ヒキアズ創作BL短編集

ヒキアズ

文字の大きさ
53 / 132
41~50

(50)兄弟吸血

しおりを挟む
吸血鬼の血を受け継いだ弟と、受け継げなくて餌にされる兄の話。
弟×兄。
可愛かった幼少期から一変する弟に、いいようにされる兄みたいな構図が好きです!

朔(サク)
兄。色々と諦めて自分の境遇を受け入れてしまっている。

満(ミツル)
弟。昔は自分が吸血鬼であることに嫌悪感を抱いていたが……。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 あるところに、吸血鬼の血を継ぐ兄弟がいました。
 弟のミツルは、吸血鬼としての血が濃く、その能力は一族の中でもずば抜けて高いことがわかりました。しかし、対照的に兄であるサクには全く吸血鬼としての能力が備わっていませんでした。
 一族は、当然のようにミツルを可愛がりました。そして、サクのことは、弟の餌として使うことに決めました。
「う、うえっ……」
 ミツルは、無理やりサクの血を吸わされて、何度も何度も吐きました。
『血の味を覚えなさい』
「い、嫌だ、ボクは、人間だもん……!」
 ミツルは、拒み続けました。彼は、幼いながらに、自分が恐ろしい怪物なんだということがわかっていました。そして、心優しい彼は、兄の血を吸うことなどできるわけがないと思っていました。
 サクは、そんな弟を可愛がりました。例え、一族を恨んでも、弟だけは恨み切れないと思いました。

 ある夜。ミツルは目を覚ますと、サクのいる地下室に足を向けました。
「お兄ちゃん……」
「なんだミツル。勝手に部屋を抜け出したら怒られるぞ?」
 地下室は、お世辞にも綺麗とは言えません。必要最低限の設備の中、サクは軟禁されていました。それは、次期当主であるミツルとは比べ物にならないぐらい扱いの差があったので、サクは慌ててミツルを追い返そうとしました。
「でも、何だか嫌な予感がして……」
「怖い夢でも見たのか?」
「わかんない。でも、ボク、お兄ちゃんが心配で……」
「俺のことが? はは。俺の代わりなんていくらでもいるさ。大丈夫」
「お兄ちゃんの代わりなんかいないよ! ボクはお兄ちゃんじゃなきゃイヤなのに……。うう……」
 今にも泣き出しそうな程、情けない声を出すミツルに、サクはそっとため息をつきました。
「お前は本当に優しい子だ。でもね、俺なんかに情けを掛けてちゃ駄目だって言ってるだろう?」
「情けじゃないもん。ボクは、本当にお兄ちゃんのことが大好きなんだもん!」
「ミツル……。ありがとうね。でも、それは間違ってるんだよ。俺は、生まれたときからお前の餌になる運命だったんだから」
「食べないもん! お兄ちゃんの血なんか吸わないもん!」
「困ったな。ミツル、今日のところは……そうだ、子守歌を歌ってあげるからね。ミツル、好きだったろ?」
「うん。歌って」
「よし。聞いたら、ちゃあんと部屋に戻るんだぞ?」
「……お兄ちゃんはやっぱり、ここにいなきゃいけないの?」
「うん。そうだよ。これはね、決まりだからね。どうすることもできないんだよ」
「そんなのおかしい」
「おかしくないよ。俺はね、ミツルの役に立てたなら、それでいいんだ」
「でも……」
 ミツルが言い募ろうとしたその時、静かな夜を引き裂く悲鳴が聞こえてきました。そう。それは、吸血鬼を恐れていた人間たちが、ついに行動を起こした瞬間でした。

 人間たちは、あっという間に吸血鬼たちを殺してゆきました。
「お兄ちゃん、怖いよ……」
「大丈夫。俺たちはまだ血を吸ったことがないんだ。だから、きっと人間たちも許してくれるはずで……」
 勿論、人間たちにそんな寛大な心はありませんでした。あるのは、吸血鬼に対する恐怖。そして、憎しみ。
 取り囲まれた二人は、狂気ともいえる人間たちの気迫に、追い詰められてしまいました。
「ミツル、逃げろ。お前は飛べるだろう? 俺が囮になっている隙に……」
「嫌だ! ボクはお兄ちゃんを置いてなんかゆけない! そんなことをするぐらいなら。ボクが、人間を、殺してやる!」
「ミツル……!」
 ミツルが叫んだ途端、その手の平から炎が生まれました。赤々とした炎は、人間たちに乗り移り、瞬く間に人間と屋敷を燃やしてゆきました。

「お兄ちゃん、うっ、ごめん……。ボク……」
「ミツル……。お前は悪くない。悪くないんだ」
「そうじゃ、なくて……」
「ん? もしかして、どこか痛むのか?」
 誰もいなくなった屋敷の前で、サクはミツルを抱きしめ、覗き込みました。
「血が、欲しい……」
「え?」
 見ると、ミツルの目は赤く飢えていました。サクは、ミツルから離れようとしましたが、一歩遅く……。
「や、やめ……、っ!」
 正気を失ったミツルの牙の餌食となりました。

「ごめん、ボク、こんな、つもりじゃ……」
 ミツルが正気に戻った時、サクの血は大分吸われてしましました。
「う……」
 サクの体は、恐怖で震えていました。ミツルを見るサクの目はまるで、狼に怯える兎のようでした。
「お兄ちゃん。ごめんね……。ボク、やっぱり化け物だったんだ……。だから……」
「ミツル……?」
 ミツルは、思いつめたような顔で地面に転がっていた剣を手に取ると、自分の胸にあてがいました。
「ボクは死ぬべきだ。パパやママたちと一緒に、始末されるべきだったんだ」
「やめろ!」
 サクは気力を振り絞り、ミツルの手から剣を取り上げました。そして。
「大丈夫、お前は優しいんだ。きっと理性のある吸血鬼になれるさ。お願いだから生きてくれ。お前は、吸血鬼である前に、俺のたった一人の兄弟なのだから。俺の血だったら、好きなだけ飲んでいい。だから、もうこんな真似はしないでくれ……!」
 サクはミツルを優しく抱きしめながら、懇願しました。ミツルは、わんわんと泣きました。
 そうして、二人は屋敷を捨てて、他の場所へと移り住みました。


 しかし、成長するにつれてミツルの態度は、悪くなってゆきました。
「っぐ、やめろ……! 血なら、さっき、やったろうが……!」
「出来損ないの餌ごときが、僕に命令? こちとら成長期なんでねッ!」
「っは……。これ以上は、無理……」
「泣いてんの? はは、いいね」
「く……」
「兄ちゃん。僕は所詮、血を欲するだけの吸血鬼なんだよ」
「違う、お前は、俺の弟で……、純粋な……、優しい……」
「感情なんて、とっくの昔になくなったよ。あるのは血の飢えと、そう、弱い者をいたぶる楽しさかな」
「ろしてやる……」
「なあに? お兄ちゃん」
「殺してやる、お前みたいな化け物、俺が……」
「無理だよね?」
「っ」
「兄ちゃんは僕のためだけに生きてるんだよ?」
「お前を殺して、俺も……!」
「はは。情熱的だなぁ。でもね、僕は兄ちゃんを逃さない。死なせてやるもんか」
「兄ちゃんは僕のものだよ。兄ちゃんに死ぬ権利なんてない。わかるよね?」
「っ、あ、やめろ……、駄目だって……」
「本当は知ってるんだよ」
「な、にを……」
「兄ちゃんもさ、僕に血を吸われるの、嫌いじゃないでしょ?」
「馬鹿な、ことを……」
「いや、兄ちゃんは好きなんだよね。僕に血を吸われて嬉しがってるんだ。気持ちよくなってるんだよ」
「違うッ……!」
「じゃあさ、試してみようか」
「や、やめ……。あっ、っ~!」
「ほらね。もう兄ちゃんはとっくに壊れてるんだよ。兄ちゃんだって、立派な化け物さ」
「うう……。もうやだ、こんなの! 気持ちいい、けど、血、足りなくなって、寝込むし……。俺、ずっとお前に、遊ばれてばっかで……」
「だって、兄ちゃんが言ったんじゃん。好きなだけ飲んでいいってさ。だったら僕は、限界まで兄ちゃんの血を吸って、ぐったりした兄ちゃんの世話をして。その繰り返しの人生がいい」
「こんなの、間違ってる……。血が足りないんなら、いっそ、人間の血でも吸って……」
「嫌だよ。人間の血なんて美味しくないでしょ。僕は兄ちゃんの血だから飲むんだよ。兄ちゃんは全然なんにもわかってない」
「わかんないさ。もう、俺には、お前がわかんないよ、ミツル……」
「兄ちゃんは何にも考えなくていいよ。でも、化け物は化け物同士、仲良く生きていかないと、ね?」
 吸血鬼は優しく、それでいて残酷に微笑みました。兄は、それに恐怖を抱きながらも、現状を受け入れるしかありませんでした。彼らは所詮孤独。怪物と人間とは分かり合えないのです。たった二人の兄弟。その長い長い寿命が尽きるまで、仲良く生きてゆくしかないのですから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

情けない男を知っている

makase
BL
一見接点のない同僚二人は週末に飲みに行く仲である。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

有能課長のあり得ない秘密

みなみ ゆうき
BL
地方の支社から本社の有能課長のプロジェクトチームに配属された男は、ある日ミーティングルームで課長のとんでもない姿を目撃してしまう。 しかもそれを見てしまったことが課長にバレて、何故か男のほうが弱味を握られたかのようにいいなりになるはめに……。

処理中です...