記憶のかけら

Yonekoto8484

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第8話

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祖父母と過ごす時間が長かったので,自分からあまり積極的に話そうとしなくても,以心伝心のようなところはあった。それは,祖父の一言や祖母の雰囲気で伝わるものだった。

私は幼い頃から大人しい性格で,高校生になっても性格が変わることはなかった。お陰であまり余計なトラブルに巻き込まれることもなく,学習に勤しむことが出来たけれど,友達付き合いやコミュニケーションなどの面では浅い経験しか積めなかったわけだ。

祖父に学校のことを話したりしたことが全くないのに,十六歳の誕生日に私に言ったのだ。
「まだおじいちゃんしかチュッしてない十六歳娘だね」
と。これは決して私のそういう経験の浅さを馬鹿にしたり指摘したりするような口ぶりではなく,むしろ愛おしさや愛を込めて目で笑いながら顔を私の顔に近づけて言ったのは今でも鮮明に覚えている。「あなたのことを知っているよ。よく見ているよ」と言わんばかりの発言だった。

こういうことは,他にもあった。ある日教科書を見て勉強に励んでいると,どういう経緯で言われたのかは思い出せないのは残念だが,
「僕があなたと同じクラスだったらあなたのような大人しい子を狙ったよ」
と告げられ,内面を見透かされているようでちょっとした衝撃を受けたのを覚えている。

自分が学校でモテないことや浮いていることを呟いたことがないはずだ。当時,意識したり自覚したりしたこともなかったと思う。むしろ,モテないように,モテることを求めないように育てられたから,みんなと程よい距離を取り,うまくやっていると思っていた。今から思っても,学校外の付き合いにまで発展することが少ないとはいえ,友達が全くいなかったわけでもないし,寂しかったわけでもない。普通に過ごしていた。

しかし,祖父は自分にも気づかれないくらいうやむやにしていた私の自己肯定感の低さを見破っていた。社会に出るまで自分で危機感を抱くことはなかったというのに,祖父はすでに知っていた。あの頃の私の心の奥にどういう悩みや不安が潜み,おそらくその後の人生でどういう苦労をしていくかも,お見通しだったと思う。
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