33 / 53
33 晴天の霹靂① 【ヴァレリー視点】
しおりを挟む
※今回33,34を2話同時アップしてます。
「明日、ブルージュ公爵家のルイーズ令嬢がお前に会いに来る」
ヴァレリーが執務室で終わらない書類仕事を捌いていると、いきなり両親が来てそう言った。
両親とは言ってもこのラマティア王国の国王と王妃だ。
違う宮殿に住んでいるし、何より二人とも忙しい身だ。
王子宮に来ることなど滅多にない。
その両陛下がわざわざヴァレリーの元まで来てルイーズが会いに来ると言う。
意味が解らない。
両陛下をソファーに座らせると、早速本題に入る。
「今回問題を起こした両人の親であるリリアと宰相が、揃って顔を見せない。宰相は数日前からどこかに巣ごもりしていて、リリアは体調不良らしい。同時期に二人が呼び出しに応じないのは嫌な感じだ」
てっきりルイーズの話をするのかと思いきや、宰相と第二王妃の話だ。
より意味が解らない。
リリア第二王妃は、ラマティア王国とルルヴァル王国の間で結ばれた協定のために、人質となるように政略結婚で父に嫁いできた、ルルヴァル王国の公女だ。
テオドリックが生まれても、父と愛し合う事は出来なかった女性だ。
祖国を離れ、祖国を想い、いつも鬱々とした印象がある。
一方宰相は宮廷内の文官長だ。
現在、ラマティア王国の政治は武力を誇る大公派と、知力を誇る宰相派で分断されている。
その二大勢力の片方の長が自発的雲隠れを起こすとは正に珍事だ。
何らかの沙汰があることは間違いないが、お陰でしわ寄せがヴァレリーにまで来て、この時間の執務となっている。
「こうなって気付いたのだが、文官の要職者殆どは宰相の息が掛かった者だ。宰相がいない現状でも、多分、宰相の思う通りに事が進んでいるのを見ると、こちらが思っている以上に宰相が文官を掌握している。あらかじめ準備されての行方不明だ。嫌な感じだろ?」
なるほど。それが言いたくて、わざわざ両陛下が王子宮まで出向いたという事だ。
ヴァレリーは頷くが、その状況になぜルイーズが関わって来るのかは解らない。
「だから明日、ヴァレリーに会いに来たついでに、ルイーズがリリア妃に突撃してくれるっていう話になったのよ。本当にあの子は聡くて助かるわ」
「はあ!?」
王妃の言葉に、思わず大声が出てしまった。
「ルイーズならテオドリックの母親に言いたい事の一つや二つ、あってもいいはずよね」
確かに今、リリアに対して強硬に面会を求める正当な理由があるのは、ルイーズただ一人だ。
だが王妃の奇策は、どうなのだ?
場合によっては国政を掛けた判断をしなければならない状況を、一介の令嬢に任せるのか?
「とにかく、リリア妃と宰相はルルヴァル王国との交渉で懇意にしていた面があるからね。何か怪しいのよ。だから先ずはリリア妃の話を聞くためにルイーズを頼みにしたの。あの子のことだから何するか全く想像出来ないのだけど、その辺よろしく頼んだわよ」
「お前と一緒なら大概何とか出来るだろう。事が起こったら私たちに知らせるのだぞ。直ぐに駆けつけるからな。ルイーズを慰めに行きたくても行けない状況が恨めしいよ」
両親がルイーズを心から気に入っているのが解る。
「事が済んだらお茶会にしましょう」
「この間偶然手に入れたあのお茶を出そうか」
などと、リリア妃のことよりもむしろルイーズとの会合を楽しみにしている様子だ。
「つまり私はあなたたちがルイーズ嬢に会うために利用されるわけですね」
ちょっと、いや大分面白くないので嫌味を言ってやる。
すると母が予想外の事を言う。
「あら、ヴァレリー。あの子は絶対に王家に迎えるわよ。心して出迎えなさいよ」
「……え、ちょっと。どういう事ですか?」
「ご自分で考えて頂戴。では、明日はお願いね」
言いたい事だけ言って、両親は去って行く。
王家に迎えるって、テオドリックと寄りを戻す事が考えられない今、その方法は一つしかないではないか。
ヴァレリーは机に向かい仕事を続けるが、唇の端が吊り上がって行くのを抑える事が出来なかった。
「ああ!? マジか!?」
にやけてしまう顔を控えている執事に見られたくなくて、机に突っ伏したまま三十分程顔を起こせなかったヴァレリーであった。
「明日、ブルージュ公爵家のルイーズ令嬢がお前に会いに来る」
ヴァレリーが執務室で終わらない書類仕事を捌いていると、いきなり両親が来てそう言った。
両親とは言ってもこのラマティア王国の国王と王妃だ。
違う宮殿に住んでいるし、何より二人とも忙しい身だ。
王子宮に来ることなど滅多にない。
その両陛下がわざわざヴァレリーの元まで来てルイーズが会いに来ると言う。
意味が解らない。
両陛下をソファーに座らせると、早速本題に入る。
「今回問題を起こした両人の親であるリリアと宰相が、揃って顔を見せない。宰相は数日前からどこかに巣ごもりしていて、リリアは体調不良らしい。同時期に二人が呼び出しに応じないのは嫌な感じだ」
てっきりルイーズの話をするのかと思いきや、宰相と第二王妃の話だ。
より意味が解らない。
リリア第二王妃は、ラマティア王国とルルヴァル王国の間で結ばれた協定のために、人質となるように政略結婚で父に嫁いできた、ルルヴァル王国の公女だ。
テオドリックが生まれても、父と愛し合う事は出来なかった女性だ。
祖国を離れ、祖国を想い、いつも鬱々とした印象がある。
一方宰相は宮廷内の文官長だ。
現在、ラマティア王国の政治は武力を誇る大公派と、知力を誇る宰相派で分断されている。
その二大勢力の片方の長が自発的雲隠れを起こすとは正に珍事だ。
何らかの沙汰があることは間違いないが、お陰でしわ寄せがヴァレリーにまで来て、この時間の執務となっている。
「こうなって気付いたのだが、文官の要職者殆どは宰相の息が掛かった者だ。宰相がいない現状でも、多分、宰相の思う通りに事が進んでいるのを見ると、こちらが思っている以上に宰相が文官を掌握している。あらかじめ準備されての行方不明だ。嫌な感じだろ?」
なるほど。それが言いたくて、わざわざ両陛下が王子宮まで出向いたという事だ。
ヴァレリーは頷くが、その状況になぜルイーズが関わって来るのかは解らない。
「だから明日、ヴァレリーに会いに来たついでに、ルイーズがリリア妃に突撃してくれるっていう話になったのよ。本当にあの子は聡くて助かるわ」
「はあ!?」
王妃の言葉に、思わず大声が出てしまった。
「ルイーズならテオドリックの母親に言いたい事の一つや二つ、あってもいいはずよね」
確かに今、リリアに対して強硬に面会を求める正当な理由があるのは、ルイーズただ一人だ。
だが王妃の奇策は、どうなのだ?
場合によっては国政を掛けた判断をしなければならない状況を、一介の令嬢に任せるのか?
「とにかく、リリア妃と宰相はルルヴァル王国との交渉で懇意にしていた面があるからね。何か怪しいのよ。だから先ずはリリア妃の話を聞くためにルイーズを頼みにしたの。あの子のことだから何するか全く想像出来ないのだけど、その辺よろしく頼んだわよ」
「お前と一緒なら大概何とか出来るだろう。事が起こったら私たちに知らせるのだぞ。直ぐに駆けつけるからな。ルイーズを慰めに行きたくても行けない状況が恨めしいよ」
両親がルイーズを心から気に入っているのが解る。
「事が済んだらお茶会にしましょう」
「この間偶然手に入れたあのお茶を出そうか」
などと、リリア妃のことよりもむしろルイーズとの会合を楽しみにしている様子だ。
「つまり私はあなたたちがルイーズ嬢に会うために利用されるわけですね」
ちょっと、いや大分面白くないので嫌味を言ってやる。
すると母が予想外の事を言う。
「あら、ヴァレリー。あの子は絶対に王家に迎えるわよ。心して出迎えなさいよ」
「……え、ちょっと。どういう事ですか?」
「ご自分で考えて頂戴。では、明日はお願いね」
言いたい事だけ言って、両親は去って行く。
王家に迎えるって、テオドリックと寄りを戻す事が考えられない今、その方法は一つしかないではないか。
ヴァレリーは机に向かい仕事を続けるが、唇の端が吊り上がって行くのを抑える事が出来なかった。
「ああ!? マジか!?」
にやけてしまう顔を控えている執事に見られたくなくて、机に突っ伏したまま三十分程顔を起こせなかったヴァレリーであった。
0
お気に入りに追加
119
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】裏切ったあなたを許さない
紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。
そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。
それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。
そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる