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杉崎 累
池の小魚
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特定の思想を持った者達が築くグループを潰すにおいて、最も重要な事は何か?
最初、私はこのグループを侮っていた。
たかがSNSで生まれた少しの憎悪と大半の遊び心で出来た、大したグループではないと。
でも真実は違った。
頭脳明晰な指示役に、リーダーに忠実な所属メンバー達。
指示役の支配下に置かれている訳でもなく、全員が静さんへの嫌悪で動いている。
だからメンバーの一人を潰しても、活動に影響は然程出ない。
現に指示で迷惑物を送っていた2人、独断で結婚式に突撃した2人は逮捕、グループメンバーだったGが消えてもグループは存在し、
活動自粛中とはいえ、普遍的な誹謗中傷は続いている。
ただ、指示役であるくるみ氏が彼らを一つに纏めているのは事実。
個別で動いていたらいずれ対立が始まり同士討ちが引き起こるところ、自身の経歴、影響力を使って防いでいる。
例えれば、大した人気もない歌い手が囲いを纏めて使い、自身のアンチを凍結させている様。
だが、そうして“忠誠”が生まれるならば“裏切り”も必然的に生まれるだろう。
その裏切り者を上手く使えば壊滅させる事が出来るはずだ。
しかし、現時点ではこのグループを裏切った裏切り者は確認出来ていない。
作り出すのもいいが、出来れば自然に裏切りが発生した方が干渉しやすい。
私は裏切りが発生するまで待つ事にした。
ある日、私の元に一通のDMが届いた。
グループメンバーの誰かなんだが、捨て垢から来たので誰なのかは分からなかった。
「あんた、本当に累か?」
累「ええそうですが。そういう貴方は誰ですか?」
「メンバーのTだ、あのグループのメンバー」
訊いてみれば、彼はグループメンバーで、メンバーTらしい。
T氏といえば、グループ内でもトップを争う位にアグレッシブで活動をしている。
だから指示役にも気に入られている様だ。
累「Tさんですか。それで、用件は?」
T「相変わらずな冷徹ぶりだな。」
T「あのグループに来たって事は、俺らみたいにシズの事が嫌になったんだろ?」
累「…まぁ」
T「それなら、手伝って欲しい事があるんだがいいか?」
累「どんな事でしょうか?」
T「最近動いてないだろ?それが退屈でさ。活動再開後にやる一発デカいやつを考えてるんだが、良いのが思いつかなくてさ…」
T「あんたは頭が良いから、そういうのって考えれるか?」
累「活動再開出来るかも怪しいでしょう。最近なんてメンバーの逮捕が続いているので指示役の人も暫くは活動休止だって。」
T「俺は早くあの女に攻撃したいんだよ~頼む、なんか、なんか一つでいいから案をくれ!」
累「とにかく、今すぐには無理です。時間が有れば考えときますよ。」
T「うっし、ありがとな~、じゃあ頼んだ。俺も考えとくからさ。よろしくな。」
…こういう面があるので指示役が度々止めているのを何回も見た。
それにしても、私の方が新入りだからと言っても、態度が傲慢すぎる。
今の様子を見た感じ。少なくともTは裏切りそうな見込みは無いな。
しばらく様子を見ていたのだが、やはり裏切り者が出てきそうな兆候は見えない。
それもそのはず。
ギャングにおいて、裏切りは即ち死ぬ事を意味する。
その鉄則の掟はこういうグループにも適応されるからだ。
自分達が違法な事をやっている自覚があるから、それを警察に通報されるのを恐れているのだ。
しかも、通報した際に自分もそういったグループに所属していて嫌がらせをやっている事がバレたら、自分も逮捕される。
だから裏切り行為なんて出来る訳がないのである。
しかし、そんな中勇気を振り絞って私に相談してくれた人がいた。
累「貴方は?」
S「グループメンバー、Sです」
累「何故私に相談を?」
S「元々、変な郵便物を送ろうなんて話が出てきた時からやめようって考えてたんです。」
S「でも、抜けたらヤバくなる気がして、怖くて抜けれないんです。」
累「なら何故貴方はあのグループに入ったんですか?」
S「最初はシズさんの事が好きじゃなかった。でもここまでするとは思ってなかったんです…」
面白半分で入ったが、もう後戻り出来ないとこまで追い詰められてしまった。
まさに自業自得としか言い様が無いのだが、相談が指示役に筒抜けになる可能性がありながらも、私に相談した彼の勇気は讃える。
S「というか、なんでシズさん側にいた累さんが来たんですか?」
累「私が入った理由ですか?」
S「そうですよ。意味分かんないじゃないですか。あれだけ色々な事を手伝っていたのに、急にこっち側に来るなんて。」
S「正直言って、怪しさMAXです。本当は何かしようとしてるんでしょ。何をしに来たんですか?」
さて、折角の裏切り行為が発生しそうな機会だ。
この機会を逃す訳にはいかない。
だから私はSにこう語りかけた。
累「貴方はあのグループをどう思いますか?」
S「え…初めの頃は面白半分だったけど、今はもう最悪だと思います。」
S「だって、馬鹿げた理由で逮捕者まで出てるんですよ?そんなグループ、やっていられない。」
累「そうですか…」
S「そういう累さんはどう思うんですか?」
私の考える事…それを話す時が来た様だ。
累「私もそう思います。」
累「私利私欲で人を蔑める為だけのグループ…おおよそ存在してはいけません。」
S「じゃ、何故入ってきたんですか?」
累「何故って…このグループを無くす為ですよ。」
S「え…」
私の真の目的。
それはグループを無くす事。
一人でやるのもいいが、味方に出来そうな人がいるなら使った方がいいだろう。
累「貴方も嫌なんでしょう?所属メンバーが嫌になる程の事をやってるんですよ。」
S「でも…潰すっていったって、どうやって…」
累「簡単です。指揮系統を破壊すればいい。」
S「は?…誰かも分かっていないのに?」
累「もう誰なのか分かってますよ。」
S「は…?」
累「だから、貴方がグループから抜けたがっている事をその人に言えば貴方はお終いです。」
S「だったら…俺だってあんたの真の目的を持ってる。それを先にバレせばあんたの方が終わる。」
累「そう。だから協力しましょう。」
S「…」
累「お互い、裏切ったらお終いですよ。だったらグループを潰してしまいましょう。」
手駒を手に入れた、ただお互いにしていい指示は一つだけ。
そういうルールを設けた。
私ははなからSを裏切るつもりなんてない。
多分、Sの方もそうだろう。
自分の身が危ういのだ。裏切る事はしないはず。
まあ、裏切られたら裏切られたらで別の手段に及べばいい。
Sを味方につけたところで、ある人物から話しかけられた。
T「どうだ?思いついたか?」
累「いえ…色々忙しいので全然です。」
Tだ。
こいつは前に「復帰後にやる一発デカイ嫌がらせ」を計画している危険人物だ。
あれからも自粛期間は続いているが、Tの方はどうだろう。
T「俺もまだだ…今アイツが何してんのかは分かってても、何処にいるかが分からないからな…」
累「そうですね…情報の守りが固いので簡単ではないですね…。」
T「クソ…ムカつくな。」
T「そもそも、とっとと謝ればいいんだ。」
累「謝る…?」
T「知らねえのか?指示役がグループやってる理由」
T「あいつは可哀想だよ。でも自分じゃ何も出来ないんだ。」
T「だから代わりに俺がやるんだ。」
累「Tさんは指示役が誰なのかを知ってるんですか?」
T「勿論、一緒にグループを作ったんだからな。100%知ってる」
驚いた。
Tがそこまでの重要人物だとは。
と、なるとくるみを落としてもTが後を継ぐだろうな。
だったらTも潰してしまおうか。
そうすればあのグループは意気消沈して過疎化していくだろう。
それで最終的には解散状態になって、壊滅する。
T「お前も知ってるのか?」
累「ええ…どうやら信頼されている様でね。」
T「そうか、じゃあ名前を隠す必要はないな。」
T「まあ、お前が来たら百人力だからな。くるみさんが喜ぶのも無理はない。」
累「そんな貴方が自粛しているという事は、自粛はくるみさんが始めたんですか?」
T「そうだな、というか指示は全部くるみさんだ。俺は一番それにアドバイスを入れたり出来るだけで、指示は出来ない。」
累「そうですか。」
T「まあ、今の自粛は妥当だよ。警察も目を光らせていやがる。だから隠れるべきだ。」
T「難点は俺のストレス発散法が無くなった事だけどな…」
なるほどな。
これがグループ上層部の実態か。
Tはまだ泳がせておこう。
貴重な情報源になる。
これでまた一歩、グループ破滅への道を開拓できた。
ある意味では感謝しているよ。
最初、私はこのグループを侮っていた。
たかがSNSで生まれた少しの憎悪と大半の遊び心で出来た、大したグループではないと。
でも真実は違った。
頭脳明晰な指示役に、リーダーに忠実な所属メンバー達。
指示役の支配下に置かれている訳でもなく、全員が静さんへの嫌悪で動いている。
だからメンバーの一人を潰しても、活動に影響は然程出ない。
現に指示で迷惑物を送っていた2人、独断で結婚式に突撃した2人は逮捕、グループメンバーだったGが消えてもグループは存在し、
活動自粛中とはいえ、普遍的な誹謗中傷は続いている。
ただ、指示役であるくるみ氏が彼らを一つに纏めているのは事実。
個別で動いていたらいずれ対立が始まり同士討ちが引き起こるところ、自身の経歴、影響力を使って防いでいる。
例えれば、大した人気もない歌い手が囲いを纏めて使い、自身のアンチを凍結させている様。
だが、そうして“忠誠”が生まれるならば“裏切り”も必然的に生まれるだろう。
その裏切り者を上手く使えば壊滅させる事が出来るはずだ。
しかし、現時点ではこのグループを裏切った裏切り者は確認出来ていない。
作り出すのもいいが、出来れば自然に裏切りが発生した方が干渉しやすい。
私は裏切りが発生するまで待つ事にした。
ある日、私の元に一通のDMが届いた。
グループメンバーの誰かなんだが、捨て垢から来たので誰なのかは分からなかった。
「あんた、本当に累か?」
累「ええそうですが。そういう貴方は誰ですか?」
「メンバーのTだ、あのグループのメンバー」
訊いてみれば、彼はグループメンバーで、メンバーTらしい。
T氏といえば、グループ内でもトップを争う位にアグレッシブで活動をしている。
だから指示役にも気に入られている様だ。
累「Tさんですか。それで、用件は?」
T「相変わらずな冷徹ぶりだな。」
T「あのグループに来たって事は、俺らみたいにシズの事が嫌になったんだろ?」
累「…まぁ」
T「それなら、手伝って欲しい事があるんだがいいか?」
累「どんな事でしょうか?」
T「最近動いてないだろ?それが退屈でさ。活動再開後にやる一発デカいやつを考えてるんだが、良いのが思いつかなくてさ…」
T「あんたは頭が良いから、そういうのって考えれるか?」
累「活動再開出来るかも怪しいでしょう。最近なんてメンバーの逮捕が続いているので指示役の人も暫くは活動休止だって。」
T「俺は早くあの女に攻撃したいんだよ~頼む、なんか、なんか一つでいいから案をくれ!」
累「とにかく、今すぐには無理です。時間が有れば考えときますよ。」
T「うっし、ありがとな~、じゃあ頼んだ。俺も考えとくからさ。よろしくな。」
…こういう面があるので指示役が度々止めているのを何回も見た。
それにしても、私の方が新入りだからと言っても、態度が傲慢すぎる。
今の様子を見た感じ。少なくともTは裏切りそうな見込みは無いな。
しばらく様子を見ていたのだが、やはり裏切り者が出てきそうな兆候は見えない。
それもそのはず。
ギャングにおいて、裏切りは即ち死ぬ事を意味する。
その鉄則の掟はこういうグループにも適応されるからだ。
自分達が違法な事をやっている自覚があるから、それを警察に通報されるのを恐れているのだ。
しかも、通報した際に自分もそういったグループに所属していて嫌がらせをやっている事がバレたら、自分も逮捕される。
だから裏切り行為なんて出来る訳がないのである。
しかし、そんな中勇気を振り絞って私に相談してくれた人がいた。
累「貴方は?」
S「グループメンバー、Sです」
累「何故私に相談を?」
S「元々、変な郵便物を送ろうなんて話が出てきた時からやめようって考えてたんです。」
S「でも、抜けたらヤバくなる気がして、怖くて抜けれないんです。」
累「なら何故貴方はあのグループに入ったんですか?」
S「最初はシズさんの事が好きじゃなかった。でもここまでするとは思ってなかったんです…」
面白半分で入ったが、もう後戻り出来ないとこまで追い詰められてしまった。
まさに自業自得としか言い様が無いのだが、相談が指示役に筒抜けになる可能性がありながらも、私に相談した彼の勇気は讃える。
S「というか、なんでシズさん側にいた累さんが来たんですか?」
累「私が入った理由ですか?」
S「そうですよ。意味分かんないじゃないですか。あれだけ色々な事を手伝っていたのに、急にこっち側に来るなんて。」
S「正直言って、怪しさMAXです。本当は何かしようとしてるんでしょ。何をしに来たんですか?」
さて、折角の裏切り行為が発生しそうな機会だ。
この機会を逃す訳にはいかない。
だから私はSにこう語りかけた。
累「貴方はあのグループをどう思いますか?」
S「え…初めの頃は面白半分だったけど、今はもう最悪だと思います。」
S「だって、馬鹿げた理由で逮捕者まで出てるんですよ?そんなグループ、やっていられない。」
累「そうですか…」
S「そういう累さんはどう思うんですか?」
私の考える事…それを話す時が来た様だ。
累「私もそう思います。」
累「私利私欲で人を蔑める為だけのグループ…おおよそ存在してはいけません。」
S「じゃ、何故入ってきたんですか?」
累「何故って…このグループを無くす為ですよ。」
S「え…」
私の真の目的。
それはグループを無くす事。
一人でやるのもいいが、味方に出来そうな人がいるなら使った方がいいだろう。
累「貴方も嫌なんでしょう?所属メンバーが嫌になる程の事をやってるんですよ。」
S「でも…潰すっていったって、どうやって…」
累「簡単です。指揮系統を破壊すればいい。」
S「は?…誰かも分かっていないのに?」
累「もう誰なのか分かってますよ。」
S「は…?」
累「だから、貴方がグループから抜けたがっている事をその人に言えば貴方はお終いです。」
S「だったら…俺だってあんたの真の目的を持ってる。それを先にバレせばあんたの方が終わる。」
累「そう。だから協力しましょう。」
S「…」
累「お互い、裏切ったらお終いですよ。だったらグループを潰してしまいましょう。」
手駒を手に入れた、ただお互いにしていい指示は一つだけ。
そういうルールを設けた。
私ははなからSを裏切るつもりなんてない。
多分、Sの方もそうだろう。
自分の身が危ういのだ。裏切る事はしないはず。
まあ、裏切られたら裏切られたらで別の手段に及べばいい。
Sを味方につけたところで、ある人物から話しかけられた。
T「どうだ?思いついたか?」
累「いえ…色々忙しいので全然です。」
Tだ。
こいつは前に「復帰後にやる一発デカイ嫌がらせ」を計画している危険人物だ。
あれからも自粛期間は続いているが、Tの方はどうだろう。
T「俺もまだだ…今アイツが何してんのかは分かってても、何処にいるかが分からないからな…」
累「そうですね…情報の守りが固いので簡単ではないですね…。」
T「クソ…ムカつくな。」
T「そもそも、とっとと謝ればいいんだ。」
累「謝る…?」
T「知らねえのか?指示役がグループやってる理由」
T「あいつは可哀想だよ。でも自分じゃ何も出来ないんだ。」
T「だから代わりに俺がやるんだ。」
累「Tさんは指示役が誰なのかを知ってるんですか?」
T「勿論、一緒にグループを作ったんだからな。100%知ってる」
驚いた。
Tがそこまでの重要人物だとは。
と、なるとくるみを落としてもTが後を継ぐだろうな。
だったらTも潰してしまおうか。
そうすればあのグループは意気消沈して過疎化していくだろう。
それで最終的には解散状態になって、壊滅する。
T「お前も知ってるのか?」
累「ええ…どうやら信頼されている様でね。」
T「そうか、じゃあ名前を隠す必要はないな。」
T「まあ、お前が来たら百人力だからな。くるみさんが喜ぶのも無理はない。」
累「そんな貴方が自粛しているという事は、自粛はくるみさんが始めたんですか?」
T「そうだな、というか指示は全部くるみさんだ。俺は一番それにアドバイスを入れたり出来るだけで、指示は出来ない。」
累「そうですか。」
T「まあ、今の自粛は妥当だよ。警察も目を光らせていやがる。だから隠れるべきだ。」
T「難点は俺のストレス発散法が無くなった事だけどな…」
なるほどな。
これがグループ上層部の実態か。
Tはまだ泳がせておこう。
貴重な情報源になる。
これでまた一歩、グループ破滅への道を開拓できた。
ある意味では感謝しているよ。
応援ありがとうございます!
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