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本編
第108話
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連絡を受けたアキラとヤヒロは、事情を聞くなりすぐにオフィスウイルドに駆けつけた。彼らが仕事のとき以外で5人揃うのは久しぶりのことだ。
ユウのしたことを知っていたというふたりは、不審なアカウントから写真が投稿されたことにもさして驚きはしていないようだった。
「昼過ぎに起きたらホズミさんからの着信履歴がすごいことになっててさ。いまさっき掛け直して詳しい話を聞いたけど……ひどい騒ぎみたいだね」
「俺んとこにもきてた。鳴らされすぎて充電なくなったし」
「また充電するの忘れたんだ。残量ギリギリのまま寝たんでしょ。まったくもう……」
「うるせえ」
ヤヒロはスマホからモバイルバッテリーを外して画面をスクロールしながら、
「アキラが叩き起こしてくるから何事かと思えば……――あのクソ女、毎度毎度くだらねえことしやがって」
「なんだ、ふたり一緒にいたの」
セナはアキラが買ってきてくれた抹茶ラテを啜りながら、目を丸くする。
「朝まで編曲作業だよ」
溜息まじりに言って目だけを上げたヤヒロはユウを睨む。
「ったく……とんでもねえなおまえの元カノ」
深く俯いて黙っているユウの隣に座ったタビトは、彼の背中を撫でながらアキラに訊ねた。
「ホズミさんはなんて?」
「メールとか電話でいっぱい問い合わせがきてて大変な状態みたい。SNSの公式アカウントのリプライもすごいことになってるけど反応するな、だってさ。特にヤヒロはすぐに頭に血がのぼるから、なにも見ないで大人しくしてろと伝えてくれって念を押されたよ」
「わかってるっての」
大量の不在着信を見ながら吐き捨てるように言う。かけ直すことはせずスマホをテーブルに投げたヤヒロに、タビトは訊ねた。
「ユウが俺の写真撮ったりしてたこと……どうして知ってたの?」
「引っ越しの手伝い行ったとき聞いた」
ふんと鼻を鳴らして、
「アカウントの主はミツキで間違いねえのか?」
「どこかに写真を横流しして、それを手に入れた奴が流出させた可能性も考えられなくはないけど……タイミング的にミツキの仕業と見ていいと思う」
タビトのその言葉にアキラが相槌を打つ。
「俺たちがナウラオルカとの契約を切って――タビトに接触できなくなったから頭にきてるんじゃないの」
「腹いせか。だとしたら、これで終わりなんてことはねえだろうな」
「俺が渡したのは写真とゴミだけ」
ユウの言葉に全員が黙って、声の方を見た。
「ファンの話題をさらうような切り札はもうない。まともに映ってる写真はあれだけだし」
ぼそぼそと続けて、再び貝のように口を結んで押し黙る。セナはそれを横目で見て肩を竦めた。
「じゃあもう嫌がらせできないね。この騒ぎが落ち着けば一安心……」
「いや……あの子がこのくらいで大人しくなるわけないよ」
言い放ったのはアキラだ。
「タビトもこのまま終わるはずないって思ったから、俺たちを呼び出したんでしょ?」
言われた彼は神妙な面持ちで頷く。
「ミツキは俺たちを仲違いさせて、ウル・ラドを内側から壊そうとしてるんだと思う。身内に泣きつけばたいていの願いは叶えられるだろうし、なにをしてくるかわからないから……俺たち、今まで以上に団結しないと」
「なにが起こってもバラけないように団結するのは賛成だけどよ。ついこのあいだまで好き好き言いながらタビトのこと追いかけ回してたのに、ここにきていきなりストルムの力でいっそ全部壊してやろうなんて考えになるか?もしかして情緒がイカれてんのかあいつ」
「考えが急変するのは十分有り得る」宿舎前で鉢合わせた日のことを思い出しながら、アキラははっきりとそう口にする。「でも……彼女が望んだとしてそれは叶わないよ。ウル・ラドを解散に追い込むために力を貸してもらおうとしても、身内は誰も協力しないだろうから」
納得していない様子のタビトに、彼は言葉を続けた。
「ストルムミュージックの社長は会長の長男。次男――つまりミツキの父親はストルムデザインラボの社長で、この兄弟はかなり仲が悪いらしい。ウル・ラドを潰せって会長に命じられたとしても、憎んでる弟の娘の願いを素直に聞くとは考えられなくない?」
「でも、姪でしょ?かわいいんじゃないの?」
唇を尖らせてセナがつぶやく。アキラはかぶりを振って、
「――ウル・ラドがいなくなることが、自分の会社にとって損になるとして……それでも姪の願いを叶えると思う?」
「損?」
「メディアはどこも、俺たちとミュトスをライバル関係と位置づけてなにかと話題にしてるでしょ。音楽番組でもいつも一緒にキャスティングされるし、企業もそれぞれを広告塔にして売上を競い合ってる。ストルムミュージックは毎回シングルの発売日をこっちと合わせてくるし、話題性に乗っかるつもりなのは見え見えじゃん。デビュー当時は俺たちを潰そうとしてたみたいだけど……最近はライバル売りでかなり儲けられるってわかって戦略を変えたみたいだから、これからもその路線でいきたいはずだよ」
凭れていたドアから背を離したアキラはソファに座ると、落ち着いた声音で続ける。
「会長の爺さんだって、すごい孫バカだからミツキを守るためならなんだってやるだろうけど、会社の損失に繋がることはさすがに避けるでしょ。もし爺さん主導でウル・ラドを潰そうとする動きがあったとしたって、そのときはストルムミュージックの社長が黙ってないと思う」
2つのグループがしのぎを削ることで市場が活性化され、下火だったアイドル人気はここ数年でにわかに熱を帯び始めている。今やファン同士のいがみ合いさえも話題になるほどだ。
彼ら彼女らは、贔屓にしているメンバーの容姿、歌唱力、パフォーマンスに関して互いにマウントを取り合っている。その状況を面白がるメディアはあることないことを次々と記事にし、火に油を注ぐことばかりをやってきた。
ウル・ラドはミュトスに勝つために必死になっている滑稽な存在として扱われ、それに怒り狂ったファンが猛反発する――その結果、大手事務所のミュトスに挑む弱小事務所のウル・ラドという構図がますますクローズアップされ、それを見て冷笑する者もいれば胸を熱くする者もいた。
音楽ジャンルにおいても、ウル・ラドとミュトスは真逆だ。ウル・ラドはエッジの効いたダーク・ポップや、トラップ・ミュージック、EDM(特に彼らはハードスタイル、ドラムンベース、ムーンバートンなどを好む)といった重厚でインパクトの強い楽曲を中心に活動している。
一方ミュトスはといえば、明るく爽快感のある王道のポップミュージックと感傷的なバラードに絞ってリリースしている。ウル・ラドの楽曲がもつ獰猛さや仄暗いものを一切感じさせない、いわゆる“往年のアイドル”路線だ。
これまでのアイドル文化を踏襲するミュトスを絶対王者と称して崇めるファンと、王者に挑むウル・ラドをアイドル界の革命児と仰望するファンとで界隈は二極化している。事務所の戦略が成功を収め最後に笑うのは果たしてどちらなのか――ファンの冷笑と熱狂が渦巻くなか、ふたつのグループの静かなる睨み合いは続いていた。
互いを敵視し王座をかけて争う、このエネルギーが人を引き寄せ利益を生んできたのだ。ライバル売りで恩恵を受けているストルムが、ひとりの少女の我儘を叶えるためと称してウル・ラドを叩き潰し、これまで多くの富を運んできたこの流れを断ち切るはずがない。
カップの蓋を開けてホットコーヒーに息を吹きかけつつ、アキラは言った。
「ユウとミツキのスキャンダルを揉み消したのも、一族の醜聞を広めないためだけじゃないような気がするんだよね……」
「ストルムグループが本気になったら俺たちを潰すのなんて簡単だって、ムナカタ社長が言ってたけどさ。――アキラの言う通り……あいつら、今のところは俺らが消えるのを望んじゃいないと思うぜ」
アキラの言葉を引き取ったヤヒロは、すでにふたりのあいだでこの話題はとっくに出ていたとでもいうかのようなスムーズさでそう結論付けて――タビトらを見る。
ヤヒロの視線を受けたセナは疲れの滲む顔で肩を落とした。
「はあ……。ぜんぶミュトスの都合じゃん。俺たちはあいつらの宣伝材料に使われるために生かされてるってことですか」
「どっちもどっちだよ。俺たちだって彼らの人気にあやかってるとこあるし」
言いながらアキラは、ミュトスのレノを脳裏に浮かべた。彼がレギュラー番組を持っていたことでゲストに呼ばれたことや、競合相手がミュトスを起用したことを受け、それに対抗するようにウル・ラドをキャスティングする企業があることを考えると、ライバルという間柄の恩恵は確かに受けている。
しかしそれを呑気に享受することはできない。レギュラー番組にしろ企業の広告塔にしろ、何かとミュトスの方が先を行っているのだ。これはおもしろくない事態だ――アキラは焦りの気持ちを抑えるように深く息を吸った。
神妙な面持ちの彼の横で、セナはメンバーを見渡しながら溜息まじりに言う。
「ストルムグループを牛耳る会長も、ストルムミュージックの社長も、ウル・ラドが潰れることを望まない――だとすれば、俺たちが警戒しないといけないのはストルムじゃなくてミツキ本人じゃない?ああいうタイプが恋愛感情こじらせるとなにするかわかんないよ。ヤケになって暴挙に出る可能性は十分あるよね」
「そうだね……身内が動かないからって諦めるような子じゃなさそうだし」
間近で覗き込んできた彼女の狂気の瞳を思い出し、背筋が寒くなる。タビトは血の気のない顔を床に向けて苦しくまぶたを閉じた。
黙って話を聞いていたアキラは、そんなタビトに視線を遣って言う。
「――ミツキはミュトスのジーマと同じ高校出身らしい。そこは大学附属高校だから、たぶん今も同窓なんだ」
「なんでそんなこと知ってんだよ?アキラ」
「レノから聞いた」
冴え冴えとした表情で、アキラはヤヒロに答える。
「ミツキはミュトスとの繋がりがある。……だから、タビト」
名を呼ばれて顔を上げると、射るような眼差しにぶつかった。
「ジーマに気をつけろ」
アキラが注意を促すも、タビトは不服そうな顔で黙っている。大切な友人に対しそういう言い方をされるのはどうしても気に入らなかった。
そんな彼らの様子を見ていたヤヒロは眉根をきつく寄せて溜息をつくと、声を荒らげる。
「とにかく――降って湧いたような話にもう振り回されるのはもうごめんだ。今後一切、隠し事は無し!腹割って話そうぜ」
彼のアーモンドアイがメンバーを鋭く睨む。
「おまえら、女いんの?」
あまりに露骨な質問に一同、黙った。
ユウのしたことを知っていたというふたりは、不審なアカウントから写真が投稿されたことにもさして驚きはしていないようだった。
「昼過ぎに起きたらホズミさんからの着信履歴がすごいことになっててさ。いまさっき掛け直して詳しい話を聞いたけど……ひどい騒ぎみたいだね」
「俺んとこにもきてた。鳴らされすぎて充電なくなったし」
「また充電するの忘れたんだ。残量ギリギリのまま寝たんでしょ。まったくもう……」
「うるせえ」
ヤヒロはスマホからモバイルバッテリーを外して画面をスクロールしながら、
「アキラが叩き起こしてくるから何事かと思えば……――あのクソ女、毎度毎度くだらねえことしやがって」
「なんだ、ふたり一緒にいたの」
セナはアキラが買ってきてくれた抹茶ラテを啜りながら、目を丸くする。
「朝まで編曲作業だよ」
溜息まじりに言って目だけを上げたヤヒロはユウを睨む。
「ったく……とんでもねえなおまえの元カノ」
深く俯いて黙っているユウの隣に座ったタビトは、彼の背中を撫でながらアキラに訊ねた。
「ホズミさんはなんて?」
「メールとか電話でいっぱい問い合わせがきてて大変な状態みたい。SNSの公式アカウントのリプライもすごいことになってるけど反応するな、だってさ。特にヤヒロはすぐに頭に血がのぼるから、なにも見ないで大人しくしてろと伝えてくれって念を押されたよ」
「わかってるっての」
大量の不在着信を見ながら吐き捨てるように言う。かけ直すことはせずスマホをテーブルに投げたヤヒロに、タビトは訊ねた。
「ユウが俺の写真撮ったりしてたこと……どうして知ってたの?」
「引っ越しの手伝い行ったとき聞いた」
ふんと鼻を鳴らして、
「アカウントの主はミツキで間違いねえのか?」
「どこかに写真を横流しして、それを手に入れた奴が流出させた可能性も考えられなくはないけど……タイミング的にミツキの仕業と見ていいと思う」
タビトのその言葉にアキラが相槌を打つ。
「俺たちがナウラオルカとの契約を切って――タビトに接触できなくなったから頭にきてるんじゃないの」
「腹いせか。だとしたら、これで終わりなんてことはねえだろうな」
「俺が渡したのは写真とゴミだけ」
ユウの言葉に全員が黙って、声の方を見た。
「ファンの話題をさらうような切り札はもうない。まともに映ってる写真はあれだけだし」
ぼそぼそと続けて、再び貝のように口を結んで押し黙る。セナはそれを横目で見て肩を竦めた。
「じゃあもう嫌がらせできないね。この騒ぎが落ち着けば一安心……」
「いや……あの子がこのくらいで大人しくなるわけないよ」
言い放ったのはアキラだ。
「タビトもこのまま終わるはずないって思ったから、俺たちを呼び出したんでしょ?」
言われた彼は神妙な面持ちで頷く。
「ミツキは俺たちを仲違いさせて、ウル・ラドを内側から壊そうとしてるんだと思う。身内に泣きつけばたいていの願いは叶えられるだろうし、なにをしてくるかわからないから……俺たち、今まで以上に団結しないと」
「なにが起こってもバラけないように団結するのは賛成だけどよ。ついこのあいだまで好き好き言いながらタビトのこと追いかけ回してたのに、ここにきていきなりストルムの力でいっそ全部壊してやろうなんて考えになるか?もしかして情緒がイカれてんのかあいつ」
「考えが急変するのは十分有り得る」宿舎前で鉢合わせた日のことを思い出しながら、アキラははっきりとそう口にする。「でも……彼女が望んだとしてそれは叶わないよ。ウル・ラドを解散に追い込むために力を貸してもらおうとしても、身内は誰も協力しないだろうから」
納得していない様子のタビトに、彼は言葉を続けた。
「ストルムミュージックの社長は会長の長男。次男――つまりミツキの父親はストルムデザインラボの社長で、この兄弟はかなり仲が悪いらしい。ウル・ラドを潰せって会長に命じられたとしても、憎んでる弟の娘の願いを素直に聞くとは考えられなくない?」
「でも、姪でしょ?かわいいんじゃないの?」
唇を尖らせてセナがつぶやく。アキラはかぶりを振って、
「――ウル・ラドがいなくなることが、自分の会社にとって損になるとして……それでも姪の願いを叶えると思う?」
「損?」
「メディアはどこも、俺たちとミュトスをライバル関係と位置づけてなにかと話題にしてるでしょ。音楽番組でもいつも一緒にキャスティングされるし、企業もそれぞれを広告塔にして売上を競い合ってる。ストルムミュージックは毎回シングルの発売日をこっちと合わせてくるし、話題性に乗っかるつもりなのは見え見えじゃん。デビュー当時は俺たちを潰そうとしてたみたいだけど……最近はライバル売りでかなり儲けられるってわかって戦略を変えたみたいだから、これからもその路線でいきたいはずだよ」
凭れていたドアから背を離したアキラはソファに座ると、落ち着いた声音で続ける。
「会長の爺さんだって、すごい孫バカだからミツキを守るためならなんだってやるだろうけど、会社の損失に繋がることはさすがに避けるでしょ。もし爺さん主導でウル・ラドを潰そうとする動きがあったとしたって、そのときはストルムミュージックの社長が黙ってないと思う」
2つのグループがしのぎを削ることで市場が活性化され、下火だったアイドル人気はここ数年でにわかに熱を帯び始めている。今やファン同士のいがみ合いさえも話題になるほどだ。
彼ら彼女らは、贔屓にしているメンバーの容姿、歌唱力、パフォーマンスに関して互いにマウントを取り合っている。その状況を面白がるメディアはあることないことを次々と記事にし、火に油を注ぐことばかりをやってきた。
ウル・ラドはミュトスに勝つために必死になっている滑稽な存在として扱われ、それに怒り狂ったファンが猛反発する――その結果、大手事務所のミュトスに挑む弱小事務所のウル・ラドという構図がますますクローズアップされ、それを見て冷笑する者もいれば胸を熱くする者もいた。
音楽ジャンルにおいても、ウル・ラドとミュトスは真逆だ。ウル・ラドはエッジの効いたダーク・ポップや、トラップ・ミュージック、EDM(特に彼らはハードスタイル、ドラムンベース、ムーンバートンなどを好む)といった重厚でインパクトの強い楽曲を中心に活動している。
一方ミュトスはといえば、明るく爽快感のある王道のポップミュージックと感傷的なバラードに絞ってリリースしている。ウル・ラドの楽曲がもつ獰猛さや仄暗いものを一切感じさせない、いわゆる“往年のアイドル”路線だ。
これまでのアイドル文化を踏襲するミュトスを絶対王者と称して崇めるファンと、王者に挑むウル・ラドをアイドル界の革命児と仰望するファンとで界隈は二極化している。事務所の戦略が成功を収め最後に笑うのは果たしてどちらなのか――ファンの冷笑と熱狂が渦巻くなか、ふたつのグループの静かなる睨み合いは続いていた。
互いを敵視し王座をかけて争う、このエネルギーが人を引き寄せ利益を生んできたのだ。ライバル売りで恩恵を受けているストルムが、ひとりの少女の我儘を叶えるためと称してウル・ラドを叩き潰し、これまで多くの富を運んできたこの流れを断ち切るはずがない。
カップの蓋を開けてホットコーヒーに息を吹きかけつつ、アキラは言った。
「ユウとミツキのスキャンダルを揉み消したのも、一族の醜聞を広めないためだけじゃないような気がするんだよね……」
「ストルムグループが本気になったら俺たちを潰すのなんて簡単だって、ムナカタ社長が言ってたけどさ。――アキラの言う通り……あいつら、今のところは俺らが消えるのを望んじゃいないと思うぜ」
アキラの言葉を引き取ったヤヒロは、すでにふたりのあいだでこの話題はとっくに出ていたとでもいうかのようなスムーズさでそう結論付けて――タビトらを見る。
ヤヒロの視線を受けたセナは疲れの滲む顔で肩を落とした。
「はあ……。ぜんぶミュトスの都合じゃん。俺たちはあいつらの宣伝材料に使われるために生かされてるってことですか」
「どっちもどっちだよ。俺たちだって彼らの人気にあやかってるとこあるし」
言いながらアキラは、ミュトスのレノを脳裏に浮かべた。彼がレギュラー番組を持っていたことでゲストに呼ばれたことや、競合相手がミュトスを起用したことを受け、それに対抗するようにウル・ラドをキャスティングする企業があることを考えると、ライバルという間柄の恩恵は確かに受けている。
しかしそれを呑気に享受することはできない。レギュラー番組にしろ企業の広告塔にしろ、何かとミュトスの方が先を行っているのだ。これはおもしろくない事態だ――アキラは焦りの気持ちを抑えるように深く息を吸った。
神妙な面持ちの彼の横で、セナはメンバーを見渡しながら溜息まじりに言う。
「ストルムグループを牛耳る会長も、ストルムミュージックの社長も、ウル・ラドが潰れることを望まない――だとすれば、俺たちが警戒しないといけないのはストルムじゃなくてミツキ本人じゃない?ああいうタイプが恋愛感情こじらせるとなにするかわかんないよ。ヤケになって暴挙に出る可能性は十分あるよね」
「そうだね……身内が動かないからって諦めるような子じゃなさそうだし」
間近で覗き込んできた彼女の狂気の瞳を思い出し、背筋が寒くなる。タビトは血の気のない顔を床に向けて苦しくまぶたを閉じた。
黙って話を聞いていたアキラは、そんなタビトに視線を遣って言う。
「――ミツキはミュトスのジーマと同じ高校出身らしい。そこは大学附属高校だから、たぶん今も同窓なんだ」
「なんでそんなこと知ってんだよ?アキラ」
「レノから聞いた」
冴え冴えとした表情で、アキラはヤヒロに答える。
「ミツキはミュトスとの繋がりがある。……だから、タビト」
名を呼ばれて顔を上げると、射るような眼差しにぶつかった。
「ジーマに気をつけろ」
アキラが注意を促すも、タビトは不服そうな顔で黙っている。大切な友人に対しそういう言い方をされるのはどうしても気に入らなかった。
そんな彼らの様子を見ていたヤヒロは眉根をきつく寄せて溜息をつくと、声を荒らげる。
「とにかく――降って湧いたような話にもう振り回されるのはもうごめんだ。今後一切、隠し事は無し!腹割って話そうぜ」
彼のアーモンドアイがメンバーを鋭く睨む。
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あまりに露骨な質問に一同、黙った。
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