メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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11.妖怪の山

6.神社の怪物

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 アレン達は荷を纏め、村を出る準備を進めていた。

「行くのかね」

 村長は悲しげな眼をしながら寄ってくる。

「どうして行くのかね。そんな危険を冒してまで行く必要があるのかね。ここに留まってもいいではないか」

 村長はコストイラの刀を手に取る。

「こんなもの、人を傷つけるだけだ。相手も自分も」

 コストイラは村長から刀を取り戻す。

「悪ィな、爺様。オレは死地に身を置くのが好きなんだ。好きなことをしながら生きる。羨ましいだろ」
「あぁ、それは羨ましいな」

 村長は項垂れる。

「儂の好きなことか。もう一度家族に会いたいな」
「孫か?」
「神社に行ってしまったよ。儂の制止など聞かずにな」

 故郷を飛び出している側のアレン達は何も言うことができない。

「どうしても行くというのなら、ここに戻ってこないでくれ。儂は、君達とは分かり合えそうにない」
「そうか。長生きしろよとは言わねェけどよ、楽しく生きろよ」

 村長は何も言わずに奥へ行ってしまった。アレン達はそれ以上村長とは関わることなく村を出ようとする。

「少年たちよ」

 村の門でアレン達は振り返る。村長は悲しそうに佇んでいた。

「気を付けるがいい。あそこは不快な空気で満ちている。生き物は正気を失い、弱い者は人の心を曇らせ、放浪者は記憶を盗まれる。夢なんて本当は見ない方がいいのかもしれない」
「夢は見てもいいんじゃねェか?目標があるほうが楽しいだろ?」

 村長はフッと笑い、腰をトントンと叩きながら背を向ける。

「さらばだ」

 アレン達は村長に見送られることなく、神社に向かった。






 神社。

 東方固有の祭祀施設。西方の者にはその施設の意味も分かっていない。アレン達も例外ではない。目の前の特異な門も分かっていない。特異な門、鳥居を前にアレン達は足を止めていた。石段を前に休憩していた。エンドローゼの体力の回復を待ち、石段を上る。手水舎や、神楽殿、拝殿。何をするための建物なのか見当もついていない。神社に着いたはいいものの、村の者達が訪れた場所が分からない。とりあえずアレン達は参道に沿って歩くことにした。

「な、何の建物だ?」

 アシドは水の収められている石の台を見て戦慄している。手水舎というのだが、知る由もない。

 知らないものにはあまり触れない方がいいだろう。しかし、アシドは手水舎の水を掬い、口に含む。

「おいおい、大丈夫なのかよ」
「普通触れても飲まないでしょ。いつのものかもわかんないのよ」
「どこの水か、もな」
「まさしく今後悔しているぜ」

 コストイラとアストロに責められるアシドは腹を押さえ、顔を手で覆った。

「ど、お、ど、ど、どうすればっ!!?」

 エンドローゼが慌てているが、アストロが肩をポンと叩いて冷静にさせようとする。

「自業自得だから何もしなくていいわよ」
「で、でも」
「いいのよ。あぁいうのは痛い目を見ないと分かんないんだから」

 エンドローゼは不満げな顔をするが、反論しない。

 アレン達は参道を歩いていく。足が地面に着くたびに玉砂利が音を鳴らす。経験のない状態に、歩き方が変になる。特にシキは足音を殺すように常に歩いているので適応しようと必死だ。突き当りの拝殿に辿り着くが、重要性は分からない。

 この神社は拝殿と本殿が一体となっている。したがって、中に入れば何の建物か分かるだろうと戸を開け放ったコストイラは神を模した像を見つけた。アシドは戸を開け放ったままの姿で固まるコストイラに眉根を寄せる。

「おい、コストイラ、どうかしたのか?」
「神体だ。龍の形を神体がここにある。爺様のとこの村人はここで祈ってたんだ」
「他は?」
「何も。正確には棚とか柵とかあるが、村のとこのものとさして変わらない。違いはやっぱ、この龍みてェな像だけだ」
「龍ってことはクロゴロ教か」

 アレンは顎に手を添えて考える。祈っていた人達はどこに行ったのか。

「少し、散策しよう」

 本殿や神楽殿などの内部を含む敷地内を歩き回る。

 何も見つからない。

 最初から人が見つかるとは思ってもいない。問題なのは、人がいた痕跡さえも見つからないのだ。7人の目線は一点に集中する。残された場所は本殿裏の湖。その一か所のみ。






 祈りを捧げた。

 村に瘴気が蔓延した。それを取り除いてもらうために神頼みした。

 皇龍様。

 どうかその御力で吹き払ってくださいませ。

 あらゆる人が祈った。

 農家のおじさんが、宿屋の女将が、学校の先生が、通う子供が、誰もが祈り捧げた。

 しかし、瘴気がなくならない。未だに祈りが届かない。皇龍様に届かない。人が次々といなくなる。

 どうして皇龍様はお救いくださらない。焦燥が、疲労が、疑念が募る。このまま、何もしてくださらないのでは?

 ついに、祈る人が自分だけになってしまった。

 おじいさまは何もしてくれない。いつも危険を冒すなとかしか言わない。

 でも、このままでは村がなくなってしまう。





 神社、その本殿裏の湖。そこは対岸すら見えないほどの大きさがある。

「もしかしたら底に遺体があると考えると、ふむ、不気味だな」

 レイドは岸に取り付けられた柵から身を乗り出し、崖下の湖を見る。アレン達が導き出した答えの一つが、祈り手の入水自殺。何らかの原因により錯乱した村人が柵を乗り越えた。

「見に行くか?」

 アシドが軽く準備運動をしながら聞いてくる。それに対し、アレンはゆるゆると首を振る。

「中に何がいるのか分かりません。まずはモノを投げ入れて様子を見ましょう」

 チャポンと水中に石が消える。1分ほど待つが何も起きない。

「何も起きねェな」
「そうですね」
「もう1個いくか?」
「………そうで、すね?」

 最後が疑問形になったのは、湖の水が風もないのに動いたからだ。石の波紋によるものではない。

「何だ?」
「来る」

 シキが呟くと、何かが水面を突き破った。何かは尾まで空中に出ると、そのままとぐろを巻いた。茶色の肌に側面に一列に並ぶ黄色い斑点。晴天のように明るい空のような色の眼はオレンジ色に縁取られている。体長は25~30mはある。この魔物には手足がない。東方の竜、いや、龍だ。

『キュアアアアアアアアアアアアッッッ!!』

 甲高い声を、水の飛沫とともに撒き散らす。アレンは黄龍が何かする前に矢を放った。黄龍は体をくゆらせ矢を躱す。巨体の割には素早い動きであり、アレンの弓術では遅くて当たらない。

『キュオ―――ン!』

 黄龍が一鳴きすると熱風は吹き荒れ7人の元に襲う。レイドが楯を構えながら前に立ち、風除けとなる。アストロは黄龍に狙いを定め、雷を落とす。

『キュゥゥウウアアアアン!!』

 視覚からの一撃に体を痺れさせる。アストロは隙を狙い、炎魔術を放つ。アストロの左人差し指から発射される火炎放射は黄龍の体側面を叩き、高度を落とさせる。追撃するように矢を放つがすべて避けられる。アレンは5本目も外し、がっくりと肩を落とす。気の毒だがフォローの言葉が出てこない。アストロは魔力の塊を発射する。黄龍の尾に当たる。もう一度発射すると、ぬるりと避けられる。だんだん当たらなくなっていく。

 黄龍の口角が上がる。
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