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第四章 Bay City Blues (ベイシティ ブルース)
43. 暗闇の悪霊
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Section 4: Bay City Blues (ベイシティ ブルース)
第四十三話
title: 暗闇の悪霊
■ 4.43.1
その小さな黒い影が、闇を伝って天井から床に降りた事に誰も気付かなかった。
敵は正面の非常階段を占拠している数人の集団で、軍の制式ライフル並みの重火器を備えており、真っ正面から力業で突破してくるものと誰もが思っていた。
部隊指揮を任されていた最後尾のHASを駆る男は、何かがキャノピー後部に当たったような小さな音を聞いた気がした。
後ろを振り返るが、何も居ない。
先ほどの狂ったような銃撃で発生した破片か何かが落ちてきたのだろうと判断し、身を潜めている遮蔽物の影で再び前を向き直した。
「ゲルナー、あのクソ野郎どもにグレネードをくれてやれ。ビノ、お前のミサイルランチャーを用意しとけ。」
指揮を任された部隊に次の攻撃の指示を送る途中で、外部モニタがブラックアウトした。
AAR表示はそのまま点灯している。
ブラックアウトしたモニタはすぐに再起動し、外が見えるようになった。
このポンコツが、また調子悪くなりやがったか。戦闘中に再起動など、危なっかしくって乗ってられねえ。
これが終わったら、何が何でも新しいパーツを送るように言わないと拙いな、と舌打ちし毒づきながら遮蔽物を移動しようとした。
動かない。
クソこのポンコツめ、と思ったら動いた。
ただし自分の意思とは関係なく。
彼のHASは手にした超高出力レーザーガンを、すぐ目の前に居る仲間の背中、ちょうどリアクタとジェネレータが格納してあるユニットに正確に狙いを付け、そして引き金を引いた。
「うわ、止めろ、何しやがる、俺じゃねえぞ。」
背中でレーザー着弾による爆発的蒸気化が起こり、目の前のHASが吹き飛ばされる。背中に大穴が空いている。あれでは助からない。
「ドネロイ! 何やってんだてめえ味方撃つな! 馬鹿野郎!」
「違う、俺じゃねえ。スーツが勝手に・・・」
そう言っている間にも、彼のスーツは次々と味方にレーザーガンを向け、向けられた他のスーツ達が慌てて飛び退く。
「おいドネロイ! なんとか言え! おい!」
「だから俺じゃねえって言ってんだろうが!」
「駄目だ、応答が無い! こいつ狂ってやがる!」
どれだけ大声を張り上げようが、仲間達に声が届かない。
HASが自分の意思とは無関係に勝手に動く。
巨大な砲口を向けられる。
これは、ハレシュが愛用している携帯型の140mm高速弾頭砲。宇宙船の外殻さえ簡単に撃ち抜くことの出来るこんなものを喰らえば、ひとたまりも無い。
その砲口が消えた。ハレシュのHASも同時に消えた。
見れば、バインナの赤く塗られたHASが、自慢の重力焦点レールガンを振りかざしていた。
重力焦点そのものを打ち出すレールガン。斥点を当てられれば吹き飛び、焦点を当てられれば重力圧壊する。
バインナがレールガンを振り回して、辺りに散っている仲間達に重力焦点を叩き付けていく。
仲間達のHASが、超高重力で折れ、ねじ曲がり、爆発するものもある。
バインナのスーツも、俺のスーツと同じように誤動作しているのか、と思い見やり、ふと気付く。
スーツから後ろに伸びる細い線。
暗闇の中で見落としてしまいそうなその線は、バインナのスーツの後頭部から伸び、後ろの暗闇の中に消えている。
なんだあの線は。
その線の先の暗闇を見ると、人影? 子供? こんな所に?
逃げ出したガキがいたか?
いや、違う。
真っ黒いゴテゴテとした服を着た幼女が、バインナのスーツから延びる線を手にしている。
それはまるで、その幼女がバインナの脳をその線で操っている様にも見えて。
闇に溶ける漆黒の髪に縁取られた、暗闇の中でさえ真っ白いその顔がこちらを向き、眼を見開く。
闇の中で燃えるように妖しく輝くその緑の眼とまともに眼が合った。
ダメだ。こいつはヤバイ。
こんなところでこんな格好をしている幼女などという面妖(おかし)なものが、まともな訳が無い。
しかし逃げられない。スーツが動かない。
自分の身体が力を入れるのとは全然違う方向にスーツが曲がり、骨が折れ、関節が外れる。
ヤバイ、痛い、ヤバイ。
意味不明の喚き声がうるさいと思えば、自分の声だった。
無意識に開いた口から意味の無い叫び声が出て行くのが止められない。
暗闇の中で、血液の色そのままの様な鮮やかで赤い唇がニイと吊り上がったのがなぜか良く分かった。
「ほれ。何をして居る。お主もそのショボいイチモツを持ってパーティーに参加せぬか。」
幼女の口も動いていないのに声が聞こえる。笑っている。
ということはつまり、この黒い幼女のもう片方の手に握られたもう一本の線の先は。
HASがまた勝手に動き、仲間達に次々とレーザーを撃ち込む。
折れた腕から骨が突き出すのが分かる。
バインナが重力焦点を撃ち込み、行動不能となったところに自分の高出力レーザーが撃ち込まれる。
仲間達のHASは、次から次へと行動不能に陥り、破壊されていく。
俺じゃない。痛い、ヤバイ。
最後に、自分の前にバインナの赤いHASがゆらりと立った。
そうか、俺も死ぬのか。あの緑の眼の赤い唇の白い顔の黒い幼女。
こちらを見て笑っている緑の眼。
不気味な黒いバケモノに操られて。こんなところで。
なぜだか急に可笑しくなった。笑いが止まらない。痛い。ヤバイ。笑いが止まらない。
自分の笑い声の中、自分のHASが勝手に銃をバインナの赤いHASに向け、そしてゆっくりと引き金を引くのが見えた。
一瞬で白熱したキャノピーが吹き飛び、首の無くなったバインナのHASが壊れた人形のように力なく倒れた。
なんだよバインナ、死んじまったみたいじゃねえか。最高に面白いよ、なあ?
■ 4.43.2
「なあ、あいつ一人だけでこのサテライト占領出来るんじゃ無いか?」
「ああ。私もそう思う。」
敵陣の後方に降り立ったニュクスが、二体のHASを操って海賊達を大混乱に陥れ、そしてそのまま殲滅していく様を、俺とアデールは少々引き気味に眺めていた。
まるでそれは、B級のホラー映画に出てくる悪霊が、登場人物に次々と取り憑いて仲間を殺していくのを見ている様だった。
ニュクス自身がそれを意識してその様に演出しているのが明らかなだけに、タチが悪い。
ニュクスの妖しげな高笑いが聞こえる。
誰だこいつにこんなビデオを見せたのは。
幼女にR18指定のビデオを見せない様にフィルタ設定しておかねば。
「あー。敵の大将、壊れちまったぜ。無理も無いか。あいつとだけはやり合いたくないな。」
「ああ。私もそう思う。」
まるで放心しているかの様にアデールも同じ台詞を返してくる。
「第一階層からの侵入LAS、トラップ二段目を突破しました。残六。応戦します。」
ルナの声が響く。
いかん。ニュクスの余りに奇想天外な攻撃に気を取られて、そっちを忘れていた。
残数六機ということは、たった四機の犠牲でトラップを二つクリアしたことになる。案外頭の良い奴が居たようだ。
「弾種、徹甲-炸裂-徹甲のサンドイッチで階段ごと撃ち抜け。グレネードに注意しろ。」
アデールがルナとブラソンに指示を飛ばしながら身を翻す。俺も階段の中に駆け戻る。
第二階層はニュクスの大活躍ですでに片づいている。あの心が壊れた生き残りが脅威になるとは考えられない。放っておいて構わない。
階段の中は、ブラソンとルナが撃ちまくるライフル弾の発光で、まるで何処かのステージショーのように賑やかなことになっていた。
敵のLASはその猛烈な連続射撃のために、第一階層の出口から入ってくることが出来ない様だった。
「ブラソン、クラス2と3のグレネードはこちらで対処します。パッシブEMCM(Electro Magnetic CounterMeasure)を展開願います。」
ちなみに、グレネードのクラス1は単純な時限発火式、クラス2は信号操作、クラス3は自己判断型で、周囲の状況があらかじめ与えられた条件に一致すると発火するタイプだ。
ノバグが言っているのは、外部からの条件で動作するクラス2と3はクラックできるという事だろう。
もっとも、海賊がそんな高級なグレネードを使っているかどうか怪しいものではあるが。
「マサシ、弾種徹甲でその場で援護しろ。狙いは第一階層の出口だ。」
アデールが階段を駆け上がり、ナイフを一閃、残っている三段目のワイヤートラップを切り飛ばす。
俺はアデールに言われたとおり、第二階層の踊り場に陣取り、階段の陰になってマーカーだけしか見えない第一階層の出口に向けて射撃を続ける。
こういう場合は、とにかく弾をばらまき続けて敵に反撃の隙を与えないことが重要であることくらい、俺でも知っている。
俺の撃った弾は、薄い階段の板を貫き、階段の壁に着弾するか、階段の出口を抜けて第一階層に消えていく。
アデールのAEXSSを示すマーカーが第一階層の出口近くにたどり着く。俺も射撃をやめる。
すぐにアデールがライフルを立て続けに連射する光が見えた。
「OK。第一階層クリア。ニュクス、マサシが撃ちまくった徹甲弾が相当外殻をぶち抜いている。空気漏れが発生していると思う。私のナノボットタブレットをここに置く。粘着性粉塵補修材(リペアゾル)を作れるか? 材料は、そこら辺の床を適当に食ってくれ。」
「可憐な人気者は大忙しじゃのう。朝飯前じゃ。」
何が可憐な人気者なものか。先ほどの大暴れはどう贔屓目に見てもホラー映画に出てくる悪霊か悪魔にしか見えなかった。
「マサシ、なんぞ言うたかや?」
「いや何も。気のせいだ。」
「ほうかや? 悪霊とか、悪魔とか言うとらなんだかや? 可憐な乙女になんという非道な・・・」
「あー、それはいかした装備の聞き間違いじゃないかな。なかなか強力な攻撃だった。」
まる聞こえじゃねえか。チップの送信はOFFになっていた筈だが。
「ほうかや? まあ仕事が先じゃ。お主が無節操に開けた穴を塞がねばのう。」
言われたくなければ、ゴスロリ服や部屋の中のあの棺桶をどうにかすればいいと思うのだが。いや、やめておこう。また漏れると面倒だ。
その後、ニュクスが生成したリペアゾルが順調に外殻の穴を塞ぐことを確認し、今度はアデールがズタズタになった階段にもう一度ワイヤートラップを仕掛けるのを待って、俺達はさらに一階層下の第三階層に到達した。
ニュクスの生成したリペアゾルはナノボット入りなので、通常のリペアゾルのような一時的な応急措置ではなく、恒久的な補修が可能なのだそうだ。
また、アデールの持つ自称「スパイ七つ道具」の中には単分子ワイヤーも含まれていたようだ。ニュクス同様の手際の良さで、アデールがトラップを仕掛けて降りてきた。
そして念のため、第二階装の出口にもまたニュクスがワイヤートラップを仕掛ける。
しかし、この螺旋階段ではこれ以上海賊達との接触は発生しなかった。
「残りはHASが十機程度か。やはり目的地のコントロールルーム周辺に展開しているのだろうな。」
「マップを展開します。行動中が確認できるHASが九機です。敵部隊はマサシの指摘通りコントロールルーム左右に展開しております。同時に、携行型多弾頭ミサイルランチャーや大型電磁(コイル)レールガン、プラズマブラスタ等の兵器IDが確認されています。ほかにもIDが認識されない大型火器や、ID認識の出来ないスーツの伏兵が予想されます。十分注意願います。」
俺の半ば独り言のような呟きに、ノバグが反応してマップを開いてくる。
俺達が居る螺旋階段から少し離れたところに目的地の赤塗り二重丸マーカーの付いたコントロールルームがある。
HASを示す赤いマーカーが九個、その周りに散っている。
「海賊らしい、程度というものを知らない大型火器が目白押しのようだな。真っ直ぐ突っ込むのはまずい。100mmもある高速実体弾を食らえばさすがのAEXSSも一発だ。それと、構造的にプラズマブラスタ系の火器にはAEXSSは案外弱い。」
「そうなのか? レーザーはある程度いけるのにか?」
意外なアデールの発言に思わず聞き返す。
「レーザーは表面散乱膜があるから多少なら大丈夫だ。無制限に、という訳じゃないが。AEXSSはHASとは違って装甲板がある訳じゃない。荷電粒子砲などで質量のあるプラズマを超高速で叩き付けられると、イオンスパッタリングで原子レベルで表面がこそぎ取られる。ある程度浸食されたところで機能を失って、ただの全身レオタードになる。その時にはパワーアシスト機能も消失しているから、動けなくなってそのままこんがり焼きあがる事になる。
「レーザーの様に撃たれたときに派手に煙を上げたりしない事も多い。知らないうちに浸食が進んでいたりする。スーツからの警告表示に気を付けろ。」
LASよりも薄く、HAS並の装甲強度を持つAEXSSだと信じ込んでいたのだが、思わぬ所に弱点があることを知った。
そして今から対峙しようとしている海賊どもは、まさにそのプラズマブラスタを持っているとのことだった。
これは少し攻め方を考えなければならないようだった。
第四十三話
title: 暗闇の悪霊
■ 4.43.1
その小さな黒い影が、闇を伝って天井から床に降りた事に誰も気付かなかった。
敵は正面の非常階段を占拠している数人の集団で、軍の制式ライフル並みの重火器を備えており、真っ正面から力業で突破してくるものと誰もが思っていた。
部隊指揮を任されていた最後尾のHASを駆る男は、何かがキャノピー後部に当たったような小さな音を聞いた気がした。
後ろを振り返るが、何も居ない。
先ほどの狂ったような銃撃で発生した破片か何かが落ちてきたのだろうと判断し、身を潜めている遮蔽物の影で再び前を向き直した。
「ゲルナー、あのクソ野郎どもにグレネードをくれてやれ。ビノ、お前のミサイルランチャーを用意しとけ。」
指揮を任された部隊に次の攻撃の指示を送る途中で、外部モニタがブラックアウトした。
AAR表示はそのまま点灯している。
ブラックアウトしたモニタはすぐに再起動し、外が見えるようになった。
このポンコツが、また調子悪くなりやがったか。戦闘中に再起動など、危なっかしくって乗ってられねえ。
これが終わったら、何が何でも新しいパーツを送るように言わないと拙いな、と舌打ちし毒づきながら遮蔽物を移動しようとした。
動かない。
クソこのポンコツめ、と思ったら動いた。
ただし自分の意思とは関係なく。
彼のHASは手にした超高出力レーザーガンを、すぐ目の前に居る仲間の背中、ちょうどリアクタとジェネレータが格納してあるユニットに正確に狙いを付け、そして引き金を引いた。
「うわ、止めろ、何しやがる、俺じゃねえぞ。」
背中でレーザー着弾による爆発的蒸気化が起こり、目の前のHASが吹き飛ばされる。背中に大穴が空いている。あれでは助からない。
「ドネロイ! 何やってんだてめえ味方撃つな! 馬鹿野郎!」
「違う、俺じゃねえ。スーツが勝手に・・・」
そう言っている間にも、彼のスーツは次々と味方にレーザーガンを向け、向けられた他のスーツ達が慌てて飛び退く。
「おいドネロイ! なんとか言え! おい!」
「だから俺じゃねえって言ってんだろうが!」
「駄目だ、応答が無い! こいつ狂ってやがる!」
どれだけ大声を張り上げようが、仲間達に声が届かない。
HASが自分の意思とは無関係に勝手に動く。
巨大な砲口を向けられる。
これは、ハレシュが愛用している携帯型の140mm高速弾頭砲。宇宙船の外殻さえ簡単に撃ち抜くことの出来るこんなものを喰らえば、ひとたまりも無い。
その砲口が消えた。ハレシュのHASも同時に消えた。
見れば、バインナの赤く塗られたHASが、自慢の重力焦点レールガンを振りかざしていた。
重力焦点そのものを打ち出すレールガン。斥点を当てられれば吹き飛び、焦点を当てられれば重力圧壊する。
バインナがレールガンを振り回して、辺りに散っている仲間達に重力焦点を叩き付けていく。
仲間達のHASが、超高重力で折れ、ねじ曲がり、爆発するものもある。
バインナのスーツも、俺のスーツと同じように誤動作しているのか、と思い見やり、ふと気付く。
スーツから後ろに伸びる細い線。
暗闇の中で見落としてしまいそうなその線は、バインナのスーツの後頭部から伸び、後ろの暗闇の中に消えている。
なんだあの線は。
その線の先の暗闇を見ると、人影? 子供? こんな所に?
逃げ出したガキがいたか?
いや、違う。
真っ黒いゴテゴテとした服を着た幼女が、バインナのスーツから延びる線を手にしている。
それはまるで、その幼女がバインナの脳をその線で操っている様にも見えて。
闇に溶ける漆黒の髪に縁取られた、暗闇の中でさえ真っ白いその顔がこちらを向き、眼を見開く。
闇の中で燃えるように妖しく輝くその緑の眼とまともに眼が合った。
ダメだ。こいつはヤバイ。
こんなところでこんな格好をしている幼女などという面妖(おかし)なものが、まともな訳が無い。
しかし逃げられない。スーツが動かない。
自分の身体が力を入れるのとは全然違う方向にスーツが曲がり、骨が折れ、関節が外れる。
ヤバイ、痛い、ヤバイ。
意味不明の喚き声がうるさいと思えば、自分の声だった。
無意識に開いた口から意味の無い叫び声が出て行くのが止められない。
暗闇の中で、血液の色そのままの様な鮮やかで赤い唇がニイと吊り上がったのがなぜか良く分かった。
「ほれ。何をして居る。お主もそのショボいイチモツを持ってパーティーに参加せぬか。」
幼女の口も動いていないのに声が聞こえる。笑っている。
ということはつまり、この黒い幼女のもう片方の手に握られたもう一本の線の先は。
HASがまた勝手に動き、仲間達に次々とレーザーを撃ち込む。
折れた腕から骨が突き出すのが分かる。
バインナが重力焦点を撃ち込み、行動不能となったところに自分の高出力レーザーが撃ち込まれる。
仲間達のHASは、次から次へと行動不能に陥り、破壊されていく。
俺じゃない。痛い、ヤバイ。
最後に、自分の前にバインナの赤いHASがゆらりと立った。
そうか、俺も死ぬのか。あの緑の眼の赤い唇の白い顔の黒い幼女。
こちらを見て笑っている緑の眼。
不気味な黒いバケモノに操られて。こんなところで。
なぜだか急に可笑しくなった。笑いが止まらない。痛い。ヤバイ。笑いが止まらない。
自分の笑い声の中、自分のHASが勝手に銃をバインナの赤いHASに向け、そしてゆっくりと引き金を引くのが見えた。
一瞬で白熱したキャノピーが吹き飛び、首の無くなったバインナのHASが壊れた人形のように力なく倒れた。
なんだよバインナ、死んじまったみたいじゃねえか。最高に面白いよ、なあ?
■ 4.43.2
「なあ、あいつ一人だけでこのサテライト占領出来るんじゃ無いか?」
「ああ。私もそう思う。」
敵陣の後方に降り立ったニュクスが、二体のHASを操って海賊達を大混乱に陥れ、そしてそのまま殲滅していく様を、俺とアデールは少々引き気味に眺めていた。
まるでそれは、B級のホラー映画に出てくる悪霊が、登場人物に次々と取り憑いて仲間を殺していくのを見ている様だった。
ニュクス自身がそれを意識してその様に演出しているのが明らかなだけに、タチが悪い。
ニュクスの妖しげな高笑いが聞こえる。
誰だこいつにこんなビデオを見せたのは。
幼女にR18指定のビデオを見せない様にフィルタ設定しておかねば。
「あー。敵の大将、壊れちまったぜ。無理も無いか。あいつとだけはやり合いたくないな。」
「ああ。私もそう思う。」
まるで放心しているかの様にアデールも同じ台詞を返してくる。
「第一階層からの侵入LAS、トラップ二段目を突破しました。残六。応戦します。」
ルナの声が響く。
いかん。ニュクスの余りに奇想天外な攻撃に気を取られて、そっちを忘れていた。
残数六機ということは、たった四機の犠牲でトラップを二つクリアしたことになる。案外頭の良い奴が居たようだ。
「弾種、徹甲-炸裂-徹甲のサンドイッチで階段ごと撃ち抜け。グレネードに注意しろ。」
アデールがルナとブラソンに指示を飛ばしながら身を翻す。俺も階段の中に駆け戻る。
第二階層はニュクスの大活躍ですでに片づいている。あの心が壊れた生き残りが脅威になるとは考えられない。放っておいて構わない。
階段の中は、ブラソンとルナが撃ちまくるライフル弾の発光で、まるで何処かのステージショーのように賑やかなことになっていた。
敵のLASはその猛烈な連続射撃のために、第一階層の出口から入ってくることが出来ない様だった。
「ブラソン、クラス2と3のグレネードはこちらで対処します。パッシブEMCM(Electro Magnetic CounterMeasure)を展開願います。」
ちなみに、グレネードのクラス1は単純な時限発火式、クラス2は信号操作、クラス3は自己判断型で、周囲の状況があらかじめ与えられた条件に一致すると発火するタイプだ。
ノバグが言っているのは、外部からの条件で動作するクラス2と3はクラックできるという事だろう。
もっとも、海賊がそんな高級なグレネードを使っているかどうか怪しいものではあるが。
「マサシ、弾種徹甲でその場で援護しろ。狙いは第一階層の出口だ。」
アデールが階段を駆け上がり、ナイフを一閃、残っている三段目のワイヤートラップを切り飛ばす。
俺はアデールに言われたとおり、第二階層の踊り場に陣取り、階段の陰になってマーカーだけしか見えない第一階層の出口に向けて射撃を続ける。
こういう場合は、とにかく弾をばらまき続けて敵に反撃の隙を与えないことが重要であることくらい、俺でも知っている。
俺の撃った弾は、薄い階段の板を貫き、階段の壁に着弾するか、階段の出口を抜けて第一階層に消えていく。
アデールのAEXSSを示すマーカーが第一階層の出口近くにたどり着く。俺も射撃をやめる。
すぐにアデールがライフルを立て続けに連射する光が見えた。
「OK。第一階層クリア。ニュクス、マサシが撃ちまくった徹甲弾が相当外殻をぶち抜いている。空気漏れが発生していると思う。私のナノボットタブレットをここに置く。粘着性粉塵補修材(リペアゾル)を作れるか? 材料は、そこら辺の床を適当に食ってくれ。」
「可憐な人気者は大忙しじゃのう。朝飯前じゃ。」
何が可憐な人気者なものか。先ほどの大暴れはどう贔屓目に見てもホラー映画に出てくる悪霊か悪魔にしか見えなかった。
「マサシ、なんぞ言うたかや?」
「いや何も。気のせいだ。」
「ほうかや? 悪霊とか、悪魔とか言うとらなんだかや? 可憐な乙女になんという非道な・・・」
「あー、それはいかした装備の聞き間違いじゃないかな。なかなか強力な攻撃だった。」
まる聞こえじゃねえか。チップの送信はOFFになっていた筈だが。
「ほうかや? まあ仕事が先じゃ。お主が無節操に開けた穴を塞がねばのう。」
言われたくなければ、ゴスロリ服や部屋の中のあの棺桶をどうにかすればいいと思うのだが。いや、やめておこう。また漏れると面倒だ。
その後、ニュクスが生成したリペアゾルが順調に外殻の穴を塞ぐことを確認し、今度はアデールがズタズタになった階段にもう一度ワイヤートラップを仕掛けるのを待って、俺達はさらに一階層下の第三階層に到達した。
ニュクスの生成したリペアゾルはナノボット入りなので、通常のリペアゾルのような一時的な応急措置ではなく、恒久的な補修が可能なのだそうだ。
また、アデールの持つ自称「スパイ七つ道具」の中には単分子ワイヤーも含まれていたようだ。ニュクス同様の手際の良さで、アデールがトラップを仕掛けて降りてきた。
そして念のため、第二階装の出口にもまたニュクスがワイヤートラップを仕掛ける。
しかし、この螺旋階段ではこれ以上海賊達との接触は発生しなかった。
「残りはHASが十機程度か。やはり目的地のコントロールルーム周辺に展開しているのだろうな。」
「マップを展開します。行動中が確認できるHASが九機です。敵部隊はマサシの指摘通りコントロールルーム左右に展開しております。同時に、携行型多弾頭ミサイルランチャーや大型電磁(コイル)レールガン、プラズマブラスタ等の兵器IDが確認されています。ほかにもIDが認識されない大型火器や、ID認識の出来ないスーツの伏兵が予想されます。十分注意願います。」
俺の半ば独り言のような呟きに、ノバグが反応してマップを開いてくる。
俺達が居る螺旋階段から少し離れたところに目的地の赤塗り二重丸マーカーの付いたコントロールルームがある。
HASを示す赤いマーカーが九個、その周りに散っている。
「海賊らしい、程度というものを知らない大型火器が目白押しのようだな。真っ直ぐ突っ込むのはまずい。100mmもある高速実体弾を食らえばさすがのAEXSSも一発だ。それと、構造的にプラズマブラスタ系の火器にはAEXSSは案外弱い。」
「そうなのか? レーザーはある程度いけるのにか?」
意外なアデールの発言に思わず聞き返す。
「レーザーは表面散乱膜があるから多少なら大丈夫だ。無制限に、という訳じゃないが。AEXSSはHASとは違って装甲板がある訳じゃない。荷電粒子砲などで質量のあるプラズマを超高速で叩き付けられると、イオンスパッタリングで原子レベルで表面がこそぎ取られる。ある程度浸食されたところで機能を失って、ただの全身レオタードになる。その時にはパワーアシスト機能も消失しているから、動けなくなってそのままこんがり焼きあがる事になる。
「レーザーの様に撃たれたときに派手に煙を上げたりしない事も多い。知らないうちに浸食が進んでいたりする。スーツからの警告表示に気を付けろ。」
LASよりも薄く、HAS並の装甲強度を持つAEXSSだと信じ込んでいたのだが、思わぬ所に弱点があることを知った。
そして今から対峙しようとしている海賊どもは、まさにそのプラズマブラスタを持っているとのことだった。
これは少し攻め方を考えなければならないようだった。
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