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第12章 -廃都フォレストトーレ奪還作戦-

†第12章† -25話-[帰ってきた第二長女]

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「私も色んな方法を考えておりました。
 まず、土精の力を借りる。これは必ず必要となります」

 大地に干渉して高効率を出すなら絶対土精の手を借りないとどうしようもない。

「今この戦場にいる土精はアーグエングリンの協力者、パラディウム。
 救出されたノーム位階。
 ユレイアルド神聖教国の協力者、ネルレント。
 そして、私の契約精霊であるノイティミルですが、
 このうち精霊使いとシンクロをしてイメージを受け取れるのはノイティミルだけです。
 土精としての力は他お三方の方が強いですが・・・」

 指を差すのは俺の頭上に浮かんでいる卵。

「現在、進化の真っ最中であと2時間ほどで出て来ます」

 初めて見る面々は興味深げに卵を眺めていたが、
 すぐに俺へと視線は戻ってきて続きを促す。

「精霊は契約をしてシンクロという技を使って始めてどんな魔法が使いたいかと理解して創造します。しかし、逆に契約していない精霊は既存の魔法と制御力しか武器を持っていません」
「先の3人の土精はその契約とやらが出来ないのか?」
「仮契約は可能ですが、シンクロは出来ないのです。
 シンクロは精霊使いとして早めに覚えるスキルですが、
 精霊との相互理解や絆が必要となりすぐに習得出来るものではありません」
「なるほどな。
 出来るのはそのノイティミルとやらだけなのか・・・」

 シンクロならね。

「シンクロをして地面を掘り返す魔法を創り出す方法と、
 もう一つ考えているモノがありまして。
 同属性同士の精霊であれば疑似シンクロも出来るのです」
『私とアクアがポルタフォールで使ったアレね!』

 さっそく理解したスィーネが食い付いた。

「そうそう。俺とスィーネが出会ったばかりでシンクロが出来なかったけど制御力が必要だったから苦肉の策でやったアレだよ。
 つまりは精霊同士の力を合わせる方法なのですが、
 ノイティミルが私からイメージさえ受け取っていれば他の土精の力も合わせて大きな魔法を使うことも出来る・・・かもという内容です」

 というか、それくらいしか実現が難しいと思う。
 彼らも理解しているとおり、
 人力では例えアナザー・ワンでも正直現実味のない話になってくる。

「具体的には?」
「水はけを良くする為に土を50m以上も深く掘り返すのは私も現実的では無いと思います。
 可能ではありますが、時間が掛かって決戦に間に合いません。
 なので、私は地割れを推奨します」
「地割れ?」
「水はけという部分では解決はしていません。
 ですが、城下町に数十カ所の地割れを設置することで最低限の応急浄化が出来るのではと・・・」
「なるほどな」

 ラフィート王子と視線を合わせながら説明する内容を、
 各々が頷いたりしながら聞き入っている。
 俺だって完全な対応をしたいところだが、
 時間と技術が圧倒的に足りないので俺なりの妥協点を考え出した。

「思い浮かんでいる方法は二つ。
 ひとつはノイにアーティファクトを創って貰い、
 魔法剣を多重シンクロで使い私自身で地割れを起こす方法。
 ただし、これは制御力を大変に使いその後のアルシェ様にも影響を及ぼします。
 なので、ふたつ目のノイを中心に土精達で疑似シンクロを発現させ、
 新しい魔法で地割れを起こす方法を推奨します」
「どうせ推奨するならふたつ目だけで良かったのでは無いか?」
「私も役立たずじゃ無いんだとアピールしたくて」
「真剣な場でもおちゃらけるお前の性根は気に食わないが・・・、
 俺は魔法の深淵に足を踏み入れてないもので判断が付かない。
 何か意見がある者は居るか?」

 ラフィート王子は冒険者の経験を持つ王族だ。
 城でも戦闘訓練や魔法についての勉強もしているだろうが、
 あくまで一般普及している程度の教養だ。
 精霊を通した先に存在する制御力やら精霊魔法やらにの知識は無い為、
 対処方法として適当なのかと周囲に話を振った。

宗八そうはちの意見に私は賛成です。
 実現は可能でしょうが地割れをひとつ作るのに魔力は大量に消費するでしょう。
 ですが、こちらも魔力の回復方法についても手を用意していますから今まで出た意見の中でも理解は出来ます」
「発言失礼致します。
 ノイティミル様はポルタフォールの水難時にも、
 幼いながら人間では対処しようの無い仕事を熟されておりました。
 あれから2度の進化を経たのであれば今回の苦難も熟してくださるでしょう」
「アルカンシェ姫とアスペラルダのギルマスは賛成か。他は?」

 残るは教国と土の国。
 先に手を上げて発言し始めたのはファグス将軍だった。

「私も信じてみようと思っております。
 精霊使いである水無月みなづき殿は理解不能なレベルの魔法を平然と使用しておられます。
 皆様と一緒に検討した内容も必死で考えたのは事実ですが、
 正直に言えば人の手には余ると考えてもおりました。
 なので、私は水無月みなづき殿の案を信じたいです」
「私も同じ考えでございます。
 何よりアスペラルダには開幕から魔法で助けられ、
 瘴気の対処方法についても手解きをいただき、もう足を向けて眠れぬほどの恩恵を頂きました。
 人力に出来ぬ事は魔法で行う。ならば、明らかに魔法に関しては突出しているアスペラルダにお任せするのは有りだと思います」
「教国はどうだ?」

 ファグス将軍とギルマスのリリトーナさんも賛成してくれた。
 他に良い案が出なかったという理由もあるが、
 魔法に関しての干渉が大戦までの間にもあった為か信じる事にした様だ。

「もちろん、私達もアスペラルダの意見を推させて頂きます。
 それに足下に瘴気が大量に潜んでいるとあっては落ち着くことも出来ません。
 応急とはいえ効果は確実にある印象を受けました。
 リリトーナさんも言われていた通り、
 始まりからずっとアスペラルダに任せっきりでお恥ずかしい限りですが、
 出来ないことを悩むよりも任せてみるのも手かと」
「私も魔法の知識はありませんのでな。
 アスペラルダとの付き合いも大してないので聖女ほどの信頼はありません。
 ただ、やるだけやってみる価値はあるかと思いました。
 ダメならまた考えるとしましょう」

 クレアはともかく教国のギルマスであるプレイグは、
 全員が前向きな回答をしている中、信じ切るのはどぅかなぁ~と言ってくれた。
 俺も全部を信じられると失敗したときに情けないものがあるので、
 プレイグくらいの心持ちで居てくれた方が助かる。

 流石は年の功だね。

「では、僭越ながら地割れは私の方で夜のうちに整えたいと思います。
 次に問題点の説明ですが・・・」
「問題点?」

 クレアが可愛らしく首を傾げる。
 この愛らしさは何歳まで持つのだろうか。

「問題点は2つあります。
 まず、地割れを作ると地形的に行動がしづらくなり、
 戦闘が始まれば街中という悪条件と足場の悪条件の相乗効果で最悪かと」
「確かに元からモンスター化の影響で酷いですが、
 地割れでさらに足を取られたりハマってしまうかもしれませんね」
「ファグス将軍の言う通りです。
 出来る限りは足は取られても身体がハマる事の無いように調整しますが、
 元より無理矢理行うので期待はしないでください」

 特に夜などは暗闇で視界も悪い。
 明るくても危ない足場での戦闘を夜に行うなんぞ、
 兵士の負担を考えると心苦しい限りだ。

 全員を見回し各国周知をしっかり行い、
 無理をさせない事を喚起すると頷きと返事でそれぞれが意思表示をしてくれた。

「続きはアルシェ様からどうぞ」
「夜の間に宗八そうはち達が頑張った後は私達が頑張らせて頂きます。
 2つ目の問題点は地形の起伏などを考えて、
 水量を多めにするので念のため膝丈まで水を防ぐ装備に切り替えてください」
「切り替えてと言われても・・・」

 戸惑う面々。
 そんなものには目もくれず、アルシェは続ける。

「兵士の数と装備の数、そして合っても王都や教都でしょう。
 そこも私達が[ゲート]でフォローします。
 アーグエングリンは宗八そうはちが国元まで辿り着いていないのでアスペラルダで用意致しましょう」

 ゲートの弱点としては俺自身かもしくは契約闇精クーデルカのどちらかが訪れた先にゲートを設置することが前提となる。
 勇者の魔法も設置などは必要なくても、訪れていなければ移動はできないしな。

「それは助かりますが・・・、
 自国と土の国の分となると数も相当に必要となります。
 そこまでの負担を肩代わりいただくのは・・・」
「自国に戻れない貴国がこの戦場で人数分用意出来るというのならば任せましょう。
 染みこめば水の季節ですから最悪足が壊死するかもしれませんよ」
「今後の行動に支障が出る可能性や治療を考えると逆に迷惑なので、
 借りとかは考えずに素直に頷いておいてください」
「わ、わかりました・・・。助かります」

 アルシェが王族としての権力でリリトーナさんとファグス将軍をぶっ叩いた。
 うちはずいぶん前の事だけど、
 ゴムの加工方法を記憶に曖昧に残る情報で伝えていたんだけど、
 なんか勝手に研究とかを進めていたらしくて、
 最近やっと長靴が徐々に国民に広まり始めたところだってクーが報告していた様な・・・。

 ダイビングのウエットスーツまでは行かなくても、
 レンコン農家が着るようなのとか生産を始めたんだろうか。
 その辺に俺は関わっていないけど、
 アルシェは王女なので政というか国内の変化に目も耳も通している。

 そんな感じで話はどんどんとまとまって行った。
 都度確認の声が度々挙がるものの、
 特に拗れることも無く1時間程度で地割れと聖水流しと、
 今後の流れと敵対勢力の情報の共有なども行えた。

「あ、メリオ」
「なんですか?」

 アルシェはこれからセーバー達と交代で睡眠に入る。
 ゲートも各国に開いて見送る段階で俺はある事を思い出したので勇者を呼び止めた。

「城に乗り込む時に連れて行って欲しい人がいるんだけどさ」
「え?俺のPTはフルメンバーですけど・・・」
「誰か置いて行けって話じゃないからそこは気にしなくて良い。
 勇者PT+1人って思ってくれ」

 一応、前回アルシェに2人して正座させられた際に、
 メンバー2名が役に立たないから早く切れと言っておいたのでちょっと警戒している様だ。
 大丈夫だよ。俺手ずから殺すことは無いから。

水無月みなづきさんの知り合いだろうし、
 危険性もわかっての話でしょうが・・・、一体誰を推薦するつもりです?」
「フォレストトーレクラン[サモン・ザ・ヒーロー]。
 そのクランリーダーである、クライヴ=アルバードだ。御年72歳」「よくその歳までクランの運営をしていますね。
 だいたい40歳前後で後身に譲ると聞いていました」
「後身に譲ったけど[人形ドール]になってた」

 胡散臭そうな顔で話を聞いていたメリオだったが、
 最後の一言で全てを察して真顔になった。

「復讐ですか」
「復讐だね」
「死ぬかもしれないって話は?」
「大前提に話したよ。
 老い先も短いし一矢報いたいとさ。
 一応強さのテストはしたけど、現時点でメリオのPTメンバーの誰よりも強いよ」

 レベルに差があるのは確かだけど、
 単純に戦闘の経験値が違うからね。
 身体の使い方をよくわかっていて魔法を使っていないのに72歳があんな動きをするとは驚きだ。

「だから、マグニに太刀打ち出来なくて退くときは、
 そいつを殿しんがりに残して退却していい」
「それは勇者としてやりたくないんですが・・・」
「いざとなればの話。
 正直マグニとは相対してないから実力もわからないけど、
 腕力がないからとか魔法を使わないからといって弱いわけじゃ無い。
 逆に別の能力が異常な可能性が高いんだから、
 生死に関しては勇者どうこうは一旦置いておいてくれ」

 じゃあ先日の勇者講座はなんだったのかとメリオの顔に書いてある。
 それは俺も理解しているし自身でも何言ってんだとも思うよ。
 でも、勇者が蘇生が出来るとはいえポンポン死ぬ勇者はどうよ?
 それに10分の時間制限もある中でお前より弱い仲間がメリオを回収して退却出来るか?

「いざとなればで、いいんですね?」
「それでいい。明日の朝に連れてくるから調整をしておいてくれ」
「はぁ・・・わかりました。
 死んでもいい強者とかどう扱って良いやら・・・」
「死にたがりではないからあまり気負わなくて良い。
 いざが来れば決断は早いだろうから」
「どういうことですか?」
「情が少なければ迷いは産まれないだろ?
 仲間の誰かが残るから逃げろと言うのと、
 知らん誰かが残るから逃げろと言うのなら感情的に逃げやすくない?」

 わかるけどわかりたくない。
 そんな顔をしているメリオだが、
 勝つことのみを考えて戦場に立つだけが戦いではないと知る勇者は、
 苦汁を飲む表情を浮かべながらも納得してくれた。

 いずれにせよ戦力は増えるのだ。
 道中は安全性が確保され、ボス戦では退却も視野に入れて行動出来る利点もわかるからこそ飲み込んでくれたのだろう。

水無月みなづきさんって結構ひどい人ですよね」
「人を人でなしみたい言ってくれる。
 俺は優先順位がはっきりしているだけだよ。
 メリーとマリエルならマリエル、マリエルとアルシェならアルシェ、
 情で判断が遅れればその分別の人にまでいずれは飛び火する可能性が高い。
 なら、切り捨て時にどうするかと考えるなんて無駄でしかない。
 そういう価値観を俺が持っているだけだ」

 これは勇者と俺が元の世界が同じ、もしくは近い世界だからこその差だろう。
 俺は元の世界でも同じ価値観を持っている。
 だからファンタジー小説を呼んでいるときにはっきりと認識した。

 俺は領主みたいな考え方をしているんだと。

 普通の奴は平民のように今が大事で、
 自分さえ楽しければ他人の人生に損害を出してもいいという価値観を持っている。
 これは無意識なのかも知れんが。
 ゲームとかをマルチでしてても、
 何故そんな行動を取るのか?何故協力すべきところで協力出来ないのか?
 何故そんな意味不明な判断をするのか?
 何故お前が自分の行動を棚上げして怒りを露わにしているのか?

 その時はまぁゲームだし社会に出たことがない奴なのだろうと曖昧に考えていた。
 気を遣う事よりも自分を優先する幼い精神なんだろう、と。
 自分が優秀というつもりもないし意識もないが、
 それでも他人に迷惑を掛けてまで楽しもうという価値観が理解出来なかった。

 そういう奴に限って自分の人生なんだから何故我慢しなければならないのか!
 と言ってくる。
 冗談は顔だけにしろ。寝言は寝て言え。日本語喋れ。
 それなりに楽しめている俺はずいぶんと省エネな野郎だな!。
 先の事も周囲の事も考えられないなら家から出るな。
 マルチゲームにも参加してくるな。

 自分の浅はかな考えで理解出来ない領民がクレームを言ってくるのを相手にしている気分がわかったのだ。

 俺も完璧に先を読んだ行動は取れなくても、
 失敗してもカバー出来るように先手を打って対処している。
 必要なら強敵相手でもアルシェやマリエルもぶつけるさ。

「メリオも平和な世界から来たって意味で考えれば申し訳なく思うけど、
 この世界は人の死がすぐ隣にあるんだ。
 どれだけの犠牲を出しても勇者を生かす事に価値を見いだすのが俺達だ。
 それは理解出来なくても認識をしておいて欲しい」
「・・・前向きに善処します」

 政治家みたいなことを言ってメリオは去って行った。
 相変わらず苦虫顔だったことからやはり受け入れがたいのだろう。

「難しいな」
『人の子に難しいのは当たり前です』
「俺と年の差はそこまで無いはずなんだけど?」

 気落ちする俺を慰める為に姿を現したのは無精王アニマ。
 加階かかいを果たしたその姿は少し成長をしていて、
 幼いながらも色気があるゆるふわウェーブの髪が特別感を出していた。

『ワタクシたちの世界では身分と立場が絶対の基準ですからはっきりしているでしょう?
 宗八そうはちの世界はどうなのですか?』
「さぁ?魂の質か、教育か、遺伝子か。
 俺は神秘的な魂説を推したい所だけど、実際は遺伝子かなぁ。
 カエルの子はカエルって言うし」
『確かにマリエルの親もカエルですね』
「あいつは名が体を表せるのでちょっと別枠で」

 カエル妖精をこの話に持ってくるとややこしい。

『平和なのは羨ましいことですが勇者にとっては過酷ですね。
 残酷な世界に彼の勇者が立ち向かう資質があるのか・・・』
「あるから呼び出されたと思いたいね。さ、俺達も戻ろうか」


 * * * * *
 さて、ノイの進化が完了する前にアルシェとゼノウPTの就寝時間となってしまった。
 交代はゼノウPTとセーバーPT。
 教国とアスペラルダはゲートで本国と繋げて手空きの兵士を投入し、
 足下に広げる水対策の装備を調えさせた。

 2時間も要した甲斐もあって、
 ゴムを内部に張り巡らせた脚甲グリーブを城下町に入る全員が装備を完了した。
 なんか、ブーツにゴム加工を行って普通にその上から脚甲グリーブを付けるだけらしい。

 アスペラルダはアーグエングリンにも同じ物を大量に提供して、
 アルシェはファグス将軍とギルマスのリリトーナさんにかなり頭を下げられていた。
 ブーツに加工するだけなら大手商家に任せれば大量に用意するだろうから、
 兵士だけで無く臣民にも購入する機会をやっぱり狙っていたな・・・。

 教国はゴム素材の装備はなかったが、
 シーサーペントという海蛇の魔物の皮を素材にした靴下で対応したとクレアが言っていた。
 俺達は冒険者として登録をしてはいるけれど、
 実際の所ダンジョンには入ってもギルドで依頼を受けたこともないから、
 そういう魔物との出会いってあまりない。

 休みの日とかに薬草集めの依頼でも受けてみよう。
 俺達は依頼を受けていないから最低ランクのFランクだしね。

「では、セーバー。お兄さんのサポートをお願いね」
「任せてください、と胸を張って言えないですね。
 宗八そうはちは色々アレなので、突然動き出せば置いて行かれる可能性が高いかと・・・」
「なんとかリュースィと共に貴方だけでも追いかけてください。
 ひとまず戦闘が始まらなければ問題はないと思います」
「わかりました。アルカンシェ様もゆっくりとお休みください」

 アルシェの臣下みたいな態度を見せるセーバーに、
 当の本人は口角を上げてそのまま影の中へと入っていく。

「俺達も休ませて貰う。
 いざとなったら呼び出してくれてかまわない」
「それを判断するのはあっちだけどな」
「事が宗八そうはちにしか対応出来ない規模ならセーバーが判断する必要も出る」
「はいはい、了解だ。ゼノウ達もしっかり身体を休ませてくれよ」

 仲間の微笑ましい仲睦まじい様子に俺も誇らしい。
 クランとしてちゃんと機能しているっぽくて良きかな。

「それでクランリーダー。
 俺は長らく休ませていただけて元気ですが、
 王都に地割れを作るというおおざっぱな話しか聞いていないので何をすればいいのか・・・」
「何をすると言っても地割れは地割れだな。
 作るにしてもノイは必ず必要なんだけど・・・。
 アクア!ノイはまだ出て来そうに無いか?」

 ノルキアはぐっすりと休めたらしい。
 疲れも取れて一晩くらいなら徹夜で働いてくれそうな程だ。
 しかしウチの第二長女は本当に時間が掛かっていて大丈夫だろうか。
 思わず寝る前に少しでも一緒に居ようと卵に抱きついている第一長女に声を掛けるレベルで難産だぞ。

『も~ちょっと待って!
 ノイはますたーの力になる為に頑張ってる最中なのぉ~!』
「心配なんだよぉ~!ノイ~!」
『ノイを呼びながらアクアを抱かないでぇ~!』

 ノイの卵はアクアが抱いてて、
 そのアクアを俺が抱いているんだから問題ないさ。
 あぁ、ぷにぷにほっぺで癒やされる。

『ますた~、アクア寝るね。ノイはもうちょっとだから待ってて』
「わかった。おやすみ、アクア」
『おやすみぃ~。みんなもますた~をお願いねぇ~!』
『おやすみなさいですわ~』
「あぁ、おやすみ」

 残るメンバーに見送られてアクアは影の中へと入っていった。
 癒やしの愛娘をその腕の中から失った俺は、
 アニマを無理矢理出現させて代わりにと抱きしめる。

『むげっ!?あんえすか!?』
「アクアが寝ちゃったから手持ちぶさたで」
『あ~、ほういうほほえふか・・・』

 急に実体化させられ尚且つ唐突に抱きしめられたアニマは一瞬慌てたが、
 俺の一方的な理由を聞いて嫌がるそぶりを控えて大人しく抱かれ始めた。

「クランリーダーって娘さんに甘えるんですねぇ」
『仲が良くて微笑ましいですわね~』

 俺達の様子を眺めていたセーバーPTの中から声を挙げたのは魔法使いアネスだ。
 続けて、言葉通り微笑みながらこちらを見つめるのは風精リュースィ。

『普段は人前でこんなべたべたしないのですけど、
 戦闘も状況も緊張状態が続いてストレスが溜まっているんですよ。
 ワタクシもあまり得意ではありませんが、
 ノイが産まれれば代わってくれますし今は我慢の時なのです』
「まだ若いしな!立場もあるから責任の重さもあるだろう。
 ディテウスとはまた違うストレスがあるのかもな」
「ちなみにセーバーさんのストレス発散ってなんですか?」
「もちろん敵をぶった斬ればスッキリするさ!」

 単純ながら自分の性格に合ったストレス発散法を実践しているらしいセーバー達の話を聞きながらも俺はアニマの頭に鼻をくっつけて思い切り嗅いでミルクのような匂いで癒やされていた。

 他人の子供には出来ないけど、
 自分の魔力の繋がりのある子供なら犯罪じゃ無いもんねぇ~。
 アクアやクーと違ってまだまだ小さいけれど、
 肌触りは最高の癒やしである。

 ピシッ!

 と、その時聞き慣れない響きのある音を全員に耳にし、
 会話はその場でピタリと止んだ。

宗八そうはち、ノイが出て来ますよ。
 ワタクシを抱きしめてないでノイを抱き留めなさい!』
「おぉ、来たな」

 アニマはさっさと無精の鎧のお勤めへと戻っていき、
 俺は手を差し出してヒビが広がっていくノイの卵を引き寄せる。
 結局予想の6時間から遅れて1時間と少し。
 アクアは何かを感じ取っていたけれど、
 実際のところは何をして時間が掛かったのか本人から聞きだそう。

 やがて、卵の欠片が上部から砂へと代わり、
 流れ落ちた先から魔力へと還っていく。
 その中心からはもちろん成長した愛娘、ノイティミルが瞳を閉じたまま浮遊して俺の胸に入ってきた。

「おかえり、ノイ」
『ただいまです、マスター』
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