36 / 97
最初の夫婦と最初の娘たちの話
この世界で最初の夫婦に、最初の逆子の赤ん坊が生まれた時のこと。
しおりを挟む
この世で最初のお百姓さんが耕す畑は少し広くなり、この世で最初の機織り職人が織る布は少し大きくななっていました。
でも相変わらずお百姓さんはこの世に一人しかおらず、機織り職人はこの世に一人しかおりません。
こういったわけですから、二人の間に赤ちゃんができて、月が満ちて明日にも赤ん坊が生まれるかも知れないと判っていても、この世で最初のお父さんは畑から離れるわけにはゆきませんでした。
月が満ちて明日にも赤ん坊が出てくるかも知れないと判ってみても、この世で最初のお母さんは糸錘を手放すわけには行きませんでした。
最初の時と違ったのは、この世にいるのは二人きりではなく、この世で最初の娘のフッラという産婆の役をできる三人目がいるということでした。
二番目の時と違ったのは、フッラの仕事を手伝ってくれる、マッハという四人目と、ジョカという五人目がいることでした。
この世で最初の赤ん坊で、この世で最初のお医者さんで、この世で最初のお産婆さんのフッラは、自分が生まれたときのことをよくよく思い出しました。それから双子の妹たちが生まれてきたときのこともよくよく思い出しました。
何がいるのか、どうすればよいのか、よくよく考えました。
そうして姉妹達は手分けして産湯を沸かし、手分けして産着を仕立て、手分けして準備を整えました。
それから、この世で最初のお母さんの大きなお腹に、よくよく聞こえる方の耳を当てました。
お母さんのお腹の中では、小さな心の臓の拍動が
「ととと、ととと」
と、籠もった音で鳴っておりました。
「私の弟妹はきっと逆子に違いない」
フッラが言いますと、お母さんは大変びっくりしました。
だって、この世にはこのお母さんより先に逆子のお母さんになった人が一人もないのです。
ですから、誰も逆子の取り上げ方を知りませんし、誰も逆子の取り上げ方を教えてはやれないのです。
兎にも角にも、ニガヨモギの黄色い花の咲いた頃、この世で最初のお母さんは産気づきました。
そうして、この世で最初の夫婦が住まいにしていた岩の洞窟の中の、布団にしていた藁の山の中で、最初の逆子の赤ん坊は生まれたのです。
この世で最初にお産婆さんになったフッラは、この世で最初の逆子のおしりが出てきたときに、
「臍の緒を絡ませないように」
と言いました。おしりから出てきた子の首に臍の緒が絡んでしまっては、息が詰まって大変だからです。
この世で最初のお産婆さんは小さなお尻に手を当てて、そおっと引っ張りました。
そうすると、この世で四番目に生まれてきた赤ん坊はとても元気よく、空を飛ぶような勢いでお母さんのお腹から飛び出てきたのです。
勢いの良さは、最初の赤ん坊や二番目の赤ん坊や三番目の赤ん坊の時と同じか、もっとずっとありました。
でも最初の時とはちがって、しっかり受け止めてくれるお産婆さんがおります。
産湯の準備も産着の準備も整っています。
でもお産婆さんのフッラは大慌てでした。
赤ん坊の体には臍の緒が袈裟懸けに二回り半も巻き付いていて、ちっとも産声を上げなかったからです。
この世で最初のお産婆さんは急いで赤ん坊の足を掴んで逆さまにして、背中をとんと叩きました。
逆子で生まれた娘は、ようやく大きな声で鳴き出しました。
この世で最初のお母さんは、赤ん坊を抱き上げて首を傾げました。畑から戻ってきたこの世で最初のお父さんも、とてもとても不安になりました。
逆子で生まれた赤ん坊を育てた人など、この世には一人だっていないのです。この世で最初の夫婦は心配になったのです。
するとこの世で最初の逆子の赤ん坊は、不安がる両親に向かって元気の良い声で言ったのです。
「お父さん、お母さん、ついこの間までこの世にはあなたたちしかいませんでした。
あなたたちが悲しむことは、この世の総てが悲しむことと同じででした。
でも今は私たち姉妹がおります。
この世に生まれてよろこんでいる私たちのために、この世には悲しみだけでなく、喜びの声にも満ちるでしょう。
お父さん、お母さん、ついこの間までこの世にはあなたたちしかいませんでした。
あなたたちが苦しむことは、この世の総てが苦しむことと同じでした。
でも今は私たち姉妹がおります。
私たちはお父さんを助けることができ、私たちはお母さんを助けることができます。
さあ泣かないで、悲しまないで。
どうかよろこんで、笑ってください」
この世で最初のお父さんとお母さんは大変よろこんで、この最初の逆子の赤ん坊を抱きしめました。
この世で最初のお父さんとお母さんは、この世で最初の逆子の娘にポイベという名前を付けました。
それは、黄色いニガヨモギの花の咲いた日のことでした。
でも相変わらずお百姓さんはこの世に一人しかおらず、機織り職人はこの世に一人しかおりません。
こういったわけですから、二人の間に赤ちゃんができて、月が満ちて明日にも赤ん坊が生まれるかも知れないと判っていても、この世で最初のお父さんは畑から離れるわけにはゆきませんでした。
月が満ちて明日にも赤ん坊が出てくるかも知れないと判ってみても、この世で最初のお母さんは糸錘を手放すわけには行きませんでした。
最初の時と違ったのは、この世にいるのは二人きりではなく、この世で最初の娘のフッラという産婆の役をできる三人目がいるということでした。
二番目の時と違ったのは、フッラの仕事を手伝ってくれる、マッハという四人目と、ジョカという五人目がいることでした。
この世で最初の赤ん坊で、この世で最初のお医者さんで、この世で最初のお産婆さんのフッラは、自分が生まれたときのことをよくよく思い出しました。それから双子の妹たちが生まれてきたときのこともよくよく思い出しました。
何がいるのか、どうすればよいのか、よくよく考えました。
そうして姉妹達は手分けして産湯を沸かし、手分けして産着を仕立て、手分けして準備を整えました。
それから、この世で最初のお母さんの大きなお腹に、よくよく聞こえる方の耳を当てました。
お母さんのお腹の中では、小さな心の臓の拍動が
「ととと、ととと」
と、籠もった音で鳴っておりました。
「私の弟妹はきっと逆子に違いない」
フッラが言いますと、お母さんは大変びっくりしました。
だって、この世にはこのお母さんより先に逆子のお母さんになった人が一人もないのです。
ですから、誰も逆子の取り上げ方を知りませんし、誰も逆子の取り上げ方を教えてはやれないのです。
兎にも角にも、ニガヨモギの黄色い花の咲いた頃、この世で最初のお母さんは産気づきました。
そうして、この世で最初の夫婦が住まいにしていた岩の洞窟の中の、布団にしていた藁の山の中で、最初の逆子の赤ん坊は生まれたのです。
この世で最初にお産婆さんになったフッラは、この世で最初の逆子のおしりが出てきたときに、
「臍の緒を絡ませないように」
と言いました。おしりから出てきた子の首に臍の緒が絡んでしまっては、息が詰まって大変だからです。
この世で最初のお産婆さんは小さなお尻に手を当てて、そおっと引っ張りました。
そうすると、この世で四番目に生まれてきた赤ん坊はとても元気よく、空を飛ぶような勢いでお母さんのお腹から飛び出てきたのです。
勢いの良さは、最初の赤ん坊や二番目の赤ん坊や三番目の赤ん坊の時と同じか、もっとずっとありました。
でも最初の時とはちがって、しっかり受け止めてくれるお産婆さんがおります。
産湯の準備も産着の準備も整っています。
でもお産婆さんのフッラは大慌てでした。
赤ん坊の体には臍の緒が袈裟懸けに二回り半も巻き付いていて、ちっとも産声を上げなかったからです。
この世で最初のお産婆さんは急いで赤ん坊の足を掴んで逆さまにして、背中をとんと叩きました。
逆子で生まれた娘は、ようやく大きな声で鳴き出しました。
この世で最初のお母さんは、赤ん坊を抱き上げて首を傾げました。畑から戻ってきたこの世で最初のお父さんも、とてもとても不安になりました。
逆子で生まれた赤ん坊を育てた人など、この世には一人だっていないのです。この世で最初の夫婦は心配になったのです。
するとこの世で最初の逆子の赤ん坊は、不安がる両親に向かって元気の良い声で言ったのです。
「お父さん、お母さん、ついこの間までこの世にはあなたたちしかいませんでした。
あなたたちが悲しむことは、この世の総てが悲しむことと同じででした。
でも今は私たち姉妹がおります。
この世に生まれてよろこんでいる私たちのために、この世には悲しみだけでなく、喜びの声にも満ちるでしょう。
お父さん、お母さん、ついこの間までこの世にはあなたたちしかいませんでした。
あなたたちが苦しむことは、この世の総てが苦しむことと同じでした。
でも今は私たち姉妹がおります。
私たちはお父さんを助けることができ、私たちはお母さんを助けることができます。
さあ泣かないで、悲しまないで。
どうかよろこんで、笑ってください」
この世で最初のお父さんとお母さんは大変よろこんで、この最初の逆子の赤ん坊を抱きしめました。
この世で最初のお父さんとお母さんは、この世で最初の逆子の娘にポイベという名前を付けました。
それは、黄色いニガヨモギの花の咲いた日のことでした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
慈愛と復讐の間
レクフル
ファンタジー
とある国に二人の赤子が生まれた。
一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。
慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。
これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。
だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。
大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。
そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。
そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。
慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。
想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる