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本編
思い出と頭のネジ
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俺が慣れないファン対応に追われる中、バレンタイン合戦実況放送は続く。
『さて!!アバウトな中間集計報告が終わりまして!!ここからは、写真班やライブ撮影班など!学校の至る所に散らばっているメンバーが撮影した構内の様子、姫たちの姿、はたまたスクープから現場で肌で感じたリアルな感想などをお伝えしていきたいと思います!!』
『初っ端から!優勝確実とされていたシルク姫がリタイアするという大波乱から始まりました、今回のバレンタイン合戦!!現場でも様々なドラマが至るところで繰り広げられています!!』
『シルク姫に関しての報道は前半にまとめました通りです!また問い合わせがありました生徒名についてはこちらでは伏せさせて頂きます。』
『でもシルク姫も本人も、もっというとシルク姫陣営も全く隠してないですし、普通に今も3年A組で一緒に活動してますから、教室行って聞けば皆で笑って教えてくれるぐらいオープンなので、気になる方は直接3年A組に行って聞いてみてください!』
『ウィル姫の仲裁もあったからなんでしょうけど……マジで?!ってくらい、和気あいあいとしてますからびっくりしますよ?!』
それを聞いて皆が笑った。
俺のところに来て大騒ぎしたりと、本当、好き勝手してるよなぁ~、アイツ。
なのになんだかんだ、皆、笑って許してしまう。
まぁそれもこれも、シルクがあの憎めない性格だからってのが大きいだろうなぁと思う。
自由奔放なお姫様。
小悪魔なギャル系美少女。(男)
わがままで好き勝手するのに憎めない。
皆、そんなシルクを愛してるんだ。
『さて!では、ここまででわかっている状況をご報告致します!!まずは一年!!』
『一年はまだこの学校の意味不明なノリに慣れてない部分がありますからね~。』
『しかもバレンタイン合戦なんて、そのノリの一年かけた集大成!!アホの極みとも言えますからね!!若干、引いてる生徒すらいますから!!』
『1年生の諸君、慣れだ。慣れろ。ここはこういう所だ。そして考えるな、感じろ。深く考えるな!男の姫ってなんだとか考えるな!!楽しめ!!馬鹿になれ!!バカになったもん勝ちだ!!青春は馬鹿になったヤツが勝つ!!』
放送部員のアホな力説にどっと笑いが起きる。
特に3年にはこの言葉は響く。
高校生活3年間、このアホな企画にかけてきたんだ。
昼飯を食い終わった俺の姫騎士が、巨乳をぶるんぶるん言わせながら横に立った。
視線を合わせ、ニッと笑う。
そう、こんなのは馬鹿になったモン勝ちよ。
どうせやるなら楽しめ!!
馬鹿になれ!!
『力説ありがとう!友よ!!』
『おうよ!相棒!!』
『では気を取り直しまして!先ほど話題にもなりました!1年の現在の状況と傾向、勝敗予想です!!』
『一年はまだ慣れてない事もあり、姫の売り込みが甘い!!』
『そう、なので部活動などで話題性のある「姫」に人気が行く傾向にありました!!その中で見た目もハンサムで可愛く、部活実績もあるD組のフィッツ姫がダントツ人気でした!!』
『いやでも、フィッツちゃんはマジで可愛いって。運動系なのもシルクちゃんに近いし。性格は全然違うけどさぁ~、俺はそういうの抜きにしても推すよ?!』
『確かに。そういう将来性も見て推してる二、三年生も結構います!今後が期待されている姫!!それがフィッツ姫!!』
『一年ではピカイチだよな~。』
『ですが!!後半に入りまして!!注目され始めた姫がいます!!』
『正直、クラス的にもバレンタイン合戦がよくわからない感じで控えめだった一年B組!!その選ばれた「姫」本人もかなり控えめ!!ケリー姫!!』
『ですが!!三年の平凡姫でお馴染みのサーク姫が行ったPRイベント「もぐもぐタイム」に、差し入れに行った事で状況が大きく変わりました!!』
ちょっと休憩とばかりにお茶を飲もうとした俺は、それをブッと吹いた。
横のクラスメイトに軽くかかり「汚ぇぞ!おい!!」と怒られる。
それを貢物を渡しに来ていた生徒たちが笑った。
「え?!えぇ?!俺が絡んでんの?!」
「後半から注目され出したんだから当たり前だろ??」
何言ってんだとクラスメイトにもライルにも呆れ顔で見られる。
いや、俺が絡んでるとか普通思わないだろ?!
『そう!一年は「姫」の売り込みが甘い!!それが顕著に現れた例ですね!!いいか?!一年!!尻込みしてたら貢物なんか増えないんだぞ?!もっと曝け出せ!!はっちゃけろ!!』
『元々サーク姫のファンだったというケリー姫。スイーツ君やシュガーちゃんと呼ばれるくらいのお菓子好き!将来はパティシエを目指している本格派のスイーツ男子です!!』
『そんなケリー姫が自作のクッキーをサーク姫に差し入れ、その完成度に感激したサーク姫がちょうど来ていた撮影班にそれを撮影させ、同時に彼がやっているクッキーアートのインスタアカウントを紹介した事で!!人気に火がつきました!!』
『いや、アカウント見ましたけど、本当に凄いんですって!!これ、クッキーなのかって感じで!!』
『ケリー姫のクッキーアートアカウントは、一年B組の教室や廊下、紹介したサーク姫の教室のホワイトボード、一応、バレンタイン合戦アカウントでも紹介はしていますが、現在、様々な記事を見ようとアクセスが殺到していますので、教室まで見に行った方が早い!!』
『ついでに貢物を持ってスイーツ君と仲良くなっておくのもいいかと。控えめだけど可愛い子です、スイーツ君。』
『こういう普通に学校生活していたんじゃ見落とされがちな良さを持ったダイヤの原石を発掘できるのが「姫」制度であり、バレンタイン合戦なんですよ!!』
『逆に元々注目されていたけど、「姫」になった事で新たな一面が見え魅力の増す「姫」もいますけどね。』
『今年はそれも顕著に出てるよな?!ライオネル様とかヤンキー姫とか!ここに来てそんな魅力見せつけてくるなんて狡いよ!!って思うもん。』
『まあまあ、三年生についてはひとまず置いといて。一年生はケリー姫の件を受けて後半から各クラス「姫」の売り込み方に変化が見られ、中々面白い感じになっています!!』
『実際一年の教室の方に足を運んで!自分の推し姫を見つけてはいかがでしょうか?!』
『今後が期待される一年生!!まだ学校中に注目される前の、あなただけのアイドルがそこにいる!!』
『騎士になるなら少ないうちの方がいいしな!!』
放送を聞きながら、自分が一年の時はどうだっただろうと想いを馳せる。
放送のフィッツ姫とケリー姫。
それはどこか、一年の時のシルクとウィルの事を思い出させる。
やっぱり俺達も一年の時は「姫」の売り込みが下手だった。
というか、よくわかんなかったんだよな。
「姫」とか言われても。
入学式当初から外見でも行動でも目立ちまくっていた、自他共に認める「小悪魔系美少女」なシルク。
誰もがシルクが「姫」って認識はあったけど、後はクラスで一人誰か上げろって言われるからとりあえず上げていただけだった。
よくわからなくて、クラスで一番可愛い子をとりあえず「姫」にすればいいんだと思ってた。
一番、可愛い子。
だから俺は……。
ウィルを「姫」にしてしまった。
知らなかったんだ。
学校を上げたこんな騒ぎになるって。
「姫」になった子と、こんなにも距離ができてしまうなんて。
あの時の俺は思わなかったんだ。
ただ純粋に「一番可愛い・一番綺麗」な子の名前を上げた。
ウィルは俺の自慢だった。
俺の友達はこんなにも綺麗で可愛いんだって自慢したかった。
図書館のカウンターで静かに本を読むウィル。
その静寂。
綺麗な横顔。
たまに顔を上げて、俺に微笑んでくれる。
俺の永遠の時間。
胸の中で何度も繰り返される時間。
俺の中で、ウィルが一番綺麗だったんだ。
俺の青春の大きな分岐点。
好きな事に気づけなくて、一番そばにいたい人を、この手で雲の上に上げてしまった。
ウィルははじめ、そこまで注目されなかった。
一年の中ではちょっと話題になったけど、シルクもいたからそこまでじゃなかった。
学校で言えば、二、三年生がいる中で、やはり一年の「姫」なんてのは注目度が低い。
でも3学期も姫をやる事になって。
バレンタイン合戦を初めて経験した。
青田刈りじゃないけど、可愛い子をいち早く見つけようとする人ってのはいつだっている。
「姫」リストや注目度を作って公開している人もいる。
そんな誰が図書館までウィルを見に来た。
それをSNSで発信した。
『一年に、スゲー綺麗な「姫」がいる!!』って。
「図書館の隠れ貴公子」とか「本のお姫様」とか、そんな噂が立って、当番の日に人が見に来るようになった。
それがあまりに酷くなって、ウィルは当番をするのを学校と司書の先生から禁じられた。
俺とウィルの間に走った亀裂。
どんどんウィルに注目が集まる。
注目されるから、クラスメイトや騎士でウィルを囲うようになる。
囲えばその中を覗きたがる人が出る。
しかも覗き見れば、おとなしくて控えめだけれど、びっくりするぐらい綺麗な子が隠れているんだ。
表舞台で光り輝く、太陽みたいなシルク。
夜のベールの中に隠れている、宝石みたいなウィル。
対象的な二人が大注目された。
もちろんリオもいた。
でもリオはセレブ組だから、下手に手を出して大騒ぎなんてできない。
ガスパーもいたけど、一年の時は姫だったかも覚えてない。
美人だって騒がれてもいたけど、それ以上に「ヤバいヤツ」「怖い」って噂の方が多かったから。
結果はウィルもシルクも総合に食い込んだ。
それでますます注目されたんだ。
「今年の一年は凄いぞっ」て。
俺とウィルの間には、飛び越えられない大きな溝ができていた。
ウィルの騎士になる事もできた。
でも俺は、ウィルがどんどん皆に注目されて、学校中から騒がれる「姫」になってしまって怖気づいてしまった。
自分なんかがそんなウィルの側にいるべきじゃないって思ってしまった。
今思えば、負い目もあったのかもしれない。
ウィルを俺が「姫」にしてしまったって。
「……サーク?」
ハッとした。
いつの間にか俯いてた。
「ごめん、ライル!!」
「いや、少し休めよ。ずっと立たせててゴメンな?!」
「いや!大丈夫!大丈夫!!後半戦も後半戦じゃん!!あと一踏ん張りだろ?!」
そう言って笑う。
ちょっと思い出に浸りすぎた。
キッと廊下の方を睨む。
ウィルの列はまだ俺のクラスの前にもある。
追いつきたい。
少しでもその差を埋めたい。
俺は溝の幅を少しでも縮めて飛び越えたい。
ウィルの前にちゃんと立てるように。
その前に立って、きちんとウィルへの返事ができるように。
「……おっし!!やるか!!」
バンッと顔を手で叩く。
それにびっくりするライルとクラスメイト。
「お?!何だよ、いきなり?!気合入ってんな?!」
「おうよ!!ここまで来たら!!やれるだけやってやらぁ!!」
「うんうん。それでこそサーク、我が姫だ!!」
俺の変なテンションに、周りも乗っかってくれる。
持つべきものはいい友だ。
「よっしゃ!!よくわかんねぇけど!サークがそのつもりなら!!こっちも本気出すぜ?!」
「バーゲンセールだ!!」
「セールすんな!!」
「貢物に囲まれて!写真撮んぞ!!」
「おーッ!!」
よくわからない熱気に包まれる三年C組。
まぁ、楽しんだ者勝ちだしな。
そんな中、ちょうど放送はニ年から三年の報道に入っていた。
『そしておまたせしました!!ここからは大混乱の三年生!!』
『シルクちゃんリタイアはファンの精神を刳りましたが!!それでも元々、三年生はレジェンドと呼ばれる、姫制度歴代を見ても!!選りすぐりの「姫」が揃っています!!』
『セレブの中のセレブ!我々とは住む世界が違う別格級のセレブ、ライオネル様ですが!ここに来て、意外と我々とも近い一面を見せて下さいました!!』
『情報によりますと!!リオ様はお笑いがお好きなようでして!!サーク姫のもぐもぐタイムに乱入されまして!!マカロンロシアンルーレットをして下さったようです!!』
『残念ながらその時、写真班もライブ撮影班も現場にいなかったのですが……もぐもぐタイム観覧者からの情報によりますと、かなりの盛り上がりを見せ、相当面白かったそうです!!』
『まぁ……サーク姫がエラい事になり……放送できる様な状況ではなかったようなので撮影班にがいなくて良かったらしいのですが……。か・な・り、面白かったそうです。ライオネル様もおかしそうに皆と屈託なくお笑いになり、こんな一面があるなんてと、とても親しみを感じたとの事です。』
『笑いのツボが同じだと、身近に感じますよね~。』
『また、やはりサーク姫絡みになりますが、同じくもぐもぐタイムに乱入したヤンキー姫ことガスパー姫!!どうも、一年生から勝手に最初の本命を受け取った事を怒っていたようでして……。』
『え?!ヤンキー姫と平凡姫ってそういう関係?!仲はいいとは思ってましたが?!』
『そこまではわかりませんが!とにかくキレて乱入してきたヤンキー姫が、無理矢理平凡姫にチョコを食べさせ、最後におでこを引っ叩いて……。』
『引っ叩いて??』
『そこに本命シールを貼ったそうなんですよ!!』
『何それ?!甘酸っぱ!!ツンデレすぎてキュンなんですけど?!』
『しかもその無理矢理食べさせる様が……クッソ、セクシーだったそうで……。』
『ちょっと!!写真あるじゃんか!!ナイス!!写真班!!』
『なんかもう……ヤンキー姫……キュンなんですよ!!全てにおいて!!キュンなんですよ!!』
『うわぁぁぁ!!何で俺達は!こんな美人でツンデレの美味しすぎる人を3年間も見落としていたんだ?!めっちゃ禁欲的なのに!!何でこんなにセクシーなんだよ!!反則だろ?!』
『しかもたまに見せる、動揺して真っ赤になる顔とか……可愛すぎんでしょ!!ヤンキー姫!!』
『ねぇ?!何で見落としてたの?!こんな素敵キャラ!!何で俺は三年間見落としてたんだよぉ~!!今から本命渡してきていい?!告白していい?!』
『……いいぞ、止めない。ただし、ヤンキー姫はヤンキー姫だからな……。死んだら骨は拾ってやるから、悔いのないよう殺されてこい!!』
『嫌だ~!!まだ死にたくねぇ~ッ!!』
だんだん壊れ始めた放送部員。
まぁ、こっちも壊れていてるからゲラゲラ笑ってしまう。
バレンタイン合戦、終盤。
俺達は皆、頭のネジが外れはじめていた。
『さて!!アバウトな中間集計報告が終わりまして!!ここからは、写真班やライブ撮影班など!学校の至る所に散らばっているメンバーが撮影した構内の様子、姫たちの姿、はたまたスクープから現場で肌で感じたリアルな感想などをお伝えしていきたいと思います!!』
『初っ端から!優勝確実とされていたシルク姫がリタイアするという大波乱から始まりました、今回のバレンタイン合戦!!現場でも様々なドラマが至るところで繰り広げられています!!』
『シルク姫に関しての報道は前半にまとめました通りです!また問い合わせがありました生徒名についてはこちらでは伏せさせて頂きます。』
『でもシルク姫も本人も、もっというとシルク姫陣営も全く隠してないですし、普通に今も3年A組で一緒に活動してますから、教室行って聞けば皆で笑って教えてくれるぐらいオープンなので、気になる方は直接3年A組に行って聞いてみてください!』
『ウィル姫の仲裁もあったからなんでしょうけど……マジで?!ってくらい、和気あいあいとしてますからびっくりしますよ?!』
それを聞いて皆が笑った。
俺のところに来て大騒ぎしたりと、本当、好き勝手してるよなぁ~、アイツ。
なのになんだかんだ、皆、笑って許してしまう。
まぁそれもこれも、シルクがあの憎めない性格だからってのが大きいだろうなぁと思う。
自由奔放なお姫様。
小悪魔なギャル系美少女。(男)
わがままで好き勝手するのに憎めない。
皆、そんなシルクを愛してるんだ。
『さて!では、ここまででわかっている状況をご報告致します!!まずは一年!!』
『一年はまだこの学校の意味不明なノリに慣れてない部分がありますからね~。』
『しかもバレンタイン合戦なんて、そのノリの一年かけた集大成!!アホの極みとも言えますからね!!若干、引いてる生徒すらいますから!!』
『1年生の諸君、慣れだ。慣れろ。ここはこういう所だ。そして考えるな、感じろ。深く考えるな!男の姫ってなんだとか考えるな!!楽しめ!!馬鹿になれ!!バカになったもん勝ちだ!!青春は馬鹿になったヤツが勝つ!!』
放送部員のアホな力説にどっと笑いが起きる。
特に3年にはこの言葉は響く。
高校生活3年間、このアホな企画にかけてきたんだ。
昼飯を食い終わった俺の姫騎士が、巨乳をぶるんぶるん言わせながら横に立った。
視線を合わせ、ニッと笑う。
そう、こんなのは馬鹿になったモン勝ちよ。
どうせやるなら楽しめ!!
馬鹿になれ!!
『力説ありがとう!友よ!!』
『おうよ!相棒!!』
『では気を取り直しまして!先ほど話題にもなりました!1年の現在の状況と傾向、勝敗予想です!!』
『一年はまだ慣れてない事もあり、姫の売り込みが甘い!!』
『そう、なので部活動などで話題性のある「姫」に人気が行く傾向にありました!!その中で見た目もハンサムで可愛く、部活実績もあるD組のフィッツ姫がダントツ人気でした!!』
『いやでも、フィッツちゃんはマジで可愛いって。運動系なのもシルクちゃんに近いし。性格は全然違うけどさぁ~、俺はそういうの抜きにしても推すよ?!』
『確かに。そういう将来性も見て推してる二、三年生も結構います!今後が期待されている姫!!それがフィッツ姫!!』
『一年ではピカイチだよな~。』
『ですが!!後半に入りまして!!注目され始めた姫がいます!!』
『正直、クラス的にもバレンタイン合戦がよくわからない感じで控えめだった一年B組!!その選ばれた「姫」本人もかなり控えめ!!ケリー姫!!』
『ですが!!三年の平凡姫でお馴染みのサーク姫が行ったPRイベント「もぐもぐタイム」に、差し入れに行った事で状況が大きく変わりました!!』
ちょっと休憩とばかりにお茶を飲もうとした俺は、それをブッと吹いた。
横のクラスメイトに軽くかかり「汚ぇぞ!おい!!」と怒られる。
それを貢物を渡しに来ていた生徒たちが笑った。
「え?!えぇ?!俺が絡んでんの?!」
「後半から注目され出したんだから当たり前だろ??」
何言ってんだとクラスメイトにもライルにも呆れ顔で見られる。
いや、俺が絡んでるとか普通思わないだろ?!
『そう!一年は「姫」の売り込みが甘い!!それが顕著に現れた例ですね!!いいか?!一年!!尻込みしてたら貢物なんか増えないんだぞ?!もっと曝け出せ!!はっちゃけろ!!』
『元々サーク姫のファンだったというケリー姫。スイーツ君やシュガーちゃんと呼ばれるくらいのお菓子好き!将来はパティシエを目指している本格派のスイーツ男子です!!』
『そんなケリー姫が自作のクッキーをサーク姫に差し入れ、その完成度に感激したサーク姫がちょうど来ていた撮影班にそれを撮影させ、同時に彼がやっているクッキーアートのインスタアカウントを紹介した事で!!人気に火がつきました!!』
『いや、アカウント見ましたけど、本当に凄いんですって!!これ、クッキーなのかって感じで!!』
『ケリー姫のクッキーアートアカウントは、一年B組の教室や廊下、紹介したサーク姫の教室のホワイトボード、一応、バレンタイン合戦アカウントでも紹介はしていますが、現在、様々な記事を見ようとアクセスが殺到していますので、教室まで見に行った方が早い!!』
『ついでに貢物を持ってスイーツ君と仲良くなっておくのもいいかと。控えめだけど可愛い子です、スイーツ君。』
『こういう普通に学校生活していたんじゃ見落とされがちな良さを持ったダイヤの原石を発掘できるのが「姫」制度であり、バレンタイン合戦なんですよ!!』
『逆に元々注目されていたけど、「姫」になった事で新たな一面が見え魅力の増す「姫」もいますけどね。』
『今年はそれも顕著に出てるよな?!ライオネル様とかヤンキー姫とか!ここに来てそんな魅力見せつけてくるなんて狡いよ!!って思うもん。』
『まあまあ、三年生についてはひとまず置いといて。一年生はケリー姫の件を受けて後半から各クラス「姫」の売り込み方に変化が見られ、中々面白い感じになっています!!』
『実際一年の教室の方に足を運んで!自分の推し姫を見つけてはいかがでしょうか?!』
『今後が期待される一年生!!まだ学校中に注目される前の、あなただけのアイドルがそこにいる!!』
『騎士になるなら少ないうちの方がいいしな!!』
放送を聞きながら、自分が一年の時はどうだっただろうと想いを馳せる。
放送のフィッツ姫とケリー姫。
それはどこか、一年の時のシルクとウィルの事を思い出させる。
やっぱり俺達も一年の時は「姫」の売り込みが下手だった。
というか、よくわかんなかったんだよな。
「姫」とか言われても。
入学式当初から外見でも行動でも目立ちまくっていた、自他共に認める「小悪魔系美少女」なシルク。
誰もがシルクが「姫」って認識はあったけど、後はクラスで一人誰か上げろって言われるからとりあえず上げていただけだった。
よくわからなくて、クラスで一番可愛い子をとりあえず「姫」にすればいいんだと思ってた。
一番、可愛い子。
だから俺は……。
ウィルを「姫」にしてしまった。
知らなかったんだ。
学校を上げたこんな騒ぎになるって。
「姫」になった子と、こんなにも距離ができてしまうなんて。
あの時の俺は思わなかったんだ。
ただ純粋に「一番可愛い・一番綺麗」な子の名前を上げた。
ウィルは俺の自慢だった。
俺の友達はこんなにも綺麗で可愛いんだって自慢したかった。
図書館のカウンターで静かに本を読むウィル。
その静寂。
綺麗な横顔。
たまに顔を上げて、俺に微笑んでくれる。
俺の永遠の時間。
胸の中で何度も繰り返される時間。
俺の中で、ウィルが一番綺麗だったんだ。
俺の青春の大きな分岐点。
好きな事に気づけなくて、一番そばにいたい人を、この手で雲の上に上げてしまった。
ウィルははじめ、そこまで注目されなかった。
一年の中ではちょっと話題になったけど、シルクもいたからそこまでじゃなかった。
学校で言えば、二、三年生がいる中で、やはり一年の「姫」なんてのは注目度が低い。
でも3学期も姫をやる事になって。
バレンタイン合戦を初めて経験した。
青田刈りじゃないけど、可愛い子をいち早く見つけようとする人ってのはいつだっている。
「姫」リストや注目度を作って公開している人もいる。
そんな誰が図書館までウィルを見に来た。
それをSNSで発信した。
『一年に、スゲー綺麗な「姫」がいる!!』って。
「図書館の隠れ貴公子」とか「本のお姫様」とか、そんな噂が立って、当番の日に人が見に来るようになった。
それがあまりに酷くなって、ウィルは当番をするのを学校と司書の先生から禁じられた。
俺とウィルの間に走った亀裂。
どんどんウィルに注目が集まる。
注目されるから、クラスメイトや騎士でウィルを囲うようになる。
囲えばその中を覗きたがる人が出る。
しかも覗き見れば、おとなしくて控えめだけれど、びっくりするぐらい綺麗な子が隠れているんだ。
表舞台で光り輝く、太陽みたいなシルク。
夜のベールの中に隠れている、宝石みたいなウィル。
対象的な二人が大注目された。
もちろんリオもいた。
でもリオはセレブ組だから、下手に手を出して大騒ぎなんてできない。
ガスパーもいたけど、一年の時は姫だったかも覚えてない。
美人だって騒がれてもいたけど、それ以上に「ヤバいヤツ」「怖い」って噂の方が多かったから。
結果はウィルもシルクも総合に食い込んだ。
それでますます注目されたんだ。
「今年の一年は凄いぞっ」て。
俺とウィルの間には、飛び越えられない大きな溝ができていた。
ウィルの騎士になる事もできた。
でも俺は、ウィルがどんどん皆に注目されて、学校中から騒がれる「姫」になってしまって怖気づいてしまった。
自分なんかがそんなウィルの側にいるべきじゃないって思ってしまった。
今思えば、負い目もあったのかもしれない。
ウィルを俺が「姫」にしてしまったって。
「……サーク?」
ハッとした。
いつの間にか俯いてた。
「ごめん、ライル!!」
「いや、少し休めよ。ずっと立たせててゴメンな?!」
「いや!大丈夫!大丈夫!!後半戦も後半戦じゃん!!あと一踏ん張りだろ?!」
そう言って笑う。
ちょっと思い出に浸りすぎた。
キッと廊下の方を睨む。
ウィルの列はまだ俺のクラスの前にもある。
追いつきたい。
少しでもその差を埋めたい。
俺は溝の幅を少しでも縮めて飛び越えたい。
ウィルの前にちゃんと立てるように。
その前に立って、きちんとウィルへの返事ができるように。
「……おっし!!やるか!!」
バンッと顔を手で叩く。
それにびっくりするライルとクラスメイト。
「お?!何だよ、いきなり?!気合入ってんな?!」
「おうよ!!ここまで来たら!!やれるだけやってやらぁ!!」
「うんうん。それでこそサーク、我が姫だ!!」
俺の変なテンションに、周りも乗っかってくれる。
持つべきものはいい友だ。
「よっしゃ!!よくわかんねぇけど!サークがそのつもりなら!!こっちも本気出すぜ?!」
「バーゲンセールだ!!」
「セールすんな!!」
「貢物に囲まれて!写真撮んぞ!!」
「おーッ!!」
よくわからない熱気に包まれる三年C組。
まぁ、楽しんだ者勝ちだしな。
そんな中、ちょうど放送はニ年から三年の報道に入っていた。
『そしておまたせしました!!ここからは大混乱の三年生!!』
『シルクちゃんリタイアはファンの精神を刳りましたが!!それでも元々、三年生はレジェンドと呼ばれる、姫制度歴代を見ても!!選りすぐりの「姫」が揃っています!!』
『セレブの中のセレブ!我々とは住む世界が違う別格級のセレブ、ライオネル様ですが!ここに来て、意外と我々とも近い一面を見せて下さいました!!』
『情報によりますと!!リオ様はお笑いがお好きなようでして!!サーク姫のもぐもぐタイムに乱入されまして!!マカロンロシアンルーレットをして下さったようです!!』
『残念ながらその時、写真班もライブ撮影班も現場にいなかったのですが……もぐもぐタイム観覧者からの情報によりますと、かなりの盛り上がりを見せ、相当面白かったそうです!!』
『まぁ……サーク姫がエラい事になり……放送できる様な状況ではなかったようなので撮影班にがいなくて良かったらしいのですが……。か・な・り、面白かったそうです。ライオネル様もおかしそうに皆と屈託なくお笑いになり、こんな一面があるなんてと、とても親しみを感じたとの事です。』
『笑いのツボが同じだと、身近に感じますよね~。』
『また、やはりサーク姫絡みになりますが、同じくもぐもぐタイムに乱入したヤンキー姫ことガスパー姫!!どうも、一年生から勝手に最初の本命を受け取った事を怒っていたようでして……。』
『え?!ヤンキー姫と平凡姫ってそういう関係?!仲はいいとは思ってましたが?!』
『そこまではわかりませんが!とにかくキレて乱入してきたヤンキー姫が、無理矢理平凡姫にチョコを食べさせ、最後におでこを引っ叩いて……。』
『引っ叩いて??』
『そこに本命シールを貼ったそうなんですよ!!』
『何それ?!甘酸っぱ!!ツンデレすぎてキュンなんですけど?!』
『しかもその無理矢理食べさせる様が……クッソ、セクシーだったそうで……。』
『ちょっと!!写真あるじゃんか!!ナイス!!写真班!!』
『なんかもう……ヤンキー姫……キュンなんですよ!!全てにおいて!!キュンなんですよ!!』
『うわぁぁぁ!!何で俺達は!こんな美人でツンデレの美味しすぎる人を3年間も見落としていたんだ?!めっちゃ禁欲的なのに!!何でこんなにセクシーなんだよ!!反則だろ?!』
『しかもたまに見せる、動揺して真っ赤になる顔とか……可愛すぎんでしょ!!ヤンキー姫!!』
『ねぇ?!何で見落としてたの?!こんな素敵キャラ!!何で俺は三年間見落としてたんだよぉ~!!今から本命渡してきていい?!告白していい?!』
『……いいぞ、止めない。ただし、ヤンキー姫はヤンキー姫だからな……。死んだら骨は拾ってやるから、悔いのないよう殺されてこい!!』
『嫌だ~!!まだ死にたくねぇ~ッ!!』
だんだん壊れ始めた放送部員。
まぁ、こっちも壊れていてるからゲラゲラ笑ってしまう。
バレンタイン合戦、終盤。
俺達は皆、頭のネジが外れはじめていた。
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