姫、始めました。〜男子校の「姫」に選ばれたので必要に応じて拳で貞操を守り抜きます。(「欠片の軌跡if」)

ねぎ(塩ダレ)

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本編

燎原の火のごとく

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教室に行くと、いつもと変わらないノリでクラスメイトが迎えてくれた。
何かヤバめな事が起きていると察している連中が、クラスまで俺を覗きに来たりしたのだが、皆がそれとなく教室のドアを閉めるなどふんわりと庇ってくれた。
あまりにしつこそうな奴には、一人になって俺に近づいていいのか判断がつかない騎士見習いのストーカーが睨みを効かせてくれた。

「……何か、不気味なくらい静かなんだけど。」

それなりに覚悟して登校しただけに拍子抜けしてしまう。
クラスメイトに差し出されたプリッツをポリポリ齧りながら俺はそう告げた。
ポッキーもいいけど、塩っぱい方が男子的には好まれるのでプリッツ率は高い。

「まぁ、内容まで詳しく流れてないし。エドも別室とはいえ謹慎解除になって学校来てるしさ。」

同じくプリッツをもらってポリポリしながらライルは言った。
くれた奴もまとめて数本、ボリボリ食いながら話に参加する。

「て言うか、エドも弁護士立てたらしいじゃん?」

「まぁ、こっちに立てられたら立てるしかないよな。元セレブだし、そう言った対応は早いだろうよ。」

「その弁護士同士と学校と今日、話し合いって、マ?」

そこに別の奴が来て、更に話に加わる。
さらっとプリッツを10本ほどガサッと奪って、持ち主と揉めている。

「そう聞いてる。話に弁護士が入ったし、多分、今日で大体の結論が出るだろうって朝、ガスパーが言ってた。」

俺はプリッツをめぐる馬鹿な揉め事は無視してそう答えた。
ふぅ……とため息をつく。

「……それより……あれは何なんだ??」

俺はあまりそちらを見ないようにしながら尋ねる。
うちの教室でA組の生徒が数人、休み時間の度に隅で屍のようになっていた。
朝から気にはなっていたが怖くて触れられずにいたのだ。

「あ~。サークがいない間に、ちょっとシルクが生徒指導受けて別室になったりしてさ~。その影響だと思う。」

「……は?!何それ?!」

思わぬ言葉にぎょっとする。
シルクは確かにバカやりがちなところはある。
でも、容量のいいヤツだし、何気に生真面目な部分もあって、派手な事かますわりにそう言った指導には引っかかった事のない奴だった。

「……でも言われてみれば……シルクのヤツ、まだ1回も顔見せに来てないな……。」

シルクとは同じクラスになった事はないが、基本、1日に一回は俺の所に襲撃に来る。
だから俺が普通登校になったら、意の一番に乗り込んでくるのが普通だった。

「まぁ~、シルクなりに考えるところがあるんじゃないか?」

「え?!何?!何があったんだよ?!」

「俺も詳しい事は知らない。ただ、サークの件で話し合ってるところに押しかけて暴れたらしいよ。」

「え?!マジで?!」

「その後、すっげー泣いてて、大変だったらしいよ。うちのクラスにも泣き声聞こえてたし。」

「………………。」

それは初耳だった。
ガスパーからも弁護士さんからもそんな話は聞いていない。

「いつだよ?」

「事件の次の日。別室指導は一昨日で、サークと入れ替わりで普通登校になったんだよ。」

何だか言葉が出ない。
いつもは有無を言わさず押し掛けて来るシルク。
言われてみれば話し合いだけに来た日に、あのシルクが大人しく顔を見せなかったのは不自然だった。

「何で……。」

「ん~?だから、思うところがあったんだろ?シルクにもさ。」

俺は何も言えなかった。
シルクが押しかけて来ないなんて不自然なのに、俺は自分の事でいっぱいいっぱいで気づかなかった。
俺とエドの問題とはいえ、俺とエドだけの問題ではないんだ。
シルクが何を思ってそうしたのかはわからないけれど、ずっと問題を起こしてこなかったシルクが指導対象になる事をしたのだ。
それは俺の為だったんだと思う。
でもそんな事は問題を起こした事に考慮されない。
下手をすればシルクの受験に響く問題だ。
知らないところでそういう事にも繋がってしまうのだと俺は改めて認識した。

「……わかった。……それはわかったんだが……それであれは何なんだ??」

シルクの事は後で落ち着いて考えたかったのでいったん置いておき、俺は眉を顰めて死んでいるA組生徒を見ないようにして指差す。
まぁ、A組生徒というか、シルクの騎士たちだ。
ライルも大きくため息をつき、お手上げのポーズを取った。

「……だからさ、シルクがすっげー泣いたんだって。」

「それで?」

「騎士としては姫が泣いてるんだぜ?駆けつけるだろ?」

「まぁな。」

「でも、一番の決め所に間に合わなかったらさぁ~。」

「…………。なるほど。間に合わなかったんだな?アイツら……。」

「騎士として一番の見せ場だったのになぁ~。一発逆転ホームランのチャンスでもあった訳で。」

「……て事は、もしかして俺の頭の中で予想できてしまった展開なのか??」

「多分、サークが予想できてしまった展開だと思うよ。」

「……そりゃ、ああなるしかないのか……。」

「とはいえ、そっちも何か発展があったって訳でもなさそうなんだけどさ。」

「ないのかよ、オイ。」

「むしろ、お互い妙に距離をとってる。」

「ナニソレ??」

「シルクも色々思うところがあるんだろ??サークの事もあるしさ。」

「う~ん……。そこは俺抜きで考えればすぐに答えが出そうなのにな……。」

「ま~、乙女心は複雑なんだよ。」

「いやだから、シルクは女子じゃねぇ。男だ。」

シルクがスカート履き出したせいか、皆が普通にシルクを女子認識し始めている気がする。
でもな?あれはいくら可愛くても男だから。
絶対領域につくもんついてるから。








そんな感じで、事件後の普通登校は意外にものんびりした感じで過ぎていった。

相変わらずシルクの騎士の屍はウザったいが、前みたいにグチグチと喋らないだけマシなのかもしれない。
クラスメイトも慣れた調子で死んでいるソイツらを跨いで通ったりしている。
よく考えてみるとおかしな光景なのだが、シルクの騎士たちも当たり前のようにうちのクラスに死にに来るし、クラスメイトもその死体を気にも止めず、あまりに自然すぎて気にならなくなってきてしまった。

「慣れって怖え……。」

思わず呟きながら弁当を食う。
何気に好きなおかずばかりだし、ご飯も量を調整できるよう俵おにぎりになっている事に家族の温かみを感じでちょっとジンとした。

ブブッと、マナーモードにしてあったスマホが揺れた。
弁護士さんからで、俺は特に何も考えずにそのメッセージを開いた。

「……っ?!」

その内容に驚く。
どういう事だ?!これ?!

「サーク!!」

同じ様に連絡が入ったのだろう。
ガスパーが入り口に走ってきて叫んだ。
俺は慌てて駆け寄った。

「連絡きてるな?!その様子じゃ。」

「どういう事だ?!これ?!」

「見ての通りだな……。」

「でも……これって……!!」

俺はその内容をどう受け止めていいのかわからなかった。
だってこの内容の通りだとすると……。

「急展開だな……。」

「あぁ……。」

「でも、これで決着がついたとも言える。」

「そうだけど……そうだけどよ?!」

俺は信じられなくてもう一度、弁護士さんからの連絡に目を通した。
そこには、今回の件での俺側の主張を全面的にエド側が認め、慰謝料等を支払う話し合いに移ったとあった。
エドの方も弁護士を立てたのなら、しばらくは話し合いで揉めるだろうと思っていた。

しかし、結果はこれだ。

俺はどういう事なのかわからずガスパーを見た。
ガスパーは酷く複雑な、それでいて怒りを抑えたような表情をしていた。

「……クソッ。」

ガスパーはそう言うと俺の教室に入ってきた。
廊下を見張るギルに目配せし、ライルやクラスメイトたちを見る。
皆が頷き、すぐに窓や扉を閉めた。
何人かが窓や扉の側に立って、俺とガスパーは窓側に寄って座った。

「ガスパー……。」

「安心しろ。お前は大丈夫。上手く話はまとまった。何も心配しなくていい。」

「それはわかった。でも、何で急に?!争うんじゃなかったのかよ?!向こうは?!その為の弁護士だろ?!」

「……状況的に不利だと思ったんだろ。これまでもエドはやり過ぎた。ここまでは上手く丸め込んできたが、それが仇になったとも言える。」

「……どういう事だ?!」

「今までアイツが起こしてきた事の証言を取った。エドが今までも同様の問題を起こしている事を明確にするために。……泣き寝入りしていた人たちは、同じ被害者を出したくないって、もしこれが少しでもエドにした事を償わせる力になるならって協力してくれた。」

「…………それは……。」

「そして、この件にはリオが……セレブの中でもトップクラスの影響力を持つリオが、お前のバックにいるってのが大きかった。」

「一緒に登校しただけでかよ?!」

「それだけじゃない。学校内の防犯カメラ映像をどうやってすぐに手に入いれたか考えればわかる。問題の教室を学校よりも強い権力で閉鎖し現場保存したのは誰かを考えればな……。」

俺は何も言えなかった。
エドにしてきた事の罪を償わせなければと思っていたけれど、実際、その答えが目の前に来るとショックだった。
頭が重くなり、軽く目眩を覚えた。

「しっかりしろ!サーク!!」

「ガスパー……。」

「こういうのは食うか食われるかなんだ!もしもお前が負けていれば!他の被害者同様、泣き寝入りの上!訴えた責任を問われたんだぞ?!それだけじゃない!あらぬ噂をたてられ!お前を追いつめただろうよ!!」

「そうかもしれないけど……。」

「確かに急かもしれない!でもな?!アイツの思い通りにしたら!お前も!これまでの被害者の無念も晴らせねぇんだよ!!」

「……そうなんだけど……。」

「お前は言ったよな?!アイツにやった罪は償わせなきゃ駄目だって?!今がその時だ!狼狽えるな、サーク!!」

俺は俯いた。
わかってはいる。
頭ではわかっているのだ。
これが俺がやらなければと思った事で、その答えが出たのだと。
でも……心がついていかない。

「……エドは……どうなるんだ??」

「まだわからない。」

「…………何で……急に……。」

頭でわかりながらも複雑な思いに俯く俺に、ガスパーはイライラしながらため息をついた。

「……切られたんだよ、エドは。」

「え……??」

「不利だとみて……これ以上、自分達の被害を避ける為に……!!……アイツの親はアイツを……エドを見限ったんだよ!!」

そこまで抑えていた怒りを顕にし、ガスパーが言った。
俺は言葉が出なかった。

まさか、自分の件がこんな事に繋がるなんて思わなかった。

これからどうなるのだろう?
エドは、これからどうなるのだろう?

俺の胸の中はその事でぐるぐると暗く渦を巻き始めていた。
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