孤児が皇后陛下と呼ばれるまで

香月みまり

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3章

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翌日の午前、苓は朗桓と数名の護衛達に囲まれて宮廷に入った。

出かける前、張り切った朗桓の邸の女官たちによって苓は朝から湯殿へ連行されて、昨日と同じ工程を踏んだのち、昨日よりもさらに豪華で煌びやかな衣装をまとわされ、頭にいくつもの装飾を差し込まれた。


ずっしりと重い衣装と装飾を纏いながら、迷路のような宮廷内の回廊を朗桓について歩いて行く。

「絶対に出口に辿り着けない自信があるわ」

あまりにも入り組んだ回廊に、独り言をこぼすと、くすりと前を歩いていた朗桓が笑った。

「大丈夫でございます、お一人で歩かせることはございませんから」

「あの、もしかしてみんな方向音痴だったりするのですか?」

皇帝の方向音痴を受け継いでいるのは絶対に苓だけではないはずだ、、、むしろ皇族全員が方向音痴だったりするのだろうか?

「一部、、、の方々ですよ」

少しの間が気になるものの、にこりと笑った朗桓の言葉に苓は頷く。丁度その時、目の前の豪奢な細工を施した扉が目の前で開いた。

現れたのは朱塗りの回廊で、さきほど通ってきた建物よりもさらに一層贅を尽くされている事は、庶民の苓にでもよく分かった。

「ここからは、皇族の方の居住区になっておりますので、ご案内はここまでになります。どうやら陛下との謁見は明日に延期になったようですので、今日はお部屋にてごゆっくりなされませ」

こちらにしっかり身体を向けた朗桓が深々と頭を下げた。

「えっと、、朗桓、、いろいろとありがとう」

敬称を付けないよう言われているものの、親ほどの年齢の大人を呼び捨てにするのには随分と抵抗がある。
そんな苓に、朗桓は「よくできました」と言わんばかりに柔らかく微笑む。

「はい、また明日謁見の際にはご一緒いたしますのでよろしくお願いいたします」

そうして、彼らが捌けると、今度は朱塗りの回廊の方に、5人ほどの女官の集団が現れて、苓は彼女達によってまた迷路のような回廊を連れまわされて、ようやく自室と言われる、これまた贅を尽くした部屋に押し込まれたのだった。






自室に押し込められた苓は、すぐさま召し替えがなされ、重たかった頭の装飾も取られた。

これは、なんならもっと飾り立てられることを危惧していた苓には拍子抜けだった。

苓付きの女官は、3人で、奈凛なりん景華けいか杏明あんみんといういずれも20~30歳ほどの者だった。

彼女らにより、比較的動きやすい服装に改められた苓のもとには、そのあとぞろぞろと性別も年齢も様々な大人たちがやってきて一通り挨拶を交わしていく。

「これからは皇女様として、作法や知識などの教育が入ります。ここにおりますのは全て苓様の師となる者達です」

3人のなかでも一番年上の景華に説明されて、苓は顔が引きつるのを押さえることができなかった。

だって、、、10人もいるのだ!一週間にしても余る。読み書きはかろうじてできるものの、勉強から遠のいてすでに5年ほど経っている。
いまさら勉学に励むなんて事ができるのだろうか。

そんな引きつった苓の顔を見た、教師の内の一人、、、ふくよかで優し気な女性がふふふと柔らかく笑った。

「大丈夫ですわ、皆様2年ほどで、一通りの過程を終了なさいますから」

「に、、2年も!!」

2年経ったら苓は18だ、そんな頃には、嫁入りの話が来るのではないか、、、そう考えてハッとする。

そのための2年!!

すでに苓は王族の、、、ひいてはこの碧相国の政治の歯車の中に組み込まれているのだ。


ここにこうして来てしまった以上は逃げることなんてできない。だって相手はこの大陸でも1,2位の覇権を争う大国の王室だ。

逃げ出せないという面では、どんな理不尽で過酷な奉公先よりも、最低なのではないだろうか。

流石にここから攫ってとは、周にも言えないわ。

もうすでに乾いた笑いしか起きなかった。

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