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第09章 -奇跡の生還!蒼き王国アスペラルダ編Ⅲ-
†第9章† -15話-[鉱山町アイアンノジュール]
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夜は明けてさらに時間は一気に夕方まで進んだ。
『そろそろ着きますよ』
「流石に・・・あ”あ”~。
8時間は辛い・・・ふわあああぁぁぁ・・ぁぁああ・・・」
『それでもかなり楽になる移動なんですよ?
まぁ確かに辛いには違いありませんけど』
『ネルレイン。この後はティターン様との謁見だぞ。
自身の身を整えておきなさい』
『わかっております、パラディウム様。
流石に私も王の前での粗相はしたくありませんから』
『水無月さんもよろしいですか?』
「地脈移動が終わったらうちのメイドを喚んで整えてもらうので大丈夫です」
『わかりました』
それから時間もさほど掛からずに我々は目的地としていた土の国にある町。
アイアンノジュールへとたどり着いたのだった。
「《召喚》クーデルカ!」
『次女クーデルカ、お父さまのお喚びに参上致しました!』
誰もいない方向を向いて出現したクーデルカは、
すぐにカーテシーのポーズを取って先の口上を述べ始めた。
「何それ?」
『お姉さま達と相談をして、
お父さまに喚ばれた時にお父さま以外の方が居た場合を想定して、
お父さまの威厳を表す為にそれぞれが先のような言葉を言うことにしたんです』
また精霊会議で決まったことらしい。
「誰かいるときは念話で教えるぞ?」
『いえ、それでは身につきませんから。
いつも誰か居ると想定することが大事なのです!』
みんなで決めたことらしい。
じゃあついでだし、他も喚び出してみるか?
「《召喚》アクアーリィ」
『も~飽きたよぉ~!』
『お姉さま、召喚ですよ』
『はえ~?あ!
長女アクアーリィ!ますた~のお喚びにただいま参上!』
突然念話での事前告知もなく行われた召喚にアクアは気づかずに、
おそらくスィーネへ愚痴を溢したのが先のタイミングだったのであろう。
クーのプロンプトで召喚が実行されたのだと認識して、
大慌てで口上を述べて決め顔をしたアクア。
そのままスッ・・・と姿を消して送還された。
『(ますた~!今のは違うの~!)』
「(いや、別に言い訳するものでもないし、
俺もいきなり喚びだして悪かった。修行頑張れよ)」
『(・・・あい)』
なんか意図せずアクアをへこませてしまったらしい。
この召喚は前触れもなく喚びだしてしまう為、
対象の精霊にはきちんと伝えておく必要を改めて心に刻み込む。
なぜなら俺のひょんな思いつきの所為で、
戻ったあとにアクアのフォローをしなければならなくなってしまったからだ。
力ない返事をするアクアの声を聞いて後悔をした。
『お父さま、準備完了です』
「クー、ありがとう。
じゃあアルシェを連れてくるかな・・・」
『かしこまりました。
《セーフティフィールド》セット:ガルヴォルン』
「《解錠アサイン:アスペラルダ城》」
魔法を吸い込む奔流によってアスペラルダ印のされたマントが翻り、
目の前のゲートも魔法に反応してその口を大きく広げていく。
繋げたのは俺の部屋に設置されたゲートだ。
兵士を移すことを措定しているゲートとは別口で用意している方だ。
「ほとんど時間通りでしたね」
「いらっしゃい、アルシェ」
『足下に気をつけられて下さい』
「姫様だけじゃないんですけど、隊長?」
「私はあくまで侍女として同行させていただくだけでございますが・・・」
「はいはい、マリエルもメリーもいらっしゃい。
見聞を広める為に同行を許したけど、
あんまりウロウロ出来ないからな」
別に連れてくる必要もないと始めは考えていたけれど、
動きの確認を朝のうちにしている間に同行を希望してきたマリエルとメリー。
まぁ、気候や地形などの前情報があれば、
こちら方向に旅を進める際に何かの参考になるかと思い直して連れてくることとした。
『ようこそおいで下さいましたアルカンシェ姫殿下。
私はティターン様から案内を仰せつかっておりますパラディウムと申します』
『同じくネルレントと申します。以後お見知りおきを』
「はい。お二人共、案内よろしくお願いします」
彼女たちがこちらへ渡ってくる事は出発前に彼らに知らせていたため、
驚きや戸惑いと言った無駄な時間を通過することなく丁寧な名乗りをする土精二人に対し、アルシェも今回は脇役という事もあって軽い返事で済ませる。
『お父さま。皆様が合流しましたしクーは帰ろうかと思います』
「あぁ、そうだな。帰りにまた喚ぶからな」
『わかりました。メリーさん、あとはお任せします』
「かしこまりました」
ゲートを一旦開くために喚びだしたクーはアルカトラズ様の元へ戻っていき、
到着地点からようやっと俺たちは土精の案内で移動を開始した。
ちなみにアルシェは主として挨拶をしたが、
マリエルとメリーはアルシェからの紹介がなかったため、
静かに先を歩く俺たちの後を黙って着いてきた。
「アイアンノジュールってこんな所にあるんですか・・・?」
「こんな所とか言うな。
草木は少ないし山も多い山岳地帯に町を作るって大変なんだぞ」
後ろからテテテと近寄ってきたマリエルはアスペラルダ領内では見たこともない、
高低差のひどい立地と建築を目の当たりにして思ったことをそのまま溢しやがる。
『町作りに直接精霊が関わっているわけではありませんが、
妖精は幾人か鉱山の掘削に参加しております』
「元はどの程度の規模で始められたのですか?」
『アイアンノジュールは鉄の鉱脈が国内で始めて見つかった鉱山町でした。
始まりこそ町とは呼べない集落・・・いえ、
労働者の集まりでしかありませんでしたが、
山を削り人が住むことの出来る土地に徐々に徐々に変わっていきました』
「へぇ~、すごい歴史を感じますねぇ~」
アルシェの質問に丁寧に答えてくれるパラディウム氏の説明に、
何故か再び口を開くマリエル。
もう・・・なんていうかね・・・。
「・・・あっ!?」
俺の無言の視線を受けたマリエルは俺の視線に含まれる「黙ってろ」を正しく理解し、
きまりの悪い顔で可愛らしく両手の人差し指で口元にバッテンを作る。
うむ。
マリエルは異世界人の俺よりも軽口を開きやすい。
田舎者だからか教養が足りないからかは知らないが、
近い将来あいつには必要になる礼儀を城で教えて貰えるように指示を出しておこう。
「お兄さんは逆にもう少し思ったことを口にしても良いと思います」
「ご主人様の表情は初対面では読めませんしね。
ちなみに今は興味深いと考えておられます」
『素晴らしいチームワークですね。
私なんていつもパラディウム様にこちらの動きの先を考えろと怒られていますよ』
『そ・れ・は・・・っ!
お前がいつも作業途中で思いつきの別行動を取るからだろうがっ!』『あいちっ!?』
パラディウム氏の愛の拳骨で戯れ言を黙らされるネルレントさん。
俺もあれくらいの体罰はしてもいいよな?
チラリ。
「・・・っ!っ!っ!」
嫌だそうだ。
全力で首を横に振って嫌だ嫌だと意思表示するマリエル。
しかしな?お前の脳天気さにニルの脳天気が合わさってみろ。
面倒くさがりの俺がいちいち叱るのは嫌なんだぞ?
アルシェの近衛として今の失言の多さは如何かな?
「・・・・っ!?あ・・・あ・・あぁ」
というメッセージを込めた視線で睨め付けると、
一瞬で青い顔へと変化して視線は徐々に足下へと移り、
身体も脱力していく。
「ご主人様、殺気が漏れております」
「悪気はないのですから怒りをお納め下さいお兄さん。
このままではマリエルが泣いてしまいます」
「な、泣いていません!
隊長のゴミを見るみたいな冷たい目が怖いだけですっ!」
「ははは、弟子をゴミみたいに見るわけ無いだろ。
どうやって罰を与えてやろうか少し考えただけだよ・・・」
「ヒェ・・・。姫様ぁ~っ!」
「はいはい、よしよーし。
マリエルはここにいる間は見学だけに留めて、
怒らせる口は開かないようにしようね」
俺の殺気なんて1年の間で磨かれただけで吹けば飛ぶ程度のもんだぞ。
魔神族の殺気なんぞ食らってみろ。
泣く事なんて出来ずに漏らすぞお前。
* * * * *
鉱山町アイアンノジュールは流石は名の通りに、
筋肉ムキムキのマッチョマンがそこら辺を闊歩している町であった。
腕は丸太の如く太(ふと)ましく、
水源が少なく陽の照り返しの強い土の国特有の褐色肌。
俺の世界で言えば南米に置換される土地なのだろう。
「やっぱ掌は普通の色だな」
「え!?あ、本当だっ!」
「マリエル、そんなにじっと見ないの。
見るにしてもさりげなく見なさい」
「すみません、姫様」
「マリエル様、本日はお口を縫い合わせますか?」
「メリーさんも怖いこと言わないで下さいよ!ごめんなさい!」
マリエルという名の田舎カエルは、
俺の言葉を聞きつけて側を歩いてきた鉱夫をガン見した結果、
視線に気づいた鉱夫のおっちゃんに全員で会釈をして謝罪の意を示すこととなった。
俺はもう面倒だと思って何も言わなかったけれど、
小さな声でアルシェが注意をしてメリーも続いて裏打ちをするような台詞でアルシェの品格の為にも黙っていた方がいいと促す。
『時刻としても丁度坑道が空く頃合いですね』
「坑道に入ったら目を瞑ったほうがいいですか?」
『いえ、今回はティターン様から許可をいただいておりますから、
そのような事を気にせずとも大丈夫ですよ』
今回は土精王ティターン様からの招待となる。
称号やノイ繋がりや精霊使いという観点から、
普段はアルシェが表に立ち俺が控えるのに今回は俺が矢面に立つこととなっている。
別に礼と言っていたしあの場にはアルシェも居たので誰でもいいとは思うのだが、
どうも誘拐からの置き去りを食らった張本人であるノイの証言から俺を生け贄・・・もとい、代表として扱う判断をされたようだ。
迷惑この上ない。
面倒くさい。
あとでノイを苛めてやるんだ。
『ここからは足下も不安定になりますからお気を付け下さい』
「わかりました。お前等注意しろよぉ」
「はい」
町に入ってからは土質なども固めであるにも関わらず、
ちゃんと整備も進められて歩きやすいように敷物がされていたりもしたが、
パラディウム氏の注意喚起を受けた場所からは山へと入る道となるようで、
まだまだ整備も進められていないらしく足裏には地面の凸凹を感じる。
アルシェは続く俺の喚起で返事をした直後に、
スッと自然に腕へと絡ませ自身の安定を図ったが、
マリエルもメリーも振り返り様にコクリと頷くだけであとは多少腰を落とす程度に留めていた。
「手を繋いでもいいぞ?」
「いえ、こちらの方が私が好きなので、
手は次の機会におねがいしますね」
「そか」
まぁ支えに使う程度の絡まりだし重さや動きづらさは感じない。
アルシェ自身がこの程度なら背後に続くマリエル達と同じく、
多少腰を落とせば俺なんぞ必要としないだろうに、
最近スキンシップが足りなかった所為か寂しがってくっついて来たんだろう。
「これは見事な景色ですね。
町長はこの町をどのくらいまで拡大するおつもりか伺っていますか?」
『あ~その辺については隠れて共生をしているようなものなので、
話を伺ったことはないんですよ、申し訳ありません。
ただ、拡張は以前に比べると進みは遅くなりましたし、
整備を進め始めたのでそろそろ町としての拡大は終わる目処を立てているのではないでしょうか』
「そうですか、ありがとうございます」
山を人の手で切り崩して家が建てられる程度の段々を作って、
そこに山で取れた鉱物を加工して建てられたと思われる家は、
無骨で狭いながらの家がいくつも見下ろすことが出来た。
贅沢は出来ないけれど、
冒険者や兵士のような危険もなく稼げる仕事の一角として確立している鉱夫は、
他国でも人気の仕事であるため労働者には事欠かないらしい。
確かに武器を持つモンスターだってダンジョンにはいるし、
それこそ自分よりも何倍も大きな身体を持つモンスターもいるだろう。
そのような敵の攻撃の恐怖を克服出来なければやっていられない。
鉱夫を選んだ方々は自分と向き合って自分に合う選択をしたということだ。
拡大は終わりの兆しは見えては居ても、
まだまだ危険なスポットなどがあるのだろうし、
生活をしやすくするための整備の仕事はごまんとあるはずだ。
「傾斜も緩やかで歩きやすいですね」
「急な坂道だと掘り出した鉱石や土砂の運び出しも大変だしな。
こういう細かな作りにしとかないと後が大変なんだよ。
道幅も広いし、アイアンノジュールで働く鉱夫は結構大事にされているみたいだな」
鉱山町としては当然メインの職業となるのだから、
過酷な職場環境では稼ぎが良くとも長続きしないだろう。
こういう労働者の為に惜しまない金と時間の使い方の結果で見た結果、
この町の町長は現時点では人の良い方という認識になった。
そこからも更に山を登って10分くらい進んだところで小さな社の前で足は止まった。
「こちらは・・・四神。
土の神を祀っているのでしょうか?」
『鉱夫達の間で流行っているのですが、
仕事をする前に一度こちらで土の神へ安全を祈願してから始めると、
その日の仕事の事故率が下がるらしいんです』
「安全を願うことは大事です。
心持ちが違ってきますから、ひとつひとつの作業を丁寧に出来るのでしょう」
「そんなもんですか?」
「そのようなものです。マリエル様も何かするときは、
心の中で誰かに祈っておいた方が生存率は上がるかと思いますよ」
ジャリ・・・。
皆が見慣れない社の外観や意味を話している間。
俺は足下に広がる砂地に興味を向けていた。
今まで土砂や岩が多くあったなかに足下のような沈み込みをする砂は見なかった。
「・・・足を止めたという事は目的地に着いたということでよろしいんですか?」
『それもチームワークですかね?
アルカンシェ様と侍女の方が社に注視している間は、
水無月さんとお弟子さんが周辺に目を向ける。
目的地という意味でも正しいですし、水無月さんの的は外れていないかも知れません』
「??足下?」
「町や山に入ってからも初めてここまで足を取られやすい砂はなかったろ。
たぶんだけど、この下に潜った先にティターン様が・・・いや、
ティターン様の分御霊が居られるんだろう」
『おぉー!流石は精霊使いですね』
どちらに向けてという訳ではない質問に回答してくれたのはネルレントさん。
止まったという事は目的地もしくはこの場所を経由しなければならないという推理だし、
人の身で四神の本体に簡単に会えるとは思っていない先入観。
そして社にアルシェと共に注意を向けなかったのは、
この程度の社であれば日本にはいくらでも見かける機会があるからだ。
流石と言うことはない。
それよりも精霊から向けられる、
精霊使いは有能みたいな期待を間違いであると修正したい気持ちでいっぱいだ。
『人に見られないうちに移動しようかと思います。
皆様よろしいですか?』
「砂は身体に残りますか?」
『いえ、地脈移動の応用になりますからそんなことはありませんよ。
この砂地なのは細工がしやすいからという理由ですし』
「わかりました、大丈夫です」
「パラディウム氏、よろしくおねがいします」
『では、移動開始します』
パラディウム氏主体で行われた移動方法は、
確かに地脈移動や水脈移動と同じく魔法の膜に覆われてから徐々に砂に沈みこんでいく。
それでも遠くへ移動ではなくかなり深い地中に向かうとはいえ時間は1分くらいで目的地へと到着したのであった。
* * * * *
地脈移動中は魔力の膜に覆われている状態なので、
常に視界は黄色基調で確保されているのだが、
目的地は地中ということもありダンジョンではない2点から、
着地した場所の視界は0であった。
とはいえ、気配で誰がどこにいるのかはわかるし、
空気を制御力で混ぜればどのような形をした場所にいるのかくらいは自力で把握できる。
「すみません、視界を確保したいので光源を出しても大丈夫ですか?」
『あっ!配慮が足りませんでした。
普段土精以外が足を踏み入れる機会がないので失念していましたね。
松明をつけられますか?』
「いえ、魔法で光球を出すだけです」
『わかりました、それであれば結構ですよ。
一応爆発する空気は漏れていないことは確認済みですから、
光球であれば問題はありません』
爆発する空気ってことは天然ガスは存在するって事なのか。
だからといって生活に組み込むことなぞ俺の知識では行うことは出来ないし、
天然ガスってことは匂いもないから危険だよね。
クレアから[ライトボール]を教えてもらっていて良かったわぁ。
「お前等目は瞑っていろよ。
開きっぱなしだと眩むからな、少ししてから開けよ-」
「はい」
「了解です」
「かしこまりました」
「《ライトボール》」
もともと俺の左腕に絡まっているアルシェはともかく、
地中に到着した瞬間に真っ暗だと認識したマリエルは素早く動き、
片方の手は俺の服を掴み、もう片方の手でメリーを確保していた。
まぁ、この程度は出来てくれないと困るがな。
俺の脇に出現した光球は明度を自動で調整し、
眩し過ぎず目に痛くない程度に収まったのを瞼越しに確認してから目を開くと、
少し広めの広場のようなところに自分たちがいることが判明した。
アルシェたちも次々に視界の回復を果たしたらしく、
手足と身体の感覚を確認し始める。
『どうかされましたか?』
「どのくらい深いのかわかりませんが、
地上にいるときに比べると身体が重く感じるんです。
なので動作確認をしているんです。少しだけ待って下さい」
視界が回復したことと足下も凸凹が無くなり歩きやすくなっていたため、
アルシェとマリエルは俺から離れてそれぞれが意思疎通することもなく自身の身体を向き合う時間を取り始めた。
その事でパラディウム氏に質問をされたが、
土精にとっては実家のような安心感である重力と暗さかもしれないのだけれど、
俺たち人間にとってはこの暗さも重力も多少重く感じる空気も多少の不安を与えるには十分なものだった。
それらを払拭するためと、
自衛は可能かという確認を終えたアルシェ、マリエル、メリーがそれぞれ俺に視線を向けて大丈夫であることを伝えてきた。
「はい、お待たせして申し訳ありませんでした。
案内の続きをお願いします」
『わかりました。では、ご案内します』
『緊張しなくてもティターン様が招待されたのですし、
お優しい方なので大丈夫ですよ?』
「それは理解していますけど、
初めて訪れる場所と環境ですとどうしても緊張はしてしまいますよ。
ティターン様の為人も初対面なのでわかりませんしね」
『そんなもんですか・・・』
『お前は緊張とは無縁かもしれないが、
普通は水無月さんの言うとおり緊張をするものだぞ』
ネルレントさんは体こそアルシェよりも大きく見えるのに、
精神的にはマリエルやニルと同類の気配がする。
同じように苦労しているであろうパラディウム氏に同情の念を感じざるを得ない。
通路は先の場所からなおも奥に進み、
緩やかではあるがゆったりとさらに地下に潜っているらしい。
階層的には2階分くらいを下った先に先ほどの小広場とは違う大きい広場に到着した。
浮遊精霊は見えないようになるフィルターを外すと大勢がいることが視認出来、
部屋の奥に鎮座されておられる巨人?へと続く中央には寄りつかないように端の方へと固まっている。
その中央の道を躊躇いもなく歩みを進めるパラディウム氏達に続いて、
俺を先頭にアルシェ・マリエル・メリーも後を追い、
やがて見上げねば顔を見ることも出来ない大きさのティターン様の前へとやってきた。
『パラディウム。精霊使い水無月様を連れ、
戻って参りました』
『同じくネルレント、戻りました』
バッ!と人間の国と同じように、
土精王の前に跪く土精2人に合わせて俺たちも遅れずに膝をつく。
人間に比べると些か簡素な報告を耳に流しつつ、
土精王の動きに気を配る。
2人の返答はいつもの位置よりもずっと高い場所から降ってきた。
『パラディウム、ネルレント。二人ともご苦労であった』
『『勿体ないお言葉、ありがとうございます』』
重厚。その一言に尽きる声音は男性の物だ。
一応遠目から見ていた限りではゴーレムみたいな体をしていて、
服は纏っていなかった。
さらに言えばチ○コも付いていなかった。
だから、体はデカくても実は女性体なのかもと思ったりもしたけれど、
結局は大きく逞しい体に見合った声音である意味安心した。
モスキート音みたいな声で喋られると威厳がないからな。
『水無月宗八』
「はっ!」
『お主がノイティミルのマスターで間違いないか?』
「正しくは本契約を交わしていませんので仮マスターでありますが、
この後に正式な本契約を予定しております」
『うむ。面を上げよ。連れもな』
土精二人は跪いたまま俺たちは、
ティターン様の声に従いゆったりとした動きで顔を上げる。
すると、驚くことに先の見上げねばならないほどであった体は消え失せ、
そこには人よりちょいと長身な程度の男性が服を着て座っていた。
横幅も人の幅に収まっているため、
鎮座されておられる椅子にちょこんと座っているみたいで多少かわいく見えてくる。
『ふむ。皆、良い面構えだ。ノイティミル、前へ』
『はいです』
一通り俺達の顔を見回したティターン様は無駄な会話などはせずに、
すぐに椅子の脇に控えていた小さな砂トカゲの名前を呼ぶ。
呼ばれたトカゲは聞き覚えのある声で返事をし、
その場で浮かびあがって恭しく椅子の前へと姿を現した。
懐かしい姿に安堵して鼻息が漏れる。
しかし、そのままヒュー・・と前に進むのを止めずに、
どんどんと俺たちに近づいて来て・・・。
ビタッ!
と俺の顔に張り付きやがった!
『ノイティミル・・・、一旦戻ってくれるか?』
『拒否するです』
土精王の優しくも困惑した声での指示にもNOと言うノイは、
サササッと動いて俺の頭の上へと移動する砂トカゲ。
土精王の手前なので俺もどう対処すべきかちょっと困るぞオイ。
『ボクは王の庇護下にすでに無いです』
キリッ!とした顔でそんな事を宣うノイをこのまま放置していては、
俺たちの心象は良くないだろう。
「ティターン様。今から少しの間、目を瞑っていてもらえますでしょうか?」
『・・・あいわかった』
俺の意図を察したのかはわからないけれど、
お願いを承諾してくださったティターン様。
別に本当に目を瞑ってくれというわけではなく、
失礼をぶっこくからお目溢ししてくださいねという意味だから、
ティターン様も俺の動向をただただ静かに見守り始めた。
『にょわっ!何をするです!マスター!ちょっと!あーっ!』
突然ぐわしっ!と握られたノイから抗議が上がるが知ったことではない。
「うるさい!お前は様式美とか知らんのか!
土精王との初顔合わせでこちとら緊張してんのにお前が勝手してどうすんだ!」
『マスターはボクに会えて嬉しくはないんです!?』
「嬉しいは嬉しいけどな、順番ってのがあるんだよ!
今は俺との契約もないんだからティターン様が親だろうが!
ちゃんと言うこと聞かんかっ!」
『は、半年・・・半年以上待ったです!
まだ待てというですか!』
「あと数十分くらい待てよ!
今後は土精王に会うのも故郷に戻る機会も少なくなるんだし、
俺たちとはこの先結構一緒なんだから!」
『結構っ!?結構ってなんですっ!?』
くっ・・・細かい奴めっ!
ジタバタと手の中で暴れるノイは、
あれ?こいつこんなにガキっぽかったか?というくらいに暴走をしていた。
それに見かねたアルシェが後ろから助言をくれる。
「お兄さん、先に契約をしてはどうですか?
ノイちゃんはきっと不安なんだと思います。
ずっと口約束の形で迎えに来るのを待っていたわけですから・・・」
『ぐぬぬ・・・』
どうしようか。
別に先に契約して大人しくなるのであればすぐにしても構わないと思っている。
どうせ遅かれ早かれ契約はするのだからな。
しかし、問題は現在の親役は土精王なのだろうから、
許可を頂いたりアルカトラズ様の時のように眷属を託されないと契約は出来ない。
不安そうな顔のノイをしばし見つめ合いながらどうしようか悩む。
いまのノイとは繋がりがないため、
他の契約精霊達のように何を考えて何を思っているかなどの機微が全くわからない。
『・・・これは独り言なのだが』
なんだ?ティターン様がいきなり独り言を言い出した。
あまりの茶番っぷりに飽きてしまったか?
『ノイティミルは初めこそ私の庇護下にあった。
しかしアスペラルダにて仮契約が行われた折に私との繋がりは上書きされ途切れた。
その後上書きされた繋がりは解除された為、
現在のノイティミルは誰の庇護下にも入っておらん』
「拠り所が無い・・、ということでしょうか?」
独り言にアルシェが独自の見解を溢す。
『私も精霊使いに出会うのは初めてであるし情報は少ない。
仮契約というものも初めて聞いた。
つまり、仮契約の特性を理解していなかったのだ。
私と再会出来た時点で庇護下に加えることは出来たのだが、
ノイティミルはマスターが迎えに来るからとそれを拒絶した。
それからは庇護の繋がりのない生活を半年以上だ。
幼い精霊がその間無意識に安心感を覚える繋がりがないというのは、
想像だにしないほどの不安があるはずだ』
「それノイの自業自得じゃないのか?
連絡したときにでも庇護下に入るかどうかの相談をすりゃ良かっただろ」
『・・・・』プクッ
トカゲが器用にホッペを膨らませてはぶてている。
なんか言えや。
ホッペを潰すとプシュッと音をさせて萎んだ。
「・・・それなら納得して少し大人しくするか?」
『・・・ん』コクリ
相も変わらず意地っ張りだな。
甘え下手というかなんというか・・・、
これがアクアなら寂しかったとか自分の意思をちゃんと伝えてくるだろうけど、
ノイは出会った時からこんな性格だったなぁ。
はぁ・・・。
「ティターン様、重ねるご無礼に容赦ください。
流れと交わす言葉の順序が変わることになりますが、
このあとの円滑な対話の為にも先に契約をさせていただいてもよろしいでしょうか」
『許す。水無月宗八よ、我が眷属を頼む』
「ありがとうございます」
話の早いティターン様に感謝をしつつ、
許可をいただけたことでちょっと強めに捕まえていた手の力を緩める。
顔の高さまで持ち上げるとノイも話をちゃんと聞いていたからか、
手を離しても浮遊してその場に留まり続け、
瞳はしかと俺を見つめている。
「話は聞いたな」
『聞いたです』
ポルタフォールで交換したノイの胸に納められていた核は、
浮遊精霊に戻らないように壊れないようにと気をつけて修行をしていたようだが、
残念ながら先日ついに限界が来て壊れてしまっている。
「今度は仮契約ではなく本契約だ」
『わかってるです』
「専用核を作るのと加階は時間がかかるから、
核無しで契約することになるからな」
『わかったです』
しかし、現在のノイの姿は浮遊精霊では無く、
1度加階した砂トカゲの姿である。
つまり浮遊精霊から加階するのに必要な経験値を核が壊れるまでの間に集めきり、
加階したということだ。
「契約したらそれなりに大変だし、
同時期に契約したアクアは結構先を歩いていると思うが、
俺に着いてきてくれるか?」
ここまで遠く離れた地にて一人で努力を重ねてきたノイに今更ながらの覚悟を問う。
以前本人から言われたこともある。
マスターと一緒だと大変だってな・・・。
『覚悟なら半年前に出来てるです!』
「ならばよろしい!ノイティミル!契約しよう!
ちと声を塞ぐから聞こえなくても気にしないでくださいね!」
「お兄さん、嬉しいのはわかりますが言葉遣いは乱れていますよ」
なんかアルシェが注意をしている声が聞こえた気がしたが、
細かいことは気にしない!
今は俺自身も待ちに待っていたノイとの契約を済ませてしまいたいのだ。
俺とノイの意思に反応してか、
二人の中心から契約時の光の柱が発生し、
それは広がっていき俺たち二人を飲み込んだ辺りで範囲の拡大を止める。
色は仮契約の時と同じく黄色の柱。
アルシェ達や土精の二人は契約という神聖なフィールドに立ち入る事が出来ずに、
後ずさり場を開けることとなった。
『これが契約の時のみに現れるという魔力ですか・・・』
『根本から違いますね』
『おそらくだが・・・原初の魔力の一種だろう』
続けて契約を進めていた俺の耳には聞こえなかったが、
土精陣の3名が何かを話しているのをついぞ俺は気づかずに契約を終えることとなった。
『そろそろ着きますよ』
「流石に・・・あ”あ”~。
8時間は辛い・・・ふわあああぁぁぁ・・ぁぁああ・・・」
『それでもかなり楽になる移動なんですよ?
まぁ確かに辛いには違いありませんけど』
『ネルレイン。この後はティターン様との謁見だぞ。
自身の身を整えておきなさい』
『わかっております、パラディウム様。
流石に私も王の前での粗相はしたくありませんから』
『水無月さんもよろしいですか?』
「地脈移動が終わったらうちのメイドを喚んで整えてもらうので大丈夫です」
『わかりました』
それから時間もさほど掛からずに我々は目的地としていた土の国にある町。
アイアンノジュールへとたどり着いたのだった。
「《召喚》クーデルカ!」
『次女クーデルカ、お父さまのお喚びに参上致しました!』
誰もいない方向を向いて出現したクーデルカは、
すぐにカーテシーのポーズを取って先の口上を述べ始めた。
「何それ?」
『お姉さま達と相談をして、
お父さまに喚ばれた時にお父さま以外の方が居た場合を想定して、
お父さまの威厳を表す為にそれぞれが先のような言葉を言うことにしたんです』
また精霊会議で決まったことらしい。
「誰かいるときは念話で教えるぞ?」
『いえ、それでは身につきませんから。
いつも誰か居ると想定することが大事なのです!』
みんなで決めたことらしい。
じゃあついでだし、他も喚び出してみるか?
「《召喚》アクアーリィ」
『も~飽きたよぉ~!』
『お姉さま、召喚ですよ』
『はえ~?あ!
長女アクアーリィ!ますた~のお喚びにただいま参上!』
突然念話での事前告知もなく行われた召喚にアクアは気づかずに、
おそらくスィーネへ愚痴を溢したのが先のタイミングだったのであろう。
クーのプロンプトで召喚が実行されたのだと認識して、
大慌てで口上を述べて決め顔をしたアクア。
そのままスッ・・・と姿を消して送還された。
『(ますた~!今のは違うの~!)』
「(いや、別に言い訳するものでもないし、
俺もいきなり喚びだして悪かった。修行頑張れよ)」
『(・・・あい)』
なんか意図せずアクアをへこませてしまったらしい。
この召喚は前触れもなく喚びだしてしまう為、
対象の精霊にはきちんと伝えておく必要を改めて心に刻み込む。
なぜなら俺のひょんな思いつきの所為で、
戻ったあとにアクアのフォローをしなければならなくなってしまったからだ。
力ない返事をするアクアの声を聞いて後悔をした。
『お父さま、準備完了です』
「クー、ありがとう。
じゃあアルシェを連れてくるかな・・・」
『かしこまりました。
《セーフティフィールド》セット:ガルヴォルン』
「《解錠アサイン:アスペラルダ城》」
魔法を吸い込む奔流によってアスペラルダ印のされたマントが翻り、
目の前のゲートも魔法に反応してその口を大きく広げていく。
繋げたのは俺の部屋に設置されたゲートだ。
兵士を移すことを措定しているゲートとは別口で用意している方だ。
「ほとんど時間通りでしたね」
「いらっしゃい、アルシェ」
『足下に気をつけられて下さい』
「姫様だけじゃないんですけど、隊長?」
「私はあくまで侍女として同行させていただくだけでございますが・・・」
「はいはい、マリエルもメリーもいらっしゃい。
見聞を広める為に同行を許したけど、
あんまりウロウロ出来ないからな」
別に連れてくる必要もないと始めは考えていたけれど、
動きの確認を朝のうちにしている間に同行を希望してきたマリエルとメリー。
まぁ、気候や地形などの前情報があれば、
こちら方向に旅を進める際に何かの参考になるかと思い直して連れてくることとした。
『ようこそおいで下さいましたアルカンシェ姫殿下。
私はティターン様から案内を仰せつかっておりますパラディウムと申します』
『同じくネルレントと申します。以後お見知りおきを』
「はい。お二人共、案内よろしくお願いします」
彼女たちがこちらへ渡ってくる事は出発前に彼らに知らせていたため、
驚きや戸惑いと言った無駄な時間を通過することなく丁寧な名乗りをする土精二人に対し、アルシェも今回は脇役という事もあって軽い返事で済ませる。
『お父さま。皆様が合流しましたしクーは帰ろうかと思います』
「あぁ、そうだな。帰りにまた喚ぶからな」
『わかりました。メリーさん、あとはお任せします』
「かしこまりました」
ゲートを一旦開くために喚びだしたクーはアルカトラズ様の元へ戻っていき、
到着地点からようやっと俺たちは土精の案内で移動を開始した。
ちなみにアルシェは主として挨拶をしたが、
マリエルとメリーはアルシェからの紹介がなかったため、
静かに先を歩く俺たちの後を黙って着いてきた。
「アイアンノジュールってこんな所にあるんですか・・・?」
「こんな所とか言うな。
草木は少ないし山も多い山岳地帯に町を作るって大変なんだぞ」
後ろからテテテと近寄ってきたマリエルはアスペラルダ領内では見たこともない、
高低差のひどい立地と建築を目の当たりにして思ったことをそのまま溢しやがる。
『町作りに直接精霊が関わっているわけではありませんが、
妖精は幾人か鉱山の掘削に参加しております』
「元はどの程度の規模で始められたのですか?」
『アイアンノジュールは鉄の鉱脈が国内で始めて見つかった鉱山町でした。
始まりこそ町とは呼べない集落・・・いえ、
労働者の集まりでしかありませんでしたが、
山を削り人が住むことの出来る土地に徐々に徐々に変わっていきました』
「へぇ~、すごい歴史を感じますねぇ~」
アルシェの質問に丁寧に答えてくれるパラディウム氏の説明に、
何故か再び口を開くマリエル。
もう・・・なんていうかね・・・。
「・・・あっ!?」
俺の無言の視線を受けたマリエルは俺の視線に含まれる「黙ってろ」を正しく理解し、
きまりの悪い顔で可愛らしく両手の人差し指で口元にバッテンを作る。
うむ。
マリエルは異世界人の俺よりも軽口を開きやすい。
田舎者だからか教養が足りないからかは知らないが、
近い将来あいつには必要になる礼儀を城で教えて貰えるように指示を出しておこう。
「お兄さんは逆にもう少し思ったことを口にしても良いと思います」
「ご主人様の表情は初対面では読めませんしね。
ちなみに今は興味深いと考えておられます」
『素晴らしいチームワークですね。
私なんていつもパラディウム様にこちらの動きの先を考えろと怒られていますよ』
『そ・れ・は・・・っ!
お前がいつも作業途中で思いつきの別行動を取るからだろうがっ!』『あいちっ!?』
パラディウム氏の愛の拳骨で戯れ言を黙らされるネルレントさん。
俺もあれくらいの体罰はしてもいいよな?
チラリ。
「・・・っ!っ!っ!」
嫌だそうだ。
全力で首を横に振って嫌だ嫌だと意思表示するマリエル。
しかしな?お前の脳天気さにニルの脳天気が合わさってみろ。
面倒くさがりの俺がいちいち叱るのは嫌なんだぞ?
アルシェの近衛として今の失言の多さは如何かな?
「・・・・っ!?あ・・・あ・・あぁ」
というメッセージを込めた視線で睨め付けると、
一瞬で青い顔へと変化して視線は徐々に足下へと移り、
身体も脱力していく。
「ご主人様、殺気が漏れております」
「悪気はないのですから怒りをお納め下さいお兄さん。
このままではマリエルが泣いてしまいます」
「な、泣いていません!
隊長のゴミを見るみたいな冷たい目が怖いだけですっ!」
「ははは、弟子をゴミみたいに見るわけ無いだろ。
どうやって罰を与えてやろうか少し考えただけだよ・・・」
「ヒェ・・・。姫様ぁ~っ!」
「はいはい、よしよーし。
マリエルはここにいる間は見学だけに留めて、
怒らせる口は開かないようにしようね」
俺の殺気なんて1年の間で磨かれただけで吹けば飛ぶ程度のもんだぞ。
魔神族の殺気なんぞ食らってみろ。
泣く事なんて出来ずに漏らすぞお前。
* * * * *
鉱山町アイアンノジュールは流石は名の通りに、
筋肉ムキムキのマッチョマンがそこら辺を闊歩している町であった。
腕は丸太の如く太(ふと)ましく、
水源が少なく陽の照り返しの強い土の国特有の褐色肌。
俺の世界で言えば南米に置換される土地なのだろう。
「やっぱ掌は普通の色だな」
「え!?あ、本当だっ!」
「マリエル、そんなにじっと見ないの。
見るにしてもさりげなく見なさい」
「すみません、姫様」
「マリエル様、本日はお口を縫い合わせますか?」
「メリーさんも怖いこと言わないで下さいよ!ごめんなさい!」
マリエルという名の田舎カエルは、
俺の言葉を聞きつけて側を歩いてきた鉱夫をガン見した結果、
視線に気づいた鉱夫のおっちゃんに全員で会釈をして謝罪の意を示すこととなった。
俺はもう面倒だと思って何も言わなかったけれど、
小さな声でアルシェが注意をしてメリーも続いて裏打ちをするような台詞でアルシェの品格の為にも黙っていた方がいいと促す。
『時刻としても丁度坑道が空く頃合いですね』
「坑道に入ったら目を瞑ったほうがいいですか?」
『いえ、今回はティターン様から許可をいただいておりますから、
そのような事を気にせずとも大丈夫ですよ』
今回は土精王ティターン様からの招待となる。
称号やノイ繋がりや精霊使いという観点から、
普段はアルシェが表に立ち俺が控えるのに今回は俺が矢面に立つこととなっている。
別に礼と言っていたしあの場にはアルシェも居たので誰でもいいとは思うのだが、
どうも誘拐からの置き去りを食らった張本人であるノイの証言から俺を生け贄・・・もとい、代表として扱う判断をされたようだ。
迷惑この上ない。
面倒くさい。
あとでノイを苛めてやるんだ。
『ここからは足下も不安定になりますからお気を付け下さい』
「わかりました。お前等注意しろよぉ」
「はい」
町に入ってからは土質なども固めであるにも関わらず、
ちゃんと整備も進められて歩きやすいように敷物がされていたりもしたが、
パラディウム氏の注意喚起を受けた場所からは山へと入る道となるようで、
まだまだ整備も進められていないらしく足裏には地面の凸凹を感じる。
アルシェは続く俺の喚起で返事をした直後に、
スッと自然に腕へと絡ませ自身の安定を図ったが、
マリエルもメリーも振り返り様にコクリと頷くだけであとは多少腰を落とす程度に留めていた。
「手を繋いでもいいぞ?」
「いえ、こちらの方が私が好きなので、
手は次の機会におねがいしますね」
「そか」
まぁ支えに使う程度の絡まりだし重さや動きづらさは感じない。
アルシェ自身がこの程度なら背後に続くマリエル達と同じく、
多少腰を落とせば俺なんぞ必要としないだろうに、
最近スキンシップが足りなかった所為か寂しがってくっついて来たんだろう。
「これは見事な景色ですね。
町長はこの町をどのくらいまで拡大するおつもりか伺っていますか?」
『あ~その辺については隠れて共生をしているようなものなので、
話を伺ったことはないんですよ、申し訳ありません。
ただ、拡張は以前に比べると進みは遅くなりましたし、
整備を進め始めたのでそろそろ町としての拡大は終わる目処を立てているのではないでしょうか』
「そうですか、ありがとうございます」
山を人の手で切り崩して家が建てられる程度の段々を作って、
そこに山で取れた鉱物を加工して建てられたと思われる家は、
無骨で狭いながらの家がいくつも見下ろすことが出来た。
贅沢は出来ないけれど、
冒険者や兵士のような危険もなく稼げる仕事の一角として確立している鉱夫は、
他国でも人気の仕事であるため労働者には事欠かないらしい。
確かに武器を持つモンスターだってダンジョンにはいるし、
それこそ自分よりも何倍も大きな身体を持つモンスターもいるだろう。
そのような敵の攻撃の恐怖を克服出来なければやっていられない。
鉱夫を選んだ方々は自分と向き合って自分に合う選択をしたということだ。
拡大は終わりの兆しは見えては居ても、
まだまだ危険なスポットなどがあるのだろうし、
生活をしやすくするための整備の仕事はごまんとあるはずだ。
「傾斜も緩やかで歩きやすいですね」
「急な坂道だと掘り出した鉱石や土砂の運び出しも大変だしな。
こういう細かな作りにしとかないと後が大変なんだよ。
道幅も広いし、アイアンノジュールで働く鉱夫は結構大事にされているみたいだな」
鉱山町としては当然メインの職業となるのだから、
過酷な職場環境では稼ぎが良くとも長続きしないだろう。
こういう労働者の為に惜しまない金と時間の使い方の結果で見た結果、
この町の町長は現時点では人の良い方という認識になった。
そこからも更に山を登って10分くらい進んだところで小さな社の前で足は止まった。
「こちらは・・・四神。
土の神を祀っているのでしょうか?」
『鉱夫達の間で流行っているのですが、
仕事をする前に一度こちらで土の神へ安全を祈願してから始めると、
その日の仕事の事故率が下がるらしいんです』
「安全を願うことは大事です。
心持ちが違ってきますから、ひとつひとつの作業を丁寧に出来るのでしょう」
「そんなもんですか?」
「そのようなものです。マリエル様も何かするときは、
心の中で誰かに祈っておいた方が生存率は上がるかと思いますよ」
ジャリ・・・。
皆が見慣れない社の外観や意味を話している間。
俺は足下に広がる砂地に興味を向けていた。
今まで土砂や岩が多くあったなかに足下のような沈み込みをする砂は見なかった。
「・・・足を止めたという事は目的地に着いたということでよろしいんですか?」
『それもチームワークですかね?
アルカンシェ様と侍女の方が社に注視している間は、
水無月さんとお弟子さんが周辺に目を向ける。
目的地という意味でも正しいですし、水無月さんの的は外れていないかも知れません』
「??足下?」
「町や山に入ってからも初めてここまで足を取られやすい砂はなかったろ。
たぶんだけど、この下に潜った先にティターン様が・・・いや、
ティターン様の分御霊が居られるんだろう」
『おぉー!流石は精霊使いですね』
どちらに向けてという訳ではない質問に回答してくれたのはネルレントさん。
止まったという事は目的地もしくはこの場所を経由しなければならないという推理だし、
人の身で四神の本体に簡単に会えるとは思っていない先入観。
そして社にアルシェと共に注意を向けなかったのは、
この程度の社であれば日本にはいくらでも見かける機会があるからだ。
流石と言うことはない。
それよりも精霊から向けられる、
精霊使いは有能みたいな期待を間違いであると修正したい気持ちでいっぱいだ。
『人に見られないうちに移動しようかと思います。
皆様よろしいですか?』
「砂は身体に残りますか?」
『いえ、地脈移動の応用になりますからそんなことはありませんよ。
この砂地なのは細工がしやすいからという理由ですし』
「わかりました、大丈夫です」
「パラディウム氏、よろしくおねがいします」
『では、移動開始します』
パラディウム氏主体で行われた移動方法は、
確かに地脈移動や水脈移動と同じく魔法の膜に覆われてから徐々に砂に沈みこんでいく。
それでも遠くへ移動ではなくかなり深い地中に向かうとはいえ時間は1分くらいで目的地へと到着したのであった。
* * * * *
地脈移動中は魔力の膜に覆われている状態なので、
常に視界は黄色基調で確保されているのだが、
目的地は地中ということもありダンジョンではない2点から、
着地した場所の視界は0であった。
とはいえ、気配で誰がどこにいるのかはわかるし、
空気を制御力で混ぜればどのような形をした場所にいるのかくらいは自力で把握できる。
「すみません、視界を確保したいので光源を出しても大丈夫ですか?」
『あっ!配慮が足りませんでした。
普段土精以外が足を踏み入れる機会がないので失念していましたね。
松明をつけられますか?』
「いえ、魔法で光球を出すだけです」
『わかりました、それであれば結構ですよ。
一応爆発する空気は漏れていないことは確認済みですから、
光球であれば問題はありません』
爆発する空気ってことは天然ガスは存在するって事なのか。
だからといって生活に組み込むことなぞ俺の知識では行うことは出来ないし、
天然ガスってことは匂いもないから危険だよね。
クレアから[ライトボール]を教えてもらっていて良かったわぁ。
「お前等目は瞑っていろよ。
開きっぱなしだと眩むからな、少ししてから開けよ-」
「はい」
「了解です」
「かしこまりました」
「《ライトボール》」
もともと俺の左腕に絡まっているアルシェはともかく、
地中に到着した瞬間に真っ暗だと認識したマリエルは素早く動き、
片方の手は俺の服を掴み、もう片方の手でメリーを確保していた。
まぁ、この程度は出来てくれないと困るがな。
俺の脇に出現した光球は明度を自動で調整し、
眩し過ぎず目に痛くない程度に収まったのを瞼越しに確認してから目を開くと、
少し広めの広場のようなところに自分たちがいることが判明した。
アルシェたちも次々に視界の回復を果たしたらしく、
手足と身体の感覚を確認し始める。
『どうかされましたか?』
「どのくらい深いのかわかりませんが、
地上にいるときに比べると身体が重く感じるんです。
なので動作確認をしているんです。少しだけ待って下さい」
視界が回復したことと足下も凸凹が無くなり歩きやすくなっていたため、
アルシェとマリエルは俺から離れてそれぞれが意思疎通することもなく自身の身体を向き合う時間を取り始めた。
その事でパラディウム氏に質問をされたが、
土精にとっては実家のような安心感である重力と暗さかもしれないのだけれど、
俺たち人間にとってはこの暗さも重力も多少重く感じる空気も多少の不安を与えるには十分なものだった。
それらを払拭するためと、
自衛は可能かという確認を終えたアルシェ、マリエル、メリーがそれぞれ俺に視線を向けて大丈夫であることを伝えてきた。
「はい、お待たせして申し訳ありませんでした。
案内の続きをお願いします」
『わかりました。では、ご案内します』
『緊張しなくてもティターン様が招待されたのですし、
お優しい方なので大丈夫ですよ?』
「それは理解していますけど、
初めて訪れる場所と環境ですとどうしても緊張はしてしまいますよ。
ティターン様の為人も初対面なのでわかりませんしね」
『そんなもんですか・・・』
『お前は緊張とは無縁かもしれないが、
普通は水無月さんの言うとおり緊張をするものだぞ』
ネルレントさんは体こそアルシェよりも大きく見えるのに、
精神的にはマリエルやニルと同類の気配がする。
同じように苦労しているであろうパラディウム氏に同情の念を感じざるを得ない。
通路は先の場所からなおも奥に進み、
緩やかではあるがゆったりとさらに地下に潜っているらしい。
階層的には2階分くらいを下った先に先ほどの小広場とは違う大きい広場に到着した。
浮遊精霊は見えないようになるフィルターを外すと大勢がいることが視認出来、
部屋の奥に鎮座されておられる巨人?へと続く中央には寄りつかないように端の方へと固まっている。
その中央の道を躊躇いもなく歩みを進めるパラディウム氏達に続いて、
俺を先頭にアルシェ・マリエル・メリーも後を追い、
やがて見上げねば顔を見ることも出来ない大きさのティターン様の前へとやってきた。
『パラディウム。精霊使い水無月様を連れ、
戻って参りました』
『同じくネルレント、戻りました』
バッ!と人間の国と同じように、
土精王の前に跪く土精2人に合わせて俺たちも遅れずに膝をつく。
人間に比べると些か簡素な報告を耳に流しつつ、
土精王の動きに気を配る。
2人の返答はいつもの位置よりもずっと高い場所から降ってきた。
『パラディウム、ネルレント。二人ともご苦労であった』
『『勿体ないお言葉、ありがとうございます』』
重厚。その一言に尽きる声音は男性の物だ。
一応遠目から見ていた限りではゴーレムみたいな体をしていて、
服は纏っていなかった。
さらに言えばチ○コも付いていなかった。
だから、体はデカくても実は女性体なのかもと思ったりもしたけれど、
結局は大きく逞しい体に見合った声音である意味安心した。
モスキート音みたいな声で喋られると威厳がないからな。
『水無月宗八』
「はっ!」
『お主がノイティミルのマスターで間違いないか?』
「正しくは本契約を交わしていませんので仮マスターでありますが、
この後に正式な本契約を予定しております」
『うむ。面を上げよ。連れもな』
土精二人は跪いたまま俺たちは、
ティターン様の声に従いゆったりとした動きで顔を上げる。
すると、驚くことに先の見上げねばならないほどであった体は消え失せ、
そこには人よりちょいと長身な程度の男性が服を着て座っていた。
横幅も人の幅に収まっているため、
鎮座されておられる椅子にちょこんと座っているみたいで多少かわいく見えてくる。
『ふむ。皆、良い面構えだ。ノイティミル、前へ』
『はいです』
一通り俺達の顔を見回したティターン様は無駄な会話などはせずに、
すぐに椅子の脇に控えていた小さな砂トカゲの名前を呼ぶ。
呼ばれたトカゲは聞き覚えのある声で返事をし、
その場で浮かびあがって恭しく椅子の前へと姿を現した。
懐かしい姿に安堵して鼻息が漏れる。
しかし、そのままヒュー・・と前に進むのを止めずに、
どんどんと俺たちに近づいて来て・・・。
ビタッ!
と俺の顔に張り付きやがった!
『ノイティミル・・・、一旦戻ってくれるか?』
『拒否するです』
土精王の優しくも困惑した声での指示にもNOと言うノイは、
サササッと動いて俺の頭の上へと移動する砂トカゲ。
土精王の手前なので俺もどう対処すべきかちょっと困るぞオイ。
『ボクは王の庇護下にすでに無いです』
キリッ!とした顔でそんな事を宣うノイをこのまま放置していては、
俺たちの心象は良くないだろう。
「ティターン様。今から少しの間、目を瞑っていてもらえますでしょうか?」
『・・・あいわかった』
俺の意図を察したのかはわからないけれど、
お願いを承諾してくださったティターン様。
別に本当に目を瞑ってくれというわけではなく、
失礼をぶっこくからお目溢ししてくださいねという意味だから、
ティターン様も俺の動向をただただ静かに見守り始めた。
『にょわっ!何をするです!マスター!ちょっと!あーっ!』
突然ぐわしっ!と握られたノイから抗議が上がるが知ったことではない。
「うるさい!お前は様式美とか知らんのか!
土精王との初顔合わせでこちとら緊張してんのにお前が勝手してどうすんだ!」
『マスターはボクに会えて嬉しくはないんです!?』
「嬉しいは嬉しいけどな、順番ってのがあるんだよ!
今は俺との契約もないんだからティターン様が親だろうが!
ちゃんと言うこと聞かんかっ!」
『は、半年・・・半年以上待ったです!
まだ待てというですか!』
「あと数十分くらい待てよ!
今後は土精王に会うのも故郷に戻る機会も少なくなるんだし、
俺たちとはこの先結構一緒なんだから!」
『結構っ!?結構ってなんですっ!?』
くっ・・・細かい奴めっ!
ジタバタと手の中で暴れるノイは、
あれ?こいつこんなにガキっぽかったか?というくらいに暴走をしていた。
それに見かねたアルシェが後ろから助言をくれる。
「お兄さん、先に契約をしてはどうですか?
ノイちゃんはきっと不安なんだと思います。
ずっと口約束の形で迎えに来るのを待っていたわけですから・・・」
『ぐぬぬ・・・』
どうしようか。
別に先に契約して大人しくなるのであればすぐにしても構わないと思っている。
どうせ遅かれ早かれ契約はするのだからな。
しかし、問題は現在の親役は土精王なのだろうから、
許可を頂いたりアルカトラズ様の時のように眷属を託されないと契約は出来ない。
不安そうな顔のノイをしばし見つめ合いながらどうしようか悩む。
いまのノイとは繋がりがないため、
他の契約精霊達のように何を考えて何を思っているかなどの機微が全くわからない。
『・・・これは独り言なのだが』
なんだ?ティターン様がいきなり独り言を言い出した。
あまりの茶番っぷりに飽きてしまったか?
『ノイティミルは初めこそ私の庇護下にあった。
しかしアスペラルダにて仮契約が行われた折に私との繋がりは上書きされ途切れた。
その後上書きされた繋がりは解除された為、
現在のノイティミルは誰の庇護下にも入っておらん』
「拠り所が無い・・、ということでしょうか?」
独り言にアルシェが独自の見解を溢す。
『私も精霊使いに出会うのは初めてであるし情報は少ない。
仮契約というものも初めて聞いた。
つまり、仮契約の特性を理解していなかったのだ。
私と再会出来た時点で庇護下に加えることは出来たのだが、
ノイティミルはマスターが迎えに来るからとそれを拒絶した。
それからは庇護の繋がりのない生活を半年以上だ。
幼い精霊がその間無意識に安心感を覚える繋がりがないというのは、
想像だにしないほどの不安があるはずだ』
「それノイの自業自得じゃないのか?
連絡したときにでも庇護下に入るかどうかの相談をすりゃ良かっただろ」
『・・・・』プクッ
トカゲが器用にホッペを膨らませてはぶてている。
なんか言えや。
ホッペを潰すとプシュッと音をさせて萎んだ。
「・・・それなら納得して少し大人しくするか?」
『・・・ん』コクリ
相も変わらず意地っ張りだな。
甘え下手というかなんというか・・・、
これがアクアなら寂しかったとか自分の意思をちゃんと伝えてくるだろうけど、
ノイは出会った時からこんな性格だったなぁ。
はぁ・・・。
「ティターン様、重ねるご無礼に容赦ください。
流れと交わす言葉の順序が変わることになりますが、
このあとの円滑な対話の為にも先に契約をさせていただいてもよろしいでしょうか」
『許す。水無月宗八よ、我が眷属を頼む』
「ありがとうございます」
話の早いティターン様に感謝をしつつ、
許可をいただけたことでちょっと強めに捕まえていた手の力を緩める。
顔の高さまで持ち上げるとノイも話をちゃんと聞いていたからか、
手を離しても浮遊してその場に留まり続け、
瞳はしかと俺を見つめている。
「話は聞いたな」
『聞いたです』
ポルタフォールで交換したノイの胸に納められていた核は、
浮遊精霊に戻らないように壊れないようにと気をつけて修行をしていたようだが、
残念ながら先日ついに限界が来て壊れてしまっている。
「今度は仮契約ではなく本契約だ」
『わかってるです』
「専用核を作るのと加階は時間がかかるから、
核無しで契約することになるからな」
『わかったです』
しかし、現在のノイの姿は浮遊精霊では無く、
1度加階した砂トカゲの姿である。
つまり浮遊精霊から加階するのに必要な経験値を核が壊れるまでの間に集めきり、
加階したということだ。
「契約したらそれなりに大変だし、
同時期に契約したアクアは結構先を歩いていると思うが、
俺に着いてきてくれるか?」
ここまで遠く離れた地にて一人で努力を重ねてきたノイに今更ながらの覚悟を問う。
以前本人から言われたこともある。
マスターと一緒だと大変だってな・・・。
『覚悟なら半年前に出来てるです!』
「ならばよろしい!ノイティミル!契約しよう!
ちと声を塞ぐから聞こえなくても気にしないでくださいね!」
「お兄さん、嬉しいのはわかりますが言葉遣いは乱れていますよ」
なんかアルシェが注意をしている声が聞こえた気がしたが、
細かいことは気にしない!
今は俺自身も待ちに待っていたノイとの契約を済ませてしまいたいのだ。
俺とノイの意思に反応してか、
二人の中心から契約時の光の柱が発生し、
それは広がっていき俺たち二人を飲み込んだ辺りで範囲の拡大を止める。
色は仮契約の時と同じく黄色の柱。
アルシェ達や土精の二人は契約という神聖なフィールドに立ち入る事が出来ずに、
後ずさり場を開けることとなった。
『これが契約の時のみに現れるという魔力ですか・・・』
『根本から違いますね』
『おそらくだが・・・原初の魔力の一種だろう』
続けて契約を進めていた俺の耳には聞こえなかったが、
土精陣の3名が何かを話しているのをついぞ俺は気づかずに契約を終えることとなった。
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異世界でのんびり暮らしてみることにしました
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