32 / 97
最初の夫婦と最初の娘たちの話
大地の最初の夫婦に最初の娘が生まれた時のこと。
しおりを挟む
昔々のその昔。
天の御国の御使いが、天と地と人のために空と大地の間で舞い飛んでいた頃のこと。
広い広い大地には、人が最初の夫婦の二人しかおりませんでした。
夫の人がこの世で最初のお父さんになる人で、この世で最初のお百姓さんでした。
妻の人がこの世で最初のお母さんになる人で、この世で最初の機織り職人さんでした。
最初のお父さんになる人は、荒れた大地を毎日毎日耕して、少しずつ少しずつ畑を広げておりました。
何分この世で最初のお百姓さんですから、何が食べてよい穀物で、どれが食べて良くない草なのかが判りません。いつ種を蒔けばよいのか、水をどれほどあげればよいのかも判りません。
昼間は実をつつきに来る鳥たちを追い払わなければなりませんし、夜は根を掘り起こしに来る獣たちを追い払わなければなりません。
何もかも一人で全部やらなければならないのです。何しろこの世にお百姓さんは一人きりしかいないのですからね。
最初のお母さんになる人は、材料を探しては毎日毎日糸を紡いで、少しずつ少しずつ布を織っておりました。
何分この世で最初の機織り人ですから、何が糸を紡ぎやすい繊維で、どれが織って良くない糸なのかが判りません。いつ毛を刈ればよいのか、水にどれほど付ければよいのかも判りません。
昼間はいろいろな糸を紡がなければなりませんし、夜はいろいろな布を織らねばなりません。
何もかも一人で全部やらなければならないのです。何しろこの世に機織り人は一人きりしかいないのですからね。
こういったわけですから、二人の間に赤ちゃんができて、月が満ちて明日にも赤ん坊が生まれるかも知れないと判っていても、この世で最初のお父さんになる人は畑から離れるわけにはゆきませんでした。
月が満ちて明日にも赤ん坊が出てくるかも知れないと判ってみても、この世で最初のお母さんになる人は糸錘を手放すわけには行きませんでした。
さて、この世に人が二人しかおりませんので、この世には産婆の役をできる人がおりません。
ですから、この世で最初のお母さんはこの世で最初の子供を自分一人で産み落とさなければなりませんでした。
でも、この世で最初のお母さんになる人は、赤ん坊の取り上げ方を知りませんでした。
だって、この世にはこのお母さんより先にお母さんになった人が一人もないのです。
ですから、誰も赤ん坊の取り上げ方を知りませんし、誰も赤ん坊の取り上げ方を教えてはやれないのです。
兎にも角にも、マツリカの花の咲いた頃、この世で最初のお母さんは産気づきました。
そうして、この世で最初の夫婦が住まいにしていた岩の洞窟の中の、布団にしていた藁の山の中で、最初の赤ん坊は生まれたのです。
この世で最初の赤ん坊はとても元気よく、空を飛ぶような勢いでお母さんのお腹から飛び出てきました。ところが、受け止めてくれる産婆さんがおりません。
この世で最初の赤ん坊は、頭のてっぺんから藁の布団の上に落ちてしまいました。
しかもこの赤ん坊ときたら、あまりに元気が良すぎて、あまりに勢いが良すぎたものですから、藁の布団の上で三度もころがったのです。
藁の布団は人が二人寝るのがやっとの広さでしたから、三度転げた赤ん坊は、勢い余って布団から飛び出して、岩がごつごつしているの床の上に、転げ落ちてしまいました。
落ちたところは硬い石の床です。赤ん坊の顔の半分は石ころにぶつかって潰れ、体の半分は石ころに挟まって潰れてしまいました。
そういったわけですから、この世で最初の赤ん坊は、目も耳も半分は利かず、手も足も半分は動きませんでした。
この世で最初のお母さんは、赤ん坊を抱き上げて泣きました。畑から戻ってきたこの世で最初のお父さんも、とてもとても悲しみました。
するとこの世で最初の赤ん坊は、泣いて悲しむ両親に向かって元気の良い声で言ったのです。
「お父さん、お母さん、今までこの世にはあなたたちしかいませんでした。
あなたたちが悲しむことは、この世の総てが悲しむことと同じででした。
でも今はこの私もおります。
この世に生まれてよろこんでいる私のために、この世には悲しみだけでなく、喜びの声にも満ちるでしょう。
お父さん、お母さん、今までこの世にはあなたたちしかいませんでした。
あなたたちが苦しむことは、この世の総てが苦しむことと同じでした。
でも今はこの私もおります。
私はお父さんを助けることができ、私はお母さんを助けることができます。
さあ泣かないで、悲しまないで。
どうかよろこんで、笑ってください」
この世で最初のお父さんとお母さんは大変よろこんで、この最初の赤ん坊を抱きしめました。
この世で最初のお父さんとお母さんは、この世で最初のこの娘にフッラという名前を付けました。
それは、白いマツリカの花の咲いた日のことでした。
天の御国の御使いが、天と地と人のために空と大地の間で舞い飛んでいた頃のこと。
広い広い大地には、人が最初の夫婦の二人しかおりませんでした。
夫の人がこの世で最初のお父さんになる人で、この世で最初のお百姓さんでした。
妻の人がこの世で最初のお母さんになる人で、この世で最初の機織り職人さんでした。
最初のお父さんになる人は、荒れた大地を毎日毎日耕して、少しずつ少しずつ畑を広げておりました。
何分この世で最初のお百姓さんですから、何が食べてよい穀物で、どれが食べて良くない草なのかが判りません。いつ種を蒔けばよいのか、水をどれほどあげればよいのかも判りません。
昼間は実をつつきに来る鳥たちを追い払わなければなりませんし、夜は根を掘り起こしに来る獣たちを追い払わなければなりません。
何もかも一人で全部やらなければならないのです。何しろこの世にお百姓さんは一人きりしかいないのですからね。
最初のお母さんになる人は、材料を探しては毎日毎日糸を紡いで、少しずつ少しずつ布を織っておりました。
何分この世で最初の機織り人ですから、何が糸を紡ぎやすい繊維で、どれが織って良くない糸なのかが判りません。いつ毛を刈ればよいのか、水にどれほど付ければよいのかも判りません。
昼間はいろいろな糸を紡がなければなりませんし、夜はいろいろな布を織らねばなりません。
何もかも一人で全部やらなければならないのです。何しろこの世に機織り人は一人きりしかいないのですからね。
こういったわけですから、二人の間に赤ちゃんができて、月が満ちて明日にも赤ん坊が生まれるかも知れないと判っていても、この世で最初のお父さんになる人は畑から離れるわけにはゆきませんでした。
月が満ちて明日にも赤ん坊が出てくるかも知れないと判ってみても、この世で最初のお母さんになる人は糸錘を手放すわけには行きませんでした。
さて、この世に人が二人しかおりませんので、この世には産婆の役をできる人がおりません。
ですから、この世で最初のお母さんはこの世で最初の子供を自分一人で産み落とさなければなりませんでした。
でも、この世で最初のお母さんになる人は、赤ん坊の取り上げ方を知りませんでした。
だって、この世にはこのお母さんより先にお母さんになった人が一人もないのです。
ですから、誰も赤ん坊の取り上げ方を知りませんし、誰も赤ん坊の取り上げ方を教えてはやれないのです。
兎にも角にも、マツリカの花の咲いた頃、この世で最初のお母さんは産気づきました。
そうして、この世で最初の夫婦が住まいにしていた岩の洞窟の中の、布団にしていた藁の山の中で、最初の赤ん坊は生まれたのです。
この世で最初の赤ん坊はとても元気よく、空を飛ぶような勢いでお母さんのお腹から飛び出てきました。ところが、受け止めてくれる産婆さんがおりません。
この世で最初の赤ん坊は、頭のてっぺんから藁の布団の上に落ちてしまいました。
しかもこの赤ん坊ときたら、あまりに元気が良すぎて、あまりに勢いが良すぎたものですから、藁の布団の上で三度もころがったのです。
藁の布団は人が二人寝るのがやっとの広さでしたから、三度転げた赤ん坊は、勢い余って布団から飛び出して、岩がごつごつしているの床の上に、転げ落ちてしまいました。
落ちたところは硬い石の床です。赤ん坊の顔の半分は石ころにぶつかって潰れ、体の半分は石ころに挟まって潰れてしまいました。
そういったわけですから、この世で最初の赤ん坊は、目も耳も半分は利かず、手も足も半分は動きませんでした。
この世で最初のお母さんは、赤ん坊を抱き上げて泣きました。畑から戻ってきたこの世で最初のお父さんも、とてもとても悲しみました。
するとこの世で最初の赤ん坊は、泣いて悲しむ両親に向かって元気の良い声で言ったのです。
「お父さん、お母さん、今までこの世にはあなたたちしかいませんでした。
あなたたちが悲しむことは、この世の総てが悲しむことと同じででした。
でも今はこの私もおります。
この世に生まれてよろこんでいる私のために、この世には悲しみだけでなく、喜びの声にも満ちるでしょう。
お父さん、お母さん、今までこの世にはあなたたちしかいませんでした。
あなたたちが苦しむことは、この世の総てが苦しむことと同じでした。
でも今はこの私もおります。
私はお父さんを助けることができ、私はお母さんを助けることができます。
さあ泣かないで、悲しまないで。
どうかよろこんで、笑ってください」
この世で最初のお父さんとお母さんは大変よろこんで、この最初の赤ん坊を抱きしめました。
この世で最初のお父さんとお母さんは、この世で最初のこの娘にフッラという名前を付けました。
それは、白いマツリカの花の咲いた日のことでした。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる