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024 罠の確認
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野外生活の4日目が始まった。
今日の天候はこれまた晴れ。気持ちの良い晴天だ。
「シュウヤ君、今日はどうしますか?」
アリシアが尋ねてくる。
その手にはパイナップルが持たれていた。
驚くことに、朝からパイナップルを丸々1個食べていやがる。
縦にカットされた2つのパイナップルは、どちらも彼女の物だ。
「そろそろ雨天に備えて食糧を備蓄していこうか」
「分かりましたー」
アリシアはあまりしっくりきていない様子。
何が気になるのだろうと思いきや、彼女の方から尋ねてきた。
「もしも雨が降ったらどうするのですか?」
「そりゃ寝床に引きこもるさ」
「雨だと外を出歩かないのですか?」
「当たり前だ」
「どうして雨だと外に出ないのですか?」
「健康面のリスクが高いからさ。濡れたら身体が冷えるだろ?」
「でも、濡れたら乾かせば――――あっ、そっかぁ!」
アリシアの反応を見ていて察した。
「濡れても魔法で乾かせばいいし、冷えても魔法で暖めればいい……とかなんとか思っていたんだな?」
「それもですが、スポットの中に居ればそもそも濡れることがありません」
「魔法で雨自体を防ぐわけか」
「はい」
スポット内において魔法はウルトラ万能な存在だ。
そして、アリシアは人生の殆ど全てをスポット内で過ごしてきた。
魔法ありきで考える癖が染みついていても無理はない。
「さて備蓄する食糧についてだが、ここで末永く生活するなら燻製を検討していくところだ。しかし、俺達の活動期限はあと数日だから、今回はもっと手軽にいこうか」
「それは、つまり……?」
「今まで通り食えるキノコを集めるだけさ」
「やっぱり!」
持続的な生活を考えるなら、保存食は早い段階に用意しておきたい。
幸いにも此処には保存食を作る為の環境が備わっている。
だから作ろうと思えば簡単に作れるが、今はそこまで頑張る必要がない。
「お魚さんは午後からですか?」
「そうなる」
アリシアが好奇心に満ちた目で訊いてくる。
今日の楽しみはなんといっても魚だからな。
俺達は昨日、必死こいて川魚用の罠を仕掛けた。
その数は10個で、全て川の支流に設置してある。
魚の数が多かったから、何かしらは捕獲できているはずだ。
「午前はキノコを集めて、昼食前に罠の様子を確認しに行こう」
「獲れているといいですね、お魚さん!」
「きっと獲れているさ。そうでなければ困る」
「お魚さんって、一体、どんな味なんだろう」
アリシアのジュルリと舌を舐めずる音が森に響いた。
◇
二人がかりで採取したキノコは、俺の籠に放り込んだ。
その籠は拠点に置いてある。
昼前。
俺達は罠の成果を確認する為、設置ポイントの支流にやってきた。
俺の装備は石包丁と斧で、アリシアの装備は竹の籠のみ。
スタミナの消耗を考慮して、どちらも身軽さを重視している。
サバイバルの基本だ。
「まずは1個目の罠から」
「わくわく! わくわく!」
言葉を体現するようにわくわくした様子のアリシア。
そんな彼女を見て頬を緩めた後、さっそく罠の確認を始めた。
川から罠を取り出すと、無造作に手を突っ込む。
グルグルと罠の中を触りまくって成果を確認した。
「おっ、これは!」
「どうしたのですか!?」
「中に何か入っている」
「お魚さんですか!?」
「うむ」
触った感触は魚のそれだ。
ピチピチと元気に動いている。
「そらよっと」
ガシッと掴んで罠から出した。
「お魚さんだー!」
アリシアが興奮して叫ぶ。
獰猛な肉食動物に気づかれたらどうするつもりだ。
……と思ったが、今回は黙って見過ごすことにした。
「ヤマメだな」
パッと見てヤマメだと分かった。
日本の釣り人にもよく知られている定番の魚だ。
これまで何度も獲ったことがあり、捌いたこともある。
海に棲息しているサクラマスと同種の魚だ。
河川に引きこもったままのサクラマスをヤマメと呼ぶ。
どちらかというと、海に出たヤマメをサクラマスと呼ぶ方が適切か。
「美味しいのですか?」
「最高だぜ。大当たりだ」
「おー!」
ヤマメは川魚の中でも屈指の美味さだ。
これは幸先の良いスタートである。
「それにしても元気なお魚さんですね。今にも滑っちゃいそうですよ。早く籠に入れたほうがいいんじゃないですか?」
アリシアが背負っている籠を俺に向ける。
「いや、その前に締めないとな」
「締める?」
「殺すってことさ」
生きたまま竹の籠に放り込んで移動するのはよろしくない。
もがき苦しみながら死なせると品質が大きく劣化してしまうのだ。
だから活き締めを行う。
魚の活き締めは簡単だ。
特にヤマメのような小さい魚だと尚更に。
「もう少し大きな魚になると石包丁をエラに刺して背骨を切断したりするんだが、ヤマメ程度ならこれで十分だ」
そう言って俺がやったのは――。
「デ、デコピンですか!?」
「おうよ」
――デコピンである。
暴れるヤマメの頭部をパチーンと指で弾いた。
これでヤマメは気を失い、間もなく息絶える。
「こうやって締めたら、川の水で洗ってぬめりをとり、最後に下処理だ」
説明しながらヤマメのぬめりをとる。
俺の作業を見ながら、アリシアは「下処理?」と首を傾げた。
「下処理ってのは、可食部以外を取り除く作業のことだ」
俺は石包丁を使い、ヤマメの腹を裂いた。
お尻から腹に向かって包丁を動していくと良い。
「腹を裂いたら内臓を取り出す」
右の人差し指でヤマメの内臓をほじくり出していく。
手に血が付いてグロテスクだが、そんなものは川で洗えば消える。
「最後に血合いの掃除だ」
「血合いって?」
「身に付着した血の塊とでも思えばいいだろう。こんな感じ」
ヤマメの腹を両手で開いて中を見せる。
背中の辺りにビッシリと血合いがくっついていた。
「これが血合いね」
「なるほど、それを取り除くのですね」
「そういうことだ」
川の水に浸しながら指で血合いを除去。
「これで終了。あとは可能な限り速やかに持ち帰って食うだけだ」
綺麗に捌いたヤマメを、アリシアの籠に放り込む。
「残りの罠も調べたら早足で戻ろう」
「了解です!」
アリシアのお腹がぐぅと鳴る。
ヤマメを見たことで食欲が増したようだ。
「さてさて、結果はいかに――」
確認した罠を再配置すると、次の罠へ向かう。
この作業はこれといった妨害を受けることなく進んだ。
「想像以上の成果だな」
「大漁でしたね!」
10個の罠を調べた結果、俺達はヤマメを12匹も獲得した。
どの罠にもヤマメが入っており、中には2匹同時にゲットできたことも。
数匹獲れたらラッキー程度に思っていたから、これには俺の頬も緩んだ。
「拠点に戻ったらヤマメを食うぞ!」
「ヤマメ! ヤマメ! ヤマメの時間だー♪」
リズミカルな足取りで帰路に就く俺達であった。
今日の天候はこれまた晴れ。気持ちの良い晴天だ。
「シュウヤ君、今日はどうしますか?」
アリシアが尋ねてくる。
その手にはパイナップルが持たれていた。
驚くことに、朝からパイナップルを丸々1個食べていやがる。
縦にカットされた2つのパイナップルは、どちらも彼女の物だ。
「そろそろ雨天に備えて食糧を備蓄していこうか」
「分かりましたー」
アリシアはあまりしっくりきていない様子。
何が気になるのだろうと思いきや、彼女の方から尋ねてきた。
「もしも雨が降ったらどうするのですか?」
「そりゃ寝床に引きこもるさ」
「雨だと外を出歩かないのですか?」
「当たり前だ」
「どうして雨だと外に出ないのですか?」
「健康面のリスクが高いからさ。濡れたら身体が冷えるだろ?」
「でも、濡れたら乾かせば――――あっ、そっかぁ!」
アリシアの反応を見ていて察した。
「濡れても魔法で乾かせばいいし、冷えても魔法で暖めればいい……とかなんとか思っていたんだな?」
「それもですが、スポットの中に居ればそもそも濡れることがありません」
「魔法で雨自体を防ぐわけか」
「はい」
スポット内において魔法はウルトラ万能な存在だ。
そして、アリシアは人生の殆ど全てをスポット内で過ごしてきた。
魔法ありきで考える癖が染みついていても無理はない。
「さて備蓄する食糧についてだが、ここで末永く生活するなら燻製を検討していくところだ。しかし、俺達の活動期限はあと数日だから、今回はもっと手軽にいこうか」
「それは、つまり……?」
「今まで通り食えるキノコを集めるだけさ」
「やっぱり!」
持続的な生活を考えるなら、保存食は早い段階に用意しておきたい。
幸いにも此処には保存食を作る為の環境が備わっている。
だから作ろうと思えば簡単に作れるが、今はそこまで頑張る必要がない。
「お魚さんは午後からですか?」
「そうなる」
アリシアが好奇心に満ちた目で訊いてくる。
今日の楽しみはなんといっても魚だからな。
俺達は昨日、必死こいて川魚用の罠を仕掛けた。
その数は10個で、全て川の支流に設置してある。
魚の数が多かったから、何かしらは捕獲できているはずだ。
「午前はキノコを集めて、昼食前に罠の様子を確認しに行こう」
「獲れているといいですね、お魚さん!」
「きっと獲れているさ。そうでなければ困る」
「お魚さんって、一体、どんな味なんだろう」
アリシアのジュルリと舌を舐めずる音が森に響いた。
◇
二人がかりで採取したキノコは、俺の籠に放り込んだ。
その籠は拠点に置いてある。
昼前。
俺達は罠の成果を確認する為、設置ポイントの支流にやってきた。
俺の装備は石包丁と斧で、アリシアの装備は竹の籠のみ。
スタミナの消耗を考慮して、どちらも身軽さを重視している。
サバイバルの基本だ。
「まずは1個目の罠から」
「わくわく! わくわく!」
言葉を体現するようにわくわくした様子のアリシア。
そんな彼女を見て頬を緩めた後、さっそく罠の確認を始めた。
川から罠を取り出すと、無造作に手を突っ込む。
グルグルと罠の中を触りまくって成果を確認した。
「おっ、これは!」
「どうしたのですか!?」
「中に何か入っている」
「お魚さんですか!?」
「うむ」
触った感触は魚のそれだ。
ピチピチと元気に動いている。
「そらよっと」
ガシッと掴んで罠から出した。
「お魚さんだー!」
アリシアが興奮して叫ぶ。
獰猛な肉食動物に気づかれたらどうするつもりだ。
……と思ったが、今回は黙って見過ごすことにした。
「ヤマメだな」
パッと見てヤマメだと分かった。
日本の釣り人にもよく知られている定番の魚だ。
これまで何度も獲ったことがあり、捌いたこともある。
海に棲息しているサクラマスと同種の魚だ。
河川に引きこもったままのサクラマスをヤマメと呼ぶ。
どちらかというと、海に出たヤマメをサクラマスと呼ぶ方が適切か。
「美味しいのですか?」
「最高だぜ。大当たりだ」
「おー!」
ヤマメは川魚の中でも屈指の美味さだ。
これは幸先の良いスタートである。
「それにしても元気なお魚さんですね。今にも滑っちゃいそうですよ。早く籠に入れたほうがいいんじゃないですか?」
アリシアが背負っている籠を俺に向ける。
「いや、その前に締めないとな」
「締める?」
「殺すってことさ」
生きたまま竹の籠に放り込んで移動するのはよろしくない。
もがき苦しみながら死なせると品質が大きく劣化してしまうのだ。
だから活き締めを行う。
魚の活き締めは簡単だ。
特にヤマメのような小さい魚だと尚更に。
「もう少し大きな魚になると石包丁をエラに刺して背骨を切断したりするんだが、ヤマメ程度ならこれで十分だ」
そう言って俺がやったのは――。
「デ、デコピンですか!?」
「おうよ」
――デコピンである。
暴れるヤマメの頭部をパチーンと指で弾いた。
これでヤマメは気を失い、間もなく息絶える。
「こうやって締めたら、川の水で洗ってぬめりをとり、最後に下処理だ」
説明しながらヤマメのぬめりをとる。
俺の作業を見ながら、アリシアは「下処理?」と首を傾げた。
「下処理ってのは、可食部以外を取り除く作業のことだ」
俺は石包丁を使い、ヤマメの腹を裂いた。
お尻から腹に向かって包丁を動していくと良い。
「腹を裂いたら内臓を取り出す」
右の人差し指でヤマメの内臓をほじくり出していく。
手に血が付いてグロテスクだが、そんなものは川で洗えば消える。
「最後に血合いの掃除だ」
「血合いって?」
「身に付着した血の塊とでも思えばいいだろう。こんな感じ」
ヤマメの腹を両手で開いて中を見せる。
背中の辺りにビッシリと血合いがくっついていた。
「これが血合いね」
「なるほど、それを取り除くのですね」
「そういうことだ」
川の水に浸しながら指で血合いを除去。
「これで終了。あとは可能な限り速やかに持ち帰って食うだけだ」
綺麗に捌いたヤマメを、アリシアの籠に放り込む。
「残りの罠も調べたら早足で戻ろう」
「了解です!」
アリシアのお腹がぐぅと鳴る。
ヤマメを見たことで食欲が増したようだ。
「さてさて、結果はいかに――」
確認した罠を再配置すると、次の罠へ向かう。
この作業はこれといった妨害を受けることなく進んだ。
「想像以上の成果だな」
「大漁でしたね!」
10個の罠を調べた結果、俺達はヤマメを12匹も獲得した。
どの罠にもヤマメが入っており、中には2匹同時にゲットできたことも。
数匹獲れたらラッキー程度に思っていたから、これには俺の頬も緩んだ。
「拠点に戻ったらヤマメを食うぞ!」
「ヤマメ! ヤマメ! ヤマメの時間だー♪」
リズミカルな足取りで帰路に就く俺達であった。
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