王国戦国物語

遠野 時松

文字の大きさ
11 / 148
とある王国の物語 プロローグ

盤上戦 1

しおりを挟む
 リュートからの返答は、「口を切ったくらいでとやかく言う様なやつは、ここには誰もいない」だった。
「確かに」
 ファトストは納得する。二人を囲む兵達の体には、無数の傷が刻まれている。
「他の隊とは鍛え方が違う」
 自慢げに語るリュートの言葉に、兵達は胸を張って頷いてみせる。その表情から察するに、鍛錬の場においても口を切る程度らなば日常茶飯事なのだろう。
 すると、そこに一人の男が近付いてくる。
「それは聞き捨てならんな」
 兵達は後ろから聞こえてきた言葉の主を確認すると、直ちに立ち上がり胸へと拳を付ける。
「よいよい」
 山をも思わせる大男は、兵達に手を振ってみせる。
「これはキーヨ様、珍しいですね」
 リュートとファトストは共に立ち上がり、座っていた丸太を転がしただけの席を勧める。
「なーに」
 リュートの問いかけに、キーヨは顎を振ってみせる。
「なるほど」
 リュートの視線の先には、レンゼストが上半身裸となって兵と徒手で組み合っている。レンゼストが兵を投げ飛ばすと歓声が上がり、「次は誰だ?」との問いかけに、力自慢が名乗りを上げる。
「あれならば仕方ないですね」
 ファトストは笑う。
「煩くて敵わん」
 キーヨは丸太に腰を掛ける。その両側に兵が用意した即席の椅子に、二人は腰掛ける。
「それより、レンゼスト殿が先ほどの言葉を聞いたらどう思うかな?」
「お戯を」
 リュートは笑いながら、キーヨに酒を注ぐ。
 猛獣ですらキーヨに睨まれたら竦み上がると言われているが、優しく笑いながら酌を受ける姿にそれは感じられない。
「この場にいてよろしいのですか?」
 キーヨは先代の近衛兵だったこともあり、ファトストとは古くからの顔見知りだ。キーヨの方が幾分と年嵩だが、幼き頃の王に手を焼いた間柄でもある。
「何、レンゼスト殿が近くにおれば心配要らぬだろう」
 レンゼストが王の剣ならば、キーヨは王の盾である。王の傍には、常にキーヨの姿がある。
「それに、ここに居れば何かと便利だからな」
 キーヨはリュートに視線を送る。
「酒も取り組みも、こいつに押し付けられますからね」
 ファトストの言葉にリュートは苦笑いを浮かべ、それを見た二人は笑う。そして、三人が杯を軽く合わせると、その場にいた全員が杯を乾かす。
「何だそれは? 美味そうなものを食べているな」
 キーヨは卓の上に置かれている干し肉を指差す。
「これですか? 美味いですよ。こいつの自信作みたいです」
「宜しかったらどうぞ」
 ファトストは包み紙から干し肉を取り出し、キーヨに手渡す。キーヨは受け取った干し肉を適当な大きさに引きちぎると、口に放り込む。
「おぉ! 確かに美味い」
 ファトストは頭を下げる。
「酒にも合いますよ」
「何?」
 キーヨの「おお!」と驚く顔を見て、ファトストは笑顔を浮かべる。
「香草を使ったタレに漬け込んだイノ肉を、東方より取り寄せたオウカという木を使って燻したものです」
 自分が作ったかの様に、リュートは説明する。
「おい」
 ファトストはリュートを睨む。しかし、それを無視してリュートは話を続ける。
「もう少し日を置いたほうが旨味が増します」
「そうなのか?」
 キーヨは肉をまじまじと見つめる。
「数はありますので、宜しければ、是非」
「本当か? それは楽しみだな」
「はい」
 リュートはキーヨと同じく干し肉を口に入れ、二人とも酒を楽しむ。
「おい」
 ファトストは先ほどより語気を強めて、リュートを睨め付ける。
「何だ?」
「いい加減にしろよ」
「誘い下手のお前に代わって、キーヨ様をお誘いしてやってるだけだろ」
「何だと?」
「よせよせ」
 キーヨは呆れながら、今にも立ち上がりそうな二人を止める。
「騒がしいのを嫌ってこの場に酒を飲みにきたというのに、これではあそこと変わらぬではないか」
「失礼しました」
 頭を下げたファトストを、鼻で笑う様にリュートは見つめる。
「お前……」
 言葉を途中で止めたファトストは、眉間に皺を寄せる。
 キーヨは再び始められた二人の遣り取りを、くだらないものを見る目でため息を吐く。
「リュートよ、先ほどは楽しそうにしていたが、何の話をしていたのだ?」
 キーヨは、頬の左側を赤く腫らした二人の兵を見る。
「話といいますか……、酒に酔った兵が名を告げる告げないで口論をし始めたもので、それに対してといいますか……」
 口ごもるリュートに対して、当て付ける様に今度はファトストが鼻で笑った顔を向ける。
「ほぉー、口論か」
 キーヨは意味有り気な顔をしつつ、酒を飲みながらリュートを見つめる。
「いや、お恥ずかしい」
 リュートは俯きながら、器に口を付ける。
「そうだ」リュートは顔を上げる。「今後のため、中央の戦いについて話しておりました。その場で戦われたキーヨ様からお話を聞けるとありがたいのですが、いかがですか?」
「あからさまだな」
 ファトストは外方を向いて杯に口を付ける。
「よせよせ」キーヨは笑う。「お前は誠に、リュートとリュゼーが近くにいると人が変わるな」
「いや、……。失礼しました」
 兵達は下を向いて、顔を隠す様に酒を飲む。リュートとファトストからの視線は感じるが、誰一人として二人と目を合わせる者はいない。
 キーヨは微笑ましくその様子を眺める。
「俺が来たら場がつまらなくなったと兵達に思われたら敵わんから、リュートの申し出を受けるとするか」
「ありがとうございます」
 リュートは差し出された杯に酒を注ぐ。
「それではどうやって話をしようか。戦場での出来事を淡々と話したところで面白くもないだろ?」
 キーヨは酒瓶をリュートに向かって差し出す。
「確かにそうですね」
 リュートは器の酒を飲み干すと、ありがとうございますと、キーヨに酒を注いでもらう。
「こういうのはどうだ?」
 キーヨはファトストに顔を向ける。
「幸いなことに、ここに策を考えた者がいる。戦の顛末を話す途中で、思い付いたことをこやつにぶつけてみる。それで白旗が上がったら、そいつの勝ちということにする。どうだ? 面白いと思わんか?」
 ファトストの「キーヨ様」という言葉の続きをかき消す様に、兵達から「おお!」や「是非!」との賛同の声が上がる。
「良き思い付きです」
「そうだろう」
 キーヨは満足そうにして、杯に口を付ける。
「キーヨ様。正直、私は酒が回ってきています。ですので……」
「おい」
 リュートは、ファトストが話し終える前に声を掛ける。
「お前なら、それぐらいはものともしないだろ?」
「おい、リュート。貴様」
「よし、決定だ」
 キーヨも同じ様に途中で言葉を被せる。
「キーヨ様」
 キーヨは再び話の途中で、「頼むぞ」と、ファトストの肩に手を置く。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...