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1章

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押し殺したような声でそれを話した愁蓮の表情は苦しげで、きっと彼が知っていたならなんとしてでも、助け出そうとしたのだろうか。

「城を落とされた事により、逆に士気が上がった我が軍の兵と、それに協力をしてくれた友好国により、その国は滅ぼした。
そこに協力をしてくれた友好国・・・それが死んだ妻の国だった。
その関係で彼女と結婚する事となり、最終的にはそれが一大勢力を築く足掛かりとなった。」

「その後は、もう戦ばかりだった。どんどんと勢力を伸ばして、瞬く間に2大勢力までに上り詰めた。
父はすごい人だった。人の心を掴むし、機を読むあの人が当主でなければ統一は為し得なかった。そんな有能感はきっと父本人も分かっていたのだろうな。」

そう言って愁蓮は、ひとつ息を吐いた。

「しかし父にはどうしても妻と子を見殺しにした後悔が残っていた・・・堂々と戦ってここまで上り詰めてきたからこそ、もしかしたら自身唯一の汚点と思ったのかも知れない。
父はあの出来事を、我が家の歴史から消したんだ。父の亡い今でも、父の時代からの臣下達は、当時の事を多く語ろうとしないんだ」

紅凛も、こんな話は聞いたことは無かっただろう?

そう問われ、たしかに教師の授業でも、後宮に入ってから読んだ歴史の書物でもそんなことは触れても無かった。

もし、それを一度でも目にしていたならば・・・。
瞳にじわりと涙が浮きそうになって慌てて俯いた。

愁蓮の話はまだ続いた。

「それなのに。あの人・・・父は病に伏すようになって突然、彼女達の存在を形に残すと言い出したんだ。
多分自分が死んだ後、彼女達に合わせる顔がないと思ったんだろうな。
本来なら彼女達が入るはずだった後宮にこの建物を立てて、そして絵師を呼んで絵を描かせた。自分の記憶や、彼女達の生家に残っていた肖像まで引っ張り出させてさ」

愚かだろ?と彼は自嘲すると、大きく息を吐いた。

「そして。ここが出来てからひと月後に、父も死んだんだ。最期の言葉の中で、ここは自分が死したのちは扉を閉じておくようにと言い残してさ。
結局死ぬ間際にまた隠したくなったのか、それは分からないが、父は死ぬまであの出来事に固執して揺れていたらしい」


そこまで話した彼は「おいで」と紅凛の手を引いた。

足が棒のように重たく感じたが、引かれるままに先に進む。

もう一つの絵の前で彼が止まるのでそれを見上げれば、そこには1人の女性の絵姿があって、どこか彼に似た整った美しさを感じる人で


「愁蓮のお母様?」

そう問えば、愁蓮が「あぁ」と頷いた。

「他の妻達の肖像があるなら、せめてもと思って描いてもらったんだ」

そう言って、また手を引かれて奥に連れていかれる。


そこにあったのは卓に乗った大きな平たい箱で 

その蓋を愁蓮がゆっくり開いていくと

赤い布の上に黒く煤けた物がいくつも置かれている。

「焼け落ちた城から出てきた遺品だ。簪や、耳飾りや髪留めに、腕輪。父によるとどれも亡くなった妻達のものらしい。ないものと扱おうとしたくせに、きちんと残していたみたいなんだ」

呆れたように言う彼の言葉は、紅凛の耳には入らなかった。

吸い寄せられるように、その箱に近づくと、
その中に置かれているものの一つ。黒く炭化している椿の透かしが掘られた飾り物に恐る恐る触れる。

彼女のその行動に、「あぁ」と愁蓮が頷く。

「これは・・・さっきの母がわりだった人のおそらく耳飾りの一つだと思う。気に入っていてよく使っていたのを覚えているから。
青い石がついていてな。綺麗だったのに、片方だけになってしまったらしい」

それを聞いて紅凛は、慌ててそれから手を引いた。その拍子にぐらりとフラついて。

隣にいた愁蓮に抱き止められた。

「大丈夫か?」

「ごめんなさい・・・少しだけ目眩が」

なんとかそう告げると。ゆっくりと体制を立て直す。


「辛い話を聞かせてしまったな。でも紅凛には知っててほしかったんだ」

心配そうに顔を覗き込んでくる愁蓮に、紅凛はやっとの思いで微笑み返す。

「ううん、話してくれて嬉しい。ただ、少し疲れてしまったみたい」

そう告げると、愁蓮はどこかほっとしたように息を吐いて、そして唐突に紅凛を抱き上げる。

「戻ろう」
そう優しく言った彼の首にぎゅっとしがみつく。

彼に抱かれて部屋を出る時、もう一度4人の女性の肖像に視線を向けた。

お母様
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