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2章
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しおりを挟む「なぜあの方を後宮に?」
夜の寝屋で、肌を重ねた後に愁蓮の腕の中でそう問えば、愁蓮は紅凛の髪に埋めていた鼻を上げて何でもない事のように笑った。
「鈴円様の肖像を描く時に陳家に残っていた彼女の絵姿を借りたのだ。再三出来上がりが見たいと言っていたのだが、なかなか時間が合わなくてな。今日、たまたま時間があったゆえ特別に案内したのだ」
そう言うと愁蓮はひとつ、紅凛の胸元に口付けを落として、甘く吸い上げる。
彼がもう一度紅凛を強請ろうとする時の癖だ。
胸元に散らされた、所有痕を確認する様に指でなぞりながら、彼はなおも説明を続ける。
「陳家は父の代では、正直な所あまり協力的ではなかったんだ。鈴円様の美しさに目が眩んだ父が、彼女を無理に差し出すように言ったくせに、見殺しにしたのだから、それも仕方あるまい」
「え?」
驚いて問うように彼を見れば、胸元に唇を這わせる彼が上目づかいにチラリとこちらを見て顔を上げた。
「陳家は我が家には逆らえなかったのだ。しかし鈴円様は後継者である俺を可愛がってくださっていた。そのおかげで俺の代になってからは、陳家は親身に色々と協力してくれている。特に柊圭は昔から目をかけてくれて、歳の離れた兄のように思っていたこともあったんだ」
だから後宮に入れる事も許したし、紅凛にも紹介した。と言うことらしい。
「紅凛とも一度ゆっくり話したいと言っていたが、どうだ?彼は2週間ほどこちらに滞在すると言っているが」
そう問われて、紅凛は思わず息を詰める。
これ以上彼に近づくのは良くない。そう心の奥で警告しているのに、今それではっきり拒絶するわけにもいかなくて・・・
「折がありましたら・・・」
と曖昧に微笑むしかできなかった。
そうして、柊圭と愁蓮が酒を酌み交わす場に、紅凛が引っ張り出される事になったのは、それから1週間後。
愁蓮と隣あって座る紅凛を見て、柊圭が微笑ましげに表情を和らげた。
「本当に仲睦まじく、殿下にそうした方ができて私は嬉しゅうございます。
しかも鈴円にどこか似ているお方。貴方様の中で鈴円は随分と大きな存在だったのですね?」
問われた愁蓮は、自嘲気味に笑って杯を傾ける。
「母のような、姉のような憧れの人でしたから。
もちろん彼女はしっかりした女性でしたが、この紅凛はクルクルと表情豊かで気まぐれな猫のように私を翻弄するので可愛くて仕方ありません。」
決して母の代わりとして紅凛を愛でているわけではないのだと言う事も強調した愁蓮は、紅凛の顔を一度見ると。甘く微笑んだ。
そんな2人を見た柊圭が、ハハハと軽快にわらって
「そうですか・・・彼女の事をそこまで皇帝陛下に思って頂けているのは、一族として大変名誉なことでございます。ところで、紅妃様は今年18になられたとのこと」
突然紅凛に話を振られて、紅凛は肩を跳ね上げる。
「っ・・・はい!」
それを聞いた、柊圭はそうですか・・・と呟くと酒を一口口にして
「では生きていたならば紅姫と同じ歳の頃ですね」
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