25 / 25
(10)
しおりを挟む
あの日、ヒスイさんから過去の話を聞いてからは暫くぎこちない雰囲気が流れた。
確かに少し居心地が悪く感じる日もあったけど、少しずつヒスイさんが我儘を口にしてくれるようになったのでこれで良かったのだと思えた。
コウモリの獣人のリベルは神様に連れられて旅に出た。世話好きでツンデレなリベルを神様は気に入ったらしい。時々、話しかけてきては彼らの状況について一方的に報告される。まあ、神様が上に戻る時はリベルが心配だからといって、俺らの家に連れてくるけどね。
「ヒスイさん。」
「ん?」
ヒスイさんは両手を広げて待つことはなくなった。知らなかったがハグも穢してしまうと思っていてやってくれていたそうだ。ハグの回数が減って寂しく感じる時もあるけれど、また無理して欲しくないから表に出さないようにしている。
代わりに手を繋ぐことが増えた。手なら、好きなだけ繋いでくれるから俺は積極的に手を差し出して甘えるようになった。
「手、繋ぎたい!」
「うん。」
前よりも柔らかくなった表情。表情豊かになって、今では言葉がなくても簡単に彼の心境を読み取れるようになった。
「ヒスイさん、見て!」
「ヤマモモだな。」
「俺、よく昔食べてたんだ。」
「前世で?」
「うん。」
ヒスイさんには俺の前世について話した。ヒスイさんが過去について話してくれた後に自分の話についても聞いてもらった。
虐待を受けていたこと、愛情を貰ったことがないこと、甘え方が分からないこと、幸せだと急に不安になってしまうことがあること…
これまで自分が不幸だと思っていたが、自分の体験などマシに思えた。
神様と2人っきりになった時、何でヒスイさんに優しく接しないのか聞いたことがある。
『最初はしたさ。だから、力も与えたのに…アイツ俺のことを鬱陶しがって無視するようになったんだ!だから、仕返しとして勝手に呼び出してるのさ。』
とまあ、子どもじみたことを互いにやってるらしい。
でも、神様がヒスイさんを生かしてくれてたのだと思った。神様が嫌というほど構いに来るから、ヒスイさんは辛くても死ぬ選択はしなかったのではないだろうかと…だって、ヒスイさんは優しいから、神様を置いていくことなど出来なかったのだろう。
「ルカ、好きだよ。」
「俺もヒスイさんが好き、大好き!」
俺達は、地道に前に進めば良い。俺とヒスイさんは同じくらい長生き出来るのだからゆっくりと行動していけば良い。ヒスイさんのお陰で俺は大丈夫になった。だから、今度はヒスイさんの歩幅に合わせて隣で歩かせて…
『ルカー!』
「ちょっと、良い加減にしろよ!」
『リベルが怒ってばかりなんだ!』
「アンタが勝手に行動ばかりするからだろ?!また、急に転移しやがって!」
こちらに向かって神様は走り寄って胸に飛び込もうとしてきた。だが、受け止めようと手を広げようとする前に視界が横に揺れる。
「え?」
『っ…おい!』
神様は見事に地面に着地をすると、警戒するように毛並みを逆立てる。
「ルカに触んな。」
『はあ?!』
「ほら、ルカはヒスイ様のなんだから…」
リベルは神様を宥めるように抱き上げると背中を撫でる。神様の良いところを熟知しているようですぐにゴロゴロと喉を鳴らしていた。
うん、本当の猫みたいになってる。
「帰ろ。」
「あっ、うん!」
『俺も行く!』
「行きません。」
親子みたいな騒がしい声が聞こえてくる。それに笑うと、ヒスイさんは少しむくれて手を引っ張ってきた。
「ヒスイさん?」
「俺以外にあんまり、笑顔見せないで…」
顔を上げようとすると頭を抑えられて、彼の胸に顔を埋めることになった。
久しぶりの温もり…嬉しくて泣きそうになった。やっぱり、俺はヒスイさんが抱き締めてくれるのが好きだ。
「気を付けるから、ヒスイさんも気を付けてね?」
「俺はルカの以外だと笑わないから。」
「それは、嬉しいけど笑いたかったら笑ってね。」
「笑えるほどの感情を抱いたことがない。」
「そうなの?」
ようやく、絵が緩むとヒスイさんの顔が視界に映る。自分を見つめてくれる瞳が優しい。
『イチャイチャすんな!』
「アンタは邪魔しない!」
『なら、俺らもイチャイチャしよ!』
「誰がするか?!」
『ええー。俺以外の前では人間化すんなって言ってきた癖に…』
「そ、れは…っ…」
「帰ろ。」
ヒスイさんは今度こそ本気で帰るみたいで強引に腕を引っ張って、自宅がある方向に足を向けた。
「恋人繋ぎがいい。」
そう願うとすぐに指を絡めてくれるから、胸が温かくなる。
恋って凄いと思う。愛する人といるだけで、こんなに幸福感を味わえるから。複雑なことも多いけれど、この人に恋して良かった…そう思える。
ありがとう。俺と出会って好きになってくれて。
確かに少し居心地が悪く感じる日もあったけど、少しずつヒスイさんが我儘を口にしてくれるようになったのでこれで良かったのだと思えた。
コウモリの獣人のリベルは神様に連れられて旅に出た。世話好きでツンデレなリベルを神様は気に入ったらしい。時々、話しかけてきては彼らの状況について一方的に報告される。まあ、神様が上に戻る時はリベルが心配だからといって、俺らの家に連れてくるけどね。
「ヒスイさん。」
「ん?」
ヒスイさんは両手を広げて待つことはなくなった。知らなかったがハグも穢してしまうと思っていてやってくれていたそうだ。ハグの回数が減って寂しく感じる時もあるけれど、また無理して欲しくないから表に出さないようにしている。
代わりに手を繋ぐことが増えた。手なら、好きなだけ繋いでくれるから俺は積極的に手を差し出して甘えるようになった。
「手、繋ぎたい!」
「うん。」
前よりも柔らかくなった表情。表情豊かになって、今では言葉がなくても簡単に彼の心境を読み取れるようになった。
「ヒスイさん、見て!」
「ヤマモモだな。」
「俺、よく昔食べてたんだ。」
「前世で?」
「うん。」
ヒスイさんには俺の前世について話した。ヒスイさんが過去について話してくれた後に自分の話についても聞いてもらった。
虐待を受けていたこと、愛情を貰ったことがないこと、甘え方が分からないこと、幸せだと急に不安になってしまうことがあること…
これまで自分が不幸だと思っていたが、自分の体験などマシに思えた。
神様と2人っきりになった時、何でヒスイさんに優しく接しないのか聞いたことがある。
『最初はしたさ。だから、力も与えたのに…アイツ俺のことを鬱陶しがって無視するようになったんだ!だから、仕返しとして勝手に呼び出してるのさ。』
とまあ、子どもじみたことを互いにやってるらしい。
でも、神様がヒスイさんを生かしてくれてたのだと思った。神様が嫌というほど構いに来るから、ヒスイさんは辛くても死ぬ選択はしなかったのではないだろうかと…だって、ヒスイさんは優しいから、神様を置いていくことなど出来なかったのだろう。
「ルカ、好きだよ。」
「俺もヒスイさんが好き、大好き!」
俺達は、地道に前に進めば良い。俺とヒスイさんは同じくらい長生き出来るのだからゆっくりと行動していけば良い。ヒスイさんのお陰で俺は大丈夫になった。だから、今度はヒスイさんの歩幅に合わせて隣で歩かせて…
『ルカー!』
「ちょっと、良い加減にしろよ!」
『リベルが怒ってばかりなんだ!』
「アンタが勝手に行動ばかりするからだろ?!また、急に転移しやがって!」
こちらに向かって神様は走り寄って胸に飛び込もうとしてきた。だが、受け止めようと手を広げようとする前に視界が横に揺れる。
「え?」
『っ…おい!』
神様は見事に地面に着地をすると、警戒するように毛並みを逆立てる。
「ルカに触んな。」
『はあ?!』
「ほら、ルカはヒスイ様のなんだから…」
リベルは神様を宥めるように抱き上げると背中を撫でる。神様の良いところを熟知しているようですぐにゴロゴロと喉を鳴らしていた。
うん、本当の猫みたいになってる。
「帰ろ。」
「あっ、うん!」
『俺も行く!』
「行きません。」
親子みたいな騒がしい声が聞こえてくる。それに笑うと、ヒスイさんは少しむくれて手を引っ張ってきた。
「ヒスイさん?」
「俺以外にあんまり、笑顔見せないで…」
顔を上げようとすると頭を抑えられて、彼の胸に顔を埋めることになった。
久しぶりの温もり…嬉しくて泣きそうになった。やっぱり、俺はヒスイさんが抱き締めてくれるのが好きだ。
「気を付けるから、ヒスイさんも気を付けてね?」
「俺はルカの以外だと笑わないから。」
「それは、嬉しいけど笑いたかったら笑ってね。」
「笑えるほどの感情を抱いたことがない。」
「そうなの?」
ようやく、絵が緩むとヒスイさんの顔が視界に映る。自分を見つめてくれる瞳が優しい。
『イチャイチャすんな!』
「アンタは邪魔しない!」
『なら、俺らもイチャイチャしよ!』
「誰がするか?!」
『ええー。俺以外の前では人間化すんなって言ってきた癖に…』
「そ、れは…っ…」
「帰ろ。」
ヒスイさんは今度こそ本気で帰るみたいで強引に腕を引っ張って、自宅がある方向に足を向けた。
「恋人繋ぎがいい。」
そう願うとすぐに指を絡めてくれるから、胸が温かくなる。
恋って凄いと思う。愛する人といるだけで、こんなに幸福感を味わえるから。複雑なことも多いけれど、この人に恋して良かった…そう思える。
ありがとう。俺と出会って好きになってくれて。
53
お気に入りに追加
1,017
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。

どこにでもある話と思ったら、まさか?
きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

マリオネットが、糸を断つ時。
せんぷう
BL
異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。
オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。
第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。
そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。
『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』
金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。
『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!
許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』
そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。
王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。
『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』
『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』
『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』
しかし、オレは彼に拾われた。
どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。
気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!
しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?
スラム出身、第十一王子の守護魔導師。
これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。
※BL作品
恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。
.

【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい
市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。
魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。
そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。
不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。
旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。
第3話から急展開していきます。

「婚約を破棄する!」から始まる話は大抵名作だと聞いたので書いてみたら現実に婚約破棄されたんだが
ivy
BL
俺の名前はユビイ・ウォーク
王弟殿下の許嫁として城に住む伯爵家の次男だ。
余談だが趣味で小説を書いている。
そんな俺に友人のセインが「皇太子的な人があざとい美人を片手で抱き寄せながら主人公を指差してお前との婚約は解消だ!から始まる小説は大抵面白い」と言うものだから書き始めて見たらなんとそれが現実になって婚約破棄されたんだが?
全8話完結

騎士団で一目惚れをした話
菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公
憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。
春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。
新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。
___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。
ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。
しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。
常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___
「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」
ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。
寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。
髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる