上 下
29 / 97
愛する者の愛し方を間違えた御使いの話

鬼子と鬼子の親。

しおりを挟む
 御使いは人間の神殿に姿を現しました。
 そこには年を取った神官と、大人の修行者と、女の修行者と、子供の修行者がいました。

「あの、親に似ない子はどこにいるか?」

 御使いが問うと、年寄りの神官が答えていいました。

「あの子供は、親がいつくしんで育てました。
 ですがあの子の親ではない親たちがあの子を鬼子おにごと言い、その子供達が親の真似をして鬼子と呼ぶので、胸が裂けそうになってしまい、今は育った家を出て、この神の家に暮らしています」

 神官が言い終わると、一番若い修行者が御使いの前へ進み出て、

「私はここにおります」

 目をしょぼしょぼさせながら言いました。
 御使いはその修行者に、

「親はどうしているか?」

 と問いました。

「私は私の親たちを心からしたっておりました。
 ですが私の親ではない親たちが私を鬼子と言い、その子供達が親の真似をして鬼子と呼ぶので、二人とも胸が裂けそうになってしまい、今は昔の家を出て、この神の家に暮らしています」

 修行者が言い終わると、大人の男の修行者と女の修行者が御使いの前へ進み出て、

「私どもはここにおります」

 御使いは鞘から炎の剣を抜き、磨かれた楯を構えました。
 神々しい光に、大人達は恐れを覚えて、その場にひれ伏しました。
 しかし一人の、回りの大人には似ていない子は、恐れることもせずに、御使いの抜いた剣の光のを浴びて、御使いが構えた楯に映っている自分自身の姿に、じっと見入ったのでした。 

 御使いはその若い修行者に尋ねました。

「お前の親はどこにいるか?」

 若い修行者は答えました。

「ここにいるのが、私の父で、私の母です。神の家にいる者は、私の兄弟です」

 御使いはまた若い修行者に尋ねました。

「この楯に映っている姿は、お前の父や母や兄弟に似ているか?」

 若い修行者は答えました。

「いいえ、ちっとも似ていません」

 御使いはもう一度、若い修行者に尋ねました。

「お前の親はどこにいるか?」

 若い修行者はしっかりとした口調で答えました。

「ここにいるのが、私の父で、私の母で、私の兄弟です」

 御使いは子供に尋ねました。

「それで善いのか?」

 子供は、御使いが思ったとおりの答えを返してきました。

「はい、それで善いのです」

 御使いが剣を鞘に収めて楯を倒しますと、眩しい光も消えて、神殿は元の通りの明るさになりました

「神の子らよ」

 御使いが人々に呼びかけますと、彼らはその場にひれ伏しました。
 御使いは彼らに言いました。

「私は居なくなった子を探して、天の果て海の果て地の果てを回り、ようやく見つけ出した。
 私はその子をその子の親の元に送り届けようと考えていた。
 だがその子も、自分を育てた者こそが親だといった。
 私はそ子を連れずにここへ戻り、ここにいる彼らの子に尋ねた。
 先にこの子に尋ねたように、
『お前の親は誰か?』
 と。
 その子は答えた。
『ここにいる皆が、私の父で、私の母で、私の兄弟です』
 と」

 言葉が聞こえなくなったので、人々が顔を上げると、もうそこに御使いの姿はありませんでした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【第一部完結済】〇〇しないと出れない50の部屋に閉じ込められた百合カップル

橘スミレ
恋愛
目が覚めると可愛い天然少女「望」と賢い美少女「アズサ」は百合好きの欲望によってつくられた異空間にいた。その名も「〇〇しないと出れない部屋」だ。 50ある部屋、どこから覗いても楽しめます。 ぜひ色々な百合をお楽しみください。 毎日深夜12:10に更新中 カクヨム https://kakuyomu.jp/works/16817330660266908513

処理中です...