1 / 25
1
しおりを挟む
「お前、何をした?」
手を掴んで睨んでくるのは、先程自分が治療した獣人だ。
眼を金色に光らせ、警戒していることを物語らせる。
掴まれた箇所が赤くなっていたが、俺の顔がじわじわと苦痛に歪む理由はその痛みからではなかった。
「…っ、すみません、手を離して頂けないでしょうか?」
「俺の問いに答えろ!」
その声の大きさに体が震える。
恐怖からではない。
気を抜いていた時に突然大きな音が聞こえて、びっくりした感じだ。
「あの、答えるんで、手を……っ」
離して、そう続けようとしたが、より手に力を込められてしまった。
「ゔーっ……」
自分の言うことを全く聞いてくれない彼に焦りが生じるが、こうなってしまうのは仕方がないとも思う。
だって、無くなったはずの片腕が生えているのだ。
しかも、それをやったのは俺だ。
欠陥部分を治療したからだと説明したかったけど、もうそんな気力は残っていなかった。
俺は動物アレルギーを患っているため、獣人の彼に触れられている影響でどんどん体調が悪くなってくる。
「おい、お前聞いてるのか?」
何やら口を開いているが、もはや何を言っているのか分からなかった。
彼の言葉を聞き取りたいのに、もう身体に力が入らなくなってきた。
…ああ、無理だ。
そう思うと同時に身体が前に倒れる。でも、倒れ掛けた瞬間、横から差し出された手によって支えられる。
ぼやける視界の中、眼を凝らすと綺麗な翡翠色の瞳が目に映る。
目が合い胸が一瞬高鳴るが、その後は嫌な鼓動を響かせた。
「ーすみま、せん…」
「おい、大丈ーーー」
謝罪に続く感謝の言葉は口にはできなかった。
俺はそのまま最後に彼の心配そうな表情を見て、気を失ったから。
♦︎
俺には前世の記憶がある。
しかも、今世とは違う人間の世界で生きていた記憶だ。
俺は幼い頃から、動物が大好きだった。
母親がいうには幼稚園に入る前から、触れ合い動物園の羊やヤギを追いかけ回していたそうだ。
今、考えると大きなストレスを与えてしまい、本当に申し訳ことをしたと思う。
そんな動物好きな俺だが、今は病院で入院していた。
上を向いた自分の視界には真っ白な壁がぼやけて映る。
俺は1ヶ月前に野犬に噛まれたことが原因となり、現在は呼吸障害に陥った。
狂犬病に感染したのだ。
まさか、自分がこんな目にあうとは思わなかった。
夢だった飼育員に就職した矢先の出来事だったから、この状況はショックを隠せなかった。
身体は熱いし、頭は痛いし、呼吸は苦しいし、とにかくしんどくて死にそうだと思った。
そして、その思いは現実になってしまったらしい。
俺は本当にそのまま病院で亡くなったのだから。
次に目が覚めると俺は知らない森にいた。
「……どこ…?」
そうポツリと溢すと頭に響くように声が聞こえた。
『おはよう、ルカ!』
効果音が付きそうなほど、明るい声が聞こえてくる。
うるさくて耳を塞いでみるが、普通に声は聞こえてくる。
『ちょっと!耳隠さないでよ~。まあ、頭に直接語りかけているから意味ないんだけどね。』
「はあ?」
直接……。
耳を塞ぐ力を強くしてみると、『ちよっとー!』と頭に響く声のボリュームは確かに変わらなかった。
この手は無意味であると実感したので、大人しく下ろす。
『うんうん。それでいい』
途端に機嫌が良くなった声の主。
この人は何者なのだろうか。
「……あなた、誰ですか?」
『んー、俺は神様。ちなみに君の名前はルカね』
「神様?!」
その名前を聞いて思わず声を張り上げてしまう。
『そうだよ、ルカー』
どうやら、俺の名前はルカで決定らしい。
まあ、自分の名前が思い出せないし、神様から貰った名前なら縁起が良さそうだからいっか……。
『ちなみにルカをこの世界に呼んだのも俺だからね』
「……何でですか?」
『んー、だって、野良犬や野良猫を保護してくれたり、ボランティアで動物のために動いてくれたのに、あの結果は散々でしょ?かわいそうだから、こっちに呼んじゃった!」
軽い口調で説明してくれるが、これって異常な出来事ではないのだろうか……。
『うん、普通じゃないよ。しかも、俺、特典付けちゃったし!』
「特典?」
『うん!ルカにね、SS級の治癒魔法使えるようにしといたから。この獣人の世界で唯一、瀕死や重症の獣を治せるんだよ!前世で君に救ってもらった数々の命のお礼』
つまり、獣医的な感じなのだろうか?
今世では救えないことに嘆かなくても良いのか。
そう思うと嬉しさが込み上げてきた。
「ありがとうございます」
『うんうん、良いよ!あ、でもかわりに動物アレルギーだから触れないように気をつけてね!』
「……はあ?!」
『SS級治癒魔法を付けたら、そうなっちゃった。多分、狂犬病にかかって死んだことが影響してるのかな?』
途端に頭を抱えたくなった。
だが、魔法で治療を行えるなら触れずとも行えるはずだ。
あの、毛並みに触れられないことや抱き締められないことは残念に思うが、命を救う方が大事だから諦めるよしよう。
本当は触りたくて仕方がないけど。
残念で、辛いけど。
うん……。
『じゃ、仕事があるから戻るね。これからここの子達をよろしくね、ルカ。』
「あっ、はい。分かりました。」
条件反射のように淡々と承諾すると、神様の笑い声を最後に何も聞こえなくなった。
手を掴んで睨んでくるのは、先程自分が治療した獣人だ。
眼を金色に光らせ、警戒していることを物語らせる。
掴まれた箇所が赤くなっていたが、俺の顔がじわじわと苦痛に歪む理由はその痛みからではなかった。
「…っ、すみません、手を離して頂けないでしょうか?」
「俺の問いに答えろ!」
その声の大きさに体が震える。
恐怖からではない。
気を抜いていた時に突然大きな音が聞こえて、びっくりした感じだ。
「あの、答えるんで、手を……っ」
離して、そう続けようとしたが、より手に力を込められてしまった。
「ゔーっ……」
自分の言うことを全く聞いてくれない彼に焦りが生じるが、こうなってしまうのは仕方がないとも思う。
だって、無くなったはずの片腕が生えているのだ。
しかも、それをやったのは俺だ。
欠陥部分を治療したからだと説明したかったけど、もうそんな気力は残っていなかった。
俺は動物アレルギーを患っているため、獣人の彼に触れられている影響でどんどん体調が悪くなってくる。
「おい、お前聞いてるのか?」
何やら口を開いているが、もはや何を言っているのか分からなかった。
彼の言葉を聞き取りたいのに、もう身体に力が入らなくなってきた。
…ああ、無理だ。
そう思うと同時に身体が前に倒れる。でも、倒れ掛けた瞬間、横から差し出された手によって支えられる。
ぼやける視界の中、眼を凝らすと綺麗な翡翠色の瞳が目に映る。
目が合い胸が一瞬高鳴るが、その後は嫌な鼓動を響かせた。
「ーすみま、せん…」
「おい、大丈ーーー」
謝罪に続く感謝の言葉は口にはできなかった。
俺はそのまま最後に彼の心配そうな表情を見て、気を失ったから。
♦︎
俺には前世の記憶がある。
しかも、今世とは違う人間の世界で生きていた記憶だ。
俺は幼い頃から、動物が大好きだった。
母親がいうには幼稚園に入る前から、触れ合い動物園の羊やヤギを追いかけ回していたそうだ。
今、考えると大きなストレスを与えてしまい、本当に申し訳ことをしたと思う。
そんな動物好きな俺だが、今は病院で入院していた。
上を向いた自分の視界には真っ白な壁がぼやけて映る。
俺は1ヶ月前に野犬に噛まれたことが原因となり、現在は呼吸障害に陥った。
狂犬病に感染したのだ。
まさか、自分がこんな目にあうとは思わなかった。
夢だった飼育員に就職した矢先の出来事だったから、この状況はショックを隠せなかった。
身体は熱いし、頭は痛いし、呼吸は苦しいし、とにかくしんどくて死にそうだと思った。
そして、その思いは現実になってしまったらしい。
俺は本当にそのまま病院で亡くなったのだから。
次に目が覚めると俺は知らない森にいた。
「……どこ…?」
そうポツリと溢すと頭に響くように声が聞こえた。
『おはよう、ルカ!』
効果音が付きそうなほど、明るい声が聞こえてくる。
うるさくて耳を塞いでみるが、普通に声は聞こえてくる。
『ちょっと!耳隠さないでよ~。まあ、頭に直接語りかけているから意味ないんだけどね。』
「はあ?」
直接……。
耳を塞ぐ力を強くしてみると、『ちよっとー!』と頭に響く声のボリュームは確かに変わらなかった。
この手は無意味であると実感したので、大人しく下ろす。
『うんうん。それでいい』
途端に機嫌が良くなった声の主。
この人は何者なのだろうか。
「……あなた、誰ですか?」
『んー、俺は神様。ちなみに君の名前はルカね』
「神様?!」
その名前を聞いて思わず声を張り上げてしまう。
『そうだよ、ルカー』
どうやら、俺の名前はルカで決定らしい。
まあ、自分の名前が思い出せないし、神様から貰った名前なら縁起が良さそうだからいっか……。
『ちなみにルカをこの世界に呼んだのも俺だからね』
「……何でですか?」
『んー、だって、野良犬や野良猫を保護してくれたり、ボランティアで動物のために動いてくれたのに、あの結果は散々でしょ?かわいそうだから、こっちに呼んじゃった!」
軽い口調で説明してくれるが、これって異常な出来事ではないのだろうか……。
『うん、普通じゃないよ。しかも、俺、特典付けちゃったし!』
「特典?」
『うん!ルカにね、SS級の治癒魔法使えるようにしといたから。この獣人の世界で唯一、瀕死や重症の獣を治せるんだよ!前世で君に救ってもらった数々の命のお礼』
つまり、獣医的な感じなのだろうか?
今世では救えないことに嘆かなくても良いのか。
そう思うと嬉しさが込み上げてきた。
「ありがとうございます」
『うんうん、良いよ!あ、でもかわりに動物アレルギーだから触れないように気をつけてね!』
「……はあ?!」
『SS級治癒魔法を付けたら、そうなっちゃった。多分、狂犬病にかかって死んだことが影響してるのかな?』
途端に頭を抱えたくなった。
だが、魔法で治療を行えるなら触れずとも行えるはずだ。
あの、毛並みに触れられないことや抱き締められないことは残念に思うが、命を救う方が大事だから諦めるよしよう。
本当は触りたくて仕方がないけど。
残念で、辛いけど。
うん……。
『じゃ、仕事があるから戻るね。これからここの子達をよろしくね、ルカ。』
「あっ、はい。分かりました。」
条件反射のように淡々と承諾すると、神様の笑い声を最後に何も聞こえなくなった。
163
あなたにおすすめの小説
学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
君さえ笑ってくれれば最高
大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。
(クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け)
異世界BLです。
祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m
この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!
ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。
ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。
これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。
ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!?
ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19)
公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。
【完結】獣王の番
なの
BL
獣王国の若き王ライオネルは、和平の証として差し出されたΩの少年ユリアンを「番など認めぬ」と冷酷に拒絶する。
虐げられながらも、ユリアンは決してその誇りを失わなかった。
しかし暴走する獣の血を鎮められるのは、そのユリアンただ一人――。
やがて明かされる予言、「真の獣王は唯一の番と結ばれるとき、国を救う」
拒絶から始まった二人の関係は、やがて国を救う愛へと変わっていく。
冷徹な獣王と運命のΩの、拒絶から始まる、運命の溺愛ファンタジー!
筋肉質な人間湯たんぽを召喚した魔術師の話
陽花紫
BL
ある冬の日のこと、寒さに耐えかねた魔術師ユウは湯たんぽになるような自分好み(筋肉質)の男ゴウを召喚した。
私利私欲に塗れた召喚であったが、無事に成功した。引きこもりで筋肉フェチなユウと呑気なマッチョ、ゴウが過ごす春までの日々。
小説家になろうにも掲載しています。
『君を幸せにする』と毎日プロポーズしてくるチート宮廷魔術師に、飽きられるためにOKしたら、なぜか溺愛が止まらない。
春凪アラシ
BL
「君を一生幸せにする」――その言葉が、これほど厄介だなんて思わなかった。
チート宮廷魔術師×うさぎ獣人の道具屋。
毎朝押しかけてプロポーズしてくる天才宮廷魔術師・シグに、うんざりしながらも返事をしてしまったうさぎ獣人の道具屋である俺・トア。
でもこれは恋人になるためじゃない、“一目惚れの幻想を崩し、幻滅させて諦めさせる作戦”のはずだった。
……なのに、なんでコイツ、飽きることなく俺の元に来るんだよ?
“うさぎ獣人らしくない俺”に、どうしてそんな真っ直ぐな目を向けるんだ――?
見た目も性格も不釣り合いなふたりが織りなす、ちょっと不器用な異種族BL。
同じ世界観の「「世界一美しい僕が、初恋の一目惚れ軍人に振られました」僕の辞書に諦めはないので全力で振り向かせます」を投稿してます!トアも出てくるので良かったらご覧ください✨
本当に悪役なんですか?
メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。
状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて…
ムーンライトノベルズ にも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる