88 / 94
第八章①「疑惑と逃亡編」
お互いの想い
しおりを挟む
シルクは大好きなリリとムクの料理に加え、酒やアイスクリームをご馳走になってとても気分が良かった。
今日のクエストの助っ人も、武器も演舞も使わないが、思い切り暴れられてとても楽しかった。
だが、己の主が畏まって自分を見つめた時、今日は最悪な日になると思った。
何故ならそれは、シルクが最も嫌いなサークの顔だったからだ。
「ヤダよ。絶対!ヤダからっ!!」
何もまだ言われていなかったが、シルクは反射的にそう言った。
言われたサークは、少し面食らいながらもバツの悪い顔をする。
「まだ何も言ってないだろ……。」
「でも、俺の返事は決まってる。絶対、嫌だ。」
サークは内心、頭を抱えた。
確に今から言う事を聞いたら、シルクは開口一番、その答えを出しただろうからだ。
「お前な……。」
「嫌だよ。どこに行くつもりか知らないけど、俺は一緒に行く。」
その言葉にサークは今度こそ本当に頭を抱える。
さっきまで楽しげに食事をしていたのに、いきなり剣呑に言い合いを始めた2人を、周囲は何事かと振り返った。
「シルク……。」
「もう置いていかれるのは嫌なんだ!主だって、俺を連れて行く為に中級冒険者資格を取らせたんじゃなかったのかっ!?なのに何でだよっ!!」
「………ごめん。」
サークは諦めて謝った。
どうやらもう、自分が何をしようとしているかはバレバレのようだ。
シルクはサークを怒鳴りながらも、涙目になっている。
「ごめん……。だが、思った以上に状況が悪かった。お前を連れて行くには危険すぎるんだ……。」
サークは素直に、本当の気持ちを話した。
行こうとしているのは南の国だ。
はじめから行くつもりでいた。
だからシルクに中級冒険者資格を取らせて、その同行者として行動しようと思っていたのだ。
同行者なら名前を書くだけなので、偽名でも可能そうだったからだ。
だが魔術本部で話を聞いて、かの王太子がどういう意味で自分を欲しがっているのか知り、そしてその異常さに気付いた。
彼はきっと、自分を見つけたならば手段を選ばないし、他の人間がどれだけ死のうと気に留めないだろう。
それこそ、サークの生死すら問わないかもしれない。
だから己の主を守ろうとするシルクは邪魔だ。
真っ先に排除されるだろう。
さっくり殺してくれるならまだいい。
だがシルクはカイナの民であり、演舞継承者。
そして何より、この男は美しい。
下手をすれば、死ぬより辛い状況で生き続けなければならなくなる。
その手の苦しみは、シルクは十分すぎるほど受けたはずだ。
そこから救い上げた筈なのに、更なる深みに落とす訳にはいかない。
サークにとって、シルクは従者であり己の片腕である以上に大事な友人なのだ。
「俺の勝手な自己満足なのはわかってる。それでも俺はお前に、幸せな人生を歩んで欲しいと思ってる。」
「何が幸せかは!主が決める事じゃない!!俺の心が決める事だっ!!」
「わかってる。だからこれは俺の勝手な自己満足だ。でも、お前は十分、辛い目にあった。そしてそれを乗り越えてきた。」
「主がいたからだよ!主が俺と一緒に歩いてくれたからだ!!主があの時、俺を見つけてくれたから!あの時、俺を引き上げてくれたからっ!一緒にいてくれたから!だから戦えたんだっ!!だから乗り越えられたんだっ!!」
「うん。俺もお前といることで凄く救われた。もがき苦しんでも絶対に諦めなくて、うまく進めなくても、過去に苛まれても、それでも懸命に生きるお前といると俺も救われたんだ。」
「だったらこれからもずっと一緒にいてよ!いさせてよっ!!」
「だからこそなんだ。お前は守りたい。もう何の不幸も見ずに、感じずに、幸せになって欲しいんだ。」
「そんなのは主の勝手に決めた幸せじゃんかっ!!俺はそんなの幸せじゃないっ!!」
「シルク……。」
「俺、主にお前だけは地獄に連れて行くからって言ってもらった時!凄く幸せだった!!軍と戦わないといけない時、ちゃんと俺を呼んでくれたの!本当に嬉しかった!!」
思いの外シルクが興奮してしまった。
今更ながら部屋で音消しをしてから話すべきだったと思った。
周りの皆は、話に割って入って来たりはしないが黙って俺達の話を聞いている。
「確に変だよ!安全じゃない危険に晒される事を要求されて幸せに思うなんて!でも俺にとっての幸せは!主と引き離されてでも、ぬくぬくと幸せに暮らす事じゃない!!死ぬその時まで!主の横で戦っている事だっ!!置いていくって言われるくらいなら!連れて行けないから今すぐここで死ねって言われた方が幸せだっ!!」
「シルク……。」
「置いていくって言うなら言えよ!連れて行けないから今ここで死ねってっ!!」
シルクが叫んでいた。
怒りで怒鳴ってるんじゃない。
哀しくて叫んでいるんだ。
俺を責めてるんじゃない。
悲しくて寂しくて辛くて苦しくて、どうしようもなくて叫んでいるんだ。
「……頼むから……っ!!」
シルクはそう言ってテーブルに顔を伏せた。
その体は細かく震え、声を殺して泣いていた。
俺は間違っているのだろうか?
シルクの幸せを願っているのに、俺は間違っているのだろうか?
もう、辛い目に合わずに幸せになって欲しいんだ。
幸せを願っているだけなのに、何でこんなに辛いんだろう?
何でこんなにシルクを苦しめているんだろう?
どうしてこんなに苦しいんだろう?
酷く鼻がツンとして、目頭が熱くなった。
あの南の国での足止めの時、援軍が来たのを見て俺は自分が甘かったと思った。
俺自身は鍵がある。
鍵付きのドアなんてどこにでもある。
最悪、牢屋でもいいのだから。
でも、お前は通せない。
置いていかなければならないと気づいた時、なんて無責任な主だろうと思ったんだ。
シルクにとって、俺の命令は絶対だ。
だから、どんなに理不尽で苦しくて悲しくても、俺に残れと言われたら、最終的にそうするしかないのだ。
そして待てと言われていなくても、戻ってくるかもしれない、また声がかかるかもしれないと言う僅かな光のせいで、死ぬ事も許されないのだ。
それは壮絶な事だろう。
でも、連れて行ってもしもの事があったら、俺はどうしたらいい?
傷つけられるお前を助けられなかったら、俺はどうしたらいい?
答えは出なかった。
聞いていた冒険者達も、誰一人声をかけては来なかった。
それが自分達が簡単に首を突っ込んでいい問題ではない事を知っていたし、どちらの言い分も理解できるからだ。
大事だから、守りたいから、連れていけない。
大事だから、守りたいから、それがどんなに危険でも一緒にいたい。
どちらも当然の主張だ。
どちらも相手を本気で大切に思っているからこそ、その想いが強まり譲れないのだ。
冒険者の様な生き方をしていれば、誰にでもそう言った想いに苛まれた事はある。
だから、簡単に口を出していい話ではないと誰もが知っていたのだ。
さっきまでワイワイと楽しい食事と酒に湧いていた酒場は、しんみりとした静けさに満ちていた。
誰も言葉を発せず、時折、誰かが酒を喉に流し込む音がするだけ。
そんな静寂の中に、ふと、タバコの香りが微かに鼻を擽った。
「……全く、あんたらは静かに飯も食えないのかい?!」
誰も音を立てていない無音の空気に、少しチグハグなその言葉がゆっくり辺りに漂っていた。
今日のクエストの助っ人も、武器も演舞も使わないが、思い切り暴れられてとても楽しかった。
だが、己の主が畏まって自分を見つめた時、今日は最悪な日になると思った。
何故ならそれは、シルクが最も嫌いなサークの顔だったからだ。
「ヤダよ。絶対!ヤダからっ!!」
何もまだ言われていなかったが、シルクは反射的にそう言った。
言われたサークは、少し面食らいながらもバツの悪い顔をする。
「まだ何も言ってないだろ……。」
「でも、俺の返事は決まってる。絶対、嫌だ。」
サークは内心、頭を抱えた。
確に今から言う事を聞いたら、シルクは開口一番、その答えを出しただろうからだ。
「お前な……。」
「嫌だよ。どこに行くつもりか知らないけど、俺は一緒に行く。」
その言葉にサークは今度こそ本当に頭を抱える。
さっきまで楽しげに食事をしていたのに、いきなり剣呑に言い合いを始めた2人を、周囲は何事かと振り返った。
「シルク……。」
「もう置いていかれるのは嫌なんだ!主だって、俺を連れて行く為に中級冒険者資格を取らせたんじゃなかったのかっ!?なのに何でだよっ!!」
「………ごめん。」
サークは諦めて謝った。
どうやらもう、自分が何をしようとしているかはバレバレのようだ。
シルクはサークを怒鳴りながらも、涙目になっている。
「ごめん……。だが、思った以上に状況が悪かった。お前を連れて行くには危険すぎるんだ……。」
サークは素直に、本当の気持ちを話した。
行こうとしているのは南の国だ。
はじめから行くつもりでいた。
だからシルクに中級冒険者資格を取らせて、その同行者として行動しようと思っていたのだ。
同行者なら名前を書くだけなので、偽名でも可能そうだったからだ。
だが魔術本部で話を聞いて、かの王太子がどういう意味で自分を欲しがっているのか知り、そしてその異常さに気付いた。
彼はきっと、自分を見つけたならば手段を選ばないし、他の人間がどれだけ死のうと気に留めないだろう。
それこそ、サークの生死すら問わないかもしれない。
だから己の主を守ろうとするシルクは邪魔だ。
真っ先に排除されるだろう。
さっくり殺してくれるならまだいい。
だがシルクはカイナの民であり、演舞継承者。
そして何より、この男は美しい。
下手をすれば、死ぬより辛い状況で生き続けなければならなくなる。
その手の苦しみは、シルクは十分すぎるほど受けたはずだ。
そこから救い上げた筈なのに、更なる深みに落とす訳にはいかない。
サークにとって、シルクは従者であり己の片腕である以上に大事な友人なのだ。
「俺の勝手な自己満足なのはわかってる。それでも俺はお前に、幸せな人生を歩んで欲しいと思ってる。」
「何が幸せかは!主が決める事じゃない!!俺の心が決める事だっ!!」
「わかってる。だからこれは俺の勝手な自己満足だ。でも、お前は十分、辛い目にあった。そしてそれを乗り越えてきた。」
「主がいたからだよ!主が俺と一緒に歩いてくれたからだ!!主があの時、俺を見つけてくれたから!あの時、俺を引き上げてくれたからっ!一緒にいてくれたから!だから戦えたんだっ!!だから乗り越えられたんだっ!!」
「うん。俺もお前といることで凄く救われた。もがき苦しんでも絶対に諦めなくて、うまく進めなくても、過去に苛まれても、それでも懸命に生きるお前といると俺も救われたんだ。」
「だったらこれからもずっと一緒にいてよ!いさせてよっ!!」
「だからこそなんだ。お前は守りたい。もう何の不幸も見ずに、感じずに、幸せになって欲しいんだ。」
「そんなのは主の勝手に決めた幸せじゃんかっ!!俺はそんなの幸せじゃないっ!!」
「シルク……。」
「俺、主にお前だけは地獄に連れて行くからって言ってもらった時!凄く幸せだった!!軍と戦わないといけない時、ちゃんと俺を呼んでくれたの!本当に嬉しかった!!」
思いの外シルクが興奮してしまった。
今更ながら部屋で音消しをしてから話すべきだったと思った。
周りの皆は、話に割って入って来たりはしないが黙って俺達の話を聞いている。
「確に変だよ!安全じゃない危険に晒される事を要求されて幸せに思うなんて!でも俺にとっての幸せは!主と引き離されてでも、ぬくぬくと幸せに暮らす事じゃない!!死ぬその時まで!主の横で戦っている事だっ!!置いていくって言われるくらいなら!連れて行けないから今すぐここで死ねって言われた方が幸せだっ!!」
「シルク……。」
「置いていくって言うなら言えよ!連れて行けないから今ここで死ねってっ!!」
シルクが叫んでいた。
怒りで怒鳴ってるんじゃない。
哀しくて叫んでいるんだ。
俺を責めてるんじゃない。
悲しくて寂しくて辛くて苦しくて、どうしようもなくて叫んでいるんだ。
「……頼むから……っ!!」
シルクはそう言ってテーブルに顔を伏せた。
その体は細かく震え、声を殺して泣いていた。
俺は間違っているのだろうか?
シルクの幸せを願っているのに、俺は間違っているのだろうか?
もう、辛い目に合わずに幸せになって欲しいんだ。
幸せを願っているだけなのに、何でこんなに辛いんだろう?
何でこんなにシルクを苦しめているんだろう?
どうしてこんなに苦しいんだろう?
酷く鼻がツンとして、目頭が熱くなった。
あの南の国での足止めの時、援軍が来たのを見て俺は自分が甘かったと思った。
俺自身は鍵がある。
鍵付きのドアなんてどこにでもある。
最悪、牢屋でもいいのだから。
でも、お前は通せない。
置いていかなければならないと気づいた時、なんて無責任な主だろうと思ったんだ。
シルクにとって、俺の命令は絶対だ。
だから、どんなに理不尽で苦しくて悲しくても、俺に残れと言われたら、最終的にそうするしかないのだ。
そして待てと言われていなくても、戻ってくるかもしれない、また声がかかるかもしれないと言う僅かな光のせいで、死ぬ事も許されないのだ。
それは壮絶な事だろう。
でも、連れて行ってもしもの事があったら、俺はどうしたらいい?
傷つけられるお前を助けられなかったら、俺はどうしたらいい?
答えは出なかった。
聞いていた冒険者達も、誰一人声をかけては来なかった。
それが自分達が簡単に首を突っ込んでいい問題ではない事を知っていたし、どちらの言い分も理解できるからだ。
大事だから、守りたいから、連れていけない。
大事だから、守りたいから、それがどんなに危険でも一緒にいたい。
どちらも当然の主張だ。
どちらも相手を本気で大切に思っているからこそ、その想いが強まり譲れないのだ。
冒険者の様な生き方をしていれば、誰にでもそう言った想いに苛まれた事はある。
だから、簡単に口を出していい話ではないと誰もが知っていたのだ。
さっきまでワイワイと楽しい食事と酒に湧いていた酒場は、しんみりとした静けさに満ちていた。
誰も言葉を発せず、時折、誰かが酒を喉に流し込む音がするだけ。
そんな静寂の中に、ふと、タバコの香りが微かに鼻を擽った。
「……全く、あんたらは静かに飯も食えないのかい?!」
誰も音を立てていない無音の空気に、少しチグハグなその言葉がゆっくり辺りに漂っていた。
30
あなたにおすすめの小説
ふたなり治験棟 企画12月31公開
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる