姫、始めました。〜男子校の「姫」に選ばれたので必要に応じて拳で貞操を守り抜きます。(「欠片の軌跡if」)

ねぎ(塩ダレ)

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本編

クオリティー

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次の日から俺は普通にクラス登校になった。
学校側からは保健室登校も提案されたが、昨日のように下手に人の少ない場所にいて誰もいないタイミングで具合悪くなる事の方が怖かったので、駄目そうだったら保健室に行くと言う事で話がまとまった。

「おはよう、サーク。」

「お、おはよう……ゴザイマス……。」

「あはは!なんで敬語?!」

眩しい……朝からキラキラが眩しい……。
玄関を出た俺はあまりのキラッキラに目をシパシパさせた。

そう、今日の朝の送迎をしてくれるのはセレブ組代表、そして何を隠そううちの学園の理事長の孫の一人、将来はこの学園のどこかのトップ席を約束された異次元の住人、リオだった。

ギルのとはまた何か違うゴージャスな雰囲気のリムジンにごく当たり前に座っているリオ。
優雅に飲んでいる紅茶のカップもなんか俺の小遣い3ヶ月分とかしそうなヤツだ。
俺も飲むかと進められたが、カップのお値段が気になりすぎて飲むどころじゃなさそうだったので辞退した。

「昨日はゆっくり休めた?」

「うん。」

「よかった。倒れたって聞いたから心配してたんだ。」

「ありがとう。カウンセラーさんが不安な部分とかよく話を聞いてくれて、簡単な心構えとか過ごし方とか、あと薬の事とかもちゃんと説明してくれて、とりあえずしばらくは出された薬を言われた通り飲んでみる事にしたんだ。」

「うん。それがいいと思うよ。」

リオは静かに微笑んでくれた。
ま、眩しい……。
やっぱり生き物として何か違う……。

正直、狂信的な信者も多いリオと一緒に通学するのはどうなんだろうと思ったのだが、俺とエドの事は何かあったと言うのはもう知れ渡っているし、特にセレブ組では暗黙の了解である程度のところまでわかっているらしい。
セレブの皆様はやはり学園で起きた問題には神経を尖らせているし、調べるコネもあるし、何より財力がある。
そしてエドは元セレブだし、水面下である程度の話は出回っているようだ。

「大丈夫だよ、そんな硬い顔しなくても。ちゃんと明日はサークと通学するって皆には言ってあるから。」

「うん……。」

でもな??あの狂信者たちが心の底から納得しているかどうかは誰にもわからない。
俺は少し引き攣った笑いを浮かべるのが精一杯だった。

「そういえば、リオはどこの学部に行くんだ?」

セレブ組というのはセレブリティーな家のお子様たちが集まっているので、文系理系学外受験全部ごちゃまぜなのだ。
とはいえ、リオが違う学校に行くとも思えず、俺はそう聞いた。

「うん……。」

「……え?リオ??」

ところが、リオは浮かない顔をした。
その理由がわからず首を傾げる。

「……実は、海外の大学に行くんだ。」

「かっ?!海外?!」

「うん。」

俺はぽかんと口を開けて言葉を失った。
海外の大学……。
予想もしていなかった答えに驚くしかない。
やっぱりなんか住む次元が違う。

「でも、向こうは9月からだからね。卒業しても半年はこっちにいるよ。」

「そうなんだ。」

「うん……。」

リオは平気そうな顔で笑ったけど、持っているカップを不自然に撫でている。
俺はそれが気になって、無意識に手を伸ばした。

「え?!」

「あ!ごめん!!」

ぽんぽん、と頭を撫でてしまい慌てる。
リオもびっくりしたように真っ赤になった。

「ごめん!なんかリオが無理してるみたいに見えて思わず!!」

あわあわする俺を見つめながら、リオはハッとしたように俯いた。
急に無言になられて俺もどうしていいのかわからなくてドギマギする。

「……るい。」

「え?!」

「……狡いよ、サークは。」

「ふえぇぇぇぇ?!狡い?!」

影の権力者とも言えるリオに狡いと言われ、俺は動揺した。
俺、なんかやらかした?!

硬直する俺。
そこにリオがキッと覚悟を決めたように顔を上げた。

「……今、サークは大変な時だから言わないつもりだったけど!」

「な?!何?!」

「…………全部落ち着いたら!二人で出かけたい!!」

「ええぇぇぇぇ?!俺と?!」

ビビる俺にリオは強い意志でこくんと頷く。
眼力とキラキラの圧が凄い……。

「……私は……皆と同じだ。」

ぼそっとそう呟かれ、俺はぽかんとリオを見つめた。
俯いたリオはギュッと膝の上で拳を握る。

「……皆、私を大事にしてくれる。それは嬉しいし、それに応えなきゃって思う……でも……。」

「あ……。」

俺は気づいた。
リオは、いつだって「特別」なのだ。
まぁどう見ても色々な意味で「育ちの良さ」がひと目でわかるし、肌とか髪とかなんか純度が違うし、キラッキラだし。
普通の人とは違う、そこにいるだけで自然に周りを圧倒する何かがある。
それが何かというのはよくわからないし、言葉にできないけれど、それを持つリオは常に周りから「特別」と崇められてきたのだ。

「私だって……皆と何も変わらない。腹が立てば怒るし、イライラもするし。つまんない事で落ち込むし…………恋だってする……。」

「リオ……。」

そうだ。
リオはずっと、皆から求められる「特別」でいたのだ。
特別な人だから特別扱いされるのか、特別扱いするから特別になってしまったのかそれはよくわからない。
多分どちらもあって、それで「特別」に拍車がかかってどんどん周りも本人も抜け出せなくなってしまったのだろう。

「私だって……オ、オナラするよ、サーク。」

「いやいやいやいや!!待って?!わかってるけど!そこはあんまり明確にさられたくなかった!!」

「……そういう事だよ。」

「わかるけど。……いや……うん、そうだな。よくわかった。」

オナラという荒治療のお陰で、俺はリオがどれだけ深く悩んでいるのか身を持って理解した。
普通に接しているつもりだったけど、俺もリオを「特別」扱いしていたんだ。

「……でもなぁ~?リオって見るからに高潔な感じなんだよなぁ~。なんかオーラが違うっていうか……。」

俺はう~んと悩む。
リオの言いたい事はわかる。
わかるけど、それがどうしようもない事だとも思えてしまう。

「……サークは隠さないよね。」

「へ?!あ!ごめん!!悩んでるのに!!」

「違うんだ。サークは……私が特別に見えるって、普通に言うんだよ。」

「いや、だって。悩んでるリオには悪いけど……なんかクオリティーが違うんだもん、リオ。」

俺が思わずそう言うと、リオはキョトンとした後、ぷっと吹き出して笑いだした。

「クオリティー?!新しい表現できたね?!サーク?!」

「だってそうじゃん!こう……大量生産品と数量限定モデルみたいな??」

「あはは!数量限定モデル!!」

「なんでそんなに笑うんだよ?!」

何故か大笑いするリオ。
俺はどうしていいのかわからず困ってしまった。
そして笑いが一段落したリオはあらためて俺に向き直り、にっこり笑った。

「そういうところ。サークのそういうところ。」

「……そういうところ??」

「うん。」

リオはそう言うと、スッと俺に近づき、俺の手を握った。
突然の事に俺は硬直する。

「?!」

「サークは…無闇に「特別」扱いするんじゃなくて、どうしてそう見えるかいつも言ってくれる。「特別」に見える事を私に隠したりしないんだ。」

「……リオ?」

「ずっと、なんで私は皆と違う対応をされるんだろうと思ってた。別に酷い扱いをされてる訳じゃない。大事にしてもらってる。それはとても嬉しい。でも、私は皆と何も変わらない。なのにどうしてそうなのか皆、教えてくれなかったんだ……。」

そう言われ、俺はなんと答えていいのかわからなかった。
考えてみれば、無作法だったかもしれない。
「特別」に見える人に、次元が違うだの、純度が違うだの、クオリティーが違うだの、無遠慮に言っていた。

「ごめん、リオ。俺、失礼だったよな……。」

「違うんだ。それでいいんだ、サーク。」

「え?!クオリティーが違うとかアホな事言ってんのに?!」

「ク、クオリティーは……ふふっ……久しぶりにツボにハマった……。くっ……ふふふふふふっ……!!」

「リオ?!しっかりしろ~!!」

堪らえようとして堪えきれず、リオは肩を震わせて笑いだした。
リオがあまりに笑うので、俺はどうしていいのかわからない。

「ふふふっ、だからね?……ふふっ……。そういうところ。サークのそういうところ。私が「特別」に見えていても「特別」扱いしないんだ。凄く自然に、当たり前の事のように、なんで「特別」に見えるか話してくれるんだ。」

「いや、だって……なんかリオ、異次元的に存在が違うんだもんよ。」

「くふふふっ……異次元!」

「いや待って?!なんでそんなにリオはツボにハマってんの?!俺、何がそんなにおかしいのかわかんないんだけど?!」

「ふふふっ。うん、サークにはわかんないかも。」

「ええええぇぇぇ?!」

「うん……。わかんないと思う。でもそれでいいんだ。」

「え?!いいの?!」

俺はリオの言っている事が全くよくわからなかった。
とにかくリオはクオリティーが違うがえらく気に入ったようで、ずっとそれで思い出し笑いをしている。
あまりに笑うから、それ以上何も話せなくて、何を話していたのかわからない状態で学校についた。

リムジンが停まる。
リオの執事さんやお手伝いさん達がさっと降りて、リオ学校に降りる為の準備を始めた。
それをごく自然にリオは待っている。

うん、やっぱりどう見てもリオは違うんだよなぁ……。
でもそれを言っていいのか、よくわからなかった。

そんな俺にリオはニコッと微笑んで、最後にこう言った。

「……だから……全部終わったら、サークと私、二人で出かけても良いかな??」

それがどこから繋がっての「だから」なのかよくわからなかったけれど、リオが普通でいたくて、でも「特別」だから普通でいられなくて、でも普通に遊びたいんだなというのはなんとなくわかった。

「わかった。いいよ。」

「本当?!」

「うん。皆がしてるみたいに普通に遊びに行きたいって事だろ?リオが言ってるのは?」

「……うん。……うん、そうだよ。普通に遊びたいんだ。」

「わかった。じゃ、どっか遊びに行こう。普通の感じで。」

「……楽しみにしてる。」

「うん。」

普通に遊ぶ約束なのに、リオはとても嬉しそうだった。
とはいえ、普通に遊ぶって何をしたらいいかなと俺は考える。
目を細めて笑うリオは、ちょっといつもと違う感じにキラキラしていた。

リオは眩しげにサークを見つめて微笑んだ。
サークは自分をキラキラしていると言うけれど、リオにとってキラキラしているのはサークだった。

いつでも知らない世界を見せてくれるサーク。

「……ちょっと抜け駆けしちゃったけど……私は皆より普段接点が少ないから、これぐらい許されるよね……。」

執事にドアを開けられリムジンを降りながら、リオは呟く。
今日はとてもいい日だ。
執事から鞄を受け取り、注目しているギャラリーに微笑んで手を見せて挨拶した。

「……うおっ!?わかってたけど、怖っ!!」

後から降りてきたサークは、そんな風景を見てギョッとしていた。
居心地悪そうに身を縮めるサークが面白い。

「これ……良かった訳?!やっぱり俺、途中で降りた方が良くなかったか?!」

「ガスパーも言ってたよね?必ず学校前まで一緒に来て、皆の前で車を降りて登校するようにって。」

「なんか意味あるの?!それ?!」

ギャラリーの数と周囲からの視線におよび腰のサークは、きょろきょろしながらリオに並んだ。
緊張性気味のサークが面白くて、悪戯心が芽生えた。

「じゃ、行こうか?!」

「ひぇっ?!」

リオは無邪気にサークの腕に自分の腕を絡めた。
予想外の事に固まるサークの腕を笑いながら引っ張って校門へと向かう。

「り、りお?!」

「……おい、リオ。やり過ぎだ、テメェ……。」

「ふふっ。見つかっちゃったか。」

公私混同でラブラブなところを演出してみたのだが、校門で状況を観察していたガスパーに見つかってしまった。
リオは仕方ないとばかりにサークから腕を離した。

「……え?!どういう事?!」

リオとガスパーに挟まれ、その周囲をリオとガスパーの騎士に囲まれ、サークは目を白黒させる。

「安心しろ。ちょっとした威嚇行動してるだけだからよ。」

「威嚇行動?!」

「威嚇は言いすぎだよガスパー。ただ単にサークと私は仲良しなんだって、皆に再確認してもらっただけじゃないか。」

「まぁ、そういう事だな。」

そう言われ、このセレブリティーな通学の意味を理解したサーク。
クタッと肩を落とし、ため息をつく。

「それならそうと、言っといてくれよ……。」

「そりゃ駄目だな。」

「そうそう、言っといたらサーク、不自然な動きになったから嘘くさくなるじゃないか。」

二人の言いたい事を理解したサークはまたも大きくため息をつく。
リオはそんなサークをクスクスと笑ったのだった。
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