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あの日、ヒスイさんから過去の話を聞いてからは暫くぎこちない雰囲気が流れた。
確かに少し居心地が悪く感じる日もあったけど、少しずつヒスイさんが我儘を口にしてくれるようになったのでこれで良かったのだと思えた。
コウモリの獣人のリベルは神様に連れられて旅に出た。世話好きでツンデレなリベルを神様は気に入ったらしい。時々、話しかけてきては彼らの状況について一方的に報告される。まあ、神様が上に戻る時はリベルが心配だからといって、俺らの家に連れてくるけどね。
「ヒスイさん。」
「ん?」
ヒスイさんは両手を広げて待つことはなくなった。知らなかったがハグも穢してしまうと思っていてやってくれていたそうだ。ハグの回数が減って寂しく感じる時もあるけれど、また無理して欲しくないから表に出さないようにしている。
代わりに手を繋ぐことが増えた。手なら、好きなだけ繋いでくれるから俺は積極的に手を差し出して甘えるようになった。
「手、繋ぎたい!」
「うん。」
前よりも柔らかくなった表情。表情豊かになって、今では言葉がなくても簡単に彼の心境を読み取れるようになった。
「ヒスイさん、見て!」
「ヤマモモだな。」
「俺、よく昔食べてたんだ。」
「前世で?」
「うん。」
ヒスイさんには俺の前世について話した。ヒスイさんが過去について話してくれた後に自分の話についても聞いてもらった。
虐待を受けていたこと、愛情を貰ったことがないこと、甘え方が分からないこと、幸せだと急に不安になってしまうことがあること…
これまで自分が不幸だと思っていたが、自分の体験などマシに思えた。
神様と2人っきりになった時、何でヒスイさんに優しく接しないのか聞いたことがある。
『最初はしたさ。だから、力も与えたのに…アイツ俺のことを鬱陶しがって無視するようになったんだ!だから、仕返しとして勝手に呼び出してるのさ。』
とまあ、子どもじみたことを互いにやってるらしい。
でも、神様がヒスイさんを生かしてくれてたのだと思った。神様が嫌というほど構いに来るから、ヒスイさんは辛くても死ぬ選択はしなかったのではないだろうかと…だって、ヒスイさんは優しいから、神様を置いていくことなど出来なかったのだろう。
「ルカ、好きだよ。」
「俺もヒスイさんが好き、大好き!」
俺達は、地道に前に進めば良い。俺とヒスイさんは同じくらい長生き出来るのだからゆっくりと行動していけば良い。ヒスイさんのお陰で俺は大丈夫になった。だから、今度はヒスイさんの歩幅に合わせて隣で歩かせて…
『ルカー!』
「ちょっと、良い加減にしろよ!」
『リベルが怒ってばかりなんだ!』
「アンタが勝手に行動ばかりするからだろ?!また、急に転移しやがって!」
こちらに向かって神様は走り寄って胸に飛び込もうとしてきた。だが、受け止めようと手を広げようとする前に視界が横に揺れる。
「え?」
『っ…おい!』
神様は見事に地面に着地をすると、警戒するように毛並みを逆立てる。
「ルカに触んな。」
『はあ?!』
「ほら、ルカはヒスイ様のなんだから…」
リベルは神様を宥めるように抱き上げると背中を撫でる。神様の良いところを熟知しているようですぐにゴロゴロと喉を鳴らしていた。
うん、本当の猫みたいになってる。
「帰ろ。」
「あっ、うん!」
『俺も行く!』
「行きません。」
親子みたいな騒がしい声が聞こえてくる。それに笑うと、ヒスイさんは少しむくれて手を引っ張ってきた。
「ヒスイさん?」
「俺以外にあんまり、笑顔見せないで…」
顔を上げようとすると頭を抑えられて、彼の胸に顔を埋めることになった。
久しぶりの温もり…嬉しくて泣きそうになった。やっぱり、俺はヒスイさんが抱き締めてくれるのが好きだ。
「気を付けるから、ヒスイさんも気を付けてね?」
「俺はルカの以外だと笑わないから。」
「それは、嬉しいけど笑いたかったら笑ってね。」
「笑えるほどの感情を抱いたことがない。」
「そうなの?」
ようやく、絵が緩むとヒスイさんの顔が視界に映る。自分を見つめてくれる瞳が優しい。
『イチャイチャすんな!』
「アンタは邪魔しない!」
『なら、俺らもイチャイチャしよ!』
「誰がするか?!」
『ええー。俺以外の前では人間化すんなって言ってきた癖に…』
「そ、れは…っ…」
「帰ろ。」
ヒスイさんは今度こそ本気で帰るみたいで強引に腕を引っ張って、自宅がある方向に足を向けた。
「恋人繋ぎがいい。」
そう願うとすぐに指を絡めてくれるから、胸が温かくなる。
恋って凄いと思う。愛する人といるだけで、こんなに幸福感を味わえるから。複雑なことも多いけれど、この人に恋して良かった…そう思える。
ありがとう。俺と出会って好きになってくれて。
確かに少し居心地が悪く感じる日もあったけど、少しずつヒスイさんが我儘を口にしてくれるようになったのでこれで良かったのだと思えた。
コウモリの獣人のリベルは神様に連れられて旅に出た。世話好きでツンデレなリベルを神様は気に入ったらしい。時々、話しかけてきては彼らの状況について一方的に報告される。まあ、神様が上に戻る時はリベルが心配だからといって、俺らの家に連れてくるけどね。
「ヒスイさん。」
「ん?」
ヒスイさんは両手を広げて待つことはなくなった。知らなかったがハグも穢してしまうと思っていてやってくれていたそうだ。ハグの回数が減って寂しく感じる時もあるけれど、また無理して欲しくないから表に出さないようにしている。
代わりに手を繋ぐことが増えた。手なら、好きなだけ繋いでくれるから俺は積極的に手を差し出して甘えるようになった。
「手、繋ぎたい!」
「うん。」
前よりも柔らかくなった表情。表情豊かになって、今では言葉がなくても簡単に彼の心境を読み取れるようになった。
「ヒスイさん、見て!」
「ヤマモモだな。」
「俺、よく昔食べてたんだ。」
「前世で?」
「うん。」
ヒスイさんには俺の前世について話した。ヒスイさんが過去について話してくれた後に自分の話についても聞いてもらった。
虐待を受けていたこと、愛情を貰ったことがないこと、甘え方が分からないこと、幸せだと急に不安になってしまうことがあること…
これまで自分が不幸だと思っていたが、自分の体験などマシに思えた。
神様と2人っきりになった時、何でヒスイさんに優しく接しないのか聞いたことがある。
『最初はしたさ。だから、力も与えたのに…アイツ俺のことを鬱陶しがって無視するようになったんだ!だから、仕返しとして勝手に呼び出してるのさ。』
とまあ、子どもじみたことを互いにやってるらしい。
でも、神様がヒスイさんを生かしてくれてたのだと思った。神様が嫌というほど構いに来るから、ヒスイさんは辛くても死ぬ選択はしなかったのではないだろうかと…だって、ヒスイさんは優しいから、神様を置いていくことなど出来なかったのだろう。
「ルカ、好きだよ。」
「俺もヒスイさんが好き、大好き!」
俺達は、地道に前に進めば良い。俺とヒスイさんは同じくらい長生き出来るのだからゆっくりと行動していけば良い。ヒスイさんのお陰で俺は大丈夫になった。だから、今度はヒスイさんの歩幅に合わせて隣で歩かせて…
『ルカー!』
「ちょっと、良い加減にしろよ!」
『リベルが怒ってばかりなんだ!』
「アンタが勝手に行動ばかりするからだろ?!また、急に転移しやがって!」
こちらに向かって神様は走り寄って胸に飛び込もうとしてきた。だが、受け止めようと手を広げようとする前に視界が横に揺れる。
「え?」
『っ…おい!』
神様は見事に地面に着地をすると、警戒するように毛並みを逆立てる。
「ルカに触んな。」
『はあ?!』
「ほら、ルカはヒスイ様のなんだから…」
リベルは神様を宥めるように抱き上げると背中を撫でる。神様の良いところを熟知しているようですぐにゴロゴロと喉を鳴らしていた。
うん、本当の猫みたいになってる。
「帰ろ。」
「あっ、うん!」
『俺も行く!』
「行きません。」
親子みたいな騒がしい声が聞こえてくる。それに笑うと、ヒスイさんは少しむくれて手を引っ張ってきた。
「ヒスイさん?」
「俺以外にあんまり、笑顔見せないで…」
顔を上げようとすると頭を抑えられて、彼の胸に顔を埋めることになった。
久しぶりの温もり…嬉しくて泣きそうになった。やっぱり、俺はヒスイさんが抱き締めてくれるのが好きだ。
「気を付けるから、ヒスイさんも気を付けてね?」
「俺はルカの以外だと笑わないから。」
「それは、嬉しいけど笑いたかったら笑ってね。」
「笑えるほどの感情を抱いたことがない。」
「そうなの?」
ようやく、絵が緩むとヒスイさんの顔が視界に映る。自分を見つめてくれる瞳が優しい。
『イチャイチャすんな!』
「アンタは邪魔しない!」
『なら、俺らもイチャイチャしよ!』
「誰がするか?!」
『ええー。俺以外の前では人間化すんなって言ってきた癖に…』
「そ、れは…っ…」
「帰ろ。」
ヒスイさんは今度こそ本気で帰るみたいで強引に腕を引っ張って、自宅がある方向に足を向けた。
「恋人繋ぎがいい。」
そう願うとすぐに指を絡めてくれるから、胸が温かくなる。
恋って凄いと思う。愛する人といるだけで、こんなに幸福感を味わえるから。複雑なことも多いけれど、この人に恋して良かった…そう思える。
ありがとう。俺と出会って好きになってくれて。
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