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この世で一番最初の娘たちと、その婿たちの話。

料理人のジョカと、大鷲のニスロクエル。

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 さてその日、この世で最初の料理人さんのジョカは、蜜の入った小さな壺と水を汲む小さな瓢と、パン種の入っていない薄焼きパンを持って出かけました。

 ジョカは両親と姉妹たちの食事を作るための、良い塩をとるために、良い塩水の出る井戸へ向かいました。
 すると井戸のそばには褐色の服を着た、今までに見たことのない人がいました。
 もっとも、この世にはジョカと姉妹たちと両親以外の人がおりませんから、それ以外の人はみな見たことのない見知らぬ人なのですけれども。
 褐色の服の人は背丈が高く、手足が長く、額から角のように尖った光が輝き出でていました。
 ジョカは大変驚いて地面にひれ伏しました。すると褐色の服の人は言いました。

「顔を上げなさい。私を拝んではいけません。私はこの世で最も尊い御方の使徒です」

 そのお声がとても優しいので、ジョカは言われたとおりに顔を上げました。

「この世で最も尊い御方の使徒のあなたが、大地に何の御用でおいでなのですか?」

 恐る恐る訊ねますと、褐色の服の人はにっこりと笑いました。

「あなたとあなたの姉妹たちの良い夫となるためです」

 その笑顔がとても優しいので、ジョカは体を起こして立ち上がりました。

「あなたは私の姉妹のうちの、誰の夫となるためにおいでになったのですか?」

 恐る恐る訊ねますと、褐色の服の人はにっこりと笑いました。

「私はあなたの夫となるために、銀の雲の神殿から、あなたに最も相応しい結納の品を持って下ってきました」

 褐色の服の人はそういいますと、ジョカの顔の前で一つの包みを開きました。ジョカには包みの中のものが壺に詰め込まれた液体の琥珀に見えました。
 しかし褐色の服の人は、

「これは風の酒です。この酒は美しい気分を美しく高揚させます。この酒を飲んで美しい物を見られたなら、その人は美しい人でしょう。美しい物を見られないなら、その人は美しくない人でしょう」

 と言いました。
 ジョカはお酒という物を知りませんでした。この世にはまだお酒が無かったのです。なにしろこの世には人が九人しかおりませんでしたし、その九人が九人ともお酒を作る仕事をしていなかったのですから、仕方がありません。
 ジョカはそっとお酒の入った壺を手に取りました。ゆらゆらと揺れる液体から立ち上る香気を嗅ぐと、何事にも代え難い良い気持ちになりました。

「まあ、なんて不思議な水でしょう。私は今までに、こんなに不思議な水を見たことはありません。……そうこれは、まるで私のお母さんのお乳にそっくりです」

 ジョカが心から驚いた様子で、大きな声で言いました。何分、ジョカは初めてお酒を見たものですから、その美しさを自分が一番おいしかったと思っている物に例えるより他に褒め称える術を知らなかったのです。
 ジョカは褐色の服の人が素晴らしい贈り物をしてくれましたので、たいそう嬉しくなりました。褐色の服の人もジョカが自分の贈り物を喜んでくれたので、たいそう嬉しくなりました。
 褐色の服の人は、お酒を眺めるジョカに言いました。

「どうか私をあなたの両親の所へ連れていってください。あなたと私の結婚を許して貰いたいから」

「ですが私はあなたのことを少しも知りません。少しも知らない人を両親の所に連れていっても、両親はきっと良いと言ってはくれないでしょう」

 そう言っているうちに、ジョカは悲しくなりました。ジョカが悲しそうにしているのを見ていると、褐色の服の人も悲しくなってきました。

「あなたの言うとうりです。私はあなたに私の名前の秘密を教えましょう。私の名前には力があります。名前を知っている人は私の力と同じ力を得るでしょう。それは私の総てを知るのと同じ事です」

 ジョカは涙を拭って訊ねました。

「あなたの名前は何というのですか?」

「私はニスロクエル。鷲のごとき者です」

 褐色の服のニスロクエルの名前を聞いた途端、ジョカの全身に力と希望が湧いてきました。

「愛しい方、すぐに行きましょう。あなたのような力強い方であれば、きっと父も母も喜んで結婚を許してくれれるでしょう」

 ジョカは家を出るときに持ってきた蜜の壺と水の瓢とパンの包みをその場に投げ出すと、お酒の壺を胸に押し抱いて駆け出しました。

 さて、褐色の服のニスロクエルはジョカに案内されて、この世で最初の家族の住む家にやってきました。
 この世で最初のお父さんは紫の服のアシズエルと黄緑の服のムルキブエルと灰褐色の服のコカバイエルと黄色の服のエクサエルの五人で石ころだらけの畑を耕していました。褐色の服のニスロクエルはこの世で最初のお父さんの前の乾いた土に膝を突いて頭を下げました。

 この世で最初のお父さんには、この人が人の子でないことがすぐにわかりました。紫の服のアシズエルがあと六人の兄弟が来ると言っていましたし、黄緑の服のムルキブエルもあと五人の兄弟が来ると言っていましたし、灰褐色の服のコカバイエルもあと四人の兄弟が来ると言っていましたし、黄色の服のエクサエルもあと三人の兄弟が来ると言っていましたから、この人も彼と同じように御使いの一人に違いないのです。
 この世で最初のお父さんは褐色の服の人にたずねました。

「人の子でないあなたが、何故人の子を娶ろうとするのですか?」

 褐色の服のニスロクエルは答えました。

「天で最も尊い御方が大地に人が満ちるようにと命ぜられたのに、この世には娘たちの夫となる人間が生まれてきません。ですから私たちが来たのです。どうか私をあなたの娘御の夫に迎えてください」

 この世で最初のお父さんは、褐色の服のニスロクエルが言うことは尤も正しいと思いました。天の御使い以上に娘に相応しい夫はいないとも思いました。
 ですがこの世で最初のお父さんは、首を横に振りました。

「ジョカは私の三番目の娘で、この上に二人の姉がいます。上の娘より先に下の娘を嫁がせる訳には行きません。どうか上の娘たちに良い夫が現れるまで待ってください」

 褐色の服のニスロクエルは、この世で最初のお父さんが言うことは尤も正しいと思いました。物事の順序は正さないといけないとも思いました。
 そこで褐色の服のニスロクエルは言いました。

「私にはあと二人の兄弟がいます。きっと彼等は私の妻の姉妹たちにとって良い夫となるでしょう」

 この世で最初のお父さんは答えて言いました。

「それならばあなたはあなたの兄弟たちが来て、あと二人の私の娘たちがみな結婚するまで、私の仕事を手伝って働くことになります。そうでなければ、あなたはジョカの夫にはなれません」

 褐色の服のニスロクエルはどうしてもジョカを奥さんにしたかったので、この世で最初のお父さんの言うとおり、畑の仕事を手伝うことにしました。
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