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(39)道具売りと王子のお付き
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胡散臭い道具売りは王子に気に入られて、王宮に出入りする。それを快く思っていない王子専属の騎士にある日、恋守りを売ってくれと言われ……。
王子→お付き×道具売り
ルフェス 王子専属の騎士。お付きの人。皆に信頼されているイケメン。
ツァイ 道具売り。道具を売り歩き、国を転々としている。
王子 天使みたいに可愛い子。最近恋にお悩み。
最初はやんわり関係性駆け引き三角関係話?なんですけど、急に魔術人外要素が出てくるっていうこの……。実は人間じゃないです展開のメリバが好きです……。
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「このお守りさえあれば王子様の恋もきっと叶いましょう」
「ほんと!? じゃあ買おうかな!」
「毎度あり」
無邪気な笑みを浮かべながら躊躇いもなく浪費する目の前の王子に、愛想よく商品を渡す。これで今月もたっぷり稼げるな。心の中でほくそ笑む。全く良い客を捕まえたものだ。まさかイチかバチかで売り込みに行った城の王子に気に入ってもらえるとはなんと幸運。国を渡り、時にはあくどい真似をしていた過去がなんとも馬鹿らしくなってくる。
「王子、また性懲りもなくそのようなものを……!」
「あっ。ルフェス……!」
げっ。出たなお付きの。
王子が嬉しそうに見上げた先には、顔の整った王子の騎士、ルフェスが立っていた。
「国王様も王子に甘すぎるんですよ……。こんな怪しい道具売りを城に入れるなんて」
あからさまなため息をついて、ルフェスは邪険にするような眼差しをこちらに向ける。
「怪しいだなんて酷いですね~。私の売り物は本当に効果あるんですってば~。なんならお付きの方もどうです~?」
「いらん。王子、いい加減こんな悪徳商法に引っかかるのはやめていただきたい」
「え~。もう少しだけ……」
「駄目です!」
きっぱりと断られて、王子が渋々と言ったように手を引っ込める。
「ツァイ。明日のこの時間にまた来ておくれよ」
「王子様の頼みとあらば」
こそこそと約束を取り付ける二人の間にルフェスが立ち塞がる。
「用が済んだのならば、さっさとお帰り願いたい」
本当に鬱陶しい騎士だ。コイツさえいなければ、もう少し楽に稼げるというのに。
次の日。約束通り城へ赴くと、王子が待ってましたと言わんばかりに目を輝かせて駆け寄ってくる。
「今ならルフェスいないから大丈夫だよ!」
どうやら番犬はお留守らしい。中々この王子も狡賢いようだ。
「それではさっそく。今日のおすすめの品は~この厄除けの守りですかね」
「へぇ~すごい綺麗! あっ、でもボク、昨日みたいな恋のやつがほしいかな」
「おや、王子様は恋煩いでしたか」
わざとらしく言ってみたが、そんなことは当の昔にお見通しだ。何しろこの王子はわかりやすい。きらきらとした瞳で熱心に見つめるのは、いつだって恋に関する商品だった。
「うん。ボクなんか彼と釣り合わないから、少しでも気休め」
「おや、王子様のお相手は同性でしたか」
「あっ……!」
可愛らしく自分の口元を塞ぐ王子。その仕草は、中性的な少年である王子にぴったり似合っている。
「大丈夫です。顧客情報を易々と漏らしたりはしません。信用問題に関わりますからねぇ」
「ほんと……?」
本当は性別どころか相手の検討さえもついているし、いざとなればその情報を有効に活用する気は満々だ。だけど、そんなことはおくびにも出さず王子に微笑む。
「えぇ。私は王子様の恋、応援しますよ。そうだ、その証にこれを」
「石? 桃色で綺麗だね……!」
手渡した石を陽の光に透かすと、王子はうっとりため息を吐く。
「これはまだ試作なのですが、よくできたので差し上げます。恋守りです」
「えっ、お代は?」
「今日はサービスです。明日また恋守り一式を持ってまいりますので」
「ありがとう!」
「いえ……。私と王子様の仲ですからね」
弾けるような笑顔を見せた王子に、若干の後ろめたさを感じて視線を逸らす。
「やっぱりツァイは悪徳業者なんかじゃないもん! それなのに……。ルフェスはどうしてあんなにツァイのことを嫌うんだろう……」
「きっと、王子様が私に取られるようで怖いのでしょう」
「えっ。それって、もしかして嫉妬ってこと?」
「ええ。そうかもしれませんよ」
王子の理想を肯定した途端、彼の頬がかあっと赤くなる。
なんともチョロい。この王子様はどうやら頭の中にぎっしり夢が詰まっているらしい。
だが、反対にあの番犬。あれはいけない。なるべくあれと出会わないように商売をしないと。睨まれたらきっといけない。あれは苦手だ。あの目は見てはいけない。長く見つめ過ぎてしまえば、きっと……。
「商談はもう終わったのか?」
「っ!」
明日の約束を取り付けて、王宮を出ようとしたところ。その丁度出口の壁に寄りかかっていた青年がこちらに向かってゆらりと問う。
「おや。どうして貴方がここに? お出掛けだと聞いていましたが」
「そうだな。そのつもりだったんだがな。どうも王子の様子がおかしかった気がしてな。早く戻ってきて正解だったよ。目を離した隙に、胡散臭いネズミが紛れ込んでいたんだからな」
「急かしてしまったようで申し訳ないですね」
剣のように鋭い視線を、軽く流して肩を竦めて見せる。
「道具売り、いい加減に純粋な王子を騙すのはやめろ」
「おや立ち聞きとは、お付きの名が泣いてますよ。それに、王子様は私のことをそんな風に思っちゃあいません」
「悪徳業がよくやる手だ。タダで商品を渡して得した気分にさせて信頼させる。巷でもお前のうわさを聞く。年寄りやら子どもやら夫人やら弱みにつけこんで、ここぞと商売してるらしいじゃないか」
「失礼ですね。困っている人にこそ救いの手を差し伸べるべき、でしょう?」
「王子にまで手を出すのはやめろ。殺されたいのか?」
肌がひりつくような殺気。どうやら本当にこの番犬は王子のことが大好きらしい。
「はは。恐いですねぇ。でも、王子が私を気に入っている以上、手出しはできないでしょう?」
「……腐れ外道めが」
忌々しく呟かれたそれに、微笑んでみせる。
「貴方も何かおひとついかがです? 何ならお安くしておきましょうか?」
「……」
商品の入ったケースをわざとらしく見せてやると、ルフェスはすっかり押し黙る。
「あはは。貴方のように仕事もできて容姿も綺麗で女中たちに引っ張りだこなお方は、私の商品なんて必要ありませんでしたね。これは失礼! これ以上は商売のしようもないので、私はここらでお暇させていただきましょう!」
嫌味をたっぷりと込めた後、ケースを仕舞って彼の横を通り過ぎる。が。
「待て。それじゃあ、その恋守りを貰おうか」
「えっ?」
ふいに腕を取られたかと思うと、押し戻される。そして、首に提げた小袋をもぎ取られる。
「ど、どうして……」
「あ?」
袋を覗き込んだ彼を見ながら、ぽつりと疑問が口から洩れる。
「どうしてそれが恋守りだと知って……」
「ああ。偶然見たんだよ。お前が王子に会う前にこの袋を握りしめて、ぶつぶつ言ってたのをな」
「……」
「だが、まさか本当に恋守りだったとはな。鎌をかけてみるものだ」
「ええと。ごめんなさい。それは恋守りでなくてですね……」
「じゃあ何か。こんなにピンクい石が、健康祈願だとでも言うのか?」
「それはですね……」
袋から石を取り出すと、見せつけるようにこちらに向ける。
上手く回らない舌が忌々しい。いつも通りの笑顔を作ろうとしても、不自然に引きつってしまう。馬鹿が。焦るな。いつも通りに騙せばいい。
「まさか、お前が王子のことをそういう目で見ていたとはな」
「え……?」
一瞬、動きを止めて何を言われたのか考える。
もしかしてコイツ、僕が王子に惚れてると勘違いしているのか?
「俺はお前を認めない。お前は王子に相応しくない」
ええと。それじゃあもしかすると、王子に相応しいってのは……。
目を細めて恋守りを見つめる彼。ああ、つまりそういうことか。
この番犬は、あろうことか主人のことを愛しているのだ。
驚いた。まさか完璧人間が恋わずらいに掛かっているとは。
「ええと、ですがその……。それは商品ではなくてですね……。それに、さっきも言いましたが、貴方のようなお方ならこんなものに頼らなくとも……」
「客を選べる立場なのか?」
ぎろりと突き刺さるような視線を向けられ、思わず後退する。
「い、いえ。毎度あり……」
何とか王宮を抜け出した時には、辺りはもうすっかり暗くなっていて。その暗さと冷たさが心地よく思えるほどに、心は強く疲弊していた。
「まさか、アイツが王子のことを好いていたとは……」
ぽつりと漏れ出た言葉に気づいて、自分自身に苛立ちを感じる。
余計なことを考えるな。自分に人間らしい生き方ができるとでも思っているのか。
頭を振るって、馬鹿げた感情を削ぎ落す。
でも……。
「あまり身に着けないでほしいな……」
満足そうに恋守りを見つめていた彼を思い出す。
知らぬ間に、あの石に向かって彼があんな顔をしているのかと思うと、どうも心が落ち着かない。
なにせ、あれを作った時に思い浮かべていたのは……。
「いや、しょうがないことなんだ」
もう一度、頭を振るって自分の頬をぱちりと叩く。
恋守りを作るには、作り手のそういう気持ちを込めなくてはいけないのだから。
だから……。
「……くそ。だからなんだってんだよ!」
女々しい自分を叱りつける。
試作品とはいえ、作り手の想いがバレるわけでも、それが効能に影響するでもない。
だから、後ろめたいことなんて一つも無い。ただただ自分の気持ちの問題で。
「自分の想い人が、自分の作った道具で別の恋を叶えるなんて。清々しいほどに気の利いた皮肉じゃないか」
「わぁ。やっぱりツァイの商品は綺麗だ」
「ありがとうございます」
約束通り、翌日の指定された時間に王子の目の前で商品を広げて見せる。
王子はそれらを手にとっては陽に透かし、感嘆して褒めてゆく。
その姿はまるで乙女のように可愛らしく、桃色の宝石を加工して作られたアクセサリーのどれもが王子のために作られたかのようにぴったりと似合う。
そんなことを思った途端、胸にちくりと痛みが走った。
「王子様の好きな方って何方なんですか?」
「えっ?」
しまったと思ったがもう遅い。不躾な質問は、自然に口に漏れ出していた。
可愛らしく赤く染まったその頬は、見ているだけで心の靄を大きくする。
「もしかしすると、ルフェス様ではありませんか?」
「えええっ!?」
ガタと音を立てて王子が椅子から転げ落ちる。
「ああ。やっぱりそうなんですね」
「ぼ、ボクそんなにわかりやすいかな……?」
「いえ。そんなことは……」
わかりやすいと言えばそうだったが、まさか普通の人ならそれが恋愛感情だなんて気づかないだろう。よくて尊敬や信頼の念だと思うのだろう。それぐらいには性別と身分の差は大きい。
ただ、僕は彼と同じ方向を見ていたからわかっただけだ。そうでなければいいのにと、無駄な願をかけてなお、聞かずにはいられなかっただけ。
「ツァイはすごいね。この石も、つけたおかげでルフェスにどんどん話しかけられるようになったし……!」
心の靄がどんどん濃くなってくる。この王子はこんな石ころ無くとも、きっとルフェスと距離を縮められたことだろう。なにせこの石はまだ試作品。効果があっても、少し勇気が出るぐらいのものだ。
「ツァイ。ボク、頑張ってみるから、これからも贔屓にするから。だから……」
「ええ。王子とルフェス様のことは応援致します」
微笑んでみせると、不安そうだった王子の顔がぱっと明るくなる。
この少年も悩んでいるのだろう。人目を憚るような恋。それを応援してくれる存在など、どう考えてもここにはいない。
「みんなには内緒にしててね。絶対だよ?」
「もちろん。王子は大切なお客様ですから」
「お客様だなんて。ボクと君はとっくに友達なんだから」
「友達、ですか?」
「うん。駄目かな? ボクってば友達が少ないから……。ツァイだったら、何でも話せるし。これってもう友達ってことだよね?」
「……ええ。そう、ですね。勿体ないお言葉ですが」
友達、ねぇ……。
純粋すぎるこの少年が羨ましくなった。こんな風に真っすぐ生きてゆけたらどんなに良かっただろう。
でも。こんな生き方は守られているからこそだ。僕には到底できっこない。できることといえば、ただただ道具を売って金を稼ぐことぐらいだ。
前回で最後にするつもりだった。
この土地には十分すぎるほど滞在した。そして、この城で十分すぎるほどの商売をした。
王子だって、十分すぎるほどにルフェスに近づくことができただろう。だから、潮時だった。いつものように何の未練も残さずに飛び立つ算段だった。
それなのに。
「ああああ、ボクは、ボクはまだ死にたくない……。たす……助けて……ルフェス……!」
もう一度だけと思い、王子と約束を取り付けた。指定されたのは人気のない森。城の近くであることもあり、比較的安全な森のはずだった。
だけど、いざ着いてみると王子は魔物に狙われていた。
尻餅をついた王子の目の前に迫る恐ろしい魔物は、いつ王子に飛び掛かってもおかしくない。
「王子!」
放っておけばよかったのに。体が勝手に動いた。友達だなんて言われたせいで、変に責任を持ってしまったのかもしれない。
「ツァイ……!」
間一髪のところで魔物から王子を引き離し、持っていた剣で魔物を切り裂く。
「ハッ!」
「ひっ……」
魔物の体をぶった切った瞬間、赤い血が目の前を覆う。後ろにいた王子も真正面から血を被り、悲鳴を上げる。
「あ、あああ。こ、怖い……」
「王子! どうか、お気を確かに!」
自分の顔を拭った手のひらを見て、王子が震え出す。その瞳は完全に恐怖に支配されている。
「無理だ! ボクは……。あああ……!」
「王子、しっかりしてください!」
「駄目だ、怖いよ……。ツァイ、震えが止まらない……。ひっ。息も、苦しい……」
一国の王子が魔物如きでこうなっていては、ざまぁない。
「王子。大丈夫ですよ。もう怖くありませんから」
「でも……! お願い、ツァイ。薬……! 薬を売ってくれ……! いくらでも出すから!」
「……それじゃあ、これを」
迷ったが、持ち合わせていた薬を王子に飲ませてやる。
すると、みるみるうちに王子の顔から恐怖が消えて、安らかな眠りへと誘う。
「ああ……。ツァイ。ありがとう……。お代は、起きてからで、いいよね……?」
「お代なんていりませんよ。貴方は僕の友達なんですからね」
すぐに寝息を立てて眠り始めた王子の髪を撫でて、草むらへ寝かせてやる。
やはり、慣れない感傷に浸るもんじゃないな。後ろ髪を引かれて“お友達”を危険な目に遭わせるなんて……。
「一体どんな企みがあるんだ? ツァイ」
突然投げかけられた言葉に、ハッとする。
「……ルフェス様がどうしてここに?」
いつの間にか現れたルフェスが、寝ている王子の無事を確かめ立ち上がる。
「王子がいなくなったんだ。俺が探しにくるのは当たり前だろう」
「ええ、そうですね。愚問でした。ええと、今回はその……。王子を危険な目に遭わせてしまってすみませんでした」
「……」
「今後はもう二度と王子には近づきませんので、何卒ご容赦を。私も今日でこの国を出ますので……」
「そうか」
ルフェスの低い声が不愛想に響く。ああ、結局最後まで僕はこの男の前に立つのが辛い。心が軋む。
「それじゃあ私はこれで」
踵を返して、いち早く彼から遠ざかろうとする。
しかし。
「待て、礼をしなくてはいけないだろう」
呼び止められて、心が弾む。期待する場面でもないのに、だ。
「いや、今回はサービスってことで構いませんので……」
「遠慮するな」
歩き出そうとしたところで、ぐっと腕を掴まれる。
だらりと汗が流れる。自然な形で手を解こうとしても、びくともしない。
「本当に、お金は今まで散々貰っているので……」
「じゃあ尚更だ。王子も、散々贔屓にしてやったお前が突然いなくなったら悲しむだろう?」
「は……。王子には、伝えてくださるだけで……結構ですので……」
段々と息が苦しくなるのを抑えて、ルフェスの顔を見る。
そこにあるのは意地の悪い笑み。眩暈がしそうなほどに挑発的な瞳。
こいつ、僕が焦ってるの見透かして、わざと足止めしてやがる……。
「で? 本当のところは何を企んで恩を売ったんだ?」
「いや、ほんと、違う、からっ……」
思考がぐるぐると回る。目の前の瞳から逃げられない。この手が外れない。
放して……。放して……。放して……。
「ツァイ……」
「は、放せッ……!」
ばちっ。
一瞬電撃が走った後、彼の手が離れてバランスを失った体がその場に崩れ落ちる。
「う……。あ、ああああああああ!!」
気づいたら叫んでいた。こうなってはもう遅い。精神は蝕まれ、幻覚に怯え、ただただ発狂する。
「おい……」
「あ、あああ……」
焦点の合わない瞳で彼を見ようとしたが、もう駄目だった。
「馬鹿、しっかりしろ!」
「う……」
彼の腕の中でもがく。うめき声を上げる。それを繰り返している間に、すっかり理性を失って、その内意識もなくなった。。
『化け物……!』『失敗作だ……!』『殺せ……!』『逃がすな……!』『探し出せ……!』
人間の怒鳴り声。駆け巡る足音。いつ見つかるかもわからない恐怖。僕はそれを全部飲み込んで、必死に逃げた。逃げたところで、僕のようなものに居場所などあるはずもないのに――。
目を覚ますと、そこは王宮の一室だった。
「は……」
額の汗を拭う。服はすっかり汗を吸い込んで、肌にべたべたとくっつく。気持ち悪い。
頭の鈍い痛みに首を振るって辺りを見渡す。
簡素な部屋だが、調度品の一つ一つは良いものだった。それと、部屋の隅に置かれた数本の剣は国一つを築けそうなほどに高価な代物。その中で一際高そうな一本に見覚えがある。
「起きたか……」
ノックの後に扉を開いて現れたのは、ルフェス。恐らく、この部屋の持ち主は彼なのだろう。
「飲め。かなり汗を掻いている。服も着替えた方がいい」
「……どうも」
差し出された水を素直に受け取り、飲み下す。乾燥した唇に潤いが戻ったところで、ルフェスの手が伸びてきて、首元の汗を拭い去る。
「着替え、手伝ってやろうか?」
「っ。いえ、一人でできます……」
「悪かったな。無理に引き留めて。まさかお前があんなになるとは思わなくて……」
「いえ、疑われるのも無理はありません。胡散臭い商人が王子に薬を飲ませて、自分はさっさとトンズラだなんて。貴方でなくとも引き留めますよ。……あ、でも王子に飲ませたのは本当にちゃんとした精神安定の薬ですから、ご心配なく」
「それは、お前が飲むつもりだった薬なのか?」
「……はは。隠しても疑われるだけですよね。そうですよ、私の薬です」
「病気なのか?」
「まぁ、精神を病んでましてね。可哀想でしょう?」
おどけて見せるが、ルフェスの深刻そうな表情は変わらない。
「だからあんな商売してるのか? お金が足りないのか?」
「違う!」
「え……?」
叫んだ後に、ルフェスの驚いた顔を見て後悔するが、もう遅い。
「あ……。いや、可哀想ってなら御贔屓にしてくださいよ~」
訝しがる彼に営業スマイルを浮かべて、へらへらしてみせる。
お金のため、か。確かに精神安定剤を作る材料は普通のものより少し高価だ。でも、それだけのためじゃない。
そうだ。いつしか僕は人に勇気を与えることのできる道具を売るこの仕事が、好きになっていた。
「……なぁ。これって本当に効くのか?」
ポケットから石を取り出した彼が、静かに質問を投げかけてくる。
どうしてそんなことを問うのだろうか。
「効くに決まってるじゃないですか、イヤだなぁ」
やはり恋をしているのだろうか。
「ふ~ん」
適当な返事を寄越したかと思うとルフェスは、こちらを見たままおもむろに石に口をつける。
「なっ……!」
自分の心臓に口づけられたような気さえして、全身に電撃が駆け巡る。
「……確かに、少しは効果があるようだ」
「えっ? な、なんだ、ちゃんと効果あったんですか」
ほっとすると同時に、目を細めて微笑む彼を見て胸が痛む。
そんな顔もできるのか。彼にそんな顔をさせる人は誰なのか。自分であるはずもない。ないのに、彼の言葉が自分に向けられていればいいのにと妬ましい気持ちまで生まれる始末だ。
「どうした?」
「えっ。いえ、その……」
「ん?」
「いや~、その。ルフェス様のように完璧なお方のお相手、一体誰なのかな~なんて思いまして……」
「気になるのか?」
「い、いえ。まぁ、その……」
「俺はてっきり、気づいてるもんだと思ってたんだけどな」
「えっ。あ、あ~」
そう言われて思い当たらない訳がない。
そういえば、王子は無事なのだろうか。ルフェスはここで僕に構っていていいのだろうか。
「これ、もしかしてお前が自分で作ってるのか?」
「え? えぇ、まぁ……」
唐突な質問。それに答える間にも、ルフェスは見せつけるように石に口づけを落とす。
そういうのは僕の見ていないところでしてほしいんだけども……。それとも、王子を取られないようにと、わざとやっているのだろうか……。
「どうやって作ってんの?」
「それは企業秘密というものです」
何にせよ、早く切り上げてここを出たかった。これ以上ここに居ると、おかしくなってしまいそうなほどに心は疲弊していた。
それなのに。
「もしかしてお前、『呪い師』ってやつ?」
「えっ……。どこでその言葉を……」
唐突に降ってきた言葉に、身動きを止める。聞き間違いだと思いたかった。大した意味のない言葉だと思いたかった。
「やっぱり。もう滅びたとか聞いたけどな」
「……なんで貴方がそんなことを知ってるんですか」
「ん、何? ようやく俺に興味持った?」
茶化すように微笑むルフェスの態度に、指の先が冷たくなってゆく。
「貴方、一体なんなんですか」
「……教えてほしいか?」
「だから、さっきからそう言って……」
ずっ。
「えっ?」
ルフェスが指を弾いたかと思うと、いきなり地面から蔦が生え、あっという間に体に巻きついてくる。
「これ、は……幻覚……!」
目を瞑り呼吸を整えた後、目に力を込めてから開眼する。視力に力を集中させて、何とかその幻覚を打ち消すと、ルフェスが楽し気に口笛を吹く。
「へぇ。まさか破られるとは」
「今の、アンタがやったのか?」
「そんなに睨まないでくれるかい?」
「アンタは魔術が使えるのか……?」
「うん。だって俺は魔術師だから」
「魔術師……?」
ありえない。だって、魔術なんてものはもうこの世に存在しない。だって、魔術なんてものは僕が……。
「お前が言いたいことはわかる。魔術師は一度滅びている。この世界のほとんどの人はもう魔術なんてものが存在していたことすら知らない。だが、俺の親は魔術にこだわっててな。ずっと滅びた力を蘇らせるんだって。気の遠くなるほど長い時を重ねて。何度も何度も改良を重ねて、犠牲を増やして。生まれた赤子や造られた物を混ぜに混ぜて。それでようやく生まれたのが俺」
「え……?」
「そう。俺は人間じゃあない。科学技術で造られた魔術師なんだよ」
ぞっとするような瞳に背筋が凍り付く。それと同時に、心臓が煮えたぎるように熱くなる。
「でも俺を作ったやつらの言いなりになるのは嫌でさ。全滅させてきたんだよ。それで、逃げ続けて、辿りついた先がココ。王子がお人よしで、俺のことを助けてくれてさ。居心地が良かったよ。でも駄目だ。最近は俺のことを疑い始めている連中が出てきた。だから。もうじきこの城ごと滅ぼすことにした」
「な……。滅ぼすって」
まるで何でもないことを話すみたいにルフェスの表情は変わらない。
「俺だって殺されたくはないんでね。人間ってのはさ、自分と違う生き物だって気づくと、すぐに殺したがるんだよ」
「それは……」
「お前にもわかるだろ。だって、ツァイも……」
「言うな!」
叫ぶ。もう誰にもわかるまいと思っていたのに。一番知られたくないと思った相手に現実を突きつけられるとは。いや、これはやはり必然だったのだろうか。
「やっぱり。そうだと思ったんだ。お前は俺と同じ。人間によって造られた存在だ」
「……」
沈黙する以外の正しい反応がわからなかった。僕が本物の人間だったのならば、もっと自然に誤魔化すこともできたのだろうか。なんて。
「認めろ。どうやったって俺たちは人間にはなれない。根本的に違うんだ。お前が飲み損ねた薬、あれは人間としての心を保つためのものだろう?」
「……」
「いや。正確に言うのであれば、お前が人間としての姿を保つためのもの、か」
「っ……!」
「俺はこの姿として造られたからそんな心配はないが。お前はどうも違うみたいだ」
彼から距離を取ろうとするが、腕を取られて引き寄せられる。
「見せてみな」
「っ、やめろ!!!」
ルフェスの手が心臓に触れた瞬間、体が悲鳴を上げて醜い姿に戻ってゆく。
「あ、ああ……。見ないで……。も、戻して……。僕は、ただ、人間として……人間の役に立つ仕事を……」
「馬鹿だな。人間が今のお前を認めるわけないだろう?」
ルフェスがそう呟いた途端、部屋のドアが開いて王子が現れる。
「あれ……。ボクはなんでここに……」
「あ……。王子……」
目が合って、王子が凍り付く。
「ば……。化け物が出た!!! 誰か! ルフェス! 危ないから早くこっちに……!」
「わかっただろ? お前が王子をどう思おうと意味ない」
どっ。
「る……ふぇす……?」
何が起こったかわからないという顔で王子が地面に倒れ伏す。その体からはおびただしい量の血が流れ出ている。
「は……? なんで……」
目の前に立つルフェスを見つめる。その手には血の付いた剣が握られている。
「ツァイ。俺と一緒に来い」
その差し伸べられた血塗られた手のひらを見つめる。
「アンタは王子が好きなんじゃないのか……?」
「人間など誰が好きになるものか。俺が好きなのはお前だ、ツァイ」
「は……?」
言われた言葉の意味を考えようとした矢先、ルフェスの腕が伸びてきて抱き包まれる。
「なんだ。本当に気づいてないのか。可愛い子だ」
「や、やめろ……! 僕は醜いから……!」
「俺はお前の容姿がどんなでもいい。 俺に人間みたいな価値観はないからな。だから、こんな人間を想うより、俺にしろ。コレはお前を裏切ったんだから。お前の本質も知らずに。上辺だけを見ていたんだ。俺は違う。最初からお前には人間とは違う何かを感じていた。だからこそ、俺はお前に興味を抱いた。そして好きになった」
「え……」
「こんな死体より俺を選べ、ツァイ」
悪魔のような囁きが、心地良くて力が抜けてゆく。
「アンタこそ……。僕は王子が好きなんじゃあない。僕が好きなのは、最初っからアンタだよ」
そうだ。僕が彼のことが気になっていたのは、今にして思えばその人間らしからぬ雰囲気のせいだったのかもしれない。彼も同じく、僕の造られたという本質を見て惹かれただけなのかもしれない。なんてことはない。
「なぁ。呪い師ってのは、まだ魔術が栄えていた昔に魔術師たちによって造られた人工魔術師のことなんだろう?」
「……」
「お前はそこで親である魔術師たちを根絶やしにした」
「そんな昔の出来事が記録に残っているのか?」
「いや。明確なものは残ってない。憶測の域に過ぎない。でも。俺にはわかる。俺とお前はよく似ているからな」
「そうだな。まぁ、アンタの方が随分と若いけど」
「はは。じゃあこれから先、俺がどうしたいかわかるだろ? センパイ」
「……ああ。わかるよルフェス」
静かに唇を重ねる。窓から差し込む朝焼けを浴びて光る石はまるで、血のように赤くて美しい。
さあ、身勝手に僕たちの運命を作ってくれた人間たちにお礼をしよう。僕たちの運命のために。
王子→お付き×道具売り
ルフェス 王子専属の騎士。お付きの人。皆に信頼されているイケメン。
ツァイ 道具売り。道具を売り歩き、国を転々としている。
王子 天使みたいに可愛い子。最近恋にお悩み。
最初はやんわり関係性駆け引き三角関係話?なんですけど、急に魔術人外要素が出てくるっていうこの……。実は人間じゃないです展開のメリバが好きです……。
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「このお守りさえあれば王子様の恋もきっと叶いましょう」
「ほんと!? じゃあ買おうかな!」
「毎度あり」
無邪気な笑みを浮かべながら躊躇いもなく浪費する目の前の王子に、愛想よく商品を渡す。これで今月もたっぷり稼げるな。心の中でほくそ笑む。全く良い客を捕まえたものだ。まさかイチかバチかで売り込みに行った城の王子に気に入ってもらえるとはなんと幸運。国を渡り、時にはあくどい真似をしていた過去がなんとも馬鹿らしくなってくる。
「王子、また性懲りもなくそのようなものを……!」
「あっ。ルフェス……!」
げっ。出たなお付きの。
王子が嬉しそうに見上げた先には、顔の整った王子の騎士、ルフェスが立っていた。
「国王様も王子に甘すぎるんですよ……。こんな怪しい道具売りを城に入れるなんて」
あからさまなため息をついて、ルフェスは邪険にするような眼差しをこちらに向ける。
「怪しいだなんて酷いですね~。私の売り物は本当に効果あるんですってば~。なんならお付きの方もどうです~?」
「いらん。王子、いい加減こんな悪徳商法に引っかかるのはやめていただきたい」
「え~。もう少しだけ……」
「駄目です!」
きっぱりと断られて、王子が渋々と言ったように手を引っ込める。
「ツァイ。明日のこの時間にまた来ておくれよ」
「王子様の頼みとあらば」
こそこそと約束を取り付ける二人の間にルフェスが立ち塞がる。
「用が済んだのならば、さっさとお帰り願いたい」
本当に鬱陶しい騎士だ。コイツさえいなければ、もう少し楽に稼げるというのに。
次の日。約束通り城へ赴くと、王子が待ってましたと言わんばかりに目を輝かせて駆け寄ってくる。
「今ならルフェスいないから大丈夫だよ!」
どうやら番犬はお留守らしい。中々この王子も狡賢いようだ。
「それではさっそく。今日のおすすめの品は~この厄除けの守りですかね」
「へぇ~すごい綺麗! あっ、でもボク、昨日みたいな恋のやつがほしいかな」
「おや、王子様は恋煩いでしたか」
わざとらしく言ってみたが、そんなことは当の昔にお見通しだ。何しろこの王子はわかりやすい。きらきらとした瞳で熱心に見つめるのは、いつだって恋に関する商品だった。
「うん。ボクなんか彼と釣り合わないから、少しでも気休め」
「おや、王子様のお相手は同性でしたか」
「あっ……!」
可愛らしく自分の口元を塞ぐ王子。その仕草は、中性的な少年である王子にぴったり似合っている。
「大丈夫です。顧客情報を易々と漏らしたりはしません。信用問題に関わりますからねぇ」
「ほんと……?」
本当は性別どころか相手の検討さえもついているし、いざとなればその情報を有効に活用する気は満々だ。だけど、そんなことはおくびにも出さず王子に微笑む。
「えぇ。私は王子様の恋、応援しますよ。そうだ、その証にこれを」
「石? 桃色で綺麗だね……!」
手渡した石を陽の光に透かすと、王子はうっとりため息を吐く。
「これはまだ試作なのですが、よくできたので差し上げます。恋守りです」
「えっ、お代は?」
「今日はサービスです。明日また恋守り一式を持ってまいりますので」
「ありがとう!」
「いえ……。私と王子様の仲ですからね」
弾けるような笑顔を見せた王子に、若干の後ろめたさを感じて視線を逸らす。
「やっぱりツァイは悪徳業者なんかじゃないもん! それなのに……。ルフェスはどうしてあんなにツァイのことを嫌うんだろう……」
「きっと、王子様が私に取られるようで怖いのでしょう」
「えっ。それって、もしかして嫉妬ってこと?」
「ええ。そうかもしれませんよ」
王子の理想を肯定した途端、彼の頬がかあっと赤くなる。
なんともチョロい。この王子様はどうやら頭の中にぎっしり夢が詰まっているらしい。
だが、反対にあの番犬。あれはいけない。なるべくあれと出会わないように商売をしないと。睨まれたらきっといけない。あれは苦手だ。あの目は見てはいけない。長く見つめ過ぎてしまえば、きっと……。
「商談はもう終わったのか?」
「っ!」
明日の約束を取り付けて、王宮を出ようとしたところ。その丁度出口の壁に寄りかかっていた青年がこちらに向かってゆらりと問う。
「おや。どうして貴方がここに? お出掛けだと聞いていましたが」
「そうだな。そのつもりだったんだがな。どうも王子の様子がおかしかった気がしてな。早く戻ってきて正解だったよ。目を離した隙に、胡散臭いネズミが紛れ込んでいたんだからな」
「急かしてしまったようで申し訳ないですね」
剣のように鋭い視線を、軽く流して肩を竦めて見せる。
「道具売り、いい加減に純粋な王子を騙すのはやめろ」
「おや立ち聞きとは、お付きの名が泣いてますよ。それに、王子様は私のことをそんな風に思っちゃあいません」
「悪徳業がよくやる手だ。タダで商品を渡して得した気分にさせて信頼させる。巷でもお前のうわさを聞く。年寄りやら子どもやら夫人やら弱みにつけこんで、ここぞと商売してるらしいじゃないか」
「失礼ですね。困っている人にこそ救いの手を差し伸べるべき、でしょう?」
「王子にまで手を出すのはやめろ。殺されたいのか?」
肌がひりつくような殺気。どうやら本当にこの番犬は王子のことが大好きらしい。
「はは。恐いですねぇ。でも、王子が私を気に入っている以上、手出しはできないでしょう?」
「……腐れ外道めが」
忌々しく呟かれたそれに、微笑んでみせる。
「貴方も何かおひとついかがです? 何ならお安くしておきましょうか?」
「……」
商品の入ったケースをわざとらしく見せてやると、ルフェスはすっかり押し黙る。
「あはは。貴方のように仕事もできて容姿も綺麗で女中たちに引っ張りだこなお方は、私の商品なんて必要ありませんでしたね。これは失礼! これ以上は商売のしようもないので、私はここらでお暇させていただきましょう!」
嫌味をたっぷりと込めた後、ケースを仕舞って彼の横を通り過ぎる。が。
「待て。それじゃあ、その恋守りを貰おうか」
「えっ?」
ふいに腕を取られたかと思うと、押し戻される。そして、首に提げた小袋をもぎ取られる。
「ど、どうして……」
「あ?」
袋を覗き込んだ彼を見ながら、ぽつりと疑問が口から洩れる。
「どうしてそれが恋守りだと知って……」
「ああ。偶然見たんだよ。お前が王子に会う前にこの袋を握りしめて、ぶつぶつ言ってたのをな」
「……」
「だが、まさか本当に恋守りだったとはな。鎌をかけてみるものだ」
「ええと。ごめんなさい。それは恋守りでなくてですね……」
「じゃあ何か。こんなにピンクい石が、健康祈願だとでも言うのか?」
「それはですね……」
袋から石を取り出すと、見せつけるようにこちらに向ける。
上手く回らない舌が忌々しい。いつも通りの笑顔を作ろうとしても、不自然に引きつってしまう。馬鹿が。焦るな。いつも通りに騙せばいい。
「まさか、お前が王子のことをそういう目で見ていたとはな」
「え……?」
一瞬、動きを止めて何を言われたのか考える。
もしかしてコイツ、僕が王子に惚れてると勘違いしているのか?
「俺はお前を認めない。お前は王子に相応しくない」
ええと。それじゃあもしかすると、王子に相応しいってのは……。
目を細めて恋守りを見つめる彼。ああ、つまりそういうことか。
この番犬は、あろうことか主人のことを愛しているのだ。
驚いた。まさか完璧人間が恋わずらいに掛かっているとは。
「ええと、ですがその……。それは商品ではなくてですね……。それに、さっきも言いましたが、貴方のようなお方ならこんなものに頼らなくとも……」
「客を選べる立場なのか?」
ぎろりと突き刺さるような視線を向けられ、思わず後退する。
「い、いえ。毎度あり……」
何とか王宮を抜け出した時には、辺りはもうすっかり暗くなっていて。その暗さと冷たさが心地よく思えるほどに、心は強く疲弊していた。
「まさか、アイツが王子のことを好いていたとは……」
ぽつりと漏れ出た言葉に気づいて、自分自身に苛立ちを感じる。
余計なことを考えるな。自分に人間らしい生き方ができるとでも思っているのか。
頭を振るって、馬鹿げた感情を削ぎ落す。
でも……。
「あまり身に着けないでほしいな……」
満足そうに恋守りを見つめていた彼を思い出す。
知らぬ間に、あの石に向かって彼があんな顔をしているのかと思うと、どうも心が落ち着かない。
なにせ、あれを作った時に思い浮かべていたのは……。
「いや、しょうがないことなんだ」
もう一度、頭を振るって自分の頬をぱちりと叩く。
恋守りを作るには、作り手のそういう気持ちを込めなくてはいけないのだから。
だから……。
「……くそ。だからなんだってんだよ!」
女々しい自分を叱りつける。
試作品とはいえ、作り手の想いがバレるわけでも、それが効能に影響するでもない。
だから、後ろめたいことなんて一つも無い。ただただ自分の気持ちの問題で。
「自分の想い人が、自分の作った道具で別の恋を叶えるなんて。清々しいほどに気の利いた皮肉じゃないか」
「わぁ。やっぱりツァイの商品は綺麗だ」
「ありがとうございます」
約束通り、翌日の指定された時間に王子の目の前で商品を広げて見せる。
王子はそれらを手にとっては陽に透かし、感嘆して褒めてゆく。
その姿はまるで乙女のように可愛らしく、桃色の宝石を加工して作られたアクセサリーのどれもが王子のために作られたかのようにぴったりと似合う。
そんなことを思った途端、胸にちくりと痛みが走った。
「王子様の好きな方って何方なんですか?」
「えっ?」
しまったと思ったがもう遅い。不躾な質問は、自然に口に漏れ出していた。
可愛らしく赤く染まったその頬は、見ているだけで心の靄を大きくする。
「もしかしすると、ルフェス様ではありませんか?」
「えええっ!?」
ガタと音を立てて王子が椅子から転げ落ちる。
「ああ。やっぱりそうなんですね」
「ぼ、ボクそんなにわかりやすいかな……?」
「いえ。そんなことは……」
わかりやすいと言えばそうだったが、まさか普通の人ならそれが恋愛感情だなんて気づかないだろう。よくて尊敬や信頼の念だと思うのだろう。それぐらいには性別と身分の差は大きい。
ただ、僕は彼と同じ方向を見ていたからわかっただけだ。そうでなければいいのにと、無駄な願をかけてなお、聞かずにはいられなかっただけ。
「ツァイはすごいね。この石も、つけたおかげでルフェスにどんどん話しかけられるようになったし……!」
心の靄がどんどん濃くなってくる。この王子はこんな石ころ無くとも、きっとルフェスと距離を縮められたことだろう。なにせこの石はまだ試作品。効果があっても、少し勇気が出るぐらいのものだ。
「ツァイ。ボク、頑張ってみるから、これからも贔屓にするから。だから……」
「ええ。王子とルフェス様のことは応援致します」
微笑んでみせると、不安そうだった王子の顔がぱっと明るくなる。
この少年も悩んでいるのだろう。人目を憚るような恋。それを応援してくれる存在など、どう考えてもここにはいない。
「みんなには内緒にしててね。絶対だよ?」
「もちろん。王子は大切なお客様ですから」
「お客様だなんて。ボクと君はとっくに友達なんだから」
「友達、ですか?」
「うん。駄目かな? ボクってば友達が少ないから……。ツァイだったら、何でも話せるし。これってもう友達ってことだよね?」
「……ええ。そう、ですね。勿体ないお言葉ですが」
友達、ねぇ……。
純粋すぎるこの少年が羨ましくなった。こんな風に真っすぐ生きてゆけたらどんなに良かっただろう。
でも。こんな生き方は守られているからこそだ。僕には到底できっこない。できることといえば、ただただ道具を売って金を稼ぐことぐらいだ。
前回で最後にするつもりだった。
この土地には十分すぎるほど滞在した。そして、この城で十分すぎるほどの商売をした。
王子だって、十分すぎるほどにルフェスに近づくことができただろう。だから、潮時だった。いつものように何の未練も残さずに飛び立つ算段だった。
それなのに。
「ああああ、ボクは、ボクはまだ死にたくない……。たす……助けて……ルフェス……!」
もう一度だけと思い、王子と約束を取り付けた。指定されたのは人気のない森。城の近くであることもあり、比較的安全な森のはずだった。
だけど、いざ着いてみると王子は魔物に狙われていた。
尻餅をついた王子の目の前に迫る恐ろしい魔物は、いつ王子に飛び掛かってもおかしくない。
「王子!」
放っておけばよかったのに。体が勝手に動いた。友達だなんて言われたせいで、変に責任を持ってしまったのかもしれない。
「ツァイ……!」
間一髪のところで魔物から王子を引き離し、持っていた剣で魔物を切り裂く。
「ハッ!」
「ひっ……」
魔物の体をぶった切った瞬間、赤い血が目の前を覆う。後ろにいた王子も真正面から血を被り、悲鳴を上げる。
「あ、あああ。こ、怖い……」
「王子! どうか、お気を確かに!」
自分の顔を拭った手のひらを見て、王子が震え出す。その瞳は完全に恐怖に支配されている。
「無理だ! ボクは……。あああ……!」
「王子、しっかりしてください!」
「駄目だ、怖いよ……。ツァイ、震えが止まらない……。ひっ。息も、苦しい……」
一国の王子が魔物如きでこうなっていては、ざまぁない。
「王子。大丈夫ですよ。もう怖くありませんから」
「でも……! お願い、ツァイ。薬……! 薬を売ってくれ……! いくらでも出すから!」
「……それじゃあ、これを」
迷ったが、持ち合わせていた薬を王子に飲ませてやる。
すると、みるみるうちに王子の顔から恐怖が消えて、安らかな眠りへと誘う。
「ああ……。ツァイ。ありがとう……。お代は、起きてからで、いいよね……?」
「お代なんていりませんよ。貴方は僕の友達なんですからね」
すぐに寝息を立てて眠り始めた王子の髪を撫でて、草むらへ寝かせてやる。
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いつの間にか現れたルフェスが、寝ている王子の無事を確かめ立ち上がる。
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「……」
「今後はもう二度と王子には近づきませんので、何卒ご容赦を。私も今日でこの国を出ますので……」
「そうか」
ルフェスの低い声が不愛想に響く。ああ、結局最後まで僕はこの男の前に立つのが辛い。心が軋む。
「それじゃあ私はこれで」
踵を返して、いち早く彼から遠ざかろうとする。
しかし。
「待て、礼をしなくてはいけないだろう」
呼び止められて、心が弾む。期待する場面でもないのに、だ。
「いや、今回はサービスってことで構いませんので……」
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歩き出そうとしたところで、ぐっと腕を掴まれる。
だらりと汗が流れる。自然な形で手を解こうとしても、びくともしない。
「本当に、お金は今まで散々貰っているので……」
「じゃあ尚更だ。王子も、散々贔屓にしてやったお前が突然いなくなったら悲しむだろう?」
「は……。王子には、伝えてくださるだけで……結構ですので……」
段々と息が苦しくなるのを抑えて、ルフェスの顔を見る。
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こいつ、僕が焦ってるの見透かして、わざと足止めしてやがる……。
「で? 本当のところは何を企んで恩を売ったんだ?」
「いや、ほんと、違う、からっ……」
思考がぐるぐると回る。目の前の瞳から逃げられない。この手が外れない。
放して……。放して……。放して……。
「ツァイ……」
「は、放せッ……!」
ばちっ。
一瞬電撃が走った後、彼の手が離れてバランスを失った体がその場に崩れ落ちる。
「う……。あ、ああああああああ!!」
気づいたら叫んでいた。こうなってはもう遅い。精神は蝕まれ、幻覚に怯え、ただただ発狂する。
「おい……」
「あ、あああ……」
焦点の合わない瞳で彼を見ようとしたが、もう駄目だった。
「馬鹿、しっかりしろ!」
「う……」
彼の腕の中でもがく。うめき声を上げる。それを繰り返している間に、すっかり理性を失って、その内意識もなくなった。。
『化け物……!』『失敗作だ……!』『殺せ……!』『逃がすな……!』『探し出せ……!』
人間の怒鳴り声。駆け巡る足音。いつ見つかるかもわからない恐怖。僕はそれを全部飲み込んで、必死に逃げた。逃げたところで、僕のようなものに居場所などあるはずもないのに――。
目を覚ますと、そこは王宮の一室だった。
「は……」
額の汗を拭う。服はすっかり汗を吸い込んで、肌にべたべたとくっつく。気持ち悪い。
頭の鈍い痛みに首を振るって辺りを見渡す。
簡素な部屋だが、調度品の一つ一つは良いものだった。それと、部屋の隅に置かれた数本の剣は国一つを築けそうなほどに高価な代物。その中で一際高そうな一本に見覚えがある。
「起きたか……」
ノックの後に扉を開いて現れたのは、ルフェス。恐らく、この部屋の持ち主は彼なのだろう。
「飲め。かなり汗を掻いている。服も着替えた方がいい」
「……どうも」
差し出された水を素直に受け取り、飲み下す。乾燥した唇に潤いが戻ったところで、ルフェスの手が伸びてきて、首元の汗を拭い去る。
「着替え、手伝ってやろうか?」
「っ。いえ、一人でできます……」
「悪かったな。無理に引き留めて。まさかお前があんなになるとは思わなくて……」
「いえ、疑われるのも無理はありません。胡散臭い商人が王子に薬を飲ませて、自分はさっさとトンズラだなんて。貴方でなくとも引き留めますよ。……あ、でも王子に飲ませたのは本当にちゃんとした精神安定の薬ですから、ご心配なく」
「それは、お前が飲むつもりだった薬なのか?」
「……はは。隠しても疑われるだけですよね。そうですよ、私の薬です」
「病気なのか?」
「まぁ、精神を病んでましてね。可哀想でしょう?」
おどけて見せるが、ルフェスの深刻そうな表情は変わらない。
「だからあんな商売してるのか? お金が足りないのか?」
「違う!」
「え……?」
叫んだ後に、ルフェスの驚いた顔を見て後悔するが、もう遅い。
「あ……。いや、可哀想ってなら御贔屓にしてくださいよ~」
訝しがる彼に営業スマイルを浮かべて、へらへらしてみせる。
お金のため、か。確かに精神安定剤を作る材料は普通のものより少し高価だ。でも、それだけのためじゃない。
そうだ。いつしか僕は人に勇気を与えることのできる道具を売るこの仕事が、好きになっていた。
「……なぁ。これって本当に効くのか?」
ポケットから石を取り出した彼が、静かに質問を投げかけてくる。
どうしてそんなことを問うのだろうか。
「効くに決まってるじゃないですか、イヤだなぁ」
やはり恋をしているのだろうか。
「ふ~ん」
適当な返事を寄越したかと思うとルフェスは、こちらを見たままおもむろに石に口をつける。
「なっ……!」
自分の心臓に口づけられたような気さえして、全身に電撃が駆け巡る。
「……確かに、少しは効果があるようだ」
「えっ? な、なんだ、ちゃんと効果あったんですか」
ほっとすると同時に、目を細めて微笑む彼を見て胸が痛む。
そんな顔もできるのか。彼にそんな顔をさせる人は誰なのか。自分であるはずもない。ないのに、彼の言葉が自分に向けられていればいいのにと妬ましい気持ちまで生まれる始末だ。
「どうした?」
「えっ。いえ、その……」
「ん?」
「いや~、その。ルフェス様のように完璧なお方のお相手、一体誰なのかな~なんて思いまして……」
「気になるのか?」
「い、いえ。まぁ、その……」
「俺はてっきり、気づいてるもんだと思ってたんだけどな」
「えっ。あ、あ~」
そう言われて思い当たらない訳がない。
そういえば、王子は無事なのだろうか。ルフェスはここで僕に構っていていいのだろうか。
「これ、もしかしてお前が自分で作ってるのか?」
「え? えぇ、まぁ……」
唐突な質問。それに答える間にも、ルフェスは見せつけるように石に口づけを落とす。
そういうのは僕の見ていないところでしてほしいんだけども……。それとも、王子を取られないようにと、わざとやっているのだろうか……。
「どうやって作ってんの?」
「それは企業秘密というものです」
何にせよ、早く切り上げてここを出たかった。これ以上ここに居ると、おかしくなってしまいそうなほどに心は疲弊していた。
それなのに。
「もしかしてお前、『呪い師』ってやつ?」
「えっ……。どこでその言葉を……」
唐突に降ってきた言葉に、身動きを止める。聞き間違いだと思いたかった。大した意味のない言葉だと思いたかった。
「やっぱり。もう滅びたとか聞いたけどな」
「……なんで貴方がそんなことを知ってるんですか」
「ん、何? ようやく俺に興味持った?」
茶化すように微笑むルフェスの態度に、指の先が冷たくなってゆく。
「貴方、一体なんなんですか」
「……教えてほしいか?」
「だから、さっきからそう言って……」
ずっ。
「えっ?」
ルフェスが指を弾いたかと思うと、いきなり地面から蔦が生え、あっという間に体に巻きついてくる。
「これ、は……幻覚……!」
目を瞑り呼吸を整えた後、目に力を込めてから開眼する。視力に力を集中させて、何とかその幻覚を打ち消すと、ルフェスが楽し気に口笛を吹く。
「へぇ。まさか破られるとは」
「今の、アンタがやったのか?」
「そんなに睨まないでくれるかい?」
「アンタは魔術が使えるのか……?」
「うん。だって俺は魔術師だから」
「魔術師……?」
ありえない。だって、魔術なんてものはもうこの世に存在しない。だって、魔術なんてものは僕が……。
「お前が言いたいことはわかる。魔術師は一度滅びている。この世界のほとんどの人はもう魔術なんてものが存在していたことすら知らない。だが、俺の親は魔術にこだわっててな。ずっと滅びた力を蘇らせるんだって。気の遠くなるほど長い時を重ねて。何度も何度も改良を重ねて、犠牲を増やして。生まれた赤子や造られた物を混ぜに混ぜて。それでようやく生まれたのが俺」
「え……?」
「そう。俺は人間じゃあない。科学技術で造られた魔術師なんだよ」
ぞっとするような瞳に背筋が凍り付く。それと同時に、心臓が煮えたぎるように熱くなる。
「でも俺を作ったやつらの言いなりになるのは嫌でさ。全滅させてきたんだよ。それで、逃げ続けて、辿りついた先がココ。王子がお人よしで、俺のことを助けてくれてさ。居心地が良かったよ。でも駄目だ。最近は俺のことを疑い始めている連中が出てきた。だから。もうじきこの城ごと滅ぼすことにした」
「な……。滅ぼすって」
まるで何でもないことを話すみたいにルフェスの表情は変わらない。
「俺だって殺されたくはないんでね。人間ってのはさ、自分と違う生き物だって気づくと、すぐに殺したがるんだよ」
「それは……」
「お前にもわかるだろ。だって、ツァイも……」
「言うな!」
叫ぶ。もう誰にもわかるまいと思っていたのに。一番知られたくないと思った相手に現実を突きつけられるとは。いや、これはやはり必然だったのだろうか。
「やっぱり。そうだと思ったんだ。お前は俺と同じ。人間によって造られた存在だ」
「……」
沈黙する以外の正しい反応がわからなかった。僕が本物の人間だったのならば、もっと自然に誤魔化すこともできたのだろうか。なんて。
「認めろ。どうやったって俺たちは人間にはなれない。根本的に違うんだ。お前が飲み損ねた薬、あれは人間としての心を保つためのものだろう?」
「……」
「いや。正確に言うのであれば、お前が人間としての姿を保つためのもの、か」
「っ……!」
「俺はこの姿として造られたからそんな心配はないが。お前はどうも違うみたいだ」
彼から距離を取ろうとするが、腕を取られて引き寄せられる。
「見せてみな」
「っ、やめろ!!!」
ルフェスの手が心臓に触れた瞬間、体が悲鳴を上げて醜い姿に戻ってゆく。
「あ、ああ……。見ないで……。も、戻して……。僕は、ただ、人間として……人間の役に立つ仕事を……」
「馬鹿だな。人間が今のお前を認めるわけないだろう?」
ルフェスがそう呟いた途端、部屋のドアが開いて王子が現れる。
「あれ……。ボクはなんでここに……」
「あ……。王子……」
目が合って、王子が凍り付く。
「ば……。化け物が出た!!! 誰か! ルフェス! 危ないから早くこっちに……!」
「わかっただろ? お前が王子をどう思おうと意味ない」
どっ。
「る……ふぇす……?」
何が起こったかわからないという顔で王子が地面に倒れ伏す。その体からはおびただしい量の血が流れ出ている。
「は……? なんで……」
目の前に立つルフェスを見つめる。その手には血の付いた剣が握られている。
「ツァイ。俺と一緒に来い」
その差し伸べられた血塗られた手のひらを見つめる。
「アンタは王子が好きなんじゃないのか……?」
「人間など誰が好きになるものか。俺が好きなのはお前だ、ツァイ」
「は……?」
言われた言葉の意味を考えようとした矢先、ルフェスの腕が伸びてきて抱き包まれる。
「なんだ。本当に気づいてないのか。可愛い子だ」
「や、やめろ……! 僕は醜いから……!」
「俺はお前の容姿がどんなでもいい。 俺に人間みたいな価値観はないからな。だから、こんな人間を想うより、俺にしろ。コレはお前を裏切ったんだから。お前の本質も知らずに。上辺だけを見ていたんだ。俺は違う。最初からお前には人間とは違う何かを感じていた。だからこそ、俺はお前に興味を抱いた。そして好きになった」
「え……」
「こんな死体より俺を選べ、ツァイ」
悪魔のような囁きが、心地良くて力が抜けてゆく。
「アンタこそ……。僕は王子が好きなんじゃあない。僕が好きなのは、最初っからアンタだよ」
そうだ。僕が彼のことが気になっていたのは、今にして思えばその人間らしからぬ雰囲気のせいだったのかもしれない。彼も同じく、僕の造られたという本質を見て惹かれただけなのかもしれない。なんてことはない。
「なぁ。呪い師ってのは、まだ魔術が栄えていた昔に魔術師たちによって造られた人工魔術師のことなんだろう?」
「……」
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