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杉崎 累

負の連鎖

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陽太さんが私にした相談、そして私がアドバイスした内容を実行するらしく、今日静さんとデートに行くらしい。

この情報をあのグループが耳にすることは無かった。
陽太さんが私以外の人には伝えない事を言っていたからだ。
まあ、最近の身の回りの事を考えたらそうするべきだろう。
無事に成功するのを願っておこうか。

一方、そんな事を知りもしないグループ内では相変わらずどんな嫌がらせをするかを話し合っていた。

活動自粛期間中とはいえ、鬱憤が無くなった訳ではないらしく色々な候補が並べられていった。
TとSはあまり話さなかった。
Tは一発デカイのを考えているからなんだろう。
Sは裏切り者だとバレるのを恐れているからか。
まあいい、私はもう関わる気はない。

これ以上、このグループに居ることによって得られる情報は無いだろうから。
くるみ、T、S、この3人と連絡が取れる状態であればそれでいい。

ある日の昼間、愛莉から電話がかかってきた。
すぐに出て、「もしもし?」と語りかけたが返事がない。

1分くらい無言が続いた後に電話は切れてしまった。
愛莉はそんな無意味な事はしない。

何か…異常性を感じた私は愛莉のいる家に急行した。
警察に住所特定されて逮捕されるのを危惧して、家を移動させたので少し遠い所に行かなければならなかった。

そうして目的の家にやってきた。
合鍵を持ってきたので、それを使って扉を開けようとした。

しかし、もう既に鍵は開けられていた。
中はもぬけの殻で、人の気配も何も無かった。
愛莉のスマホに入っている位置情報共有アプリを開いてみると、全く違う所に居るようだ。

アプリの位置情報を頼りに向かっていくと、何故かどんどんと山中へ入っていってしまう。
地道に山中を進んでいくと、愛莉の位置を示すアイコンがこちらへゆっくりと向かって来ているのに気づいた。

愛莉側も私の位置情報を見れるようになっている。
錯乱して山に入っていってしまったが、私がやって来たので向かって来ていると言ったところか。

だが、おかしい。このアイコンの位置ならもう見えるはずだ。
いくら山とはいえ、山道はある。
目の前から来ているならもう見える位置に居るはずだ。

そしてついに私の位置を通り過ぎてしまった。
さっきからずっと聞こえてくる水の音…。
少し横に視線をやると浅い川が流れていた。
まさか…

そう思った私は川の中に入って愛莉のアイコンがある位置に来てみた。
視線を下にやると、淡いピンク色をした長方形の物体が見えた。
それを手に取ると、それはスマホだった。
このカバー、いくつものキーホルダーと貼られたシール…
間違いない。愛莉のスマホだ。

すぐさま川を沿って山を登っていく。
すると小さな山小屋が見えた。
古ぼけてツタが絡みついている、山小屋の扉は開いていた。
その扉の奥へと入っていく。
奥へ進むと、一つ大きい部屋があった。
その部屋に近付くと、何かがぶら下がっている影が見えた。
何であろうと、この状況だ。
それが何なのか、私はそれを確認するために、更に部屋へ近付いた。
ぶら下がっている物の正体がもう見えそうだ…

…馬鹿な…



そこにあったのは首を吊った人間だった。
呆然とする身体を何とか動かし、その人間の近くに寄る。
この足の爪…ネイルが施されている。
見覚えがあった。

思わず見上げると、私の方を向く愛莉の顔があった。
目は虚で、口は閉じていた。
長い髪が垂れていて、それが見上げた時の風に靡かれた。

声を噛み殺して、後退りをする。
直ぐに警察へ通報した。

警察が到着するまでの間、私は愛莉の身体と小屋の中を見ていた。
窓があった為、そこから陽の光が入ってきて意外と明るかった。
ただ内装は荒れていて、湿気の多い空間だから床の所々に苔が生えていた。
そして一つ、愛莉の身体におかしな所があった。

両手首に縄で縛られた様な痕がついていた。

…手首に縛られた痕?
普通、躁鬱気質でパニック障害になってたとしても、首を吊る前に自分の手を縛るだろうか?

いや、あり得ないだろう。
両手首を痕がつくほど強く縛ったら自力で解くのは難しいし、そもそも縛る事が出来ないだろう。
つまり…この痕が示す真実は…

愛莉の死は他殺であるという事だ。

警察が到着して、私は事情聴取に駆り出された。
元々、愛莉は放火殺人の容疑で全国捜索がされていた。

愛莉のスマホから私との連絡先が見つかったが、私はただの知り合いであるという事を伝えた。
愛人でもなく、本当にただの知り合い。
愛莉の遺体から私の指紋やDNAが検出されなかった事もあって、私は間もなく帰宅できた。

山小屋の近くから犯行に使われたと思われる道具が見つかった事もあり、
警察も他殺と判断したらしく、放火殺人の容疑者探しから一転して、指名手配犯殺しの捜索になった。

私には少し心当たりがあった。
愛莉は表面上だがあのグループに所属している事になっていた。
あのグループは裏切りを許さない。
となれば…愛莉殺しの第一候補はあのグループだろう。

しかし、活動自粛中の今、こんな大きい動きをするとは思えない。
こんな事したらグループが壊滅するだろう。
だが山中での犯行、そして目撃者が居ない事もあり捜査は少し曇天のようだ。

───

陽太さんから一つの報告が挙がった。
例のあの作戦は成功したようだ。
第三者が人の性事情に関わるというのは、なんとも背徳感があるものの、役に立てたなら良いだろう。

陽太「それで…話は変わるんですが、愛莉の件はどうなんですか?」

陽太「随分と心配していたような…そんな気がしたので…」

累「あぁ…愛莉さんですか?」
累「愛莉さんは…亡くなってましたよ…」
陽太「は…」

動揺している。
まあそうだろう。
急に自分の先輩が亡くなっているなんて、聞きたくもなかっただろう…

陽太「…そうですか…わざわざ…ありがとうございました…。」

そういうと切れてしまった。
陽太さん曰く、ダブルデートをする予定があるようだが、こんな話、するべきではなかっただろう。
もう遅いが、過去の自分に失望と後悔を覚える。

何度も感じた感覚だ。
頭の中で電光石火のように巡る“消えてしまいたい”なんて思いが自分を唸らせる。
いつだってすぐに消えれるが、消えるならその前にやりたい事が一つだけある。

その最大の目的を達成する事だけを頼りに生きていく。

グループメンバーSは、あのグループを抜けたがっている。
その思いを汲み取ってあげよう。
それと同時に使わせてもらおう。

累「Sさんは本当に抜けたいんですよね?」
S「はい。もう揺らぎない、絶対的な意志です。」
累「分かりました。なら、良い案があります。」

累「私の家で、私、指示役、Sさんの三人で話し合いましょうか。」

S「いやいやいや、絶対に出来ません。抜けさせてもらえる訳がない。」

累「そう言うと思って、一つだけ指示させてもらいます。」

累「話し合い当日、私の家に来ないでください。」
S「…え?」
累「それだけです。」

お互いの秘密を共有した時に交わした、“指示は一つだけ”の約束。
それを使う時が来た。

さて、後は陽太さんを待つだけだ。
いつ来るかは分からないが、近いうちにまた相談しに来るんじゃないかと思う。

もう準備は整ったので、後はその時を待つだけとなった。
ベストタイミングを狙う。
可能な限り、私の理想に一番近いタイミングを。
使う物も、一連の動きも全て計画済みだ。
ミスは決して許されない。
そんな中、陽太さんから相談があった。

陽太「累さん…」
累「何でしょうか?」
陽太「実は…実は…」
陽太「静が…静が事故に遭ってしまったんですよ…」
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