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第09章 -奇跡の生還!蒼き王国アスペラルダ編Ⅲ-
†第9章† -14話-[新たな強化案]
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「では、セリア先生も近日中に戻られるんですね」
「それは助かるねぇ。
こちらでもセリア女史が城を空ける時にいろいろと準備はしたものの、
やはり魔法関連の指導などには彼女の力添えは頂きたいからね」
「でも、1~3週間ですか・・・。
フォレストトーレの王都奪還戦直前ですわね」
「無理に参加させる必要はないかと思いますけど、
こっちの宮廷魔導師なら前線まで出てくるのが常なんですか?」
土精の二人にプルゥブトーレに送り届けてもらった後、
二人はその町に残って露天商売の続きを行うこととなり一旦俺たちと別れ、
こちらは俺たちだけで次の地脈移動のスタート地点となるトレマーズ村へと移動した。
その地で休憩を行うのと並行して、
揺蕩う唄にてノイティミルとセリア先生と近々の調整を話し合った。
結果的に明日は予定通りノイの迎えに行くし、
アルシェの言うとおりセリア先生とも近日中に合流してアスペラルダへ連れ帰る予定だ。
「魔法は魔法兵の指揮官がそれぞれ居るし、
その上には統括をする将軍も居る。
前線には出てもらうかもしれないが、
指示出しではなく戦況を見てアドバイスをもらう立場になる」
王様は今日も床にクッションを敷いて座っており、
キリッとした顔で俺の質問に答えたあとは、
手にしたお椀から箸を器用に使って卵の絡んだ肉と野菜を掴んで口に運ぶ。
そして幸せそうなこの顔である。
「セリア先生は上位風精ですから、
出なくてもいいと言っても無理に出たいと言ってくると思いますけどね。
風精の里ではなくともフォレストトーレは風の国の王都ですから」
そうセリア先生の内心を推理した言葉を口にするアルシェもまた、
王様と同じく床敷きクッションの上に座り込みお米を口にしている。
「約1年城を離れていましたからねぇ、
戻られたら身だしなみのお手入れからまた始めないといけませんねぇ。
ほぅら、アクア。あ~ん」
『あ~ん』
旅先から帰ったあとはセリア先生のお手入れをするつもりらしい王妃様。
やはり二人と同じく床座りの上に膝には何故かアクアが乗せられ、
王妃様手ずから食べさせて頂いている。
この光景は何も前回のケチョム(トマト)鍋が最初で最後ではない。
現在は水の月。つまり寒いのだ。
もっと言えば水の月60日を越えている。つまり真冬なのだ。
他国に比べればやはり気温も低い水の国は環境柄寒さには強いのだが、
強いと言っても限度があるのはどの世界でも一緒である。
そんな中、先日のケチョム鍋はアスペラルダ一家に大変好評で、
数日に1度このようにご飯時になると同じ部屋に拉致されては晩ご飯を一緒にしつつ最近の報告を行っている。
ちなみに鍋の種類についてはクーが俺の記憶から抽出し、
それをメリーとシンクロすることで伝え、
近しい食材や調味料を選出し、
日中は実験を繰り返して晩ご飯には俺の記憶に近い鍋が出来上がるという寸法らしい。
『お父さま・・・』
『ソウハチー・・・』
「はいはい、自分で食べられるだろうに・・・。
お口を開けなさいな、あーん」
『『あーん』』
長女はお祖母ちゃんに甘やかされて膝の上だが、
次女と三女は俺の両脇で子供用の椅子にちょこんと座って雛鳥のごとく口を間抜けに開けて肉の到来を待っている。
かわいいお口に肉だけでなく・・・いや、
ほとんど野菜を詰め込んでやると半分嬉しい半分悲しいような顔でもぐもぐしている姿が愛らしい。
次は肉を大目に詰めてやるからな。
「明日の晩ご飯が楽しみです。
ノイちゃんと直接お話をするのも久し振りですから」
「だが、宗八。この後はどうするんだい?
元の予定では2ヶ月の期間ギリギリで迎えに行くつもりだったはずだろう」
それについては上位土精のパラディウム氏とネルレントさんに出会った辺りから考え始めていた。
「魔法剣の派生を開発したいと思っています」
「派生ですか?どういう構想を練っているのか聞かせて下さい、宗八」
「今アクアは着水の訓練をしているそうなのですが、
それは水氷属性の魔力のトリガーを引いて水へと変化させていました。
しかし、俺の魔法剣は同じ水氷属性の魔力ですが、
アクアのそれに比べて攻撃力がありすぎます。
なので、魔力は属性別に分かれていますが、
そこからさらに攻撃性と非攻撃性の魔力に分かれると考えます」
「ふぅ~む。魔法に関しては私も他と変わらず知識に違いは無い。
魔法は唱えて発動させるものが常だったからそんな考えはしたことがない・・・」
「私は・・・心当たりはありますね」
「私の本体も魔法の開発については疎いですが、
宗八が感じている違いにアルシェとは別だとは思いますが心当たりはあります」
アルシェは魔法剣をいつも間近で見ていたし、
うちのPTの中で一番魔法の扱いと知識が高い。
王妃様も現水精王シヴァ様の分御霊なので、
それ相応の知識が蓄えられているに違いない。
「自分の考えでは魔法剣の特性上、
魔法を直接吸収して中で属性魔力を増幅させ、
それを放出させることで対象に属性に応じた効果が顕れます。
凍ったり電撃だったりですね、これが攻撃性魔力」
「理解できます」
「条件としては高濃度に圧縮された属性魔力だからこそ・・・でしょう。
本来精霊にもなかなか扱う者のいないほどの高濃度魔力は、
存在するだけで周囲に影響を及ぼします。
例えばアスペラルダ領内にある氷山には魔力噴出スポットがあるのですが、
地形的な様々な要因が重なり液状化して残り続けています。
当然周囲は影響を受けて年々氷の層は厚く範囲も広がっています」
魔法剣に関する知識も俺から受け取っているアルシェは、
当然攻撃魔法と攻撃性魔力の違いについての知識もあり、
俺の話も着いてこられている。
それともう一方の王妃様は、
別ベクトルからそのような事例のある氷山を例として挙げられ、
俺の考えに理解を示して下さった。
「宗八はその攻撃性魔力をどのように扱いたいんだい?」
「まぁ最終的には攻撃に用いたいんですけど、
魔法剣は武器の中に紛れている精霊石の欠片が反応して内蔵魔力を増幅。
そのおかげで魔力が圧縮されて高濃度魔力となり、
一閃として攻撃に用いることが出来ています」
お椀の中身を腹に収めきり、
王妃様がすかさず鍋から空いたお椀へとすき焼きをよそう中で、
王様から聞かれる扱い方。
魔法剣の扱いに関して俺は自分なりに調べ調査をした結果、
何がどう反応をして魔法剣が成り立っているのか勉強したのだ。
内容としては先に伝えたとおり、
精霊石と呼ばれる全属性魔石の欠片・・いや、
もっと正確に言えば粉末とかその程度の大きさが武器の素材に含まれていて、
それらに吸い込んだ魔法が反射しまくって魔力が増幅していくのだ。
「それを武器の補助なしで、
制御魔法のように手から撃てるようになりたいんですよ。
今は増幅も放射も武器有りきですから・・・」
「何か必要になるなら出来得る限り協力をしたいとは思うが・・・。
アルシェとお前の意見はどうなんだ?」
「そうですね・・・、
単純に考えれば精霊石から何段も何段も落ちた最底辺に魔石があるわけですから、
そのような性質を持つ鉱石を精製、
もしくは見つけ出すことで代わりとなるのではないでしょうか?」
王様から話を振られたアルシェは、
自身の蓄えた知識から予想を口にする。
アルシェの言うことは俺も考えた。
ただし、鉱石は精霊石の粉末が紛れるモノに対し、
魔石は魔物から手に入れる低品質の宝石という扱いだ。
当然どちらも試してみたけれど、
店売りされている鉱石はどれも同程度の精霊石紛れの石ばかりだし、
魔石に至っては無属性魔法にしか反応しないわ容量がは少ないわ。
とにかくどちらも俺の期待通りの役目を果たせなかった。
やるなら精製する方法かな。
「では、私の見解ですと・・・。
そもそも宗八は全属性の攻撃性魔力を操りたいのですか?」
「いえ、全属性は精霊石しか対応は出来ないので、
もしも単属性の精霊石のようなモノがあればとは思っています」
実のところ魔石には動物性と自然性の2種類有り、
動物性は当然魔物の身体から採取するもので、
基本手に入れたら売却されるゲームで言うところの換金アイテムだ。
自然性の物は水辺や火山近くの土、
果ては高い山の頂きなどから採取することの出来る魔石である。
ただ、それらはどれも小さく小指の第一関節程度の大きさなのだ。
採掘量もそこまで多いわけでもないのだが、
魔法ギルドが普及させる生活用品の中にはそれら自然魔石を使用するものが数多く存在している。
これも町で手にする事が出来るため購入して試してみたが、
小さいと言うことは魔力容量も少なく、
反復運動も早いので魔法を吸わせると1秒と持たず自壊してしまった。
大きい自然魔石は見つかっても使用用途がないためか、
砕かれて市場に流されてしまうらしい。
「単属性で良いなら水氷属性であれば手に入れることは出来るかと・・・」
「それはどこで手に入りますかっ!?」
「龍の巣です」
「龍の巣ですか?
それって火の国の険しい山向こうということですか?」
この異世界にはドラゴンがいる。
それは早いうちから知る機会があったのだが、
いずれも住処は人が到達するには険しすぎ、町からも離れている。
故に存在は確認されてはいるのに生態や具体的にどこに住んでいるのかなどは解明されていないとされているはず。
「お母様、龍は人里から離れて暮らしていますよね?
住処も予想の範疇を出ていませんし・・・、
火の国の龍に水氷属性を扱えるのですか?」
「二人とも勘違いしていますよ。
確かに火の国に龍は居ますが、あれらは炎に適した龍です。
私が言っているのは水の国に居る龍の事です」
「りゅ、龍が我が国にも居たのですかっ!?」
これは驚いた。
うちの国に龍がいたという記録は城にある図書館には記載がなかったし、
姫様であるアルシェも知らない事実だ。
王様に視線を向けるとリアクションを取る必要もない情報なのだろう。
少なくなってきた具材を楽しそうに追加されておられる。
「妖精族と同じように住処などを隠されているんですね」
「その通りです。
まぁ民に隠す理由としては妖精族とは真逆に近いものですけれどね。
双方が平穏な生活を送る為に必要なのですよ」
「龍はやっぱり凶暴とかですか?
それとも性欲が凄まじいから隔離しているとかですか?」
どこでだか聞いた話になるけど、
龍は性欲がすごくて色んな種と混じり合ってしまうとか。
その結果、龍の住処は環境汚染がひどく、
龍のなり損ないがそこら中を跋扈しているとか、
そのくせ元の生物より強くて厄介だとかとかとかとか。
「怒らせれば凶暴ですけれど、
我が国にいるのはブルー・ドラゴンとその眷属のアイス・ドラゴンです。
どちらも穏やかな性格をしていますから子龍に手出しでもしない限りは怒りません」
「ブルー・ドラゴンとアイス・ドラゴン・・・。
全く知りませんでした・・・」
「龍は繁殖力が低いので数が増えづらく、
現在はアスペラルダ領に7つのグループがあります。
その龍の力を借りることが出来れば、宗八が望む魔石が手に入ると思いますよ」
* * * * *
龍の力で魔石を手に入れるとかどのような方法なのだろうか?
ドラゴンと言うからには漢字で表せばアクアの[竜]ではなく[龍]でいいのかな?
「龍・・・という事はアクアちゃんの様な・・・」
『はぇ・・?』
「アクア、眠いなら歯磨きだけして布団に潜っていなさい。
お前等ももう眠くなってるだろ。
アクアと一緒に部屋に戻っていろ」
『すみません、お父さま。そうさせて頂きます』
『ふわぁぁぁぁ~ぁああ。ニルも眠いので言うとおりに致しますわー』
ウトウトしていたアクアは、
アルシェに呼ばれたと思って顔を上げた。
しかしその小さなお口にはしっかりと涎が垂れかけている様子が見えたので、
他の眠たげに目を擦っていた二人と一緒に先に寝ているように指示を出す。
「あらあら、もうこんな時間ね。
ちょっと子供がいるのに長話をしちゃってごめんなさいね」
『うんう、だいじょうぶ。
じゃあ先に戻ってるからね、ますたー』
『お先に失礼します』
『おやすみなさいですわー』
「はい、おやすみなさい」
「また明日も一緒に食べましょうね」
「暖かくして眠るのだぞ」
誰が誰を引き連れているのかもわからないぞろぞろとした動きで、
三人の外へと向かう背中にその場にいる全員がおやすみの声を掛ける。
部屋の外には兵士もいるし、
給仕目的以外にも歩き回るメイドさんもまだ多数いるから、
誰かが送り届けるだろう。
精霊達の退室で空気の弛緩はすぐに引き締まり、
話は再びアルシェの質問から再開される。
「さっきの続きですけど、お母様。
龍はアクアちゃんのような姿なのですか?」
「いいえ。アクアのアニマル形態でしたか?
あの長細いフォルムではなく、
脚はもっとしっかりしていますし大きな翼もありますよ」
アニマル形態のアクアは神秘性を帯びた鰻みたいな態で、
見た目でわかる手や脚は無いのだが、
水竜を目標に取ったアニマル形態だけありヒレがいくつかあるので、
そのいくつかが手足の役割を担っている。
「アルシェ。俺の世界ではドラゴンは大きく分けて2種類居るとされていてな、
東洋竜が自然災害が生物の姿を取ったと言われるアクアのような姿で、
西洋龍は災害級の凶暴性を持って恐れられる王妃様が仰られる姿をしている」
「では、私たちの世界の龍とは天災のような強さを持った生物なのですか?」
「確かに強さの点では大きく外れては居ませんね。
しかしレッド・ドラゴンならいざ知らず、
ブルー・ドラゴンやグリーン・ドラゴンは温厚ですし、
アンバー・ドラゴンは思慮深く話を聞いてくれますから、
先にも伝えたとおり眷属や子供に害がなければ動きません」
「龍の話は分かりましたが、
その龍と魔石の繋がりとはなんですか?
流石に龍が持つ魔石を確保するなんて事ではありませんよね?」
そんな伝説上の生物と闘うなんて、
俺の希望を叶える為に必要だったとしても逆に諦めるわ。
まぁ遠目から見てみたいなぁというワクワクはあるんだけどね。
「龍はね、人間のように食事をする必要がないんだ。
精霊達と同じで属性に適した魔力を取り込んで生きているんだけれどね、
なんとその魔力が身体の中に溜まっていくと最終的に排出されるんだ」
「排出?過剰摂取になって吐き出すと言うことですか?」
王妃様との話し合いの合間に時折王様も居るんだよとアピールするかのように、
話の切れ目に補足説明を入れてくれる王様。
その説明の中で口にされた排出という単語にアルシェが俺と同じ考えにいたり、
その旨を俺よりも先に王様へ質問する。
しかし、その回答は少し斜め上にいってしまった。どこいくねーん!
「いやいや、排出は言葉通りだよ。
生物が食事を食べる、必要な栄養素を身体に吸収する、そうなると残りカスはどうなるかな?」
「ちょっと、いまは食事中ですよ。
そんなわかりやすく伝えるのは止めて下さいな」
「ははは、これは失敬」
アルシェと顔を見合わせる俺はその瞳から再び同じ回答に行き着いたことを悟る。
つまり・・・王妃様が話してくれた魔石とは龍の○んこ。
○んこかぁ・・・、某ネトゲサバイバルの話にその鉱石を使って武器を作るってのがあったなぁ。
「もちろん、摂取する魔力の質によって排出される魔石の純度に違いが出ます。
ですが、詳しい摂取については私も把握していないのでそこは直接確認されるしかないわね」
「水精王でも龍の生態に詳しくないのですか?」
「龍は精霊ではありませんから、
属性が一致したからといっても私と繋がりがあるわけでもありません。
それに親しいわけではありませんからね」
如何な水精王でも、
精霊とは別種の生物の頂点に君臨する龍とは接触することは出来ず、
特に交流があるわけでもないらしい。
ただ、その付近に住む精霊に聞いて住処だけは把握してるという態のようだ。
「そのドラゴンは自然魔力の噴出スポットに住んでいるのですか?
あれは高濃度過ぎてとても生物の身体に合うとは思えませんが・・・」
「流石の龍もあれは摂取しませんよ。
薄まった少し濃度の高い魔力を摂取しているだけかと。
そういう魔石でも宗八の望みは達成できるかとは思いますが、
本体の水精王の見解としては自然魔力で排出された魔石よりも、
宗八自身の魔力で排出された魔石の方が良いだろうとのことです」
それに関しては水精王の意見に同意する。
属性一致というもは前提条件だが、
俺が使った魔法に一番合うのもやはり俺の魔力で出来た魔石なのだろう。
つまり俺専用のアイテムとなれば効率も良いはず。
その点はアクア達の核と一緒だな。
「じゃあノイを回収した後はドラゴンの住処に向かうことにしようと思います。
2~3日は少しのんびり城で過ごしてからですけど・・・」
「念の為、水精に伝言をしておかせます。
危険はないかとは思いますが、
話だけでも聞いていただけるように場を整えておきましょう」
「ありがとうございます」
「龍の住処には私も着いていってもいいでしょうか?」
「ダメと言っても着いていくのだろう?
止められるとは思っていないしこの経験がいずれ活きると信じている。
宗八には負担を掛けるとは思うが・・・」
「いつもと一緒です、全身全霊でアルシェは護ります。
でも、俺の戦力アップに必ず繋がるとも限らない危険に晒すのは・・・」
「それも今更よ宗八。
成人の前にここまでの危険を経験し抜けてきたアルシェと、
1年間護り通した自分を信じればいいわ。
私たちは、すでに振ってしまった賽を無駄にしないために行動しなければならないのよ」
そう言ってアルシェの同行を認めるお二人の強い言葉は、
視線を合わせた瞳からも感じることが出来た。
確かに魔族は魔神族を、
人間は勇者を召喚してしまった時点で互いに引くことは出来ないのだろう。
「申し訳ありません。余計な事を言いました」
「何がどう転ぶかなんて誰にもわからないだろうし、
わからないなりに宗八やアルシェは旅を続けて色々と変わったのだと思っている」
「私たちにははっきりとわかる部分とわからない部分。
我が国の益になる情報であったり、
世界の益になる行動であったり・・・。
貴方たちを知っている人の中にはもうほとんどと言っても良いでしょう。
行動を阻害しようとは思わない」
「今後にどう影響するかわからなくて、不安で何もしないよりも。
まずは飛び込んでみるという勇気を私たちは思い出させてもらった。
だからアルシェも宗八も好きに行動しなさい。
君たちはアスペラルダが行う最後の足掻きだ」
「私たちは貴方たちの行動を全て肯定致しますから・・・」
危うく泣きそうになった。
体中に万感の想いが駆け巡った。
始まりこそ大いに困らせたことだろう。
勝手ながら旅に出て力になれるかもと思い上がっていた。
一人娘のアルシェが着いていくと言い出してどれだけ悩まれただろう。
ひょんな事から王様と王妃様の想いを聞くこととなった俺は、
ずっと胸に引きずっていたアルシェを連れ回す申し訳なさや、
力不足に迷惑で勝手な行動に・・・謝罪をしたいと思っていた。
それが行動だけでなく言葉にして認めてくれていたとわかった。
「ありがとう・・・ございます・・」
「感謝はいらないよ宗八。
私たちは自国を護るために動けないし将軍たちも長く旅立たせるわけにはいかない」
「実際、キュクロプスの自然発生以降、
高ランクモンスターがどこからともなく現れています。
それらの討伐には冒険者でもレベルや戦闘力で選別を進めない限りは将軍が動きます。
ダンジョンのような限られた空間での戦闘ではないので、
被害がほぼ毎度出てしまうのです」
「そんな訳で我がアスペラルダは全面的に、
そしてユレイアルド神聖教国は前向きに、
アルシェと宗八の活動を正式に支持する方針を取ることなった」
アスペラルダはもともと王制のため、
王様が決めたのであれば臣下は全員従うのが常であるが、
俺たちの行動に対しては少数であることや情報の重さなども考えると、
納得はしても理解が追いつかないこともあった。
そうなると、兵士の中には不安を抱えることとなり、
足並みの揃った作戦行動などは難しくなる。
それこそ俺たちの持ち帰る情報は正しいと皆が理解をしなくとも、
信じてくれる必要があった。
「私が言うのも問題あるかと思いますけど、
臣下の皆はご理解頂けたのですか?」
「方針としては私たちが定めた。
しかし、他にも将軍が話をしたり、
アルシェたちがどのような戦闘をしたのかなど説明も進めた。
まぁ、最終的な決定力はマリエルだと聞いているがね」
「マリエル?」
あいつが何かしたのだろうか?
城に来てからというものほとんどアルシェに任せっきりだったし、
報告では訓練マシマシ、魔法少々と聞いていた。
「彼女・・・強いですね」
「まぁアルシェの近衛に残すために鍛えていますから・・・」
「それを踏まえていたとしてもです。
朝は宗八と魔法の訓練をしていて、
その後も昼過ぎまで色んな部隊の兵士と模擬戦を繰り返し、
魔法も魔法兵よりも理解を深めている」
「当然ですね」
王妃の説明にアルシェも肯定を示す。
当然と。
それが俺たちのライフスタイルで、それでも足りないと思っている。
あいつらと事を構えて生き残る努力は続けなければならないからだ。
「その当然を毎日真剣に行い、
口癖は姫様と隊長に追いつかないといけないからですからね。
本人にその意思はなくとも、
そのような姿を色んな部隊で見せては全員が将軍達の話が実話なのだと・・・、
現在起こっている事なのだと信じる事に繋がったようです」
「天然ですから考えての結果ではないでしょうけど、
今度褒めておこうかと思います」
「そうしてあげなさい。
ユレイアルドの教皇からも連絡を頂いていてね、
フォレストトーレへの遠征には参加する。
その状況を自身の目で確認してからどうするかを決めたいとのことだ」
「それは私たちにも言われていましたね、お兄さん」
「あちらは王制ではありませんからね。
でも十分協力はしていただける状況だと思います」
神聖教国は勇者と聖女、さらにアナザーワンが数名居る。
戦力としては手助けも必要ないほどだと思っている。
見て貰えれば今後の協力も頂ける確信があるため、
もう俺たちがユレイアルドへ顔を出さなくともアスペラルダと手を結んでくれるだろう。
「ただ、残念ながら火の国は魔族との戦争が起こっている前線のため、
参加は難しいと解答をいただいた。
まぁ、あちらの言い分はその通りであるうえに、
前線以外の問題に関しては他4国で対処するという契約だからこれは仕方ない。
土の国は参加してくれるから3国での作戦となる」
「少し大げさかもしれないけれど・・・」
「いえ、お母様。
瘴気の濃度や禍津核モンスターや魔神族を考えれば、
如何に王都1つといえど1匹たりとも逃がすわけにはいきませんし、
兵士の全員が全員戦闘が成立するとも思えません」
「倒しても瘴気が残りますし、ランクも高い。
数も60万以上と考えると魔法も必要になるのに、
オベリスクで使えません」
「考えるだけで頭が痛くなるねぇ・・・」
全くである。
勇者といえども逃れることの出来ないオベリスクの効果をどうにかしたい。
どうにかしたいのに強力な障害が多すぎて本当に嫌になる。
「まぁ、その辺はうまく調整していこう。
魔法ギルドからの進捗報告に期待は残しているからね」
「そういえばカティナにオベリスクの研究も任せていましたね」
「何かオベリスクの特性を掴んでいてくれればいいんですけど・・・」
それによっては俺たちの動きもかなり変わってくる。
一度進捗確認をしてみるかな。
この日の夜、以降は雑談をして終わりを告げた。
王妃様からは龍の巣を調べてみるとお言葉をいただき、
その情報をいただいてから移動を始めることに決まった。
さて、明日はノイとの再会だ。
おそらく色々と文句を言われるだろうから、
その辺は覚悟しておかないとなぁ。
「それは助かるねぇ。
こちらでもセリア女史が城を空ける時にいろいろと準備はしたものの、
やはり魔法関連の指導などには彼女の力添えは頂きたいからね」
「でも、1~3週間ですか・・・。
フォレストトーレの王都奪還戦直前ですわね」
「無理に参加させる必要はないかと思いますけど、
こっちの宮廷魔導師なら前線まで出てくるのが常なんですか?」
土精の二人にプルゥブトーレに送り届けてもらった後、
二人はその町に残って露天商売の続きを行うこととなり一旦俺たちと別れ、
こちらは俺たちだけで次の地脈移動のスタート地点となるトレマーズ村へと移動した。
その地で休憩を行うのと並行して、
揺蕩う唄にてノイティミルとセリア先生と近々の調整を話し合った。
結果的に明日は予定通りノイの迎えに行くし、
アルシェの言うとおりセリア先生とも近日中に合流してアスペラルダへ連れ帰る予定だ。
「魔法は魔法兵の指揮官がそれぞれ居るし、
その上には統括をする将軍も居る。
前線には出てもらうかもしれないが、
指示出しではなく戦況を見てアドバイスをもらう立場になる」
王様は今日も床にクッションを敷いて座っており、
キリッとした顔で俺の質問に答えたあとは、
手にしたお椀から箸を器用に使って卵の絡んだ肉と野菜を掴んで口に運ぶ。
そして幸せそうなこの顔である。
「セリア先生は上位風精ですから、
出なくてもいいと言っても無理に出たいと言ってくると思いますけどね。
風精の里ではなくともフォレストトーレは風の国の王都ですから」
そうセリア先生の内心を推理した言葉を口にするアルシェもまた、
王様と同じく床敷きクッションの上に座り込みお米を口にしている。
「約1年城を離れていましたからねぇ、
戻られたら身だしなみのお手入れからまた始めないといけませんねぇ。
ほぅら、アクア。あ~ん」
『あ~ん』
旅先から帰ったあとはセリア先生のお手入れをするつもりらしい王妃様。
やはり二人と同じく床座りの上に膝には何故かアクアが乗せられ、
王妃様手ずから食べさせて頂いている。
この光景は何も前回のケチョム(トマト)鍋が最初で最後ではない。
現在は水の月。つまり寒いのだ。
もっと言えば水の月60日を越えている。つまり真冬なのだ。
他国に比べればやはり気温も低い水の国は環境柄寒さには強いのだが、
強いと言っても限度があるのはどの世界でも一緒である。
そんな中、先日のケチョム鍋はアスペラルダ一家に大変好評で、
数日に1度このようにご飯時になると同じ部屋に拉致されては晩ご飯を一緒にしつつ最近の報告を行っている。
ちなみに鍋の種類についてはクーが俺の記憶から抽出し、
それをメリーとシンクロすることで伝え、
近しい食材や調味料を選出し、
日中は実験を繰り返して晩ご飯には俺の記憶に近い鍋が出来上がるという寸法らしい。
『お父さま・・・』
『ソウハチー・・・』
「はいはい、自分で食べられるだろうに・・・。
お口を開けなさいな、あーん」
『『あーん』』
長女はお祖母ちゃんに甘やかされて膝の上だが、
次女と三女は俺の両脇で子供用の椅子にちょこんと座って雛鳥のごとく口を間抜けに開けて肉の到来を待っている。
かわいいお口に肉だけでなく・・・いや、
ほとんど野菜を詰め込んでやると半分嬉しい半分悲しいような顔でもぐもぐしている姿が愛らしい。
次は肉を大目に詰めてやるからな。
「明日の晩ご飯が楽しみです。
ノイちゃんと直接お話をするのも久し振りですから」
「だが、宗八。この後はどうするんだい?
元の予定では2ヶ月の期間ギリギリで迎えに行くつもりだったはずだろう」
それについては上位土精のパラディウム氏とネルレントさんに出会った辺りから考え始めていた。
「魔法剣の派生を開発したいと思っています」
「派生ですか?どういう構想を練っているのか聞かせて下さい、宗八」
「今アクアは着水の訓練をしているそうなのですが、
それは水氷属性の魔力のトリガーを引いて水へと変化させていました。
しかし、俺の魔法剣は同じ水氷属性の魔力ですが、
アクアのそれに比べて攻撃力がありすぎます。
なので、魔力は属性別に分かれていますが、
そこからさらに攻撃性と非攻撃性の魔力に分かれると考えます」
「ふぅ~む。魔法に関しては私も他と変わらず知識に違いは無い。
魔法は唱えて発動させるものが常だったからそんな考えはしたことがない・・・」
「私は・・・心当たりはありますね」
「私の本体も魔法の開発については疎いですが、
宗八が感じている違いにアルシェとは別だとは思いますが心当たりはあります」
アルシェは魔法剣をいつも間近で見ていたし、
うちのPTの中で一番魔法の扱いと知識が高い。
王妃様も現水精王シヴァ様の分御霊なので、
それ相応の知識が蓄えられているに違いない。
「自分の考えでは魔法剣の特性上、
魔法を直接吸収して中で属性魔力を増幅させ、
それを放出させることで対象に属性に応じた効果が顕れます。
凍ったり電撃だったりですね、これが攻撃性魔力」
「理解できます」
「条件としては高濃度に圧縮された属性魔力だからこそ・・・でしょう。
本来精霊にもなかなか扱う者のいないほどの高濃度魔力は、
存在するだけで周囲に影響を及ぼします。
例えばアスペラルダ領内にある氷山には魔力噴出スポットがあるのですが、
地形的な様々な要因が重なり液状化して残り続けています。
当然周囲は影響を受けて年々氷の層は厚く範囲も広がっています」
魔法剣に関する知識も俺から受け取っているアルシェは、
当然攻撃魔法と攻撃性魔力の違いについての知識もあり、
俺の話も着いてこられている。
それともう一方の王妃様は、
別ベクトルからそのような事例のある氷山を例として挙げられ、
俺の考えに理解を示して下さった。
「宗八はその攻撃性魔力をどのように扱いたいんだい?」
「まぁ最終的には攻撃に用いたいんですけど、
魔法剣は武器の中に紛れている精霊石の欠片が反応して内蔵魔力を増幅。
そのおかげで魔力が圧縮されて高濃度魔力となり、
一閃として攻撃に用いることが出来ています」
お椀の中身を腹に収めきり、
王妃様がすかさず鍋から空いたお椀へとすき焼きをよそう中で、
王様から聞かれる扱い方。
魔法剣の扱いに関して俺は自分なりに調べ調査をした結果、
何がどう反応をして魔法剣が成り立っているのか勉強したのだ。
内容としては先に伝えたとおり、
精霊石と呼ばれる全属性魔石の欠片・・いや、
もっと正確に言えば粉末とかその程度の大きさが武器の素材に含まれていて、
それらに吸い込んだ魔法が反射しまくって魔力が増幅していくのだ。
「それを武器の補助なしで、
制御魔法のように手から撃てるようになりたいんですよ。
今は増幅も放射も武器有りきですから・・・」
「何か必要になるなら出来得る限り協力をしたいとは思うが・・・。
アルシェとお前の意見はどうなんだ?」
「そうですね・・・、
単純に考えれば精霊石から何段も何段も落ちた最底辺に魔石があるわけですから、
そのような性質を持つ鉱石を精製、
もしくは見つけ出すことで代わりとなるのではないでしょうか?」
王様から話を振られたアルシェは、
自身の蓄えた知識から予想を口にする。
アルシェの言うことは俺も考えた。
ただし、鉱石は精霊石の粉末が紛れるモノに対し、
魔石は魔物から手に入れる低品質の宝石という扱いだ。
当然どちらも試してみたけれど、
店売りされている鉱石はどれも同程度の精霊石紛れの石ばかりだし、
魔石に至っては無属性魔法にしか反応しないわ容量がは少ないわ。
とにかくどちらも俺の期待通りの役目を果たせなかった。
やるなら精製する方法かな。
「では、私の見解ですと・・・。
そもそも宗八は全属性の攻撃性魔力を操りたいのですか?」
「いえ、全属性は精霊石しか対応は出来ないので、
もしも単属性の精霊石のようなモノがあればとは思っています」
実のところ魔石には動物性と自然性の2種類有り、
動物性は当然魔物の身体から採取するもので、
基本手に入れたら売却されるゲームで言うところの換金アイテムだ。
自然性の物は水辺や火山近くの土、
果ては高い山の頂きなどから採取することの出来る魔石である。
ただ、それらはどれも小さく小指の第一関節程度の大きさなのだ。
採掘量もそこまで多いわけでもないのだが、
魔法ギルドが普及させる生活用品の中にはそれら自然魔石を使用するものが数多く存在している。
これも町で手にする事が出来るため購入して試してみたが、
小さいと言うことは魔力容量も少なく、
反復運動も早いので魔法を吸わせると1秒と持たず自壊してしまった。
大きい自然魔石は見つかっても使用用途がないためか、
砕かれて市場に流されてしまうらしい。
「単属性で良いなら水氷属性であれば手に入れることは出来るかと・・・」
「それはどこで手に入りますかっ!?」
「龍の巣です」
「龍の巣ですか?
それって火の国の険しい山向こうということですか?」
この異世界にはドラゴンがいる。
それは早いうちから知る機会があったのだが、
いずれも住処は人が到達するには険しすぎ、町からも離れている。
故に存在は確認されてはいるのに生態や具体的にどこに住んでいるのかなどは解明されていないとされているはず。
「お母様、龍は人里から離れて暮らしていますよね?
住処も予想の範疇を出ていませんし・・・、
火の国の龍に水氷属性を扱えるのですか?」
「二人とも勘違いしていますよ。
確かに火の国に龍は居ますが、あれらは炎に適した龍です。
私が言っているのは水の国に居る龍の事です」
「りゅ、龍が我が国にも居たのですかっ!?」
これは驚いた。
うちの国に龍がいたという記録は城にある図書館には記載がなかったし、
姫様であるアルシェも知らない事実だ。
王様に視線を向けるとリアクションを取る必要もない情報なのだろう。
少なくなってきた具材を楽しそうに追加されておられる。
「妖精族と同じように住処などを隠されているんですね」
「その通りです。
まぁ民に隠す理由としては妖精族とは真逆に近いものですけれどね。
双方が平穏な生活を送る為に必要なのですよ」
「龍はやっぱり凶暴とかですか?
それとも性欲が凄まじいから隔離しているとかですか?」
どこでだか聞いた話になるけど、
龍は性欲がすごくて色んな種と混じり合ってしまうとか。
その結果、龍の住処は環境汚染がひどく、
龍のなり損ないがそこら中を跋扈しているとか、
そのくせ元の生物より強くて厄介だとかとかとかとか。
「怒らせれば凶暴ですけれど、
我が国にいるのはブルー・ドラゴンとその眷属のアイス・ドラゴンです。
どちらも穏やかな性格をしていますから子龍に手出しでもしない限りは怒りません」
「ブルー・ドラゴンとアイス・ドラゴン・・・。
全く知りませんでした・・・」
「龍は繁殖力が低いので数が増えづらく、
現在はアスペラルダ領に7つのグループがあります。
その龍の力を借りることが出来れば、宗八が望む魔石が手に入ると思いますよ」
* * * * *
龍の力で魔石を手に入れるとかどのような方法なのだろうか?
ドラゴンと言うからには漢字で表せばアクアの[竜]ではなく[龍]でいいのかな?
「龍・・・という事はアクアちゃんの様な・・・」
『はぇ・・?』
「アクア、眠いなら歯磨きだけして布団に潜っていなさい。
お前等ももう眠くなってるだろ。
アクアと一緒に部屋に戻っていろ」
『すみません、お父さま。そうさせて頂きます』
『ふわぁぁぁぁ~ぁああ。ニルも眠いので言うとおりに致しますわー』
ウトウトしていたアクアは、
アルシェに呼ばれたと思って顔を上げた。
しかしその小さなお口にはしっかりと涎が垂れかけている様子が見えたので、
他の眠たげに目を擦っていた二人と一緒に先に寝ているように指示を出す。
「あらあら、もうこんな時間ね。
ちょっと子供がいるのに長話をしちゃってごめんなさいね」
『うんう、だいじょうぶ。
じゃあ先に戻ってるからね、ますたー』
『お先に失礼します』
『おやすみなさいですわー』
「はい、おやすみなさい」
「また明日も一緒に食べましょうね」
「暖かくして眠るのだぞ」
誰が誰を引き連れているのかもわからないぞろぞろとした動きで、
三人の外へと向かう背中にその場にいる全員がおやすみの声を掛ける。
部屋の外には兵士もいるし、
給仕目的以外にも歩き回るメイドさんもまだ多数いるから、
誰かが送り届けるだろう。
精霊達の退室で空気の弛緩はすぐに引き締まり、
話は再びアルシェの質問から再開される。
「さっきの続きですけど、お母様。
龍はアクアちゃんのような姿なのですか?」
「いいえ。アクアのアニマル形態でしたか?
あの長細いフォルムではなく、
脚はもっとしっかりしていますし大きな翼もありますよ」
アニマル形態のアクアは神秘性を帯びた鰻みたいな態で、
見た目でわかる手や脚は無いのだが、
水竜を目標に取ったアニマル形態だけありヒレがいくつかあるので、
そのいくつかが手足の役割を担っている。
「アルシェ。俺の世界ではドラゴンは大きく分けて2種類居るとされていてな、
東洋竜が自然災害が生物の姿を取ったと言われるアクアのような姿で、
西洋龍は災害級の凶暴性を持って恐れられる王妃様が仰られる姿をしている」
「では、私たちの世界の龍とは天災のような強さを持った生物なのですか?」
「確かに強さの点では大きく外れては居ませんね。
しかしレッド・ドラゴンならいざ知らず、
ブルー・ドラゴンやグリーン・ドラゴンは温厚ですし、
アンバー・ドラゴンは思慮深く話を聞いてくれますから、
先にも伝えたとおり眷属や子供に害がなければ動きません」
「龍の話は分かりましたが、
その龍と魔石の繋がりとはなんですか?
流石に龍が持つ魔石を確保するなんて事ではありませんよね?」
そんな伝説上の生物と闘うなんて、
俺の希望を叶える為に必要だったとしても逆に諦めるわ。
まぁ遠目から見てみたいなぁというワクワクはあるんだけどね。
「龍はね、人間のように食事をする必要がないんだ。
精霊達と同じで属性に適した魔力を取り込んで生きているんだけれどね、
なんとその魔力が身体の中に溜まっていくと最終的に排出されるんだ」
「排出?過剰摂取になって吐き出すと言うことですか?」
王妃様との話し合いの合間に時折王様も居るんだよとアピールするかのように、
話の切れ目に補足説明を入れてくれる王様。
その説明の中で口にされた排出という単語にアルシェが俺と同じ考えにいたり、
その旨を俺よりも先に王様へ質問する。
しかし、その回答は少し斜め上にいってしまった。どこいくねーん!
「いやいや、排出は言葉通りだよ。
生物が食事を食べる、必要な栄養素を身体に吸収する、そうなると残りカスはどうなるかな?」
「ちょっと、いまは食事中ですよ。
そんなわかりやすく伝えるのは止めて下さいな」
「ははは、これは失敬」
アルシェと顔を見合わせる俺はその瞳から再び同じ回答に行き着いたことを悟る。
つまり・・・王妃様が話してくれた魔石とは龍の○んこ。
○んこかぁ・・・、某ネトゲサバイバルの話にその鉱石を使って武器を作るってのがあったなぁ。
「もちろん、摂取する魔力の質によって排出される魔石の純度に違いが出ます。
ですが、詳しい摂取については私も把握していないのでそこは直接確認されるしかないわね」
「水精王でも龍の生態に詳しくないのですか?」
「龍は精霊ではありませんから、
属性が一致したからといっても私と繋がりがあるわけでもありません。
それに親しいわけではありませんからね」
如何な水精王でも、
精霊とは別種の生物の頂点に君臨する龍とは接触することは出来ず、
特に交流があるわけでもないらしい。
ただ、その付近に住む精霊に聞いて住処だけは把握してるという態のようだ。
「そのドラゴンは自然魔力の噴出スポットに住んでいるのですか?
あれは高濃度過ぎてとても生物の身体に合うとは思えませんが・・・」
「流石の龍もあれは摂取しませんよ。
薄まった少し濃度の高い魔力を摂取しているだけかと。
そういう魔石でも宗八の望みは達成できるかとは思いますが、
本体の水精王の見解としては自然魔力で排出された魔石よりも、
宗八自身の魔力で排出された魔石の方が良いだろうとのことです」
それに関しては水精王の意見に同意する。
属性一致というもは前提条件だが、
俺が使った魔法に一番合うのもやはり俺の魔力で出来た魔石なのだろう。
つまり俺専用のアイテムとなれば効率も良いはず。
その点はアクア達の核と一緒だな。
「じゃあノイを回収した後はドラゴンの住処に向かうことにしようと思います。
2~3日は少しのんびり城で過ごしてからですけど・・・」
「念の為、水精に伝言をしておかせます。
危険はないかとは思いますが、
話だけでも聞いていただけるように場を整えておきましょう」
「ありがとうございます」
「龍の住処には私も着いていってもいいでしょうか?」
「ダメと言っても着いていくのだろう?
止められるとは思っていないしこの経験がいずれ活きると信じている。
宗八には負担を掛けるとは思うが・・・」
「いつもと一緒です、全身全霊でアルシェは護ります。
でも、俺の戦力アップに必ず繋がるとも限らない危険に晒すのは・・・」
「それも今更よ宗八。
成人の前にここまでの危険を経験し抜けてきたアルシェと、
1年間護り通した自分を信じればいいわ。
私たちは、すでに振ってしまった賽を無駄にしないために行動しなければならないのよ」
そう言ってアルシェの同行を認めるお二人の強い言葉は、
視線を合わせた瞳からも感じることが出来た。
確かに魔族は魔神族を、
人間は勇者を召喚してしまった時点で互いに引くことは出来ないのだろう。
「申し訳ありません。余計な事を言いました」
「何がどう転ぶかなんて誰にもわからないだろうし、
わからないなりに宗八やアルシェは旅を続けて色々と変わったのだと思っている」
「私たちにははっきりとわかる部分とわからない部分。
我が国の益になる情報であったり、
世界の益になる行動であったり・・・。
貴方たちを知っている人の中にはもうほとんどと言っても良いでしょう。
行動を阻害しようとは思わない」
「今後にどう影響するかわからなくて、不安で何もしないよりも。
まずは飛び込んでみるという勇気を私たちは思い出させてもらった。
だからアルシェも宗八も好きに行動しなさい。
君たちはアスペラルダが行う最後の足掻きだ」
「私たちは貴方たちの行動を全て肯定致しますから・・・」
危うく泣きそうになった。
体中に万感の想いが駆け巡った。
始まりこそ大いに困らせたことだろう。
勝手ながら旅に出て力になれるかもと思い上がっていた。
一人娘のアルシェが着いていくと言い出してどれだけ悩まれただろう。
ひょんな事から王様と王妃様の想いを聞くこととなった俺は、
ずっと胸に引きずっていたアルシェを連れ回す申し訳なさや、
力不足に迷惑で勝手な行動に・・・謝罪をしたいと思っていた。
それが行動だけでなく言葉にして認めてくれていたとわかった。
「ありがとう・・・ございます・・」
「感謝はいらないよ宗八。
私たちは自国を護るために動けないし将軍たちも長く旅立たせるわけにはいかない」
「実際、キュクロプスの自然発生以降、
高ランクモンスターがどこからともなく現れています。
それらの討伐には冒険者でもレベルや戦闘力で選別を進めない限りは将軍が動きます。
ダンジョンのような限られた空間での戦闘ではないので、
被害がほぼ毎度出てしまうのです」
「そんな訳で我がアスペラルダは全面的に、
そしてユレイアルド神聖教国は前向きに、
アルシェと宗八の活動を正式に支持する方針を取ることなった」
アスペラルダはもともと王制のため、
王様が決めたのであれば臣下は全員従うのが常であるが、
俺たちの行動に対しては少数であることや情報の重さなども考えると、
納得はしても理解が追いつかないこともあった。
そうなると、兵士の中には不安を抱えることとなり、
足並みの揃った作戦行動などは難しくなる。
それこそ俺たちの持ち帰る情報は正しいと皆が理解をしなくとも、
信じてくれる必要があった。
「私が言うのも問題あるかと思いますけど、
臣下の皆はご理解頂けたのですか?」
「方針としては私たちが定めた。
しかし、他にも将軍が話をしたり、
アルシェたちがどのような戦闘をしたのかなど説明も進めた。
まぁ、最終的な決定力はマリエルだと聞いているがね」
「マリエル?」
あいつが何かしたのだろうか?
城に来てからというものほとんどアルシェに任せっきりだったし、
報告では訓練マシマシ、魔法少々と聞いていた。
「彼女・・・強いですね」
「まぁアルシェの近衛に残すために鍛えていますから・・・」
「それを踏まえていたとしてもです。
朝は宗八と魔法の訓練をしていて、
その後も昼過ぎまで色んな部隊の兵士と模擬戦を繰り返し、
魔法も魔法兵よりも理解を深めている」
「当然ですね」
王妃の説明にアルシェも肯定を示す。
当然と。
それが俺たちのライフスタイルで、それでも足りないと思っている。
あいつらと事を構えて生き残る努力は続けなければならないからだ。
「その当然を毎日真剣に行い、
口癖は姫様と隊長に追いつかないといけないからですからね。
本人にその意思はなくとも、
そのような姿を色んな部隊で見せては全員が将軍達の話が実話なのだと・・・、
現在起こっている事なのだと信じる事に繋がったようです」
「天然ですから考えての結果ではないでしょうけど、
今度褒めておこうかと思います」
「そうしてあげなさい。
ユレイアルドの教皇からも連絡を頂いていてね、
フォレストトーレへの遠征には参加する。
その状況を自身の目で確認してからどうするかを決めたいとのことだ」
「それは私たちにも言われていましたね、お兄さん」
「あちらは王制ではありませんからね。
でも十分協力はしていただける状況だと思います」
神聖教国は勇者と聖女、さらにアナザーワンが数名居る。
戦力としては手助けも必要ないほどだと思っている。
見て貰えれば今後の協力も頂ける確信があるため、
もう俺たちがユレイアルドへ顔を出さなくともアスペラルダと手を結んでくれるだろう。
「ただ、残念ながら火の国は魔族との戦争が起こっている前線のため、
参加は難しいと解答をいただいた。
まぁ、あちらの言い分はその通りであるうえに、
前線以外の問題に関しては他4国で対処するという契約だからこれは仕方ない。
土の国は参加してくれるから3国での作戦となる」
「少し大げさかもしれないけれど・・・」
「いえ、お母様。
瘴気の濃度や禍津核モンスターや魔神族を考えれば、
如何に王都1つといえど1匹たりとも逃がすわけにはいきませんし、
兵士の全員が全員戦闘が成立するとも思えません」
「倒しても瘴気が残りますし、ランクも高い。
数も60万以上と考えると魔法も必要になるのに、
オベリスクで使えません」
「考えるだけで頭が痛くなるねぇ・・・」
全くである。
勇者といえども逃れることの出来ないオベリスクの効果をどうにかしたい。
どうにかしたいのに強力な障害が多すぎて本当に嫌になる。
「まぁ、その辺はうまく調整していこう。
魔法ギルドからの進捗報告に期待は残しているからね」
「そういえばカティナにオベリスクの研究も任せていましたね」
「何かオベリスクの特性を掴んでいてくれればいいんですけど・・・」
それによっては俺たちの動きもかなり変わってくる。
一度進捗確認をしてみるかな。
この日の夜、以降は雑談をして終わりを告げた。
王妃様からは龍の巣を調べてみるとお言葉をいただき、
その情報をいただいてから移動を始めることに決まった。
さて、明日はノイとの再会だ。
おそらく色々と文句を言われるだろうから、
その辺は覚悟しておかないとなぁ。
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