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第21章 元龍神の末裔の『呪い』
皇妃の涙と笑顔
しおりを挟むアルティア皇妃様はハッキリと『私がガーランドを殺した』と言った。訳が分からない。自分の父親を殺した、って………
セオドアは驚きつつも、ぐ、と飲み込んで、代わりの言葉を吐いた。
「___どういう、ことですか」
「言葉のまんまよ。___ガーランドが嫌いで殺したわけじゃない。けれど、ガーランドを殺さないと…………初代龍神は殺せなかった。
初代龍神を殺すために、私は親を殺したの」
アルティア皇妃様は明るい声でそう言った。そんなの…………
「そんなのッ!人がすることじゃないっ!」
セオドアは大声で怒鳴った。許せなかったのだ。これは笑い事じゃない、明るい声で話すことじゃない。どんなことがあっても親を殺すなんてことしていいわけないじゃないか!
憤るセオドアは勢いのまま、礼儀も忘れてアルティアの肩を無理やり引っ張り、こちらを向かせた。
「_____!」
そこで、セオドアは動くのをやめた。
緑の瞳をこれでもか、と見開いた。
アルティアは____泣いていたのだ。
3年、一緒に居た。けど、この人が泣いたのは見たことがない。ひまわり畑で見た記憶でしか見たことがない。それ以外はいつも笑顔で、いつも不機嫌で、感情豊かなアルティア皇妃様は涙だけは絶対見せなかった。どんなときも涙を見せない冷徹な人だと思ってた。
けれど。
今は、黄金色の瞳から大粒の涙を流していて。それでも、無理に口元を歪めて笑っていた。
「あ、………」
「____仕方なかった。どうしようもなかった。
ガーランドは、『死ぬこと』を望んでいた。ラフェエルの先祖で当時の契約者を喰らい、異世界から私の魂を此処に招いて、私がこの世界を変えることを願って……………私は、大きく育って、ラフェーと旅をして、沢山知って…………
そうするしかなかった。そうガーランドは願っていた。現に死んだ時……笑顔だった。
わかってる、わかってるわよ。でも!私は___殺したく、なかった」
アルティア皇妃様はそこまで言って、その場に泣き崩れた。それでも、言葉を止めなかった。
「そんなこと、娘に言えるわけないじゃない……………、あの子から祖父を奪った私が…………あんなにいい人を殺したと……どの口で言うのよ……………
でも、でもッ!私はこの世界を変えると決めたから、変えなきゃいけないって、思ったから!だから殺したの!」
「アルティア……皇妃、様…………」
そう言ったアルティア皇妃様は___とても、とても悔しそうで、悲しそうで。
見ていた俺の目にも涙が滲んだ。
この一族は___どこまで、どこまで辛い道を歩んできたんだ。ラフェエル皇帝様は、『生贄』として死ぬ道を選び、アルティア皇妃様は『父親を殺す』という汚名を被り、………アミィール様は、『任務』に手を染めた。
何度も、何度も聞いた『穢れた血』。
それが全員を苦しめている。
なのに、それをずっと、ずっと抱えてもなお、笑っていた。俺に優しく接してくれた。自分の傷を見せず、綺麗なところばかり見せて………笑っていたんだ。
でも…………でも。
「____そんなの、あんまりじゃないか………ッ!」
セオドアは、アルティアと同じようにその場で泣いた。声を上げて、泣いた。まるでそれは『穢れた一族』の代わりと言わんばかりに___声が張り裂けるくらい、泣いたんだ。
* * *
「………ガーランド、なんでここにいるとか、言ってた?」
沢山泣いた後、アルティア皇妃様がぽつり、聞いてきた。俺は未だに涙を拭きながら、首を振った。そんなこと、言ってなかった。
アルティア皇妃は『そう』と元気なく言ってから、先程居た部屋に向かって叫んだ。
「クソガーランド!いつまでもこんな所に居ないでとっとと成仏しやがれーっ!」
「ッ!」
大声に、キィン、と鼓膜が破れるような痛みに襲われる。アルティア皇妃様は肩で息をしながら俺を見た。
「………父親っつーのは、娘馬鹿って決まってるんだよ!セオくんは、程々に可愛がるんだよ、間違っても、あーなっちゃ、ダメだからねッ!」
「…………ッ」
そういった時のアルティア皇妃様は、いつもの笑顔で。
せっかく拭いた涙は、また零れた。
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