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葵ちゃんと影山先生の正体

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 昼休みの時間になった。陰キャたちは群れる草食動物たちのようにのそのそと歩き、どこかへと消えていった。対する陽キャたちは各グループに別れて別々で教室に戻っていった。陽キャの中でも何か分かれるものがあるんだなと怜は思い、差別的な目線を送った。
 旬が近づき、いつものように学食に誘ってきた。
 怜は影山先生のことを思い出し、なんとか断ろうとした。

「なぁ怜! 今日は何食べるんだ?」
「あぁ、そうだなぁ。あ! いっけね、俺先生に呼び出しくらってたから、先行って、すぐに俺もいくから」
「おぉ。そうか。わかった。遅くなんなよ」

 怜は制服に着替えると急いで、葵をリュックの中に押し込み、走って職員室に向かった。
 急いで廊下を走る怜を柚奈は目撃すると、少し嫌な予感がした。柚奈は友達に謝り、怜の後を追った。

「申し訳ないですが、ちょっと野暮用ができました。すぐ帰ってくるので」
「あ~わかったよー、行ってらっしゃい」

 柚奈の友達は髪を一本に結び、メガネをしているおっとりした子だった。
 柚奈はお弁当を置いていき、走り出した。
 怜は職員室につき、ドアの前で考え込んでいた。その様子を隠れながら見ていた柚奈は何してんだこいつと思いながら、不審者を見るような眼差しで、見ていた。

(先輩、あんなところで何してるんだろう? あぁもう焦れったいですね。はいりたかったら入ればいいのに。私が行って先輩の手助けでもしてあげますか。いや待てよ。ここで私が先輩にいつものように話しかけられるはずがない。なぜなら今は喧嘩中だからです。でももし、月影のことであったら私は絶対に止めに入らなくてはいけなさそうですね。まさか先輩が月影の存在に気づくわけないし、大丈夫か)

 柚奈がその場を離れようとした瞬間、怜が職員室のドアを開ける音がした。柚奈は振り返り、ガン見した。
 怜は失礼しますと一歩中に入り、誰かを呼んだ。

「失礼します。冬風です。影山先生に用があってきました。影山先生、今時間よろしいでしょうか」
「あら、冬風くんどうしたの? いいわよ。少しなら時間は取れるわ」

 影山先生が了承すると、怜は先生と一緒に廊下に出た。
 柚奈は怜が影山先生を呼び出したことにハッと驚き、急いで怜のところに走っていった。葵はリュックの中で暇そうにしていた。

「あの先生! 私も先生に話したいとこがあるので、先輩も一緒で体育館の裏にでも散歩にでも、い、行きましょう」
「あらあら、神野さんまで。わかったわ。少し付き合ってあげるわ」
「はぁー? なんで柚奈ちゃんもくんだよ」

 文句を言う怜に対し、柚奈は鬼の形相で怜を睨んだ。怜はビビり、渋々柚奈も同行することになった。
 体育館お裏に着くと、柚奈は周りに人気がないか、あたりを見回し、確認した。
 そしてゴホンと咳払いをして柚奈は話し始めた。

「まずは先輩から、影山先生に何の用があったんですか?」
「そ、それはー、その。影山先生の正体を確かめるためだよ。せ、先生! 先生はあれんだですか。そのー」

 はっきりしない怜に対し、影山先生はニコリと微笑むと柚奈の方を向き、頷いた。

「まぁ人気もないようですし。いいでしょう。先生を見抜いたご褒美に」

 影山先生は小さな手のひらサイズの墓石をポケットから取り出した。目を瞑り墓石に何かを念じると影山先生の顔は変わっていった。
 怜は目をこすり、よく見ると翔子の守護霊、月影の姿だった。怜はわかっていたものの、驚いて一歩下がった。
 月影は微笑み、怜に話しかけた。

「少し驚きましたか? この墓石の能力には『存在化』という力が宿っています。上級の守護霊使いでないとその守護霊は存在化できません。私は翔子様の霊力を分けていただき、存在しています」
「す、すげぇ。でも何で学校なんかに潜入しているんだ?」
「潜入ですか。これでも私立派な先生なんですよ。きちんと資格も取っていますし、詳しい話は後ほど」

 そう言うと月影は、再度墓石に念を込め、顔を変えた。先生はそのまま職員室に戻ってしまった。
 はぁとため息をついた柚奈は怜に話しかけた。

「先輩、あんなところで話をされるのは困ります。きちんと場を弁えて話をしてください」
「あぁごめん。何だか今週は俺謝ってばっかだな。よし、責任を持って行動する。柚奈ちゃん。悪かった」

 素直に謝る怜に対し、柚奈は色々思う節があり、柚奈も自分にも非があると思い、頭を下げた。

「先輩。あ、あの……私も、朝はす、すみません。なんて言うか、見られたのが恥ずかしくて怒ってしまったのは仕方ないですが、わざと先輩を起こさなかったり、朝学校でも先輩をバカにして、すみませんでした」
「柚奈ちゃん……そうだなぁ、これからもよろしくな」
「こ、これで、お互い様で終わりです。今日は自分ちに帰ってくださいね」

 柚奈は顔を赤くしながらも無事謝ることができた。柚奈は照れた勢いで、家には来るなといってしまった。
 怜は困り、柚奈の気持ちがわからなかった。

「おいおい、勘弁してくれよ。今日は月影が後ほどって今さっき行ってたじゃん。だから今日も俺はあそこに泊るぜ」
「あ、そうでしたね。分かりました。今日だけはいいでしょう」

 いきなりツンデレになる柚奈に対し、怜はどんな風に受け答えすればいいか困った。
 そこへ、走りながら旬がきた。怜は急いでスマホを見るともう昼休み終了まであと5分だった。そう、心配になった旬が探しにきてくれたのだ。
 しかし、怜は柚奈と2人っきりだった。この状況を旬に目撃され、怜は慌てた。同じく柚奈も顔を真っ赤にしてどう説明するか考えた。
 空気を読めない旬は怜のことを指差し、ニヤリと笑った。

「おい怜! お前等々彼女できたのか!? やったなぁ。それならそうと早く俺にも教えてくれよ。じゃ俺、先に行ってるわ」
「おいおい待て待て旬! 違うんだ。これはたまたま出会ってしまって」
「そうですそうです。私たちただの友達で」

 2人の話を聞かないで、旬は邪魔をしないよう走っていってしまった。
 怜と柚奈は頭を抑え、恥ずかしくなった。
 その後2人は一言も話さずに、次の教室に向かった。
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