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第二章「別宮編」
同情
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俺はその場で考えていた。
鬼殺しのデータが欲しいと。
いや違う!
この状況をどう打破すべきなのかを。
このまま待っても、隊長はイケない。
だとしたら、収まるのを待って貰うしかない。
俺にこの鬼殺しをどうにか出来るか?
可能性はなくはない。
だが、職場の、しかも直属の上司を実験の被験者として扱うのは無しだ。
職場の人間とそう言うことになれば、面倒な事になるからだ。
研究と仕事は分けてる。
何より、隊長相手に研究を行った場合、絶対、何かしらヤバい勘違いをする!!
……………。
よし、収まるのを待ってもらおう。
「すみません、隊長。さすがにそろそろ仕事に戻りたいので、行って良いですか?」
「……………。」
「隊長はそれが収まるまでここに居てください。人避けはしておきますので。」
俺はそう言うと、黙ってドアに向かった。
隊長は何も言わなかった。
ドアノブに手をかけ、ちらりと振り返る。
隊長は俯いて頭を抱えていた。
勃つのにイケないのは、どんな気分だろう?
俺は勃ちもしないと嘆いていたけれど、勃つのにイケないのはどんな想いだろう。
俺は性欲そのものが欠けているから、そもそも始まらない。
だが、性欲があって過程までは行けるのに、満ち足りた終わりを迎える事が出来ないのは、どれ程の事だろう?
勃たない俺と、勃つけどイケない隊長。
俯いた姿に俺は言い様のないものを覚えた。
俺は踵を返した。
カツカツ音を立てて、隊長の前に立った。
「……何だ?」
隊長は顔を上げずに言った。
「ひとつ、良いですか?」
「何だ?」
「俺にはそれをどうにか出来るかはわかりません。ただ、絶対に今回限りで今後に影響させないと言うなら手伝います。」
そう言うと隊長がガバッと顔を上げた。
その顔には、驚きと戸惑い、そして僅かな期待があった。
どこか懇願するような切実さに黒い瞳が揺れている。
「……本当か?」
「絶対に今回だけです。」
「わかった。」
「俺には好きな人がいます。だから隊長に恋愛感情はありません。そして俺には性欲と言うものが存在しません。なので勃ちませんし、興奮もしません。だから今回手伝ったことで後々勘違いされるのは迷惑です。」
「……わかった。」
「うわさに聞いているかもしれませんが、俺は自分に性欲がない為、性欲研究をしています。失礼ながら、これは研究者として今の隊長の状態を調べてみたいという考えからです。悪く言えば、隊長を研究対象の症例の一つとして見ています。それでも大丈夫ですか?」
「ああ……。」
「俺は仕事と研究は分けています。だからこれは今回だけの特例です。絶対に今回だけです。いいですね?」
「誓って今回だけの事と承知した。」
よほど苦しいのだろう、隊長は汗ばんだ顔で奥歯を噛んでいる。
そこまでの高ぶりがあるのにイケないというのは相当、辛いだろう。
できるかはわからないが、できる限りの事はしたい。
「じゃあ、見ます。言う通りにしてください。」
とはいえ、俺も未知の領域だ。
快楽を測定し、それを高める方法については研究してきたが、高まっているのにイケないという事についての研究はしていない。
多少、そういう症例の論文の知識はあるが、イかせられるかというのはまた別問題だろう。
とにかくまず、状態を見よう。
俺は持っていたゴム手袋をはめた。
状況を察した隊長が足を開く。
おお~う。
鬼殺し御開帳~。
凄いな、本当にサイズはかりたいわ。
目の前にするとなかなかの威圧感を持つ鬼殺し。
「触りますよ。」
俺はしゃがんで、無遠慮に鬼殺しをむんずと掴んだ。
躊躇してても仕方ないからな。
隊長がビクッと震える。
う~ん??
ちゃんと十分な硬さがあるな??
勃起ってのは、性的興奮なんかで神経から特殊な物質が放出され、ちんこの陰茎海綿体に動脈血が多く流れ込んで血液が充満して起こる。
鬼殺しの場合、充血度合いが悪い訳じゃなさそうだから、血液的な不足ではないな??
だとすると、刺激に対しての反応が伝わりづらいのか??
勃起と射精は同じ反応だと思われてるが、実はメカニズムが違う。
どちらも性的興奮で起こるものだが、勃起は突っ込むための準備としての反応で、射精は刺激から精液を出す自律神経系の反応だ。
これだけフル勃起してるなら、神経の伝達、もしくは刺激に対する反応に問題がある可能性がある。
俺は神経的な問題を見るため、竿と玉の付け根をグリグリと指で押した。
「……クッ…っ!!」
隊長が身じろぎする。
俺は様子を見ながら裏筋の辺りを親指でしごいた。
「……っ…………っ!!」
滅茶苦茶奥歯を噛んで悶てるし、汗が吹き出してる。
どういう事だ??
ちゃんと刺激は伝わってるし、刺激に対する反応はあるし、ぺニスの方も熱さが増してきた。
これ、やっぱり体の問題じゃ無さそうだな?
ちゃんと反応してるし、血の滞りもみられない。
俺はいったん鬼殺しから手を離し、考え込んだ。
そんな俺を息を荒くした隊長が苦しげに見つめてくる。
俺は視線を上げ、隊長の顔を見上げた。
「医者ではないので確かな事は言えませんが、見たところ、血液循環や神経の反応は異常がないと思います。」
「……そう、か……っ。」
「そうすると……何か特殊なオナニーとかしてました?いつも特殊な方法をしていると、それじゃないと射精できなくなる事があるんですよ。」
遅漏の原因の多くは不適切な自慰行為にあると言われている。
床オナとかがいい例だ。
隊長が床オナしてるとか想像できないが、性癖は人それぞれだしな。
結構、変な人だから、特殊な事はしてるかもしれないし。
そんな事を考えながら淡々と言う俺に、隊長は苦々しく笑った。
「オナニー……って、お前……平気で、言うな……。」
「あ、すいません。自慰行為といった方が良かったですかね?」
そう言うと、隊長は自称気味に拭いた。
イキたいのにイケない状態で、診察まがいの対応をする俺に少し苛立っているようでもあった。
「……言い方の、話じゃないっ。」
「すみません。」
「……特殊とかは、わからん……。やり方は…………っ……。普通だろう……。むしろ……昔から……人より、少ないと、思う……。」
苦しげな様子に、少し申し訳ないなと思う。
ちょっと、被検体として扱いすぎてしまった。
でも、これでわかってきた気がする。
「やっぱりその辺か……。」
なんとなく当たりはつけていたが、多分そうだ。
この人、騎士精神の犠牲者だ。
性的なものを不浄とし、自己鍛練で鉄の意思を造り上げる。
騎士として潔白な身の上であろうとするあまり、射精できないのだ。
射精は脳内ホルモンのセロトニンが関与している。
つまり隊長は、無意識に性的なものは不浄であり切り離さなければ騎士ではないと自分に暗示をかけていて、そのせいでセロトニンの分泌か受容体の方かに異常が出て、抑制作用がかかって正常に射精出来ないのだ。
なるほど、この人の無感情で表情に乏しいのも、そういう事から来ているのかもしれない。
とは言え、それがわかったところで今はどうしようもない。
ホルモンと精神的なストッパーだもんな。
今目の前にあるガチガチの鬼殺しの処分にすぐ使えるものでもない。
俺は考えこんで隊長の鬼殺しを見つめた。
こんだけでかいんだ。
カテーテルとかぶっさして、物理的に抜けないか?
ちょっと尿道開発することになるけど、手っ取り早くないか?
むしろ前立腺も責められるし、上手く行くんじゃないか?
「……どうした……っ?!」
「ああ、すみません。原因は多分、精神的なものです。なのでそれを今すぐどうこうできると思えないので、ぺニスにカテーテルを刺して……。」
「?!何?!」
「だから尿道カテーテルをですね……?」
「待て待て待てっ!!」
今までされるがままだった隊長が、ばっと足を閉じ、手で股間をガードした。
そんな隊長を俺はきょとんと見上げる。
隊長はさっきとは違う汗を吹き出させていた。
「お前は鬼かっ!!」
「は??鬼は隊長のちんこでしょう?」
「……お前、何を言ってるんだ……?」
隊長はかなり焦って目を白黒させている。
まぁ、俺が勝手に隊長のちんこを「鬼殺し」と命名している事を説明しても仕方がないので、処置の説明を始める。
「ですからね?そんだけでかいんですから、カテーテルぶっさして……。」
「お前には人の心がないのか!?」
何故か物凄く避難されている。
そんな隊長を下からじっと見上げながら、俺は言った。
「……要するに、カテーテルは嫌なんですね?」
「当たり前だろ!!」
「でもマニアは好きですよ?尿道開発。慣れると気持ちいいと聞きますし。」
「慣れてないし!俺は慣れるつもりもない!!」
「えぇ?!だって隊長の場合、イクにイケなくなってるんですから、尿道から前立腺を刺激したら案外あっさりイケるかもしれませんし……。」
「頼むからやめてくれ!聞いてるだけで痛みが出そうだ!」
「えぇ~??いい案だと思ったのですが~??」
隊長は警戒して股間を守っている。
何だよ、そんなに嫌なのか?尿道カテーテル??
実験のオジサンとか、ヒイヒイ言って喜ぶのに??
しかし隊長の怯えようを見ると、あまり強くも言えず諦めるしかなさそうだった。
というか、怯えてるなら今のでちんこ、縮み上がって落ち着いたりしてないか??
そしたらそれで終わるんだけど……。
「隊長。」
「何だ!?」
「今ので勃起収まったりしてませんか?」
俺がそう言うと、隊長ははたと気づいたように自分の股間を確認した。
「…………。少し萎えたが、まだだ……。」
「う~ん。」
これで治まってくれればよかったのになぁ~。
隊長はカテーテルの話が萎えさせる為のものだと思ったのか、少し俺への警戒が和らいだ。
いや、俺は本気でぶっ刺すつもりだったんだけどさ。
それを言ったら、人間性を疑われそうだから黙っておこう。
「それで落ち着いてきそうなら、そのまま時間に任せましょう。」
「……無理なのか?」
「無理っていうか……。今、勃ってるそれをどうにかできる特効薬的な方法はないですよ。あるとしたらカテー……。」
「それはもう言うな……。」
「はぁ……。」
隊長、尿道カテーテル断固拒否。
これが実験だったら上手いこと言いくるめて、ちょっと力尽くでもやってみちゃうんだけどなぁ~。
流石に今後も付き合っていく職場の上司に対して、それはできないよなぁ~。
やっぱり仕事と研究は一緒にできない。
俺は諦めてため息をついた。
「隊長のそれ、多分、騎士精神のせいなんです。」
「騎士精神?」
「はい。無意識に騎士として完璧でありたいが為に、性的なものを排除しなければという暗示にかかっていて、それで多分イケないんですよ、隊長は。」
俺に言われ、隊長は少しはっとしたようだった。
思い当たる節があるのだろう。
「普通はそれでもそんなこと起こらないですよ。だって性欲は生存本能ですから。食欲と同じで、生きるために無条件で優先されるものなんです。……ただ隊長は相当ストイックな追い込み方をしたんでしょう。それにより精神鍛錬を極め、生存本能である性欲すら抑え込んでしまったんです。しかもそれは意識上の事ではなく、無意識的に。だから質が悪いんです。隊長が本気でセックスしたくなったって、無意識的に鉄の意志がそれをガードするんです。」
「……そんな……まさか……。」
「無意識層にまで浸透している事ですからね。そう簡単にどうこうできる問題じゃないです。だからこの話を聞いたって、すぐにそれを解放することは出来ません。だって無意識的な反発なんですからね。意識でどうにかできる事じゃないんです。」
俺の話を聞き、隊長はがっくりと項垂れた。
この話に納得できたという事は、思い当たる事が多いのだろう。
ここで原因が自覚出来たのなら、時間はかかるかもしれないが、徐々に暗示は解けていくかもしれない。
しかし、だ。
それは今後に役に立ったとしても、今現在の状況を打破する手段にはならない。
鬼殺しは元気なまま、落ち着くのを待つしか方法がない。
項垂れる隊長を見ると、どうにかしてあげたいが……。
他に何か方法はあるだろうか……。(カテーテル以外で)
俺はぼんやり鬼殺しを眺めながら考えていた。
鬼殺しのデータが欲しいと。
いや違う!
この状況をどう打破すべきなのかを。
このまま待っても、隊長はイケない。
だとしたら、収まるのを待って貰うしかない。
俺にこの鬼殺しをどうにか出来るか?
可能性はなくはない。
だが、職場の、しかも直属の上司を実験の被験者として扱うのは無しだ。
職場の人間とそう言うことになれば、面倒な事になるからだ。
研究と仕事は分けてる。
何より、隊長相手に研究を行った場合、絶対、何かしらヤバい勘違いをする!!
……………。
よし、収まるのを待ってもらおう。
「すみません、隊長。さすがにそろそろ仕事に戻りたいので、行って良いですか?」
「……………。」
「隊長はそれが収まるまでここに居てください。人避けはしておきますので。」
俺はそう言うと、黙ってドアに向かった。
隊長は何も言わなかった。
ドアノブに手をかけ、ちらりと振り返る。
隊長は俯いて頭を抱えていた。
勃つのにイケないのは、どんな気分だろう?
俺は勃ちもしないと嘆いていたけれど、勃つのにイケないのはどんな想いだろう。
俺は性欲そのものが欠けているから、そもそも始まらない。
だが、性欲があって過程までは行けるのに、満ち足りた終わりを迎える事が出来ないのは、どれ程の事だろう?
勃たない俺と、勃つけどイケない隊長。
俯いた姿に俺は言い様のないものを覚えた。
俺は踵を返した。
カツカツ音を立てて、隊長の前に立った。
「……何だ?」
隊長は顔を上げずに言った。
「ひとつ、良いですか?」
「何だ?」
「俺にはそれをどうにか出来るかはわかりません。ただ、絶対に今回限りで今後に影響させないと言うなら手伝います。」
そう言うと隊長がガバッと顔を上げた。
その顔には、驚きと戸惑い、そして僅かな期待があった。
どこか懇願するような切実さに黒い瞳が揺れている。
「……本当か?」
「絶対に今回だけです。」
「わかった。」
「俺には好きな人がいます。だから隊長に恋愛感情はありません。そして俺には性欲と言うものが存在しません。なので勃ちませんし、興奮もしません。だから今回手伝ったことで後々勘違いされるのは迷惑です。」
「……わかった。」
「うわさに聞いているかもしれませんが、俺は自分に性欲がない為、性欲研究をしています。失礼ながら、これは研究者として今の隊長の状態を調べてみたいという考えからです。悪く言えば、隊長を研究対象の症例の一つとして見ています。それでも大丈夫ですか?」
「ああ……。」
「俺は仕事と研究は分けています。だからこれは今回だけの特例です。絶対に今回だけです。いいですね?」
「誓って今回だけの事と承知した。」
よほど苦しいのだろう、隊長は汗ばんだ顔で奥歯を噛んでいる。
そこまでの高ぶりがあるのにイケないというのは相当、辛いだろう。
できるかはわからないが、できる限りの事はしたい。
「じゃあ、見ます。言う通りにしてください。」
とはいえ、俺も未知の領域だ。
快楽を測定し、それを高める方法については研究してきたが、高まっているのにイケないという事についての研究はしていない。
多少、そういう症例の論文の知識はあるが、イかせられるかというのはまた別問題だろう。
とにかくまず、状態を見よう。
俺は持っていたゴム手袋をはめた。
状況を察した隊長が足を開く。
おお~う。
鬼殺し御開帳~。
凄いな、本当にサイズはかりたいわ。
目の前にするとなかなかの威圧感を持つ鬼殺し。
「触りますよ。」
俺はしゃがんで、無遠慮に鬼殺しをむんずと掴んだ。
躊躇してても仕方ないからな。
隊長がビクッと震える。
う~ん??
ちゃんと十分な硬さがあるな??
勃起ってのは、性的興奮なんかで神経から特殊な物質が放出され、ちんこの陰茎海綿体に動脈血が多く流れ込んで血液が充満して起こる。
鬼殺しの場合、充血度合いが悪い訳じゃなさそうだから、血液的な不足ではないな??
だとすると、刺激に対しての反応が伝わりづらいのか??
勃起と射精は同じ反応だと思われてるが、実はメカニズムが違う。
どちらも性的興奮で起こるものだが、勃起は突っ込むための準備としての反応で、射精は刺激から精液を出す自律神経系の反応だ。
これだけフル勃起してるなら、神経の伝達、もしくは刺激に対する反応に問題がある可能性がある。
俺は神経的な問題を見るため、竿と玉の付け根をグリグリと指で押した。
「……クッ…っ!!」
隊長が身じろぎする。
俺は様子を見ながら裏筋の辺りを親指でしごいた。
「……っ…………っ!!」
滅茶苦茶奥歯を噛んで悶てるし、汗が吹き出してる。
どういう事だ??
ちゃんと刺激は伝わってるし、刺激に対する反応はあるし、ぺニスの方も熱さが増してきた。
これ、やっぱり体の問題じゃ無さそうだな?
ちゃんと反応してるし、血の滞りもみられない。
俺はいったん鬼殺しから手を離し、考え込んだ。
そんな俺を息を荒くした隊長が苦しげに見つめてくる。
俺は視線を上げ、隊長の顔を見上げた。
「医者ではないので確かな事は言えませんが、見たところ、血液循環や神経の反応は異常がないと思います。」
「……そう、か……っ。」
「そうすると……何か特殊なオナニーとかしてました?いつも特殊な方法をしていると、それじゃないと射精できなくなる事があるんですよ。」
遅漏の原因の多くは不適切な自慰行為にあると言われている。
床オナとかがいい例だ。
隊長が床オナしてるとか想像できないが、性癖は人それぞれだしな。
結構、変な人だから、特殊な事はしてるかもしれないし。
そんな事を考えながら淡々と言う俺に、隊長は苦々しく笑った。
「オナニー……って、お前……平気で、言うな……。」
「あ、すいません。自慰行為といった方が良かったですかね?」
そう言うと、隊長は自称気味に拭いた。
イキたいのにイケない状態で、診察まがいの対応をする俺に少し苛立っているようでもあった。
「……言い方の、話じゃないっ。」
「すみません。」
「……特殊とかは、わからん……。やり方は…………っ……。普通だろう……。むしろ……昔から……人より、少ないと、思う……。」
苦しげな様子に、少し申し訳ないなと思う。
ちょっと、被検体として扱いすぎてしまった。
でも、これでわかってきた気がする。
「やっぱりその辺か……。」
なんとなく当たりはつけていたが、多分そうだ。
この人、騎士精神の犠牲者だ。
性的なものを不浄とし、自己鍛練で鉄の意思を造り上げる。
騎士として潔白な身の上であろうとするあまり、射精できないのだ。
射精は脳内ホルモンのセロトニンが関与している。
つまり隊長は、無意識に性的なものは不浄であり切り離さなければ騎士ではないと自分に暗示をかけていて、そのせいでセロトニンの分泌か受容体の方かに異常が出て、抑制作用がかかって正常に射精出来ないのだ。
なるほど、この人の無感情で表情に乏しいのも、そういう事から来ているのかもしれない。
とは言え、それがわかったところで今はどうしようもない。
ホルモンと精神的なストッパーだもんな。
今目の前にあるガチガチの鬼殺しの処分にすぐ使えるものでもない。
俺は考えこんで隊長の鬼殺しを見つめた。
こんだけでかいんだ。
カテーテルとかぶっさして、物理的に抜けないか?
ちょっと尿道開発することになるけど、手っ取り早くないか?
むしろ前立腺も責められるし、上手く行くんじゃないか?
「……どうした……っ?!」
「ああ、すみません。原因は多分、精神的なものです。なのでそれを今すぐどうこうできると思えないので、ぺニスにカテーテルを刺して……。」
「?!何?!」
「だから尿道カテーテルをですね……?」
「待て待て待てっ!!」
今までされるがままだった隊長が、ばっと足を閉じ、手で股間をガードした。
そんな隊長を俺はきょとんと見上げる。
隊長はさっきとは違う汗を吹き出させていた。
「お前は鬼かっ!!」
「は??鬼は隊長のちんこでしょう?」
「……お前、何を言ってるんだ……?」
隊長はかなり焦って目を白黒させている。
まぁ、俺が勝手に隊長のちんこを「鬼殺し」と命名している事を説明しても仕方がないので、処置の説明を始める。
「ですからね?そんだけでかいんですから、カテーテルぶっさして……。」
「お前には人の心がないのか!?」
何故か物凄く避難されている。
そんな隊長を下からじっと見上げながら、俺は言った。
「……要するに、カテーテルは嫌なんですね?」
「当たり前だろ!!」
「でもマニアは好きですよ?尿道開発。慣れると気持ちいいと聞きますし。」
「慣れてないし!俺は慣れるつもりもない!!」
「えぇ?!だって隊長の場合、イクにイケなくなってるんですから、尿道から前立腺を刺激したら案外あっさりイケるかもしれませんし……。」
「頼むからやめてくれ!聞いてるだけで痛みが出そうだ!」
「えぇ~??いい案だと思ったのですが~??」
隊長は警戒して股間を守っている。
何だよ、そんなに嫌なのか?尿道カテーテル??
実験のオジサンとか、ヒイヒイ言って喜ぶのに??
しかし隊長の怯えようを見ると、あまり強くも言えず諦めるしかなさそうだった。
というか、怯えてるなら今のでちんこ、縮み上がって落ち着いたりしてないか??
そしたらそれで終わるんだけど……。
「隊長。」
「何だ!?」
「今ので勃起収まったりしてませんか?」
俺がそう言うと、隊長ははたと気づいたように自分の股間を確認した。
「…………。少し萎えたが、まだだ……。」
「う~ん。」
これで治まってくれればよかったのになぁ~。
隊長はカテーテルの話が萎えさせる為のものだと思ったのか、少し俺への警戒が和らいだ。
いや、俺は本気でぶっ刺すつもりだったんだけどさ。
それを言ったら、人間性を疑われそうだから黙っておこう。
「それで落ち着いてきそうなら、そのまま時間に任せましょう。」
「……無理なのか?」
「無理っていうか……。今、勃ってるそれをどうにかできる特効薬的な方法はないですよ。あるとしたらカテー……。」
「それはもう言うな……。」
「はぁ……。」
隊長、尿道カテーテル断固拒否。
これが実験だったら上手いこと言いくるめて、ちょっと力尽くでもやってみちゃうんだけどなぁ~。
流石に今後も付き合っていく職場の上司に対して、それはできないよなぁ~。
やっぱり仕事と研究は一緒にできない。
俺は諦めてため息をついた。
「隊長のそれ、多分、騎士精神のせいなんです。」
「騎士精神?」
「はい。無意識に騎士として完璧でありたいが為に、性的なものを排除しなければという暗示にかかっていて、それで多分イケないんですよ、隊長は。」
俺に言われ、隊長は少しはっとしたようだった。
思い当たる節があるのだろう。
「普通はそれでもそんなこと起こらないですよ。だって性欲は生存本能ですから。食欲と同じで、生きるために無条件で優先されるものなんです。……ただ隊長は相当ストイックな追い込み方をしたんでしょう。それにより精神鍛錬を極め、生存本能である性欲すら抑え込んでしまったんです。しかもそれは意識上の事ではなく、無意識的に。だから質が悪いんです。隊長が本気でセックスしたくなったって、無意識的に鉄の意志がそれをガードするんです。」
「……そんな……まさか……。」
「無意識層にまで浸透している事ですからね。そう簡単にどうこうできる問題じゃないです。だからこの話を聞いたって、すぐにそれを解放することは出来ません。だって無意識的な反発なんですからね。意識でどうにかできる事じゃないんです。」
俺の話を聞き、隊長はがっくりと項垂れた。
この話に納得できたという事は、思い当たる事が多いのだろう。
ここで原因が自覚出来たのなら、時間はかかるかもしれないが、徐々に暗示は解けていくかもしれない。
しかし、だ。
それは今後に役に立ったとしても、今現在の状況を打破する手段にはならない。
鬼殺しは元気なまま、落ち着くのを待つしか方法がない。
項垂れる隊長を見ると、どうにかしてあげたいが……。
他に何か方法はあるだろうか……。(カテーテル以外で)
俺はぼんやり鬼殺しを眺めながら考えていた。
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