病弱を理由に婚約破棄されました ~私、前世は狂戦士だったのです~

呉マチス

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33 晴天の霹靂① 【ヴァレリー視点】

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※今回33,34を2話同時アップしてます。





「明日、ブルージュ公爵家のルイーズ令嬢がお前に会いに来る」

ヴァレリーが執務室で終わらない書類仕事を捌いていると、いきなり両親が来てそう言った。
両親とは言ってもこのラマティア王国の国王と王妃だ。
違う宮殿に住んでいるし、何より二人とも忙しい身だ。
王子宮に来ることなど滅多にない。

その両陛下がわざわざヴァレリーの元まで来てルイーズが会いに来ると言う。
意味が解らない。

両陛下をソファーに座らせると、早速本題に入る。

「今回問題を起こした両人の親であるリリアと宰相が、揃って顔を見せない。宰相は数日前からどこかに巣ごもりしていて、リリアは体調不良らしい。同時期に二人が呼び出しに応じないのは嫌な感じだ」

てっきりルイーズの話をするのかと思いきや、宰相と第二王妃の話だ。
より意味が解らない。

リリア第二王妃は、ラマティア王国とルルヴァル王国の間で結ばれた協定のために、人質となるように政略結婚で父に嫁いできた、ルルヴァル王国の公女だ。
テオドリックが生まれても、父と愛し合う事は出来なかった女性だ。
祖国を離れ、祖国を想い、いつも鬱々とした印象がある。

一方宰相は宮廷内の文官長だ。
現在、ラマティア王国の政治は武力を誇る大公派と、知力を誇る宰相派で分断されている。
その二大勢力の片方の長が自発的雲隠れを起こすとは正に珍事だ。
何らかの沙汰があることは間違いないが、お陰でしわ寄せがヴァレリーにまで来て、この時間の執務となっている。

「こうなって気付いたのだが、文官の要職者殆どは宰相の息が掛かった者だ。宰相がいない現状でも、多分、宰相の思う通りに事が進んでいるのを見ると、こちらが思っている以上に宰相が文官を掌握している。あらかじめ準備されての行方不明だ。嫌な感じだろ?」

なるほど。それが言いたくて、わざわざ両陛下が王子宮まで出向いたという事だ。
ヴァレリーは頷くが、その状況になぜルイーズが関わって来るのかは解らない。

「だから明日、ヴァレリーに会いに来たついでに、ルイーズがリリア妃に突撃してくれるっていう話になったのよ。本当にあの子は聡くて助かるわ」

「はあ!?」

王妃の言葉に、思わず大声が出てしまった。

「ルイーズならテオドリックの母親に言いたい事の一つや二つ、あってもいいはずよね」

確かに今、リリアに対して強硬に面会を求める正当な理由があるのは、ルイーズただ一人だ。
だが王妃の奇策は、どうなのだ?
場合によっては国政を掛けた判断をしなければならない状況を、一介の令嬢に任せるのか?

「とにかく、リリア妃と宰相はルルヴァル王国との交渉で懇意にしていた面があるからね。何か怪しいのよ。だから先ずはリリア妃の話を聞くためにルイーズを頼みにしたの。あの子のことだから何するか全く想像出来ないのだけど、その辺よろしく頼んだわよ」

「お前と一緒なら大概何とか出来るだろう。事が起こったら私たちに知らせるのだぞ。直ぐに駆けつけるからな。ルイーズを慰めに行きたくても行けない状況が恨めしいよ」

両親がルイーズを心から気に入っているのが解る。

「事が済んだらお茶会にしましょう」

「この間偶然手に入れたあのお茶を出そうか」

などと、リリア妃のことよりもむしろルイーズとの会合を楽しみにしている様子だ。

「つまり私はあなたたちがルイーズ嬢に会うために利用されるわけですね」

ちょっと、いや大分面白くないので嫌味を言ってやる。
すると母が予想外の事を言う。

「あら、ヴァレリー。あの子は絶対に王家に迎えるわよ。心して出迎えなさいよ」

「……え、ちょっと。どういう事ですか?」

「ご自分で考えて頂戴。では、明日はお願いね」

言いたい事だけ言って、両親は去って行く。

王家に迎えるって、テオドリックと寄りを戻す事が考えられない今、その方法は一つしかないではないか。
ヴァレリーは机に向かい仕事を続けるが、唇の端が吊り上がって行くのを抑える事が出来なかった。

「ああ!? マジか!?」

にやけてしまう顔を控えている執事に見られたくなくて、机に突っ伏したまま三十分程顔を起こせなかったヴァレリーであった。
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