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3章
51 愁蓮視点
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「陛下…それほどの長い期間、紅凛を手元に置くことが苦しいのであれば、いっそのこと紅凛を下賜なされてはいかがでしょうか?」
李昭の言葉に、言葉を失い考え込んでいると、おずおずと順流が言葉を発した。
「どう…いうことだ?」
その言葉の意味が不自然なほど頭に入って来なくて聞き返すと、彼は非常に申し訳なさそうな、それでいて苦し気な表情で口を開く。
「陳家ではなく、臣下に嫁がせるのです。」
そう言って、彼は「覚えておいでですか?」と問うてくる。
「陛下が紅凛を召し上げる前…紅凛には求婚してきていた男達が多くおりました。皆有能な者ばかりです。
その内の誰かと、紅凛は入宮前から心を通わせていた事にするのです。皇帝の寵妃になりながらも、紅凛はその男を想っていた。それを知ってしまった、お優しい陛下は、愛した女が本当に好いた男と一緒になれるように身を引いて寵妃をその男に下賜した…。そうした話を作り上げれば、誰も余計な詮索はしない上、なるべく早く後宮から紅凛を出すことは可能です。」
「なるほど…それならば、後宮の面々も納得はするでしょうね」
順流の提案に李昭は神妙にうなずく。
それを横目に見た順流は、しかし…と顔を曇らせる。
「紅凛と陛下の御心を思うと…こちらも辛い選択になるとは思います」
こくりと唾をのみ込む。
紅凛を…他の男に…しかも、自ら差し出す…。
陳家に渡って後…いずれはそう言う事もあろうかと思ってはいたが…。
まさか、自分の手ずからすぐに他の男の手に彼女を託すなど…そんな事が…できるのだろうか。
想像しただけでもグラグラと頭の中が揺れて…気分が悪くなってくる。
しかし、確かに今すぐに紅凛を後宮から出すには、いい案ではある。問題は自分次第…。
大きく息を吐いて目を瞑る。
「っ…いずれにしても…先に、柊圭には相談したい…もしかしたら良い案が他にあるやもしれん」
結局の所、すぐに判断を付けることはできなかった。結局逃げるような形で、時間を稼ぐ方へ話を持っていく。
ずるいとは分かっている。
しかし、こんな事を今すぐ決断できるほど、自分はまだ紅凛を諦められていないのだ。
恐らくそれをつぶさに感じ取った、長年の側近である順流と李昭は
「そうですね」と頷いた。
彼等も今話を聞いたばかりだ。もしかするとまだこの先もっと良い案が浮かぶかもしれない。
それに期待したい。
「ところで、紅凛様にはどこまでをお話になられておられるのです?」
今後の処遇については、少し時間を置くという事になり、問題は現在の紅凛の様子についての話になると、李昭から問われる。
「一応…柊圭の元へと考えて居る…とは伝えている」
それを伝えた時の紅凛の瞳に浮いた涙を思い出すと、今でも胸がつぶれるような痛みを感じた。
「なるほど…では陳家へ御身を寄せることは、ご本人も望まれているという事ですね?」
確認するように李昭に問われ、頷きかけて、はたりと…止まった。
「それは…」
そうだ…という事ができなかった。
そう言えば、ここに来るまでに一度も紅凛の意思を聞いていないような。
「まさか…お聞きになっていないのですか?」
つぶさにそれを読み取った李昭から冷ややかに問いかけられて、ゆっくりと首を縦に振る。
「紅凛が苦しまない方法を…と考えたのだが…確かに、紅凛は側に居ながら辛かったとは話したが…」
「なるほど…紅凛様ももう苦しみたくないと…」
そう問われて咄嗟に額に手を当てる。
紅凛の気持ち…
そう言えば、彼女が具体的にどうしたいのかという事は…聞いていない。
紅凛は・・・どうしたいと、どんな先を望んでいるのだろうか。
「苦しいからと言って、紅凛様が陛下のお傍を離れたいとは限りません。離れたくないからこそ、言えずにいたのではないのですか?」
静かに諭すような、李昭の声が、耳の中を反芻していく。
李昭の言葉に、言葉を失い考え込んでいると、おずおずと順流が言葉を発した。
「どう…いうことだ?」
その言葉の意味が不自然なほど頭に入って来なくて聞き返すと、彼は非常に申し訳なさそうな、それでいて苦し気な表情で口を開く。
「陳家ではなく、臣下に嫁がせるのです。」
そう言って、彼は「覚えておいでですか?」と問うてくる。
「陛下が紅凛を召し上げる前…紅凛には求婚してきていた男達が多くおりました。皆有能な者ばかりです。
その内の誰かと、紅凛は入宮前から心を通わせていた事にするのです。皇帝の寵妃になりながらも、紅凛はその男を想っていた。それを知ってしまった、お優しい陛下は、愛した女が本当に好いた男と一緒になれるように身を引いて寵妃をその男に下賜した…。そうした話を作り上げれば、誰も余計な詮索はしない上、なるべく早く後宮から紅凛を出すことは可能です。」
「なるほど…それならば、後宮の面々も納得はするでしょうね」
順流の提案に李昭は神妙にうなずく。
それを横目に見た順流は、しかし…と顔を曇らせる。
「紅凛と陛下の御心を思うと…こちらも辛い選択になるとは思います」
こくりと唾をのみ込む。
紅凛を…他の男に…しかも、自ら差し出す…。
陳家に渡って後…いずれはそう言う事もあろうかと思ってはいたが…。
まさか、自分の手ずからすぐに他の男の手に彼女を託すなど…そんな事が…できるのだろうか。
想像しただけでもグラグラと頭の中が揺れて…気分が悪くなってくる。
しかし、確かに今すぐに紅凛を後宮から出すには、いい案ではある。問題は自分次第…。
大きく息を吐いて目を瞑る。
「っ…いずれにしても…先に、柊圭には相談したい…もしかしたら良い案が他にあるやもしれん」
結局の所、すぐに判断を付けることはできなかった。結局逃げるような形で、時間を稼ぐ方へ話を持っていく。
ずるいとは分かっている。
しかし、こんな事を今すぐ決断できるほど、自分はまだ紅凛を諦められていないのだ。
恐らくそれをつぶさに感じ取った、長年の側近である順流と李昭は
「そうですね」と頷いた。
彼等も今話を聞いたばかりだ。もしかするとまだこの先もっと良い案が浮かぶかもしれない。
それに期待したい。
「ところで、紅凛様にはどこまでをお話になられておられるのです?」
今後の処遇については、少し時間を置くという事になり、問題は現在の紅凛の様子についての話になると、李昭から問われる。
「一応…柊圭の元へと考えて居る…とは伝えている」
それを伝えた時の紅凛の瞳に浮いた涙を思い出すと、今でも胸がつぶれるような痛みを感じた。
「なるほど…では陳家へ御身を寄せることは、ご本人も望まれているという事ですね?」
確認するように李昭に問われ、頷きかけて、はたりと…止まった。
「それは…」
そうだ…という事ができなかった。
そう言えば、ここに来るまでに一度も紅凛の意思を聞いていないような。
「まさか…お聞きになっていないのですか?」
つぶさにそれを読み取った李昭から冷ややかに問いかけられて、ゆっくりと首を縦に振る。
「紅凛が苦しまない方法を…と考えたのだが…確かに、紅凛は側に居ながら辛かったとは話したが…」
「なるほど…紅凛様ももう苦しみたくないと…」
そう問われて咄嗟に額に手を当てる。
紅凛の気持ち…
そう言えば、彼女が具体的にどうしたいのかという事は…聞いていない。
紅凛は・・・どうしたいと、どんな先を望んでいるのだろうか。
「苦しいからと言って、紅凛様が陛下のお傍を離れたいとは限りません。離れたくないからこそ、言えずにいたのではないのですか?」
静かに諭すような、李昭の声が、耳の中を反芻していく。
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