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最初の夫婦と最初の娘たちの話

大地の最初の夫婦に最初の娘が生まれた時のこと。

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 昔々のその昔。
 天の御国の御使いが、天と地と人のために空と大地の間で舞い飛んでいた頃のこと。
 広い広い大地には、人が最初の夫婦の二人しかおりませんでした。

 夫の人がこの世で最初のお父さんになる人で、この世で最初のお百姓さんでした。
 妻の人がこの世で最初のお母さんになる人で、この世で最初の機織り職人さんでした。

 最初のお父さんになる人は、荒れた大地を毎日毎日耕して、少しずつ少しずつ畑を広げておりました。
 何分この世で最初のお百姓さんですから、何が食べてよい穀物で、どれが食べて良くない草なのかが判りません。いつ種を蒔けばよいのか、水をどれほどあげればよいのかも判りません。
 昼間は実をつつきに来る鳥たちを追い払わなければなりませんし、夜は根を掘り起こしに来る獣たちを追い払わなければなりません。
 何もかも一人で全部やらなければならないのです。何しろこの世にお百姓さんは一人きりしかいないのですからね。

 最初のお母さんになる人は、材料を探しては毎日毎日糸を紡いで、少しずつ少しずつ布を織っておりました。
 何分この世で最初の機織り人ですから、何が糸を紡ぎやすい繊維で、どれが織って良くない糸なのかが判りません。いつ毛を刈ればよいのか、水にどれほど付ければよいのかも判りません。
 昼間はいろいろな糸を紡がなければなりませんし、夜はいろいろな布を織らねばなりません。
 何もかも一人で全部やらなければならないのです。何しろこの世に機織り人は一人きりしかいないのですからね。

 こういったわけですから、二人の間に赤ちゃんができて、月が満ちて明日にも赤ん坊が生まれるかも知れないと判っていても、この世で最初のお父さんになる人は畑から離れるわけにはゆきませんでした。
 月が満ちて明日にも赤ん坊が出てくるかも知れないと判ってみても、この世で最初のお母さんになる人は糸錘を手放すわけには行きませんでした。

 さて、この世に人が二人しかおりませんので、この世には産婆の役をできる人がおりません。
 ですから、この世で最初のお母さんはこの世で最初の子供を自分一人で産み落とさなければなりませんでした。
 でも、この世で最初のお母さんになる人は、赤ん坊の取り上げ方を知りませんでした。
 だって、この世にはこのお母さんより先にお母さんになった人が一人もないのです。
 ですから、誰も赤ん坊の取り上げ方を知りませんし、誰も赤ん坊の取り上げ方を教えてはやれないのです。

 兎にも角にも、マツリカの花の咲いた頃、この世で最初のお母さんは産気づきました。
 そうして、この世で最初の夫婦が住まいにしていた岩の洞窟の中の、布団にしていた藁の山の中で、最初の赤ん坊は生まれたのです。
 この世で最初の赤ん坊はとても元気よく、空を飛ぶような勢いでお母さんのお腹から飛び出てきました。ところが、受け止めてくれる産婆さんがおりません。

 この世で最初の赤ん坊は、頭のてっぺんから藁の布団の上に落ちてしまいました。
 しかもこの赤ん坊ときたら、あまりに元気が良すぎて、あまりに勢いが良すぎたものですから、藁の布団の上で三度もころがったのです。
 藁の布団は人が二人寝るのがやっとの広さでしたから、三度転げた赤ん坊は、勢い余って布団から飛び出して、岩がごつごつしているの床の上に、転げ落ちてしまいました。
 落ちたところは硬い石の床です。赤ん坊の顔の半分は石ころにぶつかって潰れ、体の半分は石ころに挟まって潰れてしまいました。

 そういったわけですから、この世で最初の赤ん坊は、目も耳も半分は利かず、手も足も半分は動きませんでした。
 この世で最初のお母さんは、赤ん坊を抱き上げて泣きました。畑から戻ってきたこの世で最初のお父さんも、とてもとても悲しみました。
 するとこの世で最初の赤ん坊は、泣いて悲しむ両親に向かって元気の良い声で言ったのです。

「お父さん、お母さん、今までこの世にはあなたたちしかいませんでした。
 あなたたちが悲しむことは、この世の総てが悲しむことと同じででした。
 でも今はこの私もおります。
 この世に生まれてよろこんでいる私のために、この世には悲しみだけでなく、喜びの声にも満ちるでしょう。
 お父さん、お母さん、今までこの世にはあなたたちしかいませんでした。
 あなたたちが苦しむことは、この世の総てが苦しむことと同じでした。
 でも今はこの私もおります。
 私はお父さんを助けることができ、私はお母さんを助けることができます。
 さあ泣かないで、悲しまないで。
 どうかよろこんで、笑ってください」

 この世で最初のお父さんとお母さんは大変よろこんで、この最初の赤ん坊を抱きしめました。
 この世で最初のお父さんとお母さんは、この世で最初のこの娘にフッラという名前を付けました。
 それは、白いマツリカの花の咲いた日のことでした。
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