「人間なら加護が無いと見られないですからね」
彼らに見れるようにするなら何かに書き写す必要が出てくるな。
「クー、紙二枚とペンをくれ」
『(すぐご用意します)』
影の中からの返事通りに然程待つことも無く影から閻手が伸びてきて、
俺の目の前で開かれた手の平には要望通りの品物が置いてあった。
「ありがと。ノイ、聖壁の欠片一枚貸して」
『テーブル代わりですか?仕方ないです』
渋々という体のノイはちゃんと指示通りに貸してくれたので、
お察しの通りテーブル代わりにサラサラっと魔法陣を写して二組に手渡す。
「これが今俺達が見ている魔法陣です。
魔法使いなら多少読める人もいるかもしれないですが、
基本的には加護が無いとそもそも対応する魔法陣は視認することが出来ませんからね」
「これ・・・何語ですか?」
「古代文字とかじゃない?詳しくは知らない」
「では、何故水無月殿はこの魔法式?が読めるのですか?」
「適当な即席精霊魔法を創っては魔法陣を紙に写して、
その効果から予測を立てて以降に似た魔法があった場合に確定をして勉強したからですね」
この剣と魔法のファンタジー世界であろうと翻訳コンニャクはなかった。
基本の文字は読めるが書けない。
もちろん魔法式に書かれている文字が読めるわけも無く。
仕方ないので試行錯誤をしながら勉強してある程度は読めるようになってきている。
「努力無くして結果無し、ってね。
アーグエングリンの宮廷魔術師にでも渡せば喜ばれるんじゃ無いですか?」
「え?あー、まぁそうですね。
私が持っていても読めるわけも無いし価値もわからないからな・・・。
王に献上した際にそのように進言してみよう」
その後ファグス将軍は拳聖に見せたり、
メリオの方もミリエステが魔法陣を熱心に眺めたりと始めたのでこちらも続きにと動き出した。
「地割れはダメで、最終的にどうすべきか出た?」
『いえ、キーとなるのは[ディグ]の魔法だという結論は出たです』
「ディグ?」
俺はその魔法を見たことが無い。
なのでパラディウムに目線を向けてどんな魔法なのかと説明を求めた。
『ディグは瘴気の魔石がある層まで土を掘った時に使用した魔法です』
「おー!気にしてなかったけど穴の横に土がめっちゃ盛ってあったな!」
『ただ、ディグは広範囲向けの魔法ではありません。
広範囲に広げることは出来ますが、
魔力を食う割に効率は悪くなります』
そういうことか。とノイに視線を戻すと、
そういうことです。とノイも頷きで返す。
本来固くなった地面を解すには、
畑を耕すように地道な下地から造り上げる必要がある。
確か、おがくずとかを混ぜると水の吸収が良いとか聞いた気がする。
しかしここは畑では無いし、
凄腕の農家を雇ったとしても王都の地面は広範囲で敵は強い。
そして、幸いなことにその【固い地面を解す】魔法が存在するなら、
あとは俺達で[新しい魔法]を創り出せば万事解決だな!
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