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1章
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しおりを挟む翌日の夜は流石に愁蓮の渡りを断ることは叶わなかった。
と言うのも後宮へ来てから後、紅凛がこうして体調を崩すことなどなかったから、彼が随分と心配して昼にまで押しかけて来ようとしたからだ。
「体調は、大丈夫か?」
そう聞かれて、紅凛はやっとの思いで笑顔を作る。多少不自然なものだったのだろう。愁蓮が僅かに眉を寄せた。
「昨日の話は、紅凛にとって随分とひどい話だっただろう?変な話を聞かせてしまってすまなかった」
気遣うように、紅凛の髪に手を入れて梳いた彼の言葉に、紅凛は慌てて首を振る。
「大丈夫です!あの・・・ただお昼寝で冷えただけですから。そんなに心配なさらないでください」
一日中考えていた事が紅凛の頭の中をめぐる。
紅凛と愁蓮が父を同じくした兄妹である事は、絶対に他者に知られてはならない事である。
しかし、当事者である愁蓮は・・・彼が知らずにいる事はまずいのではないだろうか。
皇帝という重責を負う彼に、知らずの内に罪を重ねさせる事をすべきではないのではないだろうか・・・と紅凛は考えていた。
きちんと話して、彼の判断を仰いで今後の2人の在り方を考えて行かなければならない。
しかしそうなれば、きっと2人の間に訪れるのは、身を切るような辛い別れで・・・。
この人を失いたくない。
ずるい自分は、彼のそばから離れたくないと思っていて、ここに来るまでにも答えは出なかった。
愁蓮の手が頬をなで、首筋を通る。
熱を持った大きな手に素肌を刺激されれば、それに慣らされた紅凛の肌も彼を欲するように熱くなる。
しかし・・・ここで流されてしまったら、もう戻る事は出来ない、そんな気がして。
少し身を固くすると、どうやらそれを敏感に察した愁蓮が、手を止めた。
「まだ、本調子ではないのか?」
そうして、何かに思い至ったように、目を瞬かせると
「もしかして月のものが来たのか?」
そう言えばそろそろだったな?と問われ、咄嗟に首を振ってしまい紅凛は、それを後悔する。
紅凛の反応に眉を寄せた愁蓮は、紅凛の隣に座ると大きな手で紅凛の華奢な両肩を掴んだ。
「しかしそろそろではないか?もしかして。子ができたのではないか?だから調子が悪いわけではないか?」
真剣な面持ちで聞かれて、紅凛の胸が跳ね上がる。
そう、もしも紅凛の腹に子供が出来て、彼が真実を知った時、その子供はどうなるだろうか。彼は何というのだろうか?
彼には世継ぎとなる男児が2人もいるのだ。彼の治世の障害となり兼ねない忌子を受け入れてくれるのだろうか?
「少し遅れることも、よくありますから。まだ何とも」
やっとの思いで言葉を紡ぐ。
すると、彼もそれには理解を示したように「そうだな、少し急きすぎたかもしれん」と恥じたように微笑んだ。
そう、まだ分からないのだ。
しかし、このお腹の中に彼の子がいるのならば、紅凛はその愛しい命を奪われたくはない、そして父である彼には拒んでは欲しくない。
愁蓮の腕が紅凛を包み込む。
今度は拒む事はしなかった。
唇を重ねられて、ゆっくりと寝台に横たえられる。
「今日は、このまま眠ろう」
布団の中で、しっかりと抱きしめられて、彼の低い声が耳元で囁いて、寄せられた彼の胸からはトクトクと規則正しい音が響く。
結局、こうして彼の熱に包まれてしまったら逃れる事は出来ないのも事実で。
決心がつかない自分の狡さを呪いながら、彼が眠りにつくのを見届ける事しか出来なかった。
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