「欠片の軌跡」①〜不感症の魔術兵

ねぎ(塩ダレ)

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第二章「別宮編」

喧嘩上等 ☆

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このまま落ち着くのを待つかどうするか話し合った結界、隊長的には今までで一番、射精に近い感覚なので、何とかならないかと言う事だった。
俺の見立てでは多分、頑張ってみても無理だと言う事は伝えたのだが、最終的にとにかくやるだけやってみて駄目なら諦めようと言うことになった。
そんな訳で、俺は引き続き手で隊長の性感帯を刺激している。
隊長は見た感じはだいぶいい感じにハッハッと熱い息を吐きながら、刺激に身を委ねていた。

だがイかない。
手強すぎるぞ、鬼殺し。

正直、ここまでしてて駄目なのだから諦めた方がいいと思う。

一応、鬼殺しは刺激に答え、熱く固く武者震いをしていた。
先走りも少ないが出ていて、本来ならイったっておかしくない状況だ。

なのにイかない。
いくら色々してもイかない。

研究道具があればまた状況が変わるんだが、当たり前だがここにはない。
さて、どうしたものか……。
いったん中断して、カバンの中身を取ってこようか?
そうすればカテーテルも持ってこれるしな。

とはいえカバンに何が入っていただろうか?
売り物で良さそうなものはあったかな?
何かあんまり気は進まないが、後ろを開発したら抜けるだろうか?
エネマグラなら商品で持ってた気がするんだよな……。

とはいえ、アナルからの刺激についても軽く聞いてみたのだが、こちらも断固拒否された。
カテーテルよりはハードルが低いと思うんだけどなぁ、アナル開発。
別にネコ希望じゃない人でもやってる人はやってるし。
そっちがOKなら、カバンを取りに行かなくても、ひとまず指でチャレンジできるってのに……。

何というか、貴族のプライドなのか、男の沽券に関わるという固定概念が捨てきれないんだろうな。
もっと気楽に考えて、快楽に素直になれば楽なのに。
とはいえ、そんなフランクな考え方ができる人だったら、騎士精神に雁字搦めにされて遅漏になったりしないよな。
俺は鬼殺しや玉を刺激しながら、はぁとため息をついた。


「………ろ…っ。」


そんな事を考えていたら、隊長が急に何か呟いた。
それまで大人しかったので、何だろうと思い顔をあげた。

「え?何ですか?」

「……わ…ろっ。」

「はい?」

何かうわ言のように呟いている。
少し仰け反って上を見ているから、表情は見えない。
まぁだいぶ長い間、このいつイッてもおかしくない状況が続いているんだ。
軽く意識が飛んでいるのかもしれない。

この時、俺はもっと用心すべきだった。
快楽に飲まれているのにイケず、長い間苦痛を味わっている人間が意識を飛ばしたらどうなるのか、考えておくべきだった。

次の瞬間、隊長は仰け反っていた体をガバッと起こし、襲いかかるように俺の後ろ頭を掴んでグッと引き寄せた。


「!?」


突然の事に、俺は呆けていて反応できなかった。
しかし自分の状況を理解し、カッとなった。

ゾゾッと背筋に悪寒が強く走る。

理解した瞬間、俺は直ぐに片手で隊長の体を強く押し、反対の手で封じるように鬼殺しを押さえた。
それにより何とか最悪な事態は免れた。
免れたのだが……。

こいつっ!!

苛立ちが顔に出る。
ドッドッドッと自分の心音が重くなった。
激しい嫌悪感が走り吐き気がした。

どういう状況かといえば、俺は無理矢理、体調の股間に顔を埋められそうになっていた。
手でガードしたとはいえ、頭を強く押さえられ顔の間近にむき出しの鬼殺しが迫っている。
俺は隊長を睨み上げた。


「おい!どういう……っ?!」

「………咥えろっ!!」


低い無感情な声。
聞いた事のないその声色にギクッとした。

必死に抵抗しながら見上げた隊長の目は完全にイっていた。

ゾッと背筋が凍りつく。
瞬間的に全身から汗が吹き出し、息が詰まる。
口の中は何かが込み上げ、酸っぱくなっていた。

いきなり何だ?!
しかもこの絶望感を感じるほどの威圧感は何だ?!

急に脳裏に副隊長の言葉が浮かぶ。

『鬼神モードのギルになんて敵うわけないでしょ!?』

何でそんな言葉が浮かんだのかは本能が理解していた。
拭い去れない絶対的な恐怖と激しい怒りが同時にこみ上げる。
そして、俺の中で怒りが勝った。
動けなくなるような絶対的な絶望感を怒りがが振り切る。
ガッと全身の力で抵抗し、感情のまま睨みつける。


「……テメェっ!!人が親切に手伝ってやってんのにっ!随分だなっ!!」

「いいから咥えろ……!サーク……っ!!」

「ふざけんなっ!!去勢すんぞっ!!」


不本意だがそいつは顔の目の前にある。
本当に引き千切ってやろうかとすら思う。

だが何だ?!
何だっていきなりこうなった?!

見上げた隊長の目は正気じゃない。
欲望に支配され、その闇に落ちている。
生存本能すら蓋をする鉄の意志に守られた性欲を、無理矢理解放しようとしたせいか、混沌の末にどうやらパンドラの箱が開いてしまったらしい。

鬼神モード(性欲バージョン)が出現したようだ。

だがそんな分析をしている場合じゃない。
いきり立った欲望が目と鼻の先で脈打っている。
一分一秒、下手をしてはいられない。
全身が凍りつく中、怒りだけが辛うじて俺を突き動かしていた。

俺は即座に竿と玉を握り潰す気で握ってやった。
さすがの鬼神もこれは痛かったのだろう。
力が緩み、その隙をついて俺は股間から離れる事に成功した。
だがさすがは鬼神モード。
逃がさんとばかりに即座にまた頭を捕まれる。
今度はこっちも油断はないので、力の限りガードに徹する。

「……お前っ!人の親切を踏みにじりやがってっ!!」

「いいから咥えろ……っ。その口にぶちこませろ……っ。」

「はぁ?!ナメてんじゃねぇぞ!!この遅漏っ!!」

同情した俺が馬鹿だった。
完全に鶏冠に来た俺は、ぶちギレモードで言い返した。

何なんだよ、マジで!
こんな規格外なもん咥えたら顎が外れるわ!!

正気を失った隊長は、しきりに俺に口淫を要求する。

「……舐めるのはお前だ。さっさとしゃぶれ!!」

「誰がこんなグロテスクで凶悪なちんこ舐めるかっ!!他を当たれよっ!!あてがないなら、そういう店、紹介してやる!!」

どうにかギリギリの状況。
必死に抵抗しているが、タカが外れた隊長の力は強い。

無言の圧力。
よくわからない絶望感に押しつぶされそうになる。

気を抜いたら顔に押し付けられそうな欲望は、ぬらぬらと濡れ脈打つ。
青臭い臭いに吐き気がした。

鬼神モードの鬼殺しは、今まで溜め込んで来たものを吐き出すようにだらだらと我慢汁を垂らし、卑猥に濡れひかり目視でもわかるほど脈打っていた。
嫌悪感を通り越して恐怖を感じる。

段々とうまく腕に力が入らなくなってきた。
冷たい掃除用具室の床。
冷え始めた体は動きが鈍くなってきていた。

それを見て取ったのだろうか?
ガクンと今度は違う方向に引っ張られた。

「!!」

いきなり上に引かれ、よろめきながら立つ。
ずっと床に座っていた足はおぼつかない。

そんな引き上げられた俺の体が隊長に引き寄せられる。
暗く闇に沈んだ漆黒の眼が迫り、俺は咄嗟に隊長の顔面を手で押さえた。

「……っ?!何すんだっ!!」

「咥えないなら、口を吸わせろっ!!」

「断るっ!!」

何なんだ!こいつは!!
拗らせて溜め込んでるにも程があるだろ!!
カッとまた激しい怒りが凍った体を巡った。

一進一退、無言のまま睨み合う。


「口開けろよ…っ。」

「は!?」

「そう、もっと開け……喉の奥までよく見せろ……っ。」


その言葉に、カッと顔に血が登った。

どういう性癖だよっ!!
信じらんねえっ!!

俺は固く口をつぐんだ。
ゾゾッと脊髄から脳に向かって危機感が走る。

口を開けさせようと隊長が唇を寄せてくるが、必死に避ける。
とにかく今は、どこであろうとキスなんかされたくない。
頬に触れそうになるのも嫌で藻掻き続ける。

よくわからないが鬼神モードは口が性癖らしい。
隊長はかなり興奮していて、俺の口の中を見ようとする。

何なんだ?!それは?!

ジタバタもがく俺。
しかしストイックな現役警護隊長と不真面目な元魔術兵。
力の差は歴然としている。
抵抗すれど、とうとう顔と顎を押さえられ、無理矢理口を開かされる。

俺は最悪口付けられないよう隊長の口を手で完全に塞ぎ、髪の毛を引っ張って抵抗した。
ブチブチと漆黒の髪が抜けて指に絡まる。

鬼神は何故か、無理に口付けようとはしてこない。
そこまでキスには拘ってなかったのか、ただただ執拗に口の中を覗き込もうとした。

口の中を見たいとか、どんだけ変態なんだっ!?

唖然とした。
何故そこまで口腔内を見たがるのか理解できなかった。

ただそうされる事で、自分の口の中が性器であるかの様な感覚に囚われ、異様な羞恥心が芽生えた。
背徳感の様な気恥ずかしさと嫌悪感が全身を巡る。

やめろよ!!
本当、やめろよ!この変態っ!!

ドン引くより頭に来た俺は、我慢できずにとうとう魔術を使った。
と言うより、もう本能だった。
やらなきゃヤラれると無自覚に魔術を使った。

パシュッと言うような音がして、隊長の腕と足から力が抜ける。
そしてトスンとその体が椅子に座った。

何だよ?上手い事椅子があったな?
床に崩れ落ちちまえば頭を踏み抜けたのに……。

力の支配という恐怖から抜け出し、安全が確保できた事から気持ちに余裕が生まれる。
その生まれた隙間は、瞬時に怒りで満たされた。
俺は無性に腹が立っていた。


「………テッメー……好き放題、やってくれたな……っ!!」


隊長が動けなくなった事で少しだけ気持ちが楽になる。
けれどそれまで与えられてきた絶望感は拭い去れない。
相変わらず吐き気は止まらないし、体は凍ったように冷たいし、手足が微かに震えていた。
だが優位に立った事で、恐怖よりも怒りが表に出た。
腹立たしさに任せ、俺はその前に仁王立ちで立ったが、鬼神は何故かニヤッと笑っただけだった。

あり得ない。
本当にあり得ない。

どうしてこの状況で笑う?!
得体のしれないものを前に、俺は混乱した。
激しい怒りの奥で、ゾッとするものがふつふつと腹の奥に湧き上がり、俺の中に根付いていく。


「……それで?俺の手足の自由を奪ってどうする?」

「は!?まだ言うかよ!?」

「まぁいい。このまま俺を放置するなり好きにしろ。」
 
「ああ、そのつもりだ。」

「ただし、次に誰か来るとも知れないがな……。」

「………なるほどな。」


ニヤッと笑う隊長の顔。
俺はそれを冷たく見下ろす。

これは脅しだ。
このままにすれば別の被害者を生むと。
そしてそれはお前のせいだと。

今の状況。
副隊長が隊長を探している。

副隊長でなくとも、それを手伝っている人間が隊長を見つけるかもしれない。
それがどういう事なのか、考えなくてもわかった。

「……アンタ、最低だな。」

「何とでも言え。」

長年押し殺し続けた欲望の闇に落ちた隊長が、ニヤッと笑う。
普段、表情がない分、それは異様な笑みに見えた。

この鬼神をどうにかする方法は解りきってる。
俺がその絶望的な欲望を開放するしかない。

だが禍々しいほどいきり立った鬼神の鬼殺しを、手袋をしてるとは言え、本能的にもう触る気にはなれない。

気持ちが悪い……。

立ち込める淫靡な臭いも。
欲望に落ちた闇も。
断ち切るに断ち切れない濡れた楔も。

額にじりりと汗が浮かんだ。
奥歯を噛んで考える。
そして言った。


「……おい。」

「何だ?」

「よく見とけ……。」


俺は片方の手袋をパチンッと外した。
そして椅子に座る鬼神の前に膝立ちになると、わざと大きく口を開けてその中を見せてやった。

赤い口腔。
そこはこみ上げる胃液のせいで唾液が出ていた。
奥にまで続く濡れた穴。

じわり…と鬼神が欲情したのがわかった。

吐き気と嫌悪感を堪えながら、俺は舌を出しさらに喉の奥を見せる。


「……もっと寄れ。」

「誰に向かって言ってんだ?見せるも見せないも、俺の自由だ。見たいなら黙ってろ。」


俺だってこんな事は不本意だ。
だいたい何なんだよ、口の中に興奮するって……?!
変態にも程があるだろうが!!

そんな俺の苛立ちを意図もせず、鬼神は興奮を隠さなかった。
窓のない、埃臭い掃除用具室に響く生温い浅い呼吸。
暗がりと沈黙の中に、その粘着した呼吸音が響く。

吐き気がした。
だが、ここできちんと決着を付けて置かなければならない。

俺は手袋を外した指を緩慢な動作で舐め、見せつけた。
理不尽さが腹立たしく、視線だけは睨みつけながら、じっとりと指が濡れていくのを見せつける。

刺さるような視線が、俺の痴態を食い入るように凝視している。
鬼神の顔からはすでに薄ら笑いは消え、苦々しく奥歯で噛んでいた。
体の自由が効かず、身のうちに溢れ渦巻いた欲望を持て余して苛立っている。
なのに視線が舐めるように俺にまとわりつく。

変態が!
死んでしまえっ!!

その視線の前で踊る俺はさぞかし滑稽だろう。

こみ上げる羞恥と嫌悪。
そしてよくわからない熱と悪寒。

あぁ、もし許されるなら、コイツを殺してしまいたい……。
俺は心の中で悪態をつき、強く願った。

もうさっさと終わりにしたかった。
俺はぐぼっと、指を2本、口に突っ込む。
そして挑発的に睨めつける。

咥えて欲しかったんだろ?
この中にその欲望を?

言葉でない言葉で問うてやる。
途端に眉間に苦しげなシワが寄った。


「……クッ!!」


ざまあみろ。
動けない状態でこれを見せられて何も出来ずにいればいい。
快楽に歪んだ顔が滑稽だと思った。

鬼殺しは尋常ではない状態になっている。
臭いも酷くて鼻で笑ってしまった。

怒りのまま見せつけながら、俺の体は震える。
隊長の異様な執着が自分にまとわりついている事が気持ち悪く、そして恐ろしかった。

指を舌に絡め、唾液を掬い取る。
もちろんそれもよくわかるように見せてやった。
口から指を離すと唾液が卑猥に糸を引く。

鬼神の目が爛々とそれを見ていた。

焼け付くような視線。
異様な状況に寒気がする。

あと少し、あと少しで終わる。
俺は自分に言い聞かせる。

唾液を掬った指をゆっくりと脈打つ鬼殺しの上に伸ばす。

粘性のある緩慢な動きで、指から唾液がゆっくりと糸を引く。

垂れ下がる唾液が、我慢汁に濡れる鬼殺しの上に落ち、のったりと絡みあっていった。



「……うっ……うぐぐ……っっ!!!!」



びくん、と身動きの効かない鬼神の体が跳ねる。
青臭い匂いが密度を上げ、ガードしていた魔術に白い粘液がこびりつく。

隊長は、くぐもった声をあげて果てた。


「………………っ!!」


俺はすぐ様、手で口を押さえた。
途端、嘔吐しそうになった。
それでも何とか堪えた。


……マジか。



吐き気が落ち着いた俺は、冷めた目で隊長を見つめる。
闇落ちした欲望から解き放たれた隊長は、仰向けにぐったりとしていた。
一応、呼吸はあるようだから死んではなさそうだ。
残念極まりない。


それにしたって……。
これでイケるとか、ヤバいだろ……。


俺は完全に引いて、白い目でそれを見ていた。
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