動物アレルギーのSS級治療師は、竜神と恋をする

拍羅

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「お前、何をした?」

 手を掴んで睨んでくるのは、先程自分が治療した獣人だ。
 眼を金色に光らせ、警戒していることを物語らせる。
 掴まれた箇所が赤くなっていたが、俺の顔がじわじわと苦痛に歪む理由はその痛みからではなかった。

「…っ、すみません、手を離して頂けないでしょうか?」

「俺の問いに答えろ!」

 その声の大きさに体が震える。
 恐怖からではない。
 気を抜いていた時に突然大きな音が聞こえて、びっくりした感じだ。

「あの、答えるんで、手を……っ」

 離して、そう続けようとしたが、より手に力を込められてしまった。

「ゔーっ……」

 自分の言うことを全く聞いてくれない彼に焦りが生じるが、こうなってしまうのは仕方がないとも思う。
 だって、無くなったはずの片腕が生えているのだ。
 しかも、それをやったのは俺だ。

 欠陥部分を治療したからだと説明したかったけど、もうそんな気力は残っていなかった。
 俺は動物アレルギーを患っているため、獣人の彼に触れられている影響でどんどん体調が悪くなってくる。

「おい、お前聞いてるのか?」

 何やら口を開いているが、もはや何を言っているのか分からなかった。
 彼の言葉を聞き取りたいのに、もう身体に力が入らなくなってきた。

 …ああ、無理だ。

 そう思うと同時に身体が前に倒れる。でも、倒れ掛けた瞬間、横から差し出された手によって支えられる。

 ぼやける視界の中、眼を凝らすと綺麗な翡翠色の瞳が目に映る。
 目が合い胸が一瞬高鳴るが、その後は嫌な鼓動を響かせた。

「ーすみま、せん…」

「おい、大丈ーーー」

 謝罪に続く感謝の言葉は口にはできなかった。
 俺はそのまま最後に彼の心配そうな表情を見て、気を失ったから。

 ♦︎

 俺には前世の記憶がある。
 しかも、今世とは違う人間の世界で生きていた記憶だ。

 俺は幼い頃から、動物が大好きだった。
 母親がいうには幼稚園に入る前から、触れ合い動物園の羊やヤギを追いかけ回していたそうだ。
 今、考えると大きなストレスを与えてしまい、本当に申し訳ことをしたと思う。

 そんな動物好きな俺だが、今は病院で入院していた。
 上を向いた自分の視界には真っ白な壁がぼやけて映る。

 俺は1ヶ月前に野犬に噛まれたことが原因となり、現在は呼吸障害に陥った。
 狂犬病に感染したのだ。

 まさか、自分がこんな目にあうとは思わなかった。
 夢だった飼育員に就職した矢先の出来事だったから、この状況はショックを隠せなかった。

 身体は熱いし、頭は痛いし、呼吸は苦しいし、とにかくしんどくて死にそうだと思った。
 そして、その思いは現実になってしまったらしい。
 俺は本当にそのまま病院で亡くなったのだから。

 次に目が覚めると俺は知らない森にいた。

「……どこ…?」

 そうポツリと溢すと頭に響くように声が聞こえた。

『おはよう、ルカ!』

 効果音が付きそうなほど、明るい声が聞こえてくる。
 うるさくて耳を塞いでみるが、普通に声は聞こえてくる。

『ちょっと!耳隠さないでよ~。まあ、頭に直接語りかけているから意味ないんだけどね。』

「はあ?」

 直接……。
 耳を塞ぐ力を強くしてみると、『ちよっとー!』と頭に響く声のボリュームは確かに変わらなかった。
 この手は無意味であると実感したので、大人しく下ろす。

『うんうん。それでいい』

 途端に機嫌が良くなった声の主。
 この人は何者なのだろうか。

「……あなた、誰ですか?」

『んー、俺は神様。ちなみに君の名前はルカね』

「神様?!」

 その名前を聞いて思わず声を張り上げてしまう。

『そうだよ、ルカー』

 どうやら、俺の名前はルカで決定らしい。
 まあ、自分の名前が思い出せないし、神様から貰った名前なら縁起が良さそうだからいっか……。

『ちなみにルカをこの世界に呼んだのも俺だからね』

「……何でですか?」

『んー、だって、野良犬や野良猫を保護してくれたり、ボランティアで動物のために動いてくれたのに、あの結果は散々でしょ?かわいそうだから、こっちに呼んじゃった!」

 軽い口調で説明してくれるが、これって異常な出来事ではないのだろうか……。

『うん、普通じゃないよ。しかも、俺、特典付けちゃったし!』

「特典?」

『うん!ルカにね、SS級の治癒魔法使えるようにしといたから。この獣人の世界で唯一、瀕死や重症の獣を治せるんだよ!前世で君に救ってもらった数々の命のお礼』

 つまり、獣医的な感じなのだろうか?
 今世では救えないことに嘆かなくても良いのか。
 そう思うと嬉しさが込み上げてきた。

「ありがとうございます」

『うんうん、良いよ!あ、でもかわりに動物アレルギーだから触れないように気をつけてね!』

「……はあ?!」

『SS級治癒魔法を付けたら、そうなっちゃった。多分、狂犬病にかかって死んだことが影響してるのかな?』

 途端に頭を抱えたくなった。
 だが、魔法で治療を行えるなら触れずとも行えるはずだ。

 あの、毛並みに触れられないことや抱き締められないことは残念に思うが、命を救う方が大事だから諦めるよしよう。
 本当は触りたくて仕方がないけど。
 残念で、辛いけど。
 うん……。
 
『じゃ、仕事があるから戻るね。これからここの子達をよろしくね、ルカ。』

「あっ、はい。分かりました。」

 条件反射のように淡々と承諾すると、神様の笑い声を最後に何も聞こえなくなった。
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