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それから、数日経った。
神様が付けた得点の一つだろうか、森の中での生活は不便なく過ごせた。これまでキャンプさえしたことがないが、外で生活する基礎知識のようなものは頭に入っていた。他にも、建築知識や料理の知識といった様々なものも叩き込まれていた。
「ん?」
ここから100mほど離れた所から何か嫌な気配がする。これはここで生活している上で、もう何を意味をするのか分かっていた。
ルカは手にしていた果物を手放すと走り出した。息を切らしながら、どんどん近付いて来る気配に気持ちは揺さぶられる。
「ーっ、いた!」
冷や汗を流す1人の青年が肩を押さえながら、木にもたれている。片腕がなくなりながらも、まだ生きていることに安心するとルカは彼の傍に座り込む。そして、彼が押さえる箇所の上に、両手をかざした。
「ヒール。」
その瞬間、両手からは淡い黄色の光が溢れ出す。温かい光が彼の傷口に集まり輝き出すと、次第に光が伸びていき腕の形を作る。次第に光は消え、かわりに彼の肌色の腕が現れる。
「ーーっ…」
ゆっくりと瞼が開くと獣人の特徴である黄色の瞳が見える。彼は自分の腕を見ると眼を見開き、次に視線をこちらに向けてきた。
「大丈夫でしょうか?」
腕の状態を確認したいが、残念ながら触れないため本人に聞くしかない。だが、自分の注意を無駄にするように、狼の耳を付けた獣人は腕を掴んできた。
「お前、何をした?」
「…っ、すみません、手を離して頂けないでしょうか?」
でも、彼は警戒したように手に力を込めてくる。蕁麻疹がどんどん酷くなっていく。
「俺の問いに答えろ!」
何やら、怒っているような気もするが、よく見えない。意識が朦朧とし始めて、もう自分でもどうしようも出来ないレベルに達した。
「おーーのしーき……」
なんとか起こしていた身体が前に倒れる。でも、すぐに誰かの逞しい腕によって支えられた。
ぼやける視界の中、必死に眼を凝らすと翡翠色の瞳と目があった。生まれて初めて見る色に胸が高鳴る。もっと見ていたいのに、意思とは反対に瞼は下がり出す。
「ーすみま、せん…」
何とか声を発したがそこで、俺の意識は途絶えた。
♦︎
血の匂いが鼻に届いたため、急いでそこに向かったら既に治療を終えたらしい場面に辿り着いた。まさか、自分以外に治療を行える者が存在するとは思わなかった。しかも、1人は獣の耳が生えていない生物だった。
警戒して気配を消して彼らに近付いていくと、手前の男の様子がおかしいことに気付く。どこか震えており、身体は少しふらついている。訝しげに見ていると、彼の身体が前に倒れたので慌てて腕を差し出した。
視線が合うと彼は驚いたように瞳を少し開かせたが、すぐに気を失ってしまった。彼の身体を抱き寄せて見ると、赤い斑点のようなものが腕を中心に浮かび上がっている。
俺は視線を目の前の男に向けると、狼の獣人は身体を大きく震わせ、両手を地面につけて頭を下げてきた。
「竜神様!」
「畏まらなくて大丈夫だ。」
そう口にすると彼は戸惑いながらも、顔を上げる。
「この者は誰だ?」
「…俺にもよく分かりません。ただ、俺の片腕は獣に噛みちぎられて、先程まで意識が混濁するほどの重傷でした。でも、急に痛みが消えて目を覚ましたら治っていたのです。それで、その男が目の前にいました。」
腕が治った?それは誠に信じられないことだった。俺の回復効果がある血をあげても、腕が治ることはない。ただ、欠けたものはそのままで治るだけだ。
でも、目の前の男の服は肩を獣に噛まれたように千切れ、血液が付着していた。それに、目の前の獣人が嘘を付いているようにはとても思えなかった。
「…なるほどな。」
腕の中で気を失っている男を横に抱え直して持ち上げると、驚くほど軽かった。病気を患っているのかと心配になるレベルで、思わず眉間に皺が寄ってしまう。
「ーあの、…いえ、やっぱり何もないです。」
「何だ?何でも良いから言ってみなさい。」
獣人は手の中にいる男をチラリと見ると口を開いた。
「もしかしたら、その者が女神と呼ばれる者かもしれません。」
「女神?」
この者は確かに綺麗な顔立ちをしているが、男だぞ?
「はい。近頃、軽傷から重体となった森の獣人達が、何者かによって無償で治療され完治していることが噂になり始めているのです。」
「確かに、それは女神と勘違いされそうだな。」
力なく倒れるこの男の正体が気になった。でも、今は彼を早く休ませる場所に連れて行かなければならないと思った。
俺は身体を翻すとこの者の匂いを頼りに足を進めた。
神様が付けた得点の一つだろうか、森の中での生活は不便なく過ごせた。これまでキャンプさえしたことがないが、外で生活する基礎知識のようなものは頭に入っていた。他にも、建築知識や料理の知識といった様々なものも叩き込まれていた。
「ん?」
ここから100mほど離れた所から何か嫌な気配がする。これはここで生活している上で、もう何を意味をするのか分かっていた。
ルカは手にしていた果物を手放すと走り出した。息を切らしながら、どんどん近付いて来る気配に気持ちは揺さぶられる。
「ーっ、いた!」
冷や汗を流す1人の青年が肩を押さえながら、木にもたれている。片腕がなくなりながらも、まだ生きていることに安心するとルカは彼の傍に座り込む。そして、彼が押さえる箇所の上に、両手をかざした。
「ヒール。」
その瞬間、両手からは淡い黄色の光が溢れ出す。温かい光が彼の傷口に集まり輝き出すと、次第に光が伸びていき腕の形を作る。次第に光は消え、かわりに彼の肌色の腕が現れる。
「ーーっ…」
ゆっくりと瞼が開くと獣人の特徴である黄色の瞳が見える。彼は自分の腕を見ると眼を見開き、次に視線をこちらに向けてきた。
「大丈夫でしょうか?」
腕の状態を確認したいが、残念ながら触れないため本人に聞くしかない。だが、自分の注意を無駄にするように、狼の耳を付けた獣人は腕を掴んできた。
「お前、何をした?」
「…っ、すみません、手を離して頂けないでしょうか?」
でも、彼は警戒したように手に力を込めてくる。蕁麻疹がどんどん酷くなっていく。
「俺の問いに答えろ!」
何やら、怒っているような気もするが、よく見えない。意識が朦朧とし始めて、もう自分でもどうしようも出来ないレベルに達した。
「おーーのしーき……」
なんとか起こしていた身体が前に倒れる。でも、すぐに誰かの逞しい腕によって支えられた。
ぼやける視界の中、必死に眼を凝らすと翡翠色の瞳と目があった。生まれて初めて見る色に胸が高鳴る。もっと見ていたいのに、意思とは反対に瞼は下がり出す。
「ーすみま、せん…」
何とか声を発したがそこで、俺の意識は途絶えた。
♦︎
血の匂いが鼻に届いたため、急いでそこに向かったら既に治療を終えたらしい場面に辿り着いた。まさか、自分以外に治療を行える者が存在するとは思わなかった。しかも、1人は獣の耳が生えていない生物だった。
警戒して気配を消して彼らに近付いていくと、手前の男の様子がおかしいことに気付く。どこか震えており、身体は少しふらついている。訝しげに見ていると、彼の身体が前に倒れたので慌てて腕を差し出した。
視線が合うと彼は驚いたように瞳を少し開かせたが、すぐに気を失ってしまった。彼の身体を抱き寄せて見ると、赤い斑点のようなものが腕を中心に浮かび上がっている。
俺は視線を目の前の男に向けると、狼の獣人は身体を大きく震わせ、両手を地面につけて頭を下げてきた。
「竜神様!」
「畏まらなくて大丈夫だ。」
そう口にすると彼は戸惑いながらも、顔を上げる。
「この者は誰だ?」
「…俺にもよく分かりません。ただ、俺の片腕は獣に噛みちぎられて、先程まで意識が混濁するほどの重傷でした。でも、急に痛みが消えて目を覚ましたら治っていたのです。それで、その男が目の前にいました。」
腕が治った?それは誠に信じられないことだった。俺の回復効果がある血をあげても、腕が治ることはない。ただ、欠けたものはそのままで治るだけだ。
でも、目の前の男の服は肩を獣に噛まれたように千切れ、血液が付着していた。それに、目の前の獣人が嘘を付いているようにはとても思えなかった。
「…なるほどな。」
腕の中で気を失っている男を横に抱え直して持ち上げると、驚くほど軽かった。病気を患っているのかと心配になるレベルで、思わず眉間に皺が寄ってしまう。
「ーあの、…いえ、やっぱり何もないです。」
「何だ?何でも良いから言ってみなさい。」
獣人は手の中にいる男をチラリと見ると口を開いた。
「もしかしたら、その者が女神と呼ばれる者かもしれません。」
「女神?」
この者は確かに綺麗な顔立ちをしているが、男だぞ?
「はい。近頃、軽傷から重体となった森の獣人達が、何者かによって無償で治療され完治していることが噂になり始めているのです。」
「確かに、それは女神と勘違いされそうだな。」
力なく倒れるこの男の正体が気になった。でも、今は彼を早く休ませる場所に連れて行かなければならないと思った。
俺は身体を翻すとこの者の匂いを頼りに足を進めた。
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