「欠片の軌跡」①〜不感症の魔術兵

ねぎ(塩ダレ)

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第二章「別宮編」

大迷惑

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明日から魔術本部に行くことになり、俺は少しそわそわしていた。
別に魔術の総本山で学べるから嬉しい訳じゃない。
国王ですら場所を知らない、無許可では立ち入れない場所にこれから行こうと言うのだ。

ロマンだろ!?
わくわくするだろ!?

いや~色々訳がわからない事ばかりだが、人生、生きていればわくわくすることもあるんだな~と思っていた。
高揚した気分で廊下にモップがけしていると、いきなり誰かに強く腕を引かれた。

「!?」

振り向くと、隊長だった。
王子の王宮警護が忙しかったのか誰かに何か言われたのか、ここ数日、あまり絡まれていなかったのでびっくりする。
相変わらずの無表情。
何を考えているのかさっぱりわからない。
ただただ威圧感のある存在に、俺はどぎまぎするばかりだ。

「隊長!?今日は王宮でしょ!?朝から副隊長が来てるし!?」

「静かにしろっ!!」

隊長はそう言うと、俺を無理矢理さっきモップを取り出した、掃除用具が片付けてある狭い部屋に自分ごと押し込んだ。
窓もない掃除用具入れに連れ込まれ、流石に危機感を感じる。

「何してるんですか!?」

「静かに!!」

動揺する俺を狭い部屋の一番奥の壁に押さえ込み、隊長は息を殺している。
俺を連れ込んだ割に意識は別の事に集中していて、しきりに音を立てない事を要求された。

何なんだ?
この茶番は?

俺はどうでも良くなって脱力していた。
何故ならこれは追われている人間の行動パターンだ。

そしてお約束通り……。

「ギ~ルッ!!ギルバートッ!!出てきなさい!!あんた今日は王宮でしょ!?何でいるのよ!!」

副隊長の怒声が響く。

う~ん。完璧だ。
完璧なお約束だ。

まさかこんなセオリー通りの茶番に巻き込まれる日が来るとは思わなかった。
外では副隊長が苛立った様子で隊長を探している。
歩いてきたらしい団員に隊長の事を訪ね知らないと言われると、またどこかに足早に行ってしまった。
俺は押さえ込まれながらため息をついた。

「……ほら、行きましたよ?離れて下さい。」

「………………。」

「隊長。」

「……断る。」

「は……?て言うか、何でいるんですか!?今日は隊長は王宮警護の方ですよね?!」

副隊長と話した後、一応気にかけてくれたらしく、副隊長と隊長は基本、数日交代で王宮と別宮に勤務する事を決め、そのスケジュールを大々的に張り出したのだ。
それは俺達、別宮残留組に予定を教える役割と共に、隊長が勝手にこっちに来たりしない為の圧力でもあった。
それでここのところ上手くいっていたのだが……。

「何で隊長が別宮こっちにいるんです?!副隊長が探してますよ?怒って。」

「………………。」

「黙っててもわかりませんけど?そもそもこの状況は何なんですか?!俺、何かやらかしました?!」

「………………。お前が……明日、魔術本部に行くと聞いた。」

だよね。

俺は内心、頭を抱えた。
何と言うか本当、予想を裏切らない人だよ、隊長は。

俺は魔術本部から帰ってきた師匠と話し、とりあえず一度、向こうに顔見せに行く事になった。
それが明日からと決まったのだが、それを言ったら隊長がなんかまたごちゃごちゃ言いそうじゃん?
変な揉め事が起きそうじゃん?
だから副隊長が秘密にしててくれたんだけどね……。

どこで聞き付けて来た?
このサイコ!!

しかしこうなった以上、仕方がない。
できる限り穏便にお帰り頂けるよう努めるしかない。
面倒だなぁとため息をついて、それとなく隊長を押して距離を取った。

「はぁ、確かに行きますけど……。」

「どうして俺に黙ってた。」

「隊長が騒ぐからです。」

「騒いでなどいない。」

「いや、全く説得力ないですよ?現に今、あなた、何してます?副隊長も探しているし、すでに騒ぎになってますよね?」

「………………。」

はい、出た。
都合が悪いと黙秘しますよ、この人。
もう本当、なんなの!?

「とりあえず、もう少し離れてくれません?!」

「………………。」

「隊長!」

「…………俺は、お前がいなくなると聞いて、驚いた……。」

「はぁ。」

「いてもたってもいられなかった……。」

「いや1週間の研修に行くだけなのに、そんなに騒ぐ事じゃないですよね!?」

「お前なら、そのまま帰って来ないかも知れないだろう?」

「そんな事はないので!そろそろ離して下さい!!」

隊長は無意識なのかジリジリと詰め寄ってくる。
そのせいで、せっかく安全の為に徐々に作っていた距離はすぐになくなってしまう。
俺は危険を感じて隊長の肩を両手で押し続けた。

いやもう、お約束過ぎて涙が出る。
何なんだよ、この教科書通りの茶番劇は?!


「本っ当!いい加減、離れて下さい!!ちんこ当たってますから!!」


俺はもう我慢できずに叫んだ。
もう本当、泣きたい。

ちんこ、と言う言葉に隊長が固まった。

そりゃそうだろう。
警護隊の業務に「ちんこ」なんて単語が出てくるわけがない。
隊長は何を言われたかわからない様子だ。

「だから!!ちんこ!!」

なぜこの状況で、ここまで言われて理解できない?!
俺は力尽くで隊長を引き剥がし、その股間を指差してやった。
無駄に拡張したそれは自己主張を強めている。
なのに隊長はきょとん顔だ。
自分のモノなのに理解できていないようだった。

「……勃ってるな。」

「ええ、そうですね。」

何でそんな説明を俺がせにゃいかん……。
隊長はやっと俺の言わんとしていた事を理解したらしい。
けれど理解してもなお、不思議そうに自分の股間を眺めている。
いや、何でそんな顔でおっきした自分の息子を見てるんだよ?
見慣れてんだろうが?
勃たない俺じゃあるまいし……。

とはいえ、この状態では隊長も外には出れないだろう。
このまま副隊長に見つかったら、それこそ立場がなくなる。
俺は溜息をついて言った。

「じゃあ、俺は行きます。隊長は必要なら、そいつの始末をしてから出てください。」

俺は足早に掃除用具室から出ようとした。
何しろここまで、完全なお約束展開が続いている。

ここはターニングポイントだ。
捕まったらまずい。

相手を刺激しないよう、俺はスルリと呆けている隊長の横をすり抜け、外に出ようとした。
できるだけ平常心で動く。
早く逃げたいが、下手に動くのはかえって危険だ。

しかし……。

スルッと逃げようとしたが、去るものは追う習性でもあるのか、すぐに隊長は反射的に俺の腕を掴もうとした。
それをさっと避け、足早になる。
すると今度は逃げるものは追う習性なのか、逃すまいと躍起になられる。
だが、今後のお約束展開を考えれば捕まる訳には行かない。
俺も必死に交戦する。

「……隊長、いい加減にしないと魔術使いますよ?!」

にっこり笑うが、血管が切れそうだ。
本当、何なの?この人?!
こっちが大事にしないように努力してんのに、何なの?!

掴まれた腕を鋭く振り払い、冷たい視線を向ける。
しかしその視線の先には、妙に弱々しい印象の瞳が揺れていた。


「……いて、くれないか?」

「はい??」

「だから、まだいてくれないか?」

「……これからヌくんですよね??」

「ああ……。」

「は?……それで、俺にここに居ろと??」

「……駄目か?」


隊長は妙にしおらしく言った。
全く意味がわからない。

何だ?このパターンは?

一見するとわかり難いが、隊長は何かに酷く動揺している。
お約束展開的にここで逃げないとまずいとは思ったが、隊長の様子に興味が出てしまった。

この人がここまで狼狽える理由。
目の前で殺人事件が起きても微動だにしなそうな隊長が、何にこんなにも動揺しているのだろう??

迷う俺に向けられる、弱々しい懇願。
性欲研究者として、俺はそれを知りたいと思ってしまった。

「……言っときますが、ヌくの見てろとかなら断ります。」

「いや……見なくていい。居てくれるだけでいい……。」

「それって何か俺が居る意味あるんですか??」

「頼む……駄目、か?」

「……離れた場所で、後ろ向きでいいならいいですよ。」

この状況は全くわからなかった。
色々性的指向等も調べてきたが、これはだいぶ未知の領域だ。
いや、あれか?
見られそうな場所で、してはいけない事に興奮するタイプ。
町中で自慰する事にしか興奮できない人もいるしな。
隊長ってそういう性癖??
そうは見えなかったけど??
俺は転がっていた丸椅子2つのうち1つを部屋の奥に、もう1つをドア付近に置いた。

「そっちの奥でさっさと済ませて下さい。俺は誰か来ないよう、ドアを見張ってますから。」

まぁなんにしろ、あそこまで成長していればヌかないとキツイだろう。
理屈はわからないが、誰かがいる環境での方が興奮する質みたいだし。
それにここなら逃げやすい。
襲われそうになったとしてもすぐ動ける。
俺はドアの方を向いて座った。

背後で隊長はことを始めたのか、カチャカチャと言うベルトを外す音の後、深い吐息を吐いていた。






「……~~~っ!つかっ!!いつまでかかるんですか!!隊長!?」

かなりの時間が経ち、さすがにどうしたもんだろうと、俺は叫んだ。
そして仕方なく振り返える。

俺はこういう研究をしている手前、大体の時間はわかる。
長くかかる人もいる。
しかしそれを踏まえたって、長すぎる!

どうなってるんだ?
今、どの辺だ?
やっぱり人に見られてないとイけないのか!?

待たされた苛つきと、研究者としての興味から、俺は立ち上がって、ずかずかと隊長に近づいた。
隊長はそれに少し動揺したが、諦めたのか肩を落として俺を見上げた。

「……すまん。お前がいれば、イケるかと思ったんだが……。」

汗ばんだ声。
その表情は酷く苦しげだ。

状況がわからない。
俺は申し訳ないと思いつつ、ヒョイッと隊長の股間を覗いた。

隊長はスラックスを踝まで落とし、自分の息子を可愛がっていた。
可愛がってはいたのだが、どうもおかしい。
確かにぱんぱんなのだが、何かがおかしい。

自分の中、これまで培ってきた知識がかけ巡る。
そして結論が出た。

正直言おう、無理だ。
俺の頭の中のデータや検知がそういっている。
無理だ。


わかった。
この人、遅漏だ。


勃つけど、イケない人だ。


先ほど隊長に見た動揺は、この事だったのだろう。
確かに勃ってもイケない自覚があるなら、職場で勃ってしまったイチモツを見て動揺するだろう。

しかし…。

俺は隊長を見て、もうひとつ気づいてしまった。
いや、本当は押し当てられてた時点で予想はしてたけどさ……。


隊長は巨根だ。


色々見てきたが、ダントツだ。
サイズはかってデータとりたいくらい巨根だ。

名付けるなら、鬼殺しだな、などと、
場違いにも隊長の巨根を観察しながら思っていた。
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