ユメ。売買

淡宵 黎明

文字の大きさ
上 下
4 / 8

現実・IV

しおりを挟む
 ”ユメを売ってくれ”と謎の男に言われて、直ぐに元の世界に返された。あの人いわく、この世界に呑まれるから。とのこと。
 「名前。聞けなかったな。」
 ベッドの上であの出来事を思い出す。ただの夢だったのかもしれない。今日は疲れてたのかもしれない。
 明日には忘れてる。ただの夢だもの。きっと。絶対。
 だけど…もし。もし、わたしのユメが売れたなら、いくらになるだろうか。何百万の価値はなくとも何十万にはなるだろうか。いや、たぶん一円とかそこらだろう。大金が手に入ったらこの家を出て自由になりたいな。それか、あの店でユメを買うのもいいかもしれない。いっその事働けないだろうか。また、あの店に行きたいな。
 いつもの朝が始まる。
「おはよう。」
「おはよう。お母さん」
毎朝お母さんの手料理。という訳はなく、うちの朝食は市販の菓子パン。朝からこんなもの、食べれるわけない。
ガチャン。
行ってきますの一言も言わないで行くのは、とか言ってくる人もいるがそんなの知らない。いつ最後になるか分からない。とか言う人もいる。だからそんなの知らないって。私は今すぐ最後になってもいいのだけれど。
 「おはよう。」
朝のHRが始まる。なにか言ってるけど聞く気は無い。私には無縁のことだから。
「それと。工藤。後で職員室に」
ん?今私の名前が呼ばれただろうか。でもこのクラスには幸いなことに工藤が二人いる。そのうちの一人が私な訳だが。
「聞いてるのか?工藤泉。」
どうやら私らしい。私の担任、鈴本悟。一部には人気のある先生だが一部からは嫌われている。
好いている人達は皆、俗に言う一軍。カースト上位の奴ら。嫌っている人達は皆、俗に言う三軍とかそこらの人。陰キャというものに分別される人達。その中に私もいる。鈴本は体育教師ということもあり、熱血。
ありとあらゆるイベントには生徒よりも熱くなり、一人一人に公平に接する人。
そう、”公平”に。誰にでも公平に接する。だから嫌われているのだろう。彼の頭はお花畑。と言うよりは踏まれても生きる雑草畑のがあっている。
何を言われても笑い誤魔化す。いじめがあっても笑い誤魔化す。平和的な思考で何よりです。そんな鈴本と一体一なんて。私の心は持つだろうか。
「失礼します。3-A。工藤いずみです。」
「おぉ。工藤。待っていたぞ。とりあえず進路学習室に行くぞ。」
めんどくさいなあ。
「工藤。なんで呼ばれたか分かるか。」
「いいえ。」
わからない。と言えば嘘になる。多分進路のことだろうか。
「そうか。工藤あのな。お前だけなんだよ。進路希望出てないの。なりたいこととかないのか。」
「はい」
言ったところで。
「あのなぁ工藤。後何ヶ月もないんだ。就職か進学か、決めないとなんだよ」
「そうですね。」
「なんなんだその態度は。こっちはお前の未来を心配して言ってるんだぞ」
「そうですね。ありがとうございます。」
嫌いな奴にありがとうなんて言える私えらーい。
そもそも、私の夢を潰した一人が鈴本。貴方でしょう。
「チッ。好きにすればいい。お前の将来だ。今俺に相談しとけば良かったと思う時が来るだろう。もういい。戻れ」
「はい。」
疲れた。今日はもう頑張る気力がない。
でも次は音楽。鈴本のことは忘れて、一日のエネルギーをチャージしよう。よし。気だるそうな顔を叩き、音楽室へと足を進めた。
しおりを挟む

処理中です...