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この世で一番最初の娘たちと、その婿たちの話。
仕立屋のポイベと、薫香のエクサエル。
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さてその日、この世で最初の仕立屋さんのポイベは、蜜の入った小さな壺と水を汲む小さな瓢と、パン種の入っていない薄焼きパンを持って出かけました。
ポイベは毛玉牛たちを太らせ、良い乳と毛をとるために、良い草の茂る牧場へ向かいました。
すると牧場には黄色の服を着た、今までに見たことのない人がいました。
もっとも、この世にはポイベと姉妹たちと両親以外の人がおりませんから、それ以外の人はみな見たことのない見知らぬ人なのですけれども。
黄色の服の人は背丈が高く、手足が長く、額から角のように尖った光が輝き出でていました。
ポイベは大変驚いて地面にひれ伏しました。すると黄色の服の人は言いました。
「顔を上げなさい。私を拝んではいけません。私はこの世で最も尊い御方の使徒です」
そのお声がとても優しいので、ポイベは言われたとおりに顔を上げました。
「この世で最も尊い御方の使徒のあなたが、大地に何の御用でおいでなのですか?」
恐る恐る訊ねますと、黄色の服の人はにっこりと笑いました。
「あなたとあなたの姉妹たちの良い夫となるためです」
その笑顔がとても優しいので、ポイベは体を起こして立ち上がりました。
「あなたは私の姉妹のうちの、誰の夫となるためにおいでになったのですか?」
恐る恐る訊ねますと、黄色の服の人はにっこりと笑いました。
「私はあなたの夫となるために、銀の雲の神殿から、あなたに最も相応しい結納の品を持って下ってきました」
黄色の服の人はそういいますと、ポイベの顔の前で一つの包みを開きました。ポイベには包みの中のものが貝殻の中に閉じこめられた夕日に見えました。
しかし黄色の服の人は、
「これは晴れの紅です。この赤い染料は美しい布を美しく染め上げます。この染料で美しく布や糸を染められたなら、その人は美しい人でしょう。美しく染められないならないなら、その人は美しくない人でしょう」
と言いました。
ポイベは紅の染料という物を知りませんでした。この世にはまだ染料が無かったのです。なにしろこの世には人が九人しかおりませんでしたし、その九人が九人とも染料を作る仕事をしていなかったのですから、仕方がありません。
ポイベはそっと紅の入った貝殻を手に取りました。白い貝殻の上で赤黒く光る紅を見つめていると、命の力も体の力も大きくふくれあがる気がしました。
「まあ、なんて不思議な染料でしょう。私は今までに、こんなに不思議な色を見たことはありません。……そうこれは、まるで私のお父さんの血潮にそっくりです」
ポイベが心から驚いた様子で、大きな声で言いました。何分、ポイベは初めて紅を見たものですから、その美しさを自分が一番力強いと思っている物に例えるより他に褒め称える術を知らなかったのです。
ポイベは黄色の服の人が素晴らしい贈り物をしてくれましたので、たいそう嬉しくなりました。黄色の服の人もポイベが自分の贈り物を喜んでくれたので、たいそう嬉しくなりました。
黄色の服の人は、紅を眺めるポイベに言いました。
「どうか私をあなたの両親の所へ連れていってください。あなたと私の結婚を許して貰いたいから」
「ですが私はあなたのことを少しも知りません。少しも知らない人を両親の所に連れていっても、両親はきっと良いと言ってはくれないでしょう」
そう言っているうちに、ポイベは悲しくなりました。ポイベが悲しそうにしているのを見ていると、黄色の服の人も悲しくなってきました。
「あなたの言うとうりです。私はあなたに私の名前の秘密を教えましょう。私の名前には力があります。名前を知っている人は私の力と同じ力を得るでしょう。それは私の総てを知るのと同じ事です」
ポイベは涙を拭って訊ねました。
「あなたの名前は何というのですか?」
「私はエクサエル。良き香りのする者です」
黄色の服のエクサエルの名前を聞いた途端、ポイベの全身に力と希望が湧いてきました。
「愛しい方、すぐに行きましょう。あなたのような力強い方であれば、きっと父も母も喜んで結婚を許してくれれるでしょう」
ポイベは家を出るときに持ってきた蜜の壺と水の瓢とパンの包みをその場に投げ出すと、紅を胸に押し抱いて駆け出しました。
さて、黄色の服のエクサエルはポイベに案内されて、この世で最初の家族の住む家にやってきました。
この世で最初のお父さんは紫の服のアシズエルと黄緑の服のムルキブエルと灰褐色の服のコカバイエルの四人で石ころだらけの畑を耕していました。黄色の服のエクサエルはこの世で最初のお父さんの前の乾いた土に膝を突いて頭を下げました。
この世で最初のお父さんには、この人が人の子でないことがすぐにわかりました。紫の服のアシズエルがあと六人の兄弟が来ると言っていましたし、黄緑の服のムルキブエルもあと五人の兄弟が来ると言っていましたし、灰褐色の服のコカバイエルもあと四人の兄弟が来ると言っていましたたから、この人も彼と同じように御使いの一人に違いないのです。
この世で最初のお父さんは黄色の服の人にたずねました。
「人の子でないあなたが、何故人の子を娶ろうとするのですか?」
黄色の服のエクサエルは答えました。
「天で最も尊い御方が大地に人が満ちるようにと命ぜられたのに、この世には娘たちの夫となる人間が生まれてきません。ですから私たちが来たのです。どうか私をあなたの娘御の夫に迎えてください」
この世で最初のお父さんは、黄色の服のエクサエルが言うことは尤も正しいと思いました。天の御使い以上に娘に相応しい夫はいないとも思いました。
ですがこの世で最初のお父さんは、首を横に振りました。
「ポイベは私の四番目の娘で、この上に三人の姉がいます。上の娘より先に下の娘を嫁がせる訳には行きません。どうか上の娘たちに良い夫が現れるまで待ってください」
黄色の服のエクサエルは、この世で最初のお父さんが言うことは尤も正しいと思いました。物事の順序は正さないといけないとも思いました。
そこで黄色の服のエクサエルは言いました。
「私にはあと三人の兄弟がいます。きっと彼等は私の妻の姉妹たちにとって良い夫となるでしょう」
この世で最初のお父さんは答えて言いました。
「それならばあなたはあなたの兄弟たちが来て、あと三人の私の娘たちがみな結婚するまで、私の仕事を手伝って働くことになります。そうでなければ、あなたはポイベの夫にはなれません」
黄色の服のエクサエルはどうしてもポイベを奥さんにしたかったので、この世で最初のお父さんの言うとおり、畑の仕事を手伝うことにしました。
ポイベは毛玉牛たちを太らせ、良い乳と毛をとるために、良い草の茂る牧場へ向かいました。
すると牧場には黄色の服を着た、今までに見たことのない人がいました。
もっとも、この世にはポイベと姉妹たちと両親以外の人がおりませんから、それ以外の人はみな見たことのない見知らぬ人なのですけれども。
黄色の服の人は背丈が高く、手足が長く、額から角のように尖った光が輝き出でていました。
ポイベは大変驚いて地面にひれ伏しました。すると黄色の服の人は言いました。
「顔を上げなさい。私を拝んではいけません。私はこの世で最も尊い御方の使徒です」
そのお声がとても優しいので、ポイベは言われたとおりに顔を上げました。
「この世で最も尊い御方の使徒のあなたが、大地に何の御用でおいでなのですか?」
恐る恐る訊ねますと、黄色の服の人はにっこりと笑いました。
「あなたとあなたの姉妹たちの良い夫となるためです」
その笑顔がとても優しいので、ポイベは体を起こして立ち上がりました。
「あなたは私の姉妹のうちの、誰の夫となるためにおいでになったのですか?」
恐る恐る訊ねますと、黄色の服の人はにっこりと笑いました。
「私はあなたの夫となるために、銀の雲の神殿から、あなたに最も相応しい結納の品を持って下ってきました」
黄色の服の人はそういいますと、ポイベの顔の前で一つの包みを開きました。ポイベには包みの中のものが貝殻の中に閉じこめられた夕日に見えました。
しかし黄色の服の人は、
「これは晴れの紅です。この赤い染料は美しい布を美しく染め上げます。この染料で美しく布や糸を染められたなら、その人は美しい人でしょう。美しく染められないならないなら、その人は美しくない人でしょう」
と言いました。
ポイベは紅の染料という物を知りませんでした。この世にはまだ染料が無かったのです。なにしろこの世には人が九人しかおりませんでしたし、その九人が九人とも染料を作る仕事をしていなかったのですから、仕方がありません。
ポイベはそっと紅の入った貝殻を手に取りました。白い貝殻の上で赤黒く光る紅を見つめていると、命の力も体の力も大きくふくれあがる気がしました。
「まあ、なんて不思議な染料でしょう。私は今までに、こんなに不思議な色を見たことはありません。……そうこれは、まるで私のお父さんの血潮にそっくりです」
ポイベが心から驚いた様子で、大きな声で言いました。何分、ポイベは初めて紅を見たものですから、その美しさを自分が一番力強いと思っている物に例えるより他に褒め称える術を知らなかったのです。
ポイベは黄色の服の人が素晴らしい贈り物をしてくれましたので、たいそう嬉しくなりました。黄色の服の人もポイベが自分の贈り物を喜んでくれたので、たいそう嬉しくなりました。
黄色の服の人は、紅を眺めるポイベに言いました。
「どうか私をあなたの両親の所へ連れていってください。あなたと私の結婚を許して貰いたいから」
「ですが私はあなたのことを少しも知りません。少しも知らない人を両親の所に連れていっても、両親はきっと良いと言ってはくれないでしょう」
そう言っているうちに、ポイベは悲しくなりました。ポイベが悲しそうにしているのを見ていると、黄色の服の人も悲しくなってきました。
「あなたの言うとうりです。私はあなたに私の名前の秘密を教えましょう。私の名前には力があります。名前を知っている人は私の力と同じ力を得るでしょう。それは私の総てを知るのと同じ事です」
ポイベは涙を拭って訊ねました。
「あなたの名前は何というのですか?」
「私はエクサエル。良き香りのする者です」
黄色の服のエクサエルの名前を聞いた途端、ポイベの全身に力と希望が湧いてきました。
「愛しい方、すぐに行きましょう。あなたのような力強い方であれば、きっと父も母も喜んで結婚を許してくれれるでしょう」
ポイベは家を出るときに持ってきた蜜の壺と水の瓢とパンの包みをその場に投げ出すと、紅を胸に押し抱いて駆け出しました。
さて、黄色の服のエクサエルはポイベに案内されて、この世で最初の家族の住む家にやってきました。
この世で最初のお父さんは紫の服のアシズエルと黄緑の服のムルキブエルと灰褐色の服のコカバイエルの四人で石ころだらけの畑を耕していました。黄色の服のエクサエルはこの世で最初のお父さんの前の乾いた土に膝を突いて頭を下げました。
この世で最初のお父さんには、この人が人の子でないことがすぐにわかりました。紫の服のアシズエルがあと六人の兄弟が来ると言っていましたし、黄緑の服のムルキブエルもあと五人の兄弟が来ると言っていましたし、灰褐色の服のコカバイエルもあと四人の兄弟が来ると言っていましたたから、この人も彼と同じように御使いの一人に違いないのです。
この世で最初のお父さんは黄色の服の人にたずねました。
「人の子でないあなたが、何故人の子を娶ろうとするのですか?」
黄色の服のエクサエルは答えました。
「天で最も尊い御方が大地に人が満ちるようにと命ぜられたのに、この世には娘たちの夫となる人間が生まれてきません。ですから私たちが来たのです。どうか私をあなたの娘御の夫に迎えてください」
この世で最初のお父さんは、黄色の服のエクサエルが言うことは尤も正しいと思いました。天の御使い以上に娘に相応しい夫はいないとも思いました。
ですがこの世で最初のお父さんは、首を横に振りました。
「ポイベは私の四番目の娘で、この上に三人の姉がいます。上の娘より先に下の娘を嫁がせる訳には行きません。どうか上の娘たちに良い夫が現れるまで待ってください」
黄色の服のエクサエルは、この世で最初のお父さんが言うことは尤も正しいと思いました。物事の順序は正さないといけないとも思いました。
そこで黄色の服のエクサエルは言いました。
「私にはあと三人の兄弟がいます。きっと彼等は私の妻の姉妹たちにとって良い夫となるでしょう」
この世で最初のお父さんは答えて言いました。
「それならばあなたはあなたの兄弟たちが来て、あと三人の私の娘たちがみな結婚するまで、私の仕事を手伝って働くことになります。そうでなければ、あなたはポイベの夫にはなれません」
黄色の服のエクサエルはどうしてもポイベを奥さんにしたかったので、この世で最初のお父さんの言うとおり、畑の仕事を手伝うことにしました。
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