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葵ちゃんと誤解を解く2人

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 昼飯を食べ損なった怜はお腹を鳴らしながら、だらーんと授業を受けていた。そして旬に見られたシーンが頭をよぎる度、顔を赤くし、頭をかいた。
 幸いなことに5限は旬と同じ教室でなかったので、怜は精神統一し、旬への誤解を解くための言い訳を考えた。

(はぁ~、これは面倒臭いことになったぞ。体育館裏で女子と2人きりなんてもう恋人同士か告白をする前みたいなもんじゃん。最悪だ。そして唯一見られたくない旬に見られた。まだ別の知らないやつとか陰キャだったらまだ、広まらなかったのに、あのおしゃべりマンの旬に見られたら、相当な言い訳じゃないとダメらしい。いっそ殺してみっかなぁ。あいつの記憶いじりてぇ。でもまぁそんなことできないからいい言い訳でも考えよう)

 怜はシャーペンのカチカチっと押したり、シャー芯を入れたりと繰り返しながら考えた。
 そして鐘がなり、5限が終わった。怜は立ち上がり、とりあえず考えついた言い訳を話しに6限の教室へと向かった。
 6限の教室に入ろうとした瞬間、旬が友達に何かを話そうとしていた。怜は聞き耳をたてると、旬は「あの怜がさー」と話しを切り始めた。
 怜は猛スピードで走り、ライオンが餌にかぶりつくように旬の口を抑えた。

「んん!? んん! ゔゔ」
「おい旬少し話がある。ちと顔出せや」

 怜は旬を強制的に引きずり、屋上へと連れ出した。授業の始まりの鐘がなるが、そんなこと怜にはもう関係はなかった。もがく旬に対し、怜は怒りながら屋上の階段を登っていった。
 屋上にたどり着くと、旬を解放した。旬は大きく口を開け、新鮮な外の空気を吸った。そして鬼の形相で怜に怒鳴った。

「おい怜! どうゆうことだよ! 人の口を抑えながら屋上に引きずるって。しかも授業強制的に休まされるし、俺なんか悪いことしたか」

 怒鳴ってくる旬に対し、怜はもう怒りを抑えることができなかった。拳を握り、怜も負けじと怒鳴った。

「何が悪いことしてねぇだよ! お前は俺の誤解を広めるつもりか! いいかよーく話を聞けよ」

 逆ギレしてきた怜に旬は驚き、落ち着いて怜の話を聞いた。昔から早とちりが激しい旬は怜にとって、場合には災難に巻き込まれる存在だった。
 怜は真剣な顔で話した。

「よく聞けよ旬。俺はあの子とは付き合っていない。そして告白もしていない。ただの友達だ。俺はあそこであの子が落としたものを拾ってあげただけだ。わかったか?」
「あぁよくわかった。俺が悪かったよ。話も聞かないで飛び出して、でも俺さ、怜に彼女ができたと思って嬉しかったと思う。だが、すまない。この通りだ」

 話をわかってくれた旬は頭を下げ、真面目に誤った。怜も素直に誤ってくれて嬉しかった。そこで大切なことはもう1つ。旬がどのくらいバラしたのかだ。怜は恐る恐る聞いた。

「それで、誰に話したんだ?」
「あぁー、でもな5限には友達全然いなかったから誰にも話してねぇぞ。でもさぁ、もうあの子と友達になったのか? お前のコミュ力すげぇな」

 誰にも話していないと聞き、怜は一安心した。しかし、予想外にも口が滑って友達といってしまったため、怜はどう話そうか迷った。そこで怜は始業式の日を思い出し、旬に話した。

「おい、覚えているか? 始業式の時、俺がダァッて飛び出したこと」
「あぁ覚えてるぜ。何を見たのか知らないけど、なんか取り憑かれていんのかと思ったよ」
「実はあの日に俺は、あの子にちと目をつけたんだよ。だから落し物を拾って、頑張って友達になったってことだよ」
「お前やるなぁ」

 2人の会話は終わることを知らず、他愛もない会話を1時間ずっと屋上で話していた。
 夢中で話していると時間はあっという間で6限の終わりの鐘が、鳴り響いた。

「怜、今日は悪かったな。チャイムが鳴ったから部活行ってくるわ。帰り気をつけてな」
「おう!」

 旬はサッカーの部活があるため、急いで屋上から降りて、グランドへ向かった。
 話の余韻が残る怜だが、夕日を見つめ、帰ろうと思ったが、リュックの中にいる葵を呼んだ。

「葵ちゃん。出てきていいよ。ちょっと夕日でも見ながら話そうぜ。まだ話の余韻が残っているんだ」

 葵はリュックからプカプカと浮かび出てきた。肩を動かし、なんだか肩を凝っている会社員に見えた。でも、やっと出てこれて嬉しそうだった。

「いいよ! それで何の話するの?」
「そうだなぁ、あの時戦った話しなんだけどさぁ。スノードームは出せなかったのに何で急にあの銃が出てきたんだ?」
「えー? なんのこと? スノードーム? 銃? 葵そんなもの出したの?」

 怜の質問に対し、ふざけているのか本当なのか葵はあの時、リリィ戦で戦った記憶を半分以上忘れていた。流石に驚いた怜は葵の目を見て、表情を硬くし質問した。

「そ、そっか。覚えてないなら仕方ない。あの時相当俺ら体力消耗したもんな。忘れても仕方ない。じゃ戦う前の記憶、つまりスーパーの行った記憶は?」
「あぁそれはバッチリ覚えてるよ。怜が葵に10円ガム押し付けたやつでしょ」

 葵の嫌な思い出を思い出させてしまったが、怜は覚えていてくれて一安心した。しかし、戦いの記憶、葵自身が武器になった時の記憶はないらしい。色々話の整理ができると怜は優しく葵を見て話した。

「よし! そろそろ帰るか」
「うん! 今日のご飯はなんだろう」

 夕日が赤オレンジに輝く中、怜は翔子の家に向かおうと下駄箱に靴を入れていた。
 そこに丁度柚奈が通りかかった。葵はきちんとリュックの中に入っていたので、柚奈からは見えなかった。
 怜は柚奈と目が合い、少し顔を赤くした。
 柚奈は靴を履き、怜に話しかけた。

「先輩、お疲れ様です。ところで何で顔がそんなに赤いんですか? まさか私に惚れました?」
「え、はぁ!? んなわけねぇだろ。夕日のせいだよ」
「ふーん」

 2人は歩き出し、翔子の家に向かった。帰る途中柚奈は今日の旬の誤解について話を切り出した。

「ところで先輩。先輩のお友達さんなんですけど、誤解は解けました?」
「バッチリだぜ。俺の言い訳であいつのバッチリ理解してもらったぜ」
「どんな言い訳ですか?」
「俺は柚奈の落し物を拾ってたんだよって」
「そうなんですね」

 柚奈は誤解が解けたことは嬉しかったが、どことなく少し、寂しかった。そんな怜は旬との他愛もない会話を柚奈に教えてあげた。

「でさぁー、あいつ彼女いるのに始業式の日俺を可愛い1年生探しに行こうぜって誘ってきたんだぜ」
「そうなんですね。あ、ところで先輩。私のこと友達って言ってましたけど、先輩のお友達からしたら私の出会いはどこってなりますよね? そこは聞かれなかったんですか」

 怜は肝心なところを突かれ、脳をフル回転しながら考えた。その間表情は硬く固まった。柚奈は不思議そうに怜の顔を見つめた。そう、怜は本当のことを言えなかったのだ。言ってしまえば、自分の顔が赤くなってバカにされると思ったからである。
 怜は顔を赤くして答えた。

「そ、それは秘密だ!」
「えっ! 何で教えてくれないんですか? 先輩どうしてですか。またアリもないことを言ったんですね。最低です」
「お前はどんな解釈をすればそうなるんだよ」

 2人は夕日に照らされなあがら、楽しく会話をし、翔子の家に向かった。
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