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34 晴天の霹靂② 【ヴァレリー視点】
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※今回33,34を2話同時アップしてます。
「ヴァレリー。あの子は絶対に王家に迎えるから、心して頂戴ね」
昨晩の母の言葉はヴァレリーにとって晴天の霹靂だった。
ヴァレリーは王の第一子として正妃との間に生まれた正当な後継で、結婚も王太子として最も条件の合った者とするものだと考えていた。
腹違いの弟テオドリックは十歳で早々に婚約者を決めていたが、ヴァレリーの場合はそう簡単な事ではない。
結婚というカードは、国の行く末を左右する程に特殊なものだ。
だから三年前に成人を迎えた時、ルルヴァル王国の七歳年下の公女と婚約が決まっても、隣国の三カ国と静かな睨み合いが続いている今の状態では、それが最善だと思った。
「……なのに、いいのか?」
ルルヴァルの公女との関係は崩せない。
となると、側妃に迎えるという事か?
あのルイーズを?
ヴァレリーは腕の中にすっぽりと収まった妖精のような少女の温もりを思い出していた。
朝の清々しい光のなかで、緑に囲まれたガゼボに佇む少女は、凛とした首筋も美しい、非の打ちどころのない令嬢だった。
淑女として品のある完璧な挨拶を披露したルイーズは、数日前の消えてしまいそうな繊細な印象ではなく、生き生きとした生命力に満ちていた。
『クソ可愛いな、おい』
ヴァレリーは見惚れてしまう自分に突っ込む。
憔悴した姿を見られた事を酷く恥じている様子だったので、否定する。
あれはあれで、庇護欲をそそる危うい美しさだった。
「弱っている姿も十分可愛かったよ。またいつでも運んであげるからね」
そう言うと、どうやら機嫌を損ねたようだ。
これ見よがしにお礼の品であるバスケットをヴァレリーの近衛に差し出している。
しかも近衛の手を取って渡しているじゃないか。
『こらこら、気軽に他の男の手に触るんじゃない!』
すでにルイーズは自分のもの、的考えをしている自分が情けなくなる。
だが、お礼の焼き菓子はやっぱり渡せない。あれは間違いなく自分のものだ。
ルイーズと焼き菓子入りバスケットをぐいぐい奪い合っていると、
「返してくださいませ! あ~れ~」
と、突如馬鹿力が発揮され、バスケットが空を舞った。
『おお! えらい遠くまで飛んで行ったぞ!?』
呆然としてしまう。
これもルイーズの不思議な力か?
見るとルイーズ自身も呆然とバスケットが飛んで行った方角を眺めている。
「……おほほほほほ。私ったら。直ぐに回収しますわね」
ルイーズは脱兎のごとく庭園の奥へ消えて行った。
「ぶ! ぶはははは!」
駄目だ、笑いが止まらない。
何だあれ?
「あ~れ~」って。
「ははははは!」
笑いが止まらないヴァレリーに近衛が呆れて尋ねて来る。
「殿下。どうします?」
「ああ、追いかけるよ。なるべくルイーズ嬢の好きにさせよう」
上手い事?リリア妃の庭園に乗り込んだルイーズだ。この後どうするか見届けよう。
などと悠長に構えていたことを、直後に後悔することとなった。
「私、リリア妃殿下にも言いたい事があるのです~。一言、言ってやるのです~」
とリリア妃の宮殿に乗り込もうとするルイーズのかわいい寸劇に付き合っていたら、ヴァレリーから本気で逃れるために、ドレスが破けるのも構わず駆け出して行ってしまった。
いやいや、やりすぎ。
ヴァレリーも王妃から話を聞いている事を打ち明けて、協力者だと名乗り出よう、と
思った矢先に転倒した。
力加減を間違えた。
こんなに軽くて少しの力でバランスを崩すとは思わなかったのだ。
咄嗟に自分が下敷きになって庇うが、むき出しだったルイーズの細い白い腕に無数の傷が付いてしまった!
しかも、結構深い傷もある。
そのタイミングで散歩中のリリア妃に遭遇する。
丁度良い。このままリリア妃の宮殿まで乗り込んでしまえば、ルイーズが更なる騒ぎを起こしてくれるだろう。
「リリア王妃、翡翠宮をお借りするぞ!」
相変わらずに軽いルイーズを抱えて言うが、リリア妃の様子がおかしい。
リリア妃より立場が上である王太子に逆らう態度に、近衛たちが怒り、リリア妃の侍女たちと言い合いになるが、その中で、ルイーズがじっとリリア妃を見据えている。
逃げるリリア妃にルイーズの気合いの入った
「待て」
の言葉が飛んだ。
良い声だ。他者を従わせる有無を言わせない圧倒的支配者の声。
我が近衛も、ルイーズの従者もまとめて固まっている。
ヴァレリーの腕から抜け出たルイーズがリリア妃の扇を取り上げ、隠れていた顔を露にする。
その顔を見て、言葉を無くした。
別にリリア妃に何の思い入れも無いが、これ程容赦なく痛めつけられた顔を見ると、思わず同情が湧いて来る。
酷い、痛々しい、可愛そうに。
だが、ルイーズのその後のたたみかけは凄かった。
こんなに痛々しい怪我だらけの貴婦人に容赦ない。
へ? 宰相に殴られている?
愛人!!!???
ルイーズのリリア妃追及内容に頭が追い付かない。
だが、ルイーズの言葉は確証を得ているのか迷いが無く、リリア妃も否定しないし、むしろ図星なのか、どんどん顔から血の気が引いている。
「あはははははははは! ばーか!」
人を蔑むことに最大の効果を発揮する言葉を選んでリリア妃を見下すルイーズに、いっそ清々しさを感じる。
「ヴァレリー王太子殿下。翡翠宮に医者をお呼びしていただけますか?」
「うふふ。大丈夫ですよ。この事は誰にもいいませんからこの後も宰相に殴られてくださいね」
最後までいたぶりの手を緩めないルイーズ。
女って凄いな。
女には女を。
母の人選はさすがという所か。
『うわ、強い。惚れる!』
ヴァレリーは、ルイーズの穢れ無き美しさを裏切るしたたかさにも大いなる魅力を感じてしまい、否応もなく陥落していく自分を感じていた。
「ヴァレリー。あの子は絶対に王家に迎えるから、心して頂戴ね」
昨晩の母の言葉はヴァレリーにとって晴天の霹靂だった。
ヴァレリーは王の第一子として正妃との間に生まれた正当な後継で、結婚も王太子として最も条件の合った者とするものだと考えていた。
腹違いの弟テオドリックは十歳で早々に婚約者を決めていたが、ヴァレリーの場合はそう簡単な事ではない。
結婚というカードは、国の行く末を左右する程に特殊なものだ。
だから三年前に成人を迎えた時、ルルヴァル王国の七歳年下の公女と婚約が決まっても、隣国の三カ国と静かな睨み合いが続いている今の状態では、それが最善だと思った。
「……なのに、いいのか?」
ルルヴァルの公女との関係は崩せない。
となると、側妃に迎えるという事か?
あのルイーズを?
ヴァレリーは腕の中にすっぽりと収まった妖精のような少女の温もりを思い出していた。
朝の清々しい光のなかで、緑に囲まれたガゼボに佇む少女は、凛とした首筋も美しい、非の打ちどころのない令嬢だった。
淑女として品のある完璧な挨拶を披露したルイーズは、数日前の消えてしまいそうな繊細な印象ではなく、生き生きとした生命力に満ちていた。
『クソ可愛いな、おい』
ヴァレリーは見惚れてしまう自分に突っ込む。
憔悴した姿を見られた事を酷く恥じている様子だったので、否定する。
あれはあれで、庇護欲をそそる危うい美しさだった。
「弱っている姿も十分可愛かったよ。またいつでも運んであげるからね」
そう言うと、どうやら機嫌を損ねたようだ。
これ見よがしにお礼の品であるバスケットをヴァレリーの近衛に差し出している。
しかも近衛の手を取って渡しているじゃないか。
『こらこら、気軽に他の男の手に触るんじゃない!』
すでにルイーズは自分のもの、的考えをしている自分が情けなくなる。
だが、お礼の焼き菓子はやっぱり渡せない。あれは間違いなく自分のものだ。
ルイーズと焼き菓子入りバスケットをぐいぐい奪い合っていると、
「返してくださいませ! あ~れ~」
と、突如馬鹿力が発揮され、バスケットが空を舞った。
『おお! えらい遠くまで飛んで行ったぞ!?』
呆然としてしまう。
これもルイーズの不思議な力か?
見るとルイーズ自身も呆然とバスケットが飛んで行った方角を眺めている。
「……おほほほほほ。私ったら。直ぐに回収しますわね」
ルイーズは脱兎のごとく庭園の奥へ消えて行った。
「ぶ! ぶはははは!」
駄目だ、笑いが止まらない。
何だあれ?
「あ~れ~」って。
「ははははは!」
笑いが止まらないヴァレリーに近衛が呆れて尋ねて来る。
「殿下。どうします?」
「ああ、追いかけるよ。なるべくルイーズ嬢の好きにさせよう」
上手い事?リリア妃の庭園に乗り込んだルイーズだ。この後どうするか見届けよう。
などと悠長に構えていたことを、直後に後悔することとなった。
「私、リリア妃殿下にも言いたい事があるのです~。一言、言ってやるのです~」
とリリア妃の宮殿に乗り込もうとするルイーズのかわいい寸劇に付き合っていたら、ヴァレリーから本気で逃れるために、ドレスが破けるのも構わず駆け出して行ってしまった。
いやいや、やりすぎ。
ヴァレリーも王妃から話を聞いている事を打ち明けて、協力者だと名乗り出よう、と
思った矢先に転倒した。
力加減を間違えた。
こんなに軽くて少しの力でバランスを崩すとは思わなかったのだ。
咄嗟に自分が下敷きになって庇うが、むき出しだったルイーズの細い白い腕に無数の傷が付いてしまった!
しかも、結構深い傷もある。
そのタイミングで散歩中のリリア妃に遭遇する。
丁度良い。このままリリア妃の宮殿まで乗り込んでしまえば、ルイーズが更なる騒ぎを起こしてくれるだろう。
「リリア王妃、翡翠宮をお借りするぞ!」
相変わらずに軽いルイーズを抱えて言うが、リリア妃の様子がおかしい。
リリア妃より立場が上である王太子に逆らう態度に、近衛たちが怒り、リリア妃の侍女たちと言い合いになるが、その中で、ルイーズがじっとリリア妃を見据えている。
逃げるリリア妃にルイーズの気合いの入った
「待て」
の言葉が飛んだ。
良い声だ。他者を従わせる有無を言わせない圧倒的支配者の声。
我が近衛も、ルイーズの従者もまとめて固まっている。
ヴァレリーの腕から抜け出たルイーズがリリア妃の扇を取り上げ、隠れていた顔を露にする。
その顔を見て、言葉を無くした。
別にリリア妃に何の思い入れも無いが、これ程容赦なく痛めつけられた顔を見ると、思わず同情が湧いて来る。
酷い、痛々しい、可愛そうに。
だが、ルイーズのその後のたたみかけは凄かった。
こんなに痛々しい怪我だらけの貴婦人に容赦ない。
へ? 宰相に殴られている?
愛人!!!???
ルイーズのリリア妃追及内容に頭が追い付かない。
だが、ルイーズの言葉は確証を得ているのか迷いが無く、リリア妃も否定しないし、むしろ図星なのか、どんどん顔から血の気が引いている。
「あはははははははは! ばーか!」
人を蔑むことに最大の効果を発揮する言葉を選んでリリア妃を見下すルイーズに、いっそ清々しさを感じる。
「ヴァレリー王太子殿下。翡翠宮に医者をお呼びしていただけますか?」
「うふふ。大丈夫ですよ。この事は誰にもいいませんからこの後も宰相に殴られてくださいね」
最後までいたぶりの手を緩めないルイーズ。
女って凄いな。
女には女を。
母の人選はさすがという所か。
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