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愛する者の愛し方を間違えた御使いの話

取り替えられ子。

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 さてその御使いは、自分が確かに言ったように、この世界の空の果て海の果て地の果てまでもつぶさに見て回りました。
 よくよく探しているうちに、とうとう、地の果ての果てにのその果てに、深くひび割れた大きな岩が転がっているのを見付ました。

 岩の割れ目は人間一人がどうにか抜けて出入りできそうなほどの幅があります。
 御使いが近づいてみますと、なんと、岩の割れ目のずっと奥から歌う声が聞こえるではありませんか。

「♪おいらの達神様はおいら達を
  神様の姿に似せたというに
 おいら達の姿は神様の
  姿にちっとも似ていない

 ♪おいら達の神様はおいら達を
  神様の姿に似せたというに
 おいら達の子供達は神様の
  姿にちっとも似ていない

 ♪だからおいらは探しに行った
   溶岩を超えて湿地を越えて沼を越えて
  ずっと歩いたその先の
   岩の割れ目を通り抜けて

 ♪そしておいらは探し当てた
   砂漠を超えて大地を越えて海を越えて
  ずっと歩いたその先の
   ゆりかごの中にいたこの子を

 ♪おいら達の神様はおいら達に
   ずっと見つからなかった赤ん坊を
  おいら達の神様にそっくりの
   立派な子供を備えてくれた

 ♪ああ嬉しい
  ああ嬉しい」
  
 大きな岩に塞がれた大きな穴のその奥で、人間の姿に似ているような、神様の姿に似ていないような、そんな生き物が、一人の子供を真ん中において、お祝いの踊りをしているのです。
 踊りの輪の中心で、一人の子供がキャッキャと笑いながら、回りの生き物の手振り脚ぶりを真似て、回りの生き物よりも嬉しそうにして踊っていました。
 自分たちと似ていない赤ん坊を抱えて神殿にやってきたあの両親に、よく似た顔立ちの子供が、です。

 御使いは岩をすり抜けて――岩でも壁でも、御使いの前にでは何もないのと一緒です――穴に入り、洞窟の奥まで進んで、生き物たちの踊りの真ん中に立ちますと、燃える剣をさやから抜いて、みがいたたてかまえました。

 途端とたんあたりはまぶしい光に包まれました。
 それまで踊りに夢中だった聞き物には、その時まで御使いの姿が見えていなかったものか、眩しい光が突然現れたように思えたのでありましょう。
 暗いところに生まれて住んでいる生き物たちは、大いに恐れて、大いにあわてて、走って物陰ものかげに逃げようとしたり、地面に頭を隠そうとしたりしました。
 しかし一人の、回りの生き物には似ていない子供は、逃げることも隠れることもせずに、御使いの抜いた剣の光のを浴びて、御使いが構えた楯に映っている自分自身の姿に、じっと見入ったのでした。 

 御使いは子供に尋ねました。

「お前の親はどこにいるか?」

 子供は答えました。

「ここにいる皆が、私の父で、私の母で、私の兄弟です」

 御使いはまた子供に尋ねました。

「この楯に映っている姿は、お前の父や母や兄弟に似ているか?」

 子供は答えました。

「いいえ、ちっとも似ていません」

 御使いはもう一度、子供に尋ねました。

「お前の親はどこにいるか?」

 子供はしっかりとした口調で答えました。

「ここにいる皆が、私の父で、私の母で、私の兄弟です」

 御使いは子供に尋ねました。

「それで善いのか?」

 子供は、御使いが思ったとおりの答えを返してきました。

「はい、それで善いのです」

 御使いが剣を鞘に収めて楯を倒しますと、眩しい光も消えて、洞窟は元の通りの暗さになりました。
 眩しくなくなった生き物たちは、岩陰いわかげから姿を現し、土の中から顔を上げました。

「神の子の子らよ」

 御使いが生き物たちに呼びかけますと、生き物たちはその場にひれ伏しました。
 御使いは生き物たちに言いました。

「私はこの子を探して、天の果て海の果て地の果てを回り、今日ようやく見つけ出した。
 私はこの子をこの子の親の元に送り届けようと考えていた。
 だがこの子は、お前達こそが親だという。
 私はこの子を連れずにこの子の親の元に戻り、そこにいるお前達の子に尋ねよう。
 先にこの子に尋ねたように、
『お前の親は誰か?』
 と」

 言葉が聞こえなくなったので、生き物たちが顔を上げると、もうそこに御使いの姿はありませんでした。
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