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あなたの彼氏はここです

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お兄さんが俺達に座っているように手で促して、一人でエレベーター前まで迎えに行くと玄関を出て行った。
玲奈さんはどこかそわそわして落ち着かない様子でいる。

「光さんに会うのすっごく久しぶりなの。嬉しいなぁ」

「そうなんですか。玲奈さんはお兄さんの彼女さんとも仲良しなんですね」

「そうなんだぁ~。光さんは私の中では永遠にヒーローだから!」

「ヒーロー…?」

いまいちお兄さんの恋人像がまとまらないでいるのだが、はしゃぐ玲奈さんをかわいいなぁと見つめていると玄関が開く音がした。
玲奈さんが立ち上がり、リビングのドアが開くなり、入って来た長身短髪の人に思い切り抱き着いた。

「光さんっ!」

「玲奈~。また倒れたって聞いたからどんだけ心配したと思ってんの。無理したらだめだろ~」

ぎゅうぎゅうと抱き合う二人こそが恋人のように見えるのは俺だけではないはずだ。
でも、後ろに立つお兄さんは孫でも見るかのように目を細めて二人を眺めている。

お兄さんの恋人は…なんて言ったらいいのか正直難しいんだが…とてもたくましくて、ジーンズにスカジャンだし、一見男性にしか見えない。
でも、声の低さが男よりも少し高いし、なんとなく体の線も俺達よりは丸みがある気がする。
はっきり言おう。女性か、男性か判断できない。

「ほら~、またこんなに軽くなって」

「きゃっ」

あれこれ考えているうちに玲奈さんはお姫様抱っこをされていた。恥ずかしそうに頬を染めている。
それ…俺の役割…

俺の存在に気づいたのか、腕に玲奈さんを抱いたまま頭を下げられた。俺も慌てて立ち上がって礼をする。

「熊野達哉です。初めまして」

「安藤光です。よろしくね」

「光さん、くまちゃんは私の彼氏で」

「そんなのこの状況でわかるって」

けらけらと笑いながら部屋を進み、ソファに玲奈さんを下ろすと光さんもその横に腰を下ろした。
俺とお兄さんはローテーブルを挟んで床に落ち着く。
お兄さんは元々柔らかい印象の人だったけど、光さんが来てからは更ににこにこになっている気がする。
好意がダダ洩れだ。

「で?休みはちゃんととれたの?」

「とりあえず1週間はお休みをもらってるんだけど、ちょっとまだ夜はお薬ないと眠れなくて」

「そりゃまだすぐには無理でしょ。急がないことだよ、玲奈」

「うん、ありがとう、光さん」

玲奈さんの目もいつになくキラキラしている。お兄さんは玲奈さんと同じく清楚というか清潔感溢れる美形だけれど、光さんはワイルドさのある美形さんだ。玲奈さんの頭をがしがしと撫でる仕草もかっこいい。

「今来る途中で聞いたけど、熊野くんと一緒に住もうと思ってるんだって?」

「あ、そうなの」

「はい、俺も心配ですし、一緒に住みたいと思っています」

「なら、今私達が住んでるとこに引っ越してくれば?」

「え?」

俺も玲奈さんもその打診に驚いて顔を見合わせた。

「そっかぁ、その手があったねぇ。玲奈、お兄ちゃんもうすぐお店出すんだけど、お店の裏に部屋も借りることにしてて、引っ越すんだよ。だから、お兄ちゃん達が住んでる今のマンションに引っ越してくればいいんじゃない?更新もまだだし、手続きも簡単に書類だけですむと思うよ」

「うちのマンションもセキュリティ十分だし、この部屋じゃ二人で住むにはちょっと狭いんじゃない?玲奈の物だけで既にこんだけあるんだし」

「熊野くんの職場はどのへん?」

「俺は荻野です」

「あー、うちは秋台だから、なら電車で20分てとこかな。玲奈の職場にも電車で1本で行けるし」

「俺は車があるんで、秋台ならすぐですね」

「駐車場もあるよ、なら大丈夫かな」

「わー、すごい、こんなにとんとん拍子にいくものなの?」

まったく同感ですと俺も頷いた。お兄さんはうんうんと頷きながら、キッチンへ移動していった。

「じゃあ、玲奈も無理のない範囲で、シーズンオフの物から段ボール詰めときなよ。あと3か月くらいでうちらは出るし、お店開けるまではまだ少し時間あるから色々手伝えるから」

「きゃー、光さん大好きー」

ぽすっと玲奈さんが光さんの胸に飛び込んだ。それを当たり前のように受け止めて、光さんは玲奈さんの頭を撫でている。
玲奈さん…俺の…俺のところにも来てください…
人前でひっつくのは気恥ずかしいけれど、玲奈さんが他の誰かとべたべたするのを見ているとなんだか気持ちが落ち着かなくなってくる。
光さんは女性だと確信は持てたが、これほどまでにかっこいいと玲奈さんが男性と抱き合っているようで悶々としてしまう。

「玲奈?ほら、とっても大きいわんちゃんがしょぼくれてるみたいだけど?」

「え?」

二人が揃って俺を見て、俺はそんなに態度に出ていたんだろうかと慌てて顔をそらした。

「熊野さん、この二人が抱き合う程度でうろたえてたら、身が持たないよ…?」

「?!!」

そっと後ろから差し出されたマグカップとスコーンの乗った皿に驚いて声も出なかった。

「ほんとに玲奈は光が大好きで、お兄ちゃんいても視界からすぐ消すし、光は光で玲奈を溺愛し過ぎて俺の存在を忘れるし…」

「ああ…なるほど…?」

「俺だって光に抱きしめられたいのに!」

「今、定員オーバー」

「ふふっ。光さんの鍛えられた体すてき~」

がっくりと肩を落とすお兄さんと和気あいあいと抱き合っている玲奈さんと光さん。
これまで三人がどんな感じで過ごしてきたのか少しだけ垣間見えた気がした。

「お、お兄さん、これからは俺がいますから…」

とりあえず慰めになるかもわからない言葉をかけてその場はなんとか落ち着いた。
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